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第三章

No.43 助っ人

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不意に、周りの檻の中で項垂れていた兵士達が立ち上がった。糸に吊るされた様に不気味な動きで。
そのまま檻を出て、立て掛けてある武器を手に取って部屋を出て行った。何かがあったのだな。まさかガーディアン達か?

どうやら自分は待機らしく、扉へと進んでもやはり一定から先へは行けなかった。
諦め、重たい身体を壁に預けた。

あのホラーという男は何の能力者なのだろう。
あの時、首元に噛み付かれた。
そのまま気絶し、目が覚めた時からこれだ。
身体は(元からだが)思う様に動かないし、喉元はジンジンと鋭い熱を持っている。見えないが、触れてみると少し盛り上がっていた。

一体何の能力者なのだろうか。
喉を潰された。いくら声を出そうとも、息の抜ける音が出るだけだ。

これで“伝える”という事が出来なくなった。
自分の心の内を知る事の出来る人物が、自分自身だけとなってしまった。
酷く不安だ。寂しい。



外から、幾つもの気配。
何の前触れも無く、いきなり一斉に。

リリィは立ち上がろうと力を入れたが、それよりも先に身体は動いた。
自身で動かしたのであれば不可能であろう軽やかな足取りで、檻を出て武器を手に取り、部屋を出る。

向かう場所は到底わからなかったが、この身体はそれを知っているらしい。迷う事無く右へ左へと進んで行く。

もう気配達は基地の中にいる。
その方向へ向かうのかと思ったが、それとは全く別の場所へと向かっていた。
途中で何匹かの蜘蛛が足元を通り過ぎた。
同じ方向へ向かうらしく、蜘蛛の行列の少し後ろをずっと歩いた。



角を曲がる前に、身体は立ち止まった。
蜘蛛達はさっさと行ってしまった。

声が聞こえる。見知った声。

それが誰かを特定する前に、止まっていた足が前へと進んだ。角を曲がる。が、その先にいる人物の姿は大蜘蛛達に隠れて見えなかった。

いや、見えずとも、もう知っている。


(なんて、なんて残酷なんだろう。)

足が一歩、また一歩と前へ出る。
大蜘蛛が横へとずれる。

(あの女はどこまで性悪なのだ。)

一番前にいた大蜘蛛が退いた。
“敵”の姿をようやく捉えた。

(何故、操りを身体だけに制限したのだ。)

“敵”もまたリリィの姿を捉えた。

(心まで操ってくれたなら、こんな想いはしなくて済んだだろうに。)

(なんて、なんて残酷なのだ。)


「リリィ!!」


シン(敵の一人)が名を呼び、思わず前へと飛び出した。それをクラド(敵の一人)が慌てて制止する。

あとはマドズ、カトレナ。
その後ろにギルとカレン。
マスクを装着していても、彼等の感情は手に取るようにわかった。


「リリィ、俺達がわかるか?」


クラドの言葉に、必死に頷く。
やはり動作には表れない。
だが、それでもクラドの目は優しいものへと変わった。


「君は今、操られている。だけど心までは操られていない。そうだろう?目の奥に戸惑いや悲しみの色が見える。」

「大丈夫、大丈夫だよリリィ、君はセルビナ国の人間だ。必ず操りを解いて連れて帰ってみせる。君に罪は無いのだから。」


リリィの両目に涙が溢れた。

その感情は感謝では無い。
ただ、ただ謝罪のみだ。

彼等は勘違いしている。私を、敵国に操られた可哀想な人物だと勘違いしているのだ。
真実を知らない。知って欲しくも無いのだが。

涙は止まらず溢れ続けた。
それは更に彼等を誤解させたらしい。


「許さない...よくも、よくもリリィを!」

「クラドさん、ここは俺とギル、カレンに任せて下さい。必ず、必ずリリィの操りを解いてみせる。」

「大蜘蛛だって全て殺してみせます。だから...」


三人の怒りと覚悟は、周りの全ての者達にひしひしと伝わった。

(ああ、違うの。操りが解かれても元々私はラギス国のスパイだったのよ。あなた達と一緒にセルビナへ帰る資格なんて無いの。)

その言葉は心から先へ出る事も無く。
クラドがマドズとカトレナに目線をやり、刹那の沈黙の後に小さく頷いた。


「わかった。だけど無茶はしない様に。合図を出したら大蜘蛛達を左右に蹴散らして道を開けてくれ。」


その声はリリィにも聞こえた。
全員ガン・キューブを手に取る。
無茶だ。いくらガーディアンと言えど、こんなにも多くの敵を六人だけで突破する事など不可能に近い。

戸惑いに溢れる内側とは反対に、リリィの身体はすんなりと動いた。腰に装置した銃を手に取って前へ構える。
同時に周りの大蜘蛛達も一斉に動いた。


「今だ!!」


合図だ。
クラド、マドズ、カトレナが前に出た。その後ろでシン、ギル、カレンがガン・キューブを発砲する。すると思った。

だが、後ろの三人は左右へ飛んだ。
何故、と疑問を感じたと同時に、六人が退いた事によって背後に隠れていた三つの影を捉えた。

いつから、いつの間にいたのだろう。
気配はまるでなかった。が、今はビリビリとその鋭い殺気を感じられる。

焦げ茶色の軍服、ティナンタートの男が黄色いオーラを発し、矢を構える。
深緑の軍服、レイドールのスキンヘッドの男が赤いオーラを発し、クラド達を追い抜いて勇敢にもリリィや大蜘蛛達の方へ一直線に走る。

彼の力量は知らないが、真っ直ぐに突っ込んで来るなど自殺行為だ。
大蜘蛛達も前へ、リリィも銃を降ろしてヒーリスを発動させようとした。

しかし、おかしい。身体が動かない。
あの女の操りよりかはずっと微弱だが、そのせいでリリィの攻撃はワンテンポ遅れた。周りの大蜘蛛達も同じく動けないらしい。

一番後ろにいる黒い軍服の女兵士の仕業か。紫色のオーラを発している。ファルアロンのミジュラのナーチャーだ。

男の拳がリリィへと迫る。が、


「お願いします、ラジャーンさん!リリィは俺達に任せて下さい!」


ギルの声に、ラジャーンは舌打ちしながらもディスターの発動を解いた。勢いはそのままに、リリィは“ごく普通の”パンチを顔面に受けた。
ただの生身の男の攻撃だが、リリィもまたヒーリスを発動しておらず生身。ダメージをそのまま食らい、リリィの身体は吹き飛ばされて背後にいた大蜘蛛に激突した。

次に、突風。ティナンタートの男が矢を放ったのだろう。が、それは攻撃とは違うと直ぐにわかった。
大蜘蛛達の頭上に飛んだクラド達三人の背中を押す役目だ。強い風の力により、三人は勢い良く先へと飛ばされた。


ここまで、刹那の間。
リリィが身体を起こした時には、既にクラド達は角を曲がって姿を消していた。


「くそ、もう切れる!ルイジェさん!」

「よくやったイルヤ。」


ミジュラのナーチャー、イルヤの組まれた両手が強い力に引き裂かれる様に離された。それと同時にティナンタートのナーチャー、ルイジェがもう一度弓を構え、斬撃の風の矢を飛ばす。
その矢が到達する前に、ラジャーンがディスターを発動させながら上へと飛んだ。

シン、ギル、カレンはこの見事なファインプレーに感服しながらも、自身のすべき事を瞬時に理解し、動いた。

ガン・キューブを構え、撃つ。
シンもギルも能力を発動させた。
前方からの攻撃と頭上を飛ぶラジャーンの攻撃により、数匹の大蜘蛛が絶命した。

(驚いた事に、ギルの能力を纏ったガン・キューブは大蜘蛛の身体を内側から破壊させ、破裂させて塵になった。)
(ギル自身も、他の全員もそれを見て驚愕した。だがこの状況では誰もその事に対して考える暇など無かった。)


まずい、シールドを。
脳がそう言ったのを、リリィは聞いた。
一瞬にして身体の隅々にまで伝達される。そして徐々にリリィの身体は冷たくなり、ヒーリスを発動させた。

が、その前にまた身体を縛られた。
またあの、ファルアロンの女兵士か。
手を組むのでは無く、両腕を前に出して両手で菱形を作り、その中にリリィの姿を入れている。

二つ、“あちらの”ミジュラのナーチャーの戦い方を理解出来た。手を組む動作は複数の対象を同時に縛り、菱形を作る動作は一人の対象を縛るのだろう。

先程は自分だけでは無く多勢の大蜘蛛も全て一緒に縛った為、微弱だったのか。
今回の対象はリリィ一人。やはりソフィアの操りには敵わないが、それでも簡単に振り切れる程度、とは言えなかった。


「おいお前ら、やるならさっさとお嬢ちゃんを操りから解放しろ!全く手間かけさせやがって!」


大蜘蛛を飛び越えて向こう側へと移動したラジャーンが大声を出した。悪態を吐く声は聞こえるものの姿は見えない。が、縛りから解放されて攻撃に移る大蜘蛛達の隙間から、赤いオーラが見え隠れした。


「操られた者も全て殺せと命じられている。その命令にお前達は反している。もしそれが無理だと感じられたら、即座に我々が彼女を殺すぞ。わかったな?」


ルイジェが次々と斬撃の風を飛ばしながら、厳しい声を出した。
一番近くにいたカレンと一瞬目が合ったが、口振りとは違いルイジェの目に否定的な色は無かった。


「私達がここへ向かったのはガーディアンのサポートをする為。そのガーディアンである者達が彼女を救うと言うのであれば、私はそれを全力でサポートするわ。微力でしょうけど協力させて。」


リリィから決して目を離さず、だが優しい声でイルヤが言った。その目は悲しい。
イルヤもまたラギスに長い間操られていた身だ。今のリリィとあの時の自分を重ねているのだろう。


「ありがとうございます。」


ギルが言った。心から、奥底から。
やはりリリィは帰って来るべきだ。
大蜘蛛と交戦を続けながら、イルヤに縛られて未だ動けないリリィに目をやる。

リリィは顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
ああ、そうだ。君は戻って来れるんだ。
それを望まれている事が、ようやくリリィにも伝わった。少しは気持ちが救われただろうか。



(ごめんなさい。)


アルビノとホラーを心から憎んだ。
もし今声を出せるのであれば、自分の正体を明かして殺してくれと頼んだだろう。

こちらの情報を渡さない為。それも理由の一つではあるが、ガーディアンが自分を救おうと足を止める事にソフィアもアルビノも気付いていたのだ。
そして今自分はこうして彼等を足止めしている。その価値は無い人間だと伝える事も出来ず、彼等は仲間を救おうと躍起になっている。

涙の意味はリリィ以外知る術は無かった。










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