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第四章

No.58 意識

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門から先、ヴァレンシア国へと続く道が現れるのは二ヶ月後。
戦続きで疲れ切っていた同盟国の兵士達にとって、それまでの間は(警備や警護、日頃の事務等は勿論あるが)暫しの休息の時となった。


ガーディアン本部の休憩所。
シン、カレン、ギル、ゾーイの四人は今日と明日の二日間休みを貰った為、訓練に励んだり身体を休めたり、各々過ごしていた。

それが先程クラドに呼ばれ、ここに集まったのだ。


「ついさっき選抜チームが決まった。君達四人共ヴァレンシア国の中での任務に当たって貰う事になったからね。」


揃って早々に言われた言葉がそれだった。
顔を見合わせて驚く四人。
まさか、“中に入る”チームに選抜されるとは思ってもいなかったのだ。


「てっきり“外で待機する”チームに当てられると思っていました。」


充分にお互いの顔を見合った後、カレンがクラドを見て言った。カレンだけで無く他の三人もそう思っていた様で、信じられないと言った表情を浮かべている。


「ヴァレンシア国の中に入るガーディアンは君達四人とリーダーと俺と、カトレナ、リアム、ララ、ドーマだよ。一緒に頑張って貰う。」


笑いながらクラドが名前を挙げた。
丁度、十人。ドーマはディスター所持者。ちゃんと話をした事は無いが、マドズと同じくかなりの手練れだと聞く人物だ。

頑張ります、と頷く四人。
そして同時に、シンは暗い顔をした。


「...マドズさんは」


ボソリと、独り言の様に呟く。
その言葉に他の三人も、そしてクラドも同じく暗い表情を浮かべた。
本当ならば、マドズもそこに加わっていたのだろうから。


「マドズは行けない。恐らくもうガーディアンに復帰は出来ないだろう。セルビリアに居られるかどうかもわからない。」

「じゃあ、そんなに...?」

「検査の結果、どうやら身体が元に戻ってしまったみたいなんだよ。ナーチャーの素質を持つ覚醒前の人間に。だからもう一度覚醒しなければいけないんだけど、その気力も体力も今の彼には無い。これからの彼にも。」


一人で立ち上がる事すら出来ないんだから。クラドはそう言って悲しい笑顔を浮かべた。

四人は何も言えず俯いた。マドズがリハビリに励んでいる事は知っていた。
だが見舞いに行っても、こんな姿見られたくないからと言って帰らされる為、ちゃんと話はしていなかった。

まさか、そんな事になっていたとは。

もう戦えない等、到底信じられない。
マドズはアラン、クラドの次に名前が挙がる程の凄腕のディスターの使い手だ。

それに何より、とても世話になった。

最初こそおっかない、恐ろしい人物だと思っていたが、任務以外での繋がりを持とうとしないガーディアンの他の者達と違って、よく話し掛け、よく面倒を見てくれた。




「...じゃあ、そう言う事だから。」


何も言わぬ四人から目を背け、クラドがソファから立ち上がった。
それでも尚、四人は無言を貫いた。クラドが休憩所を出ても暫くそのままだった。


「寂しいね。」

「シャリーデアさんも、リリィも」


マドズさんも、居なくなって。
数分の沈黙の後、カレンがそう言った。
そうだな、と小さくギルが返す。

一気に、悲しみが込み上げる。
いなくなった、と改めて実感してしまえば、折角閉まい込んでいた感情が溢れ出す。

唐突に、カレンが立ち上がった。
空になったグラスを手に持ち、新しい飲み物を注ぎに行く様だ。

その顔は絶対に三人に見られない様に角度を工夫されている。
涙を堪えているか、もう堪え切れていないのだろうと三人は感じた。


「...ゾーイ。」


カレンの後ろ姿を見ていたゾーイは、シンに呼ばれて振り向いた。
振り向き、その顔を見てから気付いた。

ああ、“あの時”以来、初めてちゃんと顔を合わせたんだったな、と。
問い詰めたいやら心配やら不安やら、色々な感情がシンの瞳の中に見えた。


「その...前の、」

(さあ、どうなるかな、アラン。)


二人が見合ってから暫しの間が空いた為、ギルは怪訝そうな表情を浮かべてこちらを見つめている。
カレンも、もう新しい飲み物を注いでギルの横に戻っている。その目はギルと同じく二人に向いている。

前の、とは、あの時の事だろう。
問い掛けるのか。それとも思い留まって黙るのか違う話題を出すのか。濁すのか。
さあ、どれだ。


「...だ、大丈夫なのか?」


迷いに迷って出した答え。
それは濁す、だった。
シンはアランの事で問い詰めるよりも、倒れたゾーイの身体を心配した。
ゾーイは最高の笑顔を向けた。


「絶好調だよ、ありがとう。」

「そうか。」

「ん?ゾーイ、何かあったのか?」


二人の間では一先ず完結したが、ギルとカレンはそうは行かなかった。
何か、ゾーイの身にあったのだろうか。
心配そうに、ゾーイを見る。
ゾーイは用意していた言葉を連ねた。


「うん、戦い続きで疲れちゃったのか少し顔色が悪かったみたい。シンがそれに気付いて心配してくれたんだよ。」

「そうだったのか。お前、思いっきりインドア派だったもんな。」

「そうそう、日光に当たり過ぎたよ。」

「はは、少し肌焼けたしな。」

「ゾーイ、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だよカレン。心配無用!」


そのやり取りを、シンは無言で聞いた。
口元に安心した様な微笑を貼り付けているものの、その目に浮かんだ疑問は未だ消えていない。

いつか、二人きりになった時にね。
ゾーイはそんな目線を送った。
気付かないだろうと思ったが、シンの目に浮かんだ感情は少し和らいだ。


「次はヴァレンシア国!何だか俺達、凄く期待されてるみたいだな。」


二人の無言のやり取りも知らず、ギルがソファにもたれながら言った。嬉しい半分、不安半分と言った表情を浮かべながら。


「二ヶ月の間、もっともっと訓練して強くならなきゃね。私、この能力は凄く助けになるみたいだけど、他はてんで駄目なんだもの。」

「それは俺もだって、カレン。お互い精進しなきゃなあ。」


そんな事は無いぞと、シンとゾーイは口に出さずに言った。
自然と成長して行くものは、自分自身では気付きづらいものだ。他者の目からはしっかりその成長が見受けられている。

テストの時の実力そのままでラギス国の戦いに参加していれば、きっとこの場には存在していないだろう。
訓練の成果もあるが、“経験”というものが一番成長の後押しをする。

四人共、まだ浅い事は承知ではあるが、レイドールやアルビノの襲撃で場の経験を積んだのだ。これからも、自然とこうして強くなって行くのだろう。


「こうしちゃいられない!俺、訓練所に行って来るわ。」

「わ、私も後で行こうかな...」


ジッとしていられず立ち上がるギル。
それを見て、自分の膝を見つめながら小さな声を出すカレン。


「一緒に訓練してもいい?」

「いいけど、俺とやるよりシンやゾーイとやる方が為になると思うぜ。」

「そ、そうかな。そんな事ないよ。ギルとやってみたいな。」

「そんな事あるさ。シン、後で行くだろう?カレンを見てやってくれよ。」


半端呆れた様に頷くシン。
しょんぼりと眉を下げるカレン。
全く気が付かないギル。
その三人を見て、ゾーイは思わず笑った。
その笑いの意味さえわからないギルは、腕をぐるぐると回しながら気合を入れた。


「じゃ、行って来る!」

「頑張ってね、ギル。」


片手を挙げて小走りするギルの背中に、ゾーイが言葉をかけた。短く返事をしながら消えるギルの姿。
それからすぐに、カレンも立ち上がった。


「私も行って来るね。」

「ああ、後で俺も行くから。」


シンの言葉に、ありがとう。と笑顔で返事をしながら、カレンもギルと同じく(足取りはギルと違って重いものだが)休憩所から出て行った。


残された二人は、それを見届け、そして何とも言えない表情で見合う。

ああ、馬鹿だな。
シンとゾーイの心は一つになった。


「気付かないものなんだね。」


その言葉に、シンはニヤリと笑った。

ゾーイは、いつ頃からかは定かで無いが、カレンはギルに対して少し特別な感情を持っている、又は持ち出すだろうと感じていた。

ギルが気付いていない事はわかっていたが、それでもあの対応は駄目だろう。カレンが可哀想だ。


「実は志願者時代にな。リリィが言っていたんだが、カレンが恋話を持ち出して来た事が何回かあったらしい。」

「あはは、そうなの。」

「リリィに俺との関係性を何度も何度も問い質した後に一度言って来たらしいんだ。何だかギルが気になると。」

「ほうほう。」

「今はもう、“何だか気になる”じゃあ無いみたいだけどな。」

「そうだねえ。」


ニヤリと、二人が笑い合った。
どうなるのか、楽しみだ。積極的になるカレンも、それに気付かないギルも(又は気付いて動揺するギルも)楽しみだ。
それに“つきあう”だなんて事になれば、それこそ大いに楽しみだ。


「結局のところ、シンはどうだったの?リリィと“そういう仲”じゃ無い事は勿論わかっているけど、シンとリリィは少し特別な存在同士だったんじゃないの?」


思い切って、ゾーイが言った。
自分でも、思い切った質問だと思った。
少しの悪戯心から出したゾーイらしくない言葉であったが、やはり、言ってから後悔してしまった。
シンが悲しそうに笑ったからだ。


「...そうだな。」


小さな声でそう言ったシンは、見た事も無い程に大人びた表情だった。
ゾーイは微笑するだけに留まった。それ以上面白おかしく聞く事も無かった。

ごめんねと、心の中で呟く。だって、その相手はもうこの世にいないのだから。


「僕も出るね。」

「訓練所か?」

「まさか!お父様に呼ばれているから、少し顔を出しに行くだけだよ。」


僕が訓練するわけ無いじゃない。と、当たり前の様に言うゾーイに、シンは思わず笑ってしまった。
そして、ゾーイもソファから立ち上がり、二人同様に出口へと向かう。

シンはその背中を見送った。
見送りながら、気が付いた。


「あっ...ゾーイ!」


思い出した様に呼び、立ち上がる。
が、既に扉は閉まっていた。

しまった、ゾーイと二人きりになる機会なんて殆ど無いのに。
アランの事を聞き出そうとしていたのに。
カレンとギルに興味が向いて、すっかり忘れてしまっていた。


(まあ、また今度でいいか...)


そんなに、急ぐ事では無い。それにゾーイを通さずとも、本人に聞けばいい。
まあ彼を呼び止めて話をする等、ゾーイと話をする数十倍は縁が無さそうだが。

それでも、あの事があったのだから、少しは聞く耳を持ってくれるだろう。

小さくため息を吐き、立ち上がる。
訓練所へ行かなければ。きっとカレンが待っているだろうから。


自分のグラスと、ギルとゾーイがだらし無くもそのまま残して行ったグラスを持ち、流し台に持って行く。

考えに耽ってグラスを洗うシンは、扉の前に立った気配に気が付かなかった。


ようやく気付いたのは、ゆっくりと扉が開いて暗い目をしたカレンが現れてからだった。











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