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第一章

No.1 Zoe

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男は歩いた。歩き続けた。


見慣れた美しい緑の景色は
今や焼け野が原と化している。


世界的な戦争。
まさか己の国にまで及ぶとは、思ってもみなかった。


平和で豊かな小国。
攻め込まれては、為す術もない。

この状況に、男は絶望しか見えなかった。







「ハーイ、グランス。」


子供の声が、考える事を遮断してしまった頭に響いた。
振り向くと、燃え盛る炎を背に三つの影。



「苦しそうだね、助けてあげようか。」



真ん中の、小さな影が言った。






「取り引きしようよ。」














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




























突如引き起こされた世界戦争。
その二年後。

争いの爪痕は徐々に修復され、市街地はまた明るい雰囲気を取り戻しつつあった。

街中は木々や花の匂いに包まれ、煉瓦造りの家が並ぶ。商店街は人々が行き交い、四方八方に会話が飛んでいる。


ここはセルビナ国中央都市、セルビリア。

その名の通り、セルビナ国国家組織、セルビリアの総本部がこの街の中央に聳え立っている。

街の真ん中、何処からでもその建物の影は見えた。天辺には龍の紋章を描いた旗が靡いている。どう首を傾げて見ても、この緑色の景色に似つかわしくない。異様な存在だ。


だが、セルビリアは国の誇りであった。
二年前の世界戦争も、セルビリアの活躍のお陰でセルビナ国はどうにか生き延びた。
生き延びただけではない。その絶対的な強さを見せつけ、他国との同盟を幾つも結んだ。


親が自ら、己の子供をセルビリアに志願させる事も、最近では多い。
そして、幼い子供達から見ても屈強な騎士達は、憧れの存在であった。






今期の志願者は90名。
世界的な戦争が終わり、他国と同盟を結び、平和がまた訪れつつある今、志願する者は増大していっている。

ここから正式にセルビリアに認められる者は、たったの30名。厳しい訓練に耐え抜き、選抜された者だけが残る。



朝方の走り込み。
演習場10周を毎朝。

指導、教育を任されているブロウィはその鋭い眼光で、走る志願者達の後ろからその背中を見ていた。

志願者達は汗で肌にへばりついた灰色のシャツを着ているが、ブロウィはセルビリアの指定服であるハイネックの白いコートを着ている。胸には、旗に描かれているものと同じ、龍の紋章。
が、その暑苦しい格好にも関わらず、涼しい顔だ。 

ブロウィは一番自分に近いところ、つまり一番遅れて走っている志願者の背中に銃を向け、一発打ち込んだ。


「ギル、昨日も一昨日も一番私に近かったぞ。そんなに私と居たいのか?」


唸り声をあげ、ギルは撃ち込まれた背中を摩りながら、何人か追い抜いていった。

撃ち込まれたのは銃弾ではなく、ゴム弾。比較的殺傷能力の低い、志願者用に改良されたものとはいえ痛いものは痛い。

ギルは今のを数えて88個のアザを背中につけている。


「全く、あなた最近そんなのばっかりね。昨夜もまた街へ出て行ったでしょう、知ってるんだから。」


視線は前に向けたまま、後ろから走ってきたギルにリリィが呆れ声で言った。


「本だよ、昨日新しく発売された本を買いにいったんだ。それで...」

「朝まで読みふけっていたのね。本当に馬鹿。」

「馬鹿はないだろリリィ、友達だろ?」

「あら、友達だからこそ言うのよ。私はあなたと違って真面目なの。一緒にセルビリアに入りたいなら、もう少しあなたも真面目に頑張ることね。」


ギルは汗一つかいていないリリィの横顔を恨めしく睨んだが、リリィはニヤリと笑みを作ると、透き通った長い銀髪を靡かせながら颯爽と前へ走って行った。

汗でペタンコになった金色の短髪を右手で掻き毟り、ギルもリリィに続こうとしたが、足がもつれて転けてしまった。


「頑張れ、リリィ達には着いていけないよ。」


後ろから来たツインテールの少女が、手を差し伸べながら言った。


「あんまり無理しないで、私と一緒に行こう。」

「ああ、真の友達とは君みたいな人の事を言うんだ、カレン。リリィなんかもう知らん!」


ギルの手を取ったカレン。ギルは涙を拭う真似をしながら、笑うカレンと共に走り出した。



「ギルは本を買いにいったんだって?」

「ええ、そうみたい。昨日発売された本だって。」

「ああ...前読むように勧められたな、今、流行ってるやつだろ。」

「あら、シン。ギルとそんな“つるみ”があるのね、知らなかったわ。」

「あいつがくっついてくるだけだよ。」


先頭を走るシンに、リリィは追いついた。

今期の志願者の中でずば抜けて優秀なシンは、毎朝一人で先頭にたっている。やはり汗一つかかず、ギルよりも少し長い濃い茶色の髪を風で靡かせている。

そこから何周か黙々と走り込んでいたが、後方からまたギルがブロウィのゴム弾の餌食となった鈍い音が聞こえ、二人はまた見合った。



「久しぶりに俺の隣にきたな、リリィ。いつも中の方で走っているのに、体力があるなら前に来ればいいじゃないか。」

「私はあなたと違って目立ちたがりじゃないし、能力を他の人に自慢げに披露したりしないから。」

「酷い言い草だな。俺が目立ちたがりの自慢屋だって?」

「あら、間違ってた?」

「持ってるものは自然と表に出るもんだ。」

「そう。まあ、否定はしないわ。」


鼻を鳴らすリリィ。そして自分の後ろを走る同期を横目で見ながら次に続けた。


「まあでも、差は出るものね。世間からの目のために、セルビリアを目指すもの。そして、特に思い入れの無い土地での生活の手段としてセルビリアを目指すものと、私達とでは。」

「その、私たちに俺は入ってるのか?」


シンは少し笑っていた。
が、リリィにわかっているでしょうと言った視線を向けられ、すぐに口元に浮かべた笑みを取っ払った。


「つまり、セルビナ出身でも火の粉が降りかからず戦争を目の当たりにしなかった町からの者達、すでに故郷を捨て自暴自棄に生活手段としてセルビリアに入りたい者達と」

「私たちみたいに、戦争で大切な人達が目の前で死んで行き、強い想いを胸にセルビリアの門を叩いた者とよ。」


90個目のアザをつけられた音が聞こえ、二人はまた後方へ目を向けた。


「まあ、あいつみたいな例外もいるけどね。」










「朝の走り込みはこれで終了だ。朝飯のあと、第四訓練室に集まれ。朝飯の時間も惜しんで自習に励む素晴らしい者のために、演習場の一部を取っておいた。好きに使え。」

「腹が減っては戦はできぬ、だ。」


去って行くブロウィの背中を睨みつけながら、ギルはそう捨て台詞を吐いてその場にへたり込んだ。

ゾロゾロと食堂へ同期が向かう中、シン、リリィはギルとカレンのいる方へ歩いていった。


「その汗臭い体を洗ってから食堂へ行ってよね、ギル。」

「リリィ、あの鬼畜教官の次に恐ろしいのは君だ。」

「リリィなりの優しさだよ。風邪引いちゃうって事だよ。そうでしょう?」

「単に飯がまずくなる。どうせ同じテーブルに座るんだろ。」

「ひっでえ、おい聞いたかカレン。」

「まあまあ...」



シン。少し長めの濃いブラウンの髪、浅黒い瞳。身体能力、頭脳共に優れ、同期にも一目おかれている。自信家で、皆を引っ張る存在。

リリィ。腰まである長い銀髪と切れ長の灰色の瞳がトレードマーク。シンに続き、優等生。毒舌でクールだが、仲間意識が強く、面倒見が良い。

カレン。高い位置で二つに括った深緑の髪、まるく人懐っこい卵色の瞳。ずば抜けた能力は無いが、協調性があり、誰にでも好かれる存在。

ギル。金色の短髪と瞳の少年。今期の志願者の中で能力は下。不真面目で遊んでばかりいるが、不思議と人望はあり、何故か好かれる存在。

四人は能力の差はあれど、いつも一緒にいた。
そしてもう一人。



「ゾーイは今日帰ってくるって言っていたんだよな?」

「うん、あいつがいてくれたら、俺の今日の三つのアザはあいつの背中に行ってくれてたかもしれないのに。」

「多分ブロウィのゴム弾が更に放たれるだけだわ。」

「あ、ねえ見て。噂をすれば。」


カレンが嬉しそうに言った。
三人が目を向けると、カレンは左の方向を指差しながら満面の笑みを浮かべていた。


「ほら。」











ゾーイは二週間ぶりに演習場へ足を踏み入れた。本部へ向かう同期の姿が見える。時計に目をやった。朝食の時間だ。

黒いマントを身に纏った少年は、深い赤の瞳、光によって浅い緑や灰色にもみえる、アッシュブルーの髪をしている。

二週間しか離れていないのに、この場所がとても懐かしい思い出の場所のような感覚がした。


「ゾーイ!」


声が聞こえ、ゾーイは目をやった。名前を呼んだのはギルだった。手を勢い良く振りながら、疲れ切った足でフラフラと向かってくる。
カレン、リリィ、シンもギルに続いてゾーイへと向かった。
ゾーイは笑顔をつくった。



「ただいま、久しぶり皆。」

「ようやく帰ってきたか。今回はなんの用事だったんだ?」

「どうせまた、秘密なんでしょう?」

「そういうこと。ギル、僕がいなかった二週間で何個アザができた?予想では20個なんだけど。」

「残念だな、お前がいない間に俺は一皮むけたんだ、10個さ。今ならお前を一撃でのしてやれるぜ」



「ほう、お前は何枚皮があるんだ、ギル。」


唐突に背後から低い声が聞こえ、五人は振り返った。
てっきり本部へ帰ったと思っていたブロウィが、新調したゴム弾入りの箱を抱え、いつの間にか立っていた。

ギルは喉から掠れた悲鳴をあげてゾーイの後ろへまわった。


「ブロウィさんお久しぶり。」

「ブロウィ教官と言え、馬鹿者。...首領室へ行け。ボスがお呼びだ。」


全員の視線がゾーイへ向けられる。

ゾーイは、セルビリア総司令者、セルビナ国首領グランスの養子である。長期の外出、無断欠席その他諸々、ボスの息子という事だけで罷り通っている、問題児だ。


ゾーイは素早くブロウィの視界から逃げ、四人へ向き合った。



「じゃあ皆、また後でね。早くしないと食堂閉まっちゃうよ。」

「ああ、またな。」


ゾーイは小さく手を振ると、小走りで本部へと向かった。

それから、ギルがブロウィの説教を数分間受けた後、四人も食堂へと向かった。








「相変わらずね、ブロウィ。」


五人が去った後。
ウェーブのかかったブロンドの長髪の女が、ブロウィの元へ歩み寄った。手にはブロウィがギルへ放った三つのゴム弾が握られている。
ブロウィは固まっていた表情を少し緩めた。


「ああ、ニーナ。任務帰りか?」

「ええ。大掛かりな任務だったけど、ガーディアンがいたからすぐに片付いたわ。」


ブロウィにゴム弾を渡し、ニーナは髪についた煤色をはらった。美しいブロンドも、今はボサボサで艶がない。


「あなたがいれば、もっと早くに済んだかも。」

「私は志願者の教育にあてられたからな。それもあと三ヶ月も無いわけだが。」

「もうそんな時期?正式に入る子が決まるのね。どう?期待できそうな子はいるの?」

「まあ、数人は」

「ふうん。」


ゴム弾をひたすら磨きながら短い返事を返して来るブロウィ。
その様子を横目で確認しながら、ニーナは一息あけて、また口を開いた。


「で、さっきの子が噂のゾーイ?」


予想通り、ブロウィは手を止め、嫌な過去を思い出した様に顔を歪ませた。
そしてニーナに視線だけをやり(自分の反応を見て楽しんでいるようだったので)、すぐにゴム弾に視線を戻した。


「そう、ボスの息子様さ。」


吐き捨てる様に言い、もう充分に磨かれたゴム弾を更にいっそう磨き上げる。ニーナは悪戯な笑みを浮かべながら、ブロウィに近寄った。


「なになに、やっぱり、噂通り?」

「なんの噂が広まってるのか知らんが、報告書も外出許可もなしに何週間も居なくなるわ、テストは一度しか受けんわ、その一度の筆記のテストも白紙で提出するわ、怒鳴りつけてもヘラヘラしてるわ、ボスに言っても自由にさせてやってくれなどと言われるわ、笑わないでくれないかニーナ。」

「ごめんなさい、だいぶ頭にきてるみたいね。」

「当たり前だ。」


笑いの止まらないニーナを睨み付け、ブロウィは本部へ歩き出した。今頃、ゾーイは首領室にいるのだろう。

グランスはよくゾーイを呼び出した。
が、そのわりに他の者がいる時は一度も会話を交わさないのだ。いったい何を話しているのだろう。

黙々とブロウィが考えている後ろで、ニーナが口を開いた。


「何にしろ、ゾーイが入るのは決定なんでしょうね。実力がどうであれ。」

「...そうだろうな。」

「まあ、そんな不真面目な子なんだったら能力的にも最悪なんでしょうけど。」

「...いや、それはわからん。」


ニーナは驚いて立ち止まった。
ブロウィもそれに気付き、立ち止まってニーナを見た。


「私はボスの息子だからといって容赦はしない。今まで100発以上のゴム弾をあいつに向けた。」

「だけど、一度たりとも当たった事はないんだよ。」













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

















任務を終え、本部は慌ただしかった。
多くの者が忙しなく行き交う廊下。そこに小柄な少年が一人歩く光景は、異様である。

ゾーイはこの先にある首領室に行かなければならない。自分に向けられる怪訝な視線や煙たがる声に、ゾーイは笑顔で応えながら颯爽と通り過ぎていった。


「今の、あれだろ、噂の...」

「ゾーイだろ?ボスの息子...養子か。飽きれたもんだ。」

「また首領室にいくのか。二週間も外出してたんだろう?ボスは何を考えているのやら。」

「あんな甘ちゃんがセルビリアに入るなんて考えられん。」











ゾーイが首領室の前に立つと、自動的に重苦しい扉が開いた。
扉の向こう側は、壁にかけられた大きな絵以外は飾り気が無く、とてもさっぱりとしていた。
とても、国を率いる首領の部屋だとは言い難いものだ。

首領のグランスは窓の外を眺めていた。
年も50を目前に、髪は白髪で体も窶れてはいるが、背中から発せられるオーラがその肩書きを表している。

ゾーイが部屋に入り、扉がまた自動的に閉まる。
それと同時に、グランスはやっと振り返ってゾーイの顔を見た。



「やっと帰ったか、ゾーイ。」

「ただいま帰りました、お父様。」


ゾーイはニッコリと笑って、小さくお辞儀してみせた。

すると、奥の部屋へと繋がる扉が開き、長い黒髪をおさげにした眼鏡の女性が姿を現した。


「あら、ゾーイ様、帰ったのですね。おかえりなさいませ。」

「ただいまキキ。調子どう?元気だった?」


キキと呼ばれた女性はゾーイのその言葉に、眼鏡の奥に隠れていた青白い瞳を鋭く光らせた。


「そうですね、いつも通り、あらゆる方々からゾーイ様に対する愚痴を聞かされ、なだめ、グランス様にやんわりとお伝えする二週間でした。」

「もう、キキ、怒らないでよ。」

「別に怒ってなどいません。ですが、ボスに意見する事など怖くて出来ない、ゾーイ様に何かしたらボスへまわり、首が飛ぶかもしれない、ならば、首領のお世話係である私に言いつけようと思われる様で。お気持ちは理解出来ますが、ウンザリです。」

「怒ってるでしょう。」

「怒ってなどいません。」


「あーー、キキ。ちょっと外を見張ってくれ。」


二人は会話を止めた。
キキはグランスを見ると、すぐさま書類をまとめてテーブルに置き、部屋を出て行った。

部屋にはグランスと、ゾーイの二人きりになった。



「お父様、だってさ。」

「まったく、虫酸が走るよ。」


ソファに重い腰をおろして深くため息を吐くグランスを尻目に、ケラケラと笑うゾーイ。
キキが部屋から出て行った途端、二人の空気はガラリと変わった。

グランスが最後にもう一度深いため息を吐き、顔を上げた。テーブルをはさんだ向かいのソファには、既にゾーイが腰掛けていた。
いつもの様に微笑んでいるが、まるで微笑んだ仮面を被っているかのように、人工的な笑みだ。



「さあ、報告書を見せてくれ。」

「まったく、とんだ休暇だね。」


ゾーイは手に持った紙をテーブルに放った。
一枚の紙切れに、小さい字を隙間なく書き込んでいる。

その字は暗号化されており、他者には絶対に解読できなくしている。解読できるのは、ゾーイとグランスだけだ。

グランスが解読している間、ゾーイはテーブルに置いてある花瓶から花を一輪とり、何の意味も無く花びらをむしって行った。


「待て待て、ゾーイ」


ゾーイにむしられて茎だけになった花を奪い、花瓶に戻しながらグランスは報告書をゾーイの方へ向けた。


「このガーロンというのは、あの闇の?」

「そうだよ。金さえ出せば国だって潰しにかかるキチガイ闇組織。雇ったみたいだよ。さすがは闇世界に顔が通ってるねラギス国。二年前の戦争もこの国が始めた事みたいだし、どうもキナ臭いねぇ。」

「こちらの大陸には手出しはしない様だが、今でも裏で動き回っている様だからな...油断出来ん。まったく、ヒューラめ。大国の首領が闇組織になんぞ手を借りよって...」


グランスはまた項垂れた。
ゾーイはそれを見て、馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、身を乗り出してグランスの顔を覗き込んだ。
グランスはゾーイを見ない。


「闇市場、闇組織、何処の国も手付けてるよ。そういう世界なんだから。この国が平和過ぎるだけで、他の大陸に出たら僕みたいな年頃の子なんか直ぐ誘拐されて、人身売買で死ぬより辛い人生送らされるかバラされて若い新鮮な臓器を売られて後は道端に捨てられるか。」

「グランスさんはね、そう、君。理想だけ高い、自分自身が戦場で戦った事もない、平和ボケおじいさん。」

「大体、自分の事を棚に上げた発言だったよね、今のは。君も闇にどっぷりつかってるじゃないか。そう思わない?」


グランスは顔をあげた。
ゾーイは完全な無表情で、赤い瞳だけに辛うじて生気が感じられた。


「闇?私が闇と繋がっていると?まさか。そんな悪いものの様に言ってはならない。私はただ...」


言い切るより早く、ゾーイが立ち上がった。
言わせない様に、といった方が正しいかもしれない。


「やっぱり、どれだけ一緒にいても君とは解り合えないね。」


扉の前に歩いて行きながらゾーイが言った。
扉がまた自動的に開き始める。それと同時に、グランスが立ち上がった。


「そのようだな。だがこれだけは言わせてくれ。」

「なに?」

「君の考えはわからん。が、結果として間違った事はないから信頼はしている。私の養子として、セルビリアに入る話も好きにして良い。」


「...だが、少し好き勝手しすぎだ。キキが最近気が立っていて私が叱られる始末なのだ。もう少し、控えめにしてくれないか?」


扉が開き切ると、ゾーイはやっとグランスの方へ顔を向けた。意地悪そうなその表情は、さっきまでの人形のようなものでは無く、年相応の少年らしい表情だった。


「まあ、考えとくよ。」


そして、扉はまた重苦しい音を立てて閉まった。














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