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1話 ゼロから
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鉛色の空の下、天を仰ぐ女の子。
銀髪赤眼の少女は涙ながらに呟いた。
「やっぱり、無理だよ。私達の負け」
◆◇◆
「くっそ…腹減った…!」
「わしのりんごやるから黙っちょれ!このクソガキ!」
街外れ、壊れかけの廃墟に響く怒鳴り声。
廃墟の中は、部屋の真ん中にテーブルが1つ置いてあるだけの殺風景。
「俺もフードテイクしに行きたいぃぃぃぃ!」
「うーん…分かったわい。今度連れてっちゃるから黙っちょれ!」
駄々をこねる少年にしかめっ面をするが彼の意思は揺るがない。
ーーそんな少年に老爺はため息混じりに許可を出す。
「いいかよく聞くんじゃぞ、イズヤ。フードテイクには勿論危険が伴う、わしはこの島で2人といない1級フードテイカーじゃが、お前みたいなクソガキを確実に守れる自身はない。万が一、わしが太刀打ちできない相手と遭遇したら、直ぐに[帰り玉]を使って島に戻るんじゃ。これは1つしかない。慎重に使うんじゃぞ」
※[帰り玉]とは、下界に存在する物体であり、空にかざすと浮遊島の中心部へと移動する物である。尚、何故《浮遊島の中心部》に移動するかはまだ分かっていない。
説明ながらに老爺は少年の手を握り拳に[帰り玉]を入れた。
少年は、硬くその手を握り直すと、ズボンのポケットにしまい込む。
「分かったよ、じぃじ。その代わりしっかりフードテイク教えてね!」
「誰じゃと、思っとるんじゃ。生きる伝説ハヤミじゃぞ。わしの全てを教え込んじゃるわ!」
少年が笑みを浮かべると、老爺は声を上げて高笑いをした。
掠れた笑い声は部屋中を反響した。
◆◇◆
「とうとう来たね!今日が!」
「そうじゃのぉ」
浮遊島の最南部、舟乗り場に響く騒ぎ声。
老爺は冷静に相打ちを打つと、下界を見下ろす。
瞬間、下界からの上昇気流が肌を掠める。
「クソガキよく聞けよ、この『ダイブスーツ』を着たらワシが飛びを降りるまで黙って立っちょれよ!」
※『ダイブスーツ』とは、浮遊島から下界に登り降りする為のスーツである。
「わかった!そして俺はじぃじが飛び降りたら飛び降りればいんだよね?」
大きく首を振る老爺は、少年の手を硬く握る。
「ワシが飛び降りてから2分後じゃ。これだけは必ず守るんじゃぞ」
『じぃじはそう言い残すと、ダイブした』
老爺が下界にダイブすると、すぐに目視出来ないほどに姿は小さくなっていった。
ーー2分後。少年も老爺の指示通りにダイブした。
スーツはただただ、落下速度を遅くするだけの装置で顔に襲いかかる風を避けてはくれなかった。
降りる途中、何度も獣族を目にしたが、何故だか決して襲いかかって来る事は無かった。
しばらくして、下界がはっきりと目視できるようになると、立ち並ぶ木々の間にハヤミが確認出来た。
「じぃじ!」
「なんじゃその情けない顔は!もしかして怖かったんか?」
大樹の前、少年は周りを二度三度見ると、全力で老爺の元へ駆けた。
老爺の問いかけ、それをきっかけに少年の顔は紅一色。
「ち、違うし!風が目にしみただけ!」
渾身の見栄っ張りで少年は自身の羞恥心に嘘をついた。
ーー老爺はそれを見ると、高らかに笑った。その声ははるか遠方の浮遊島にまで届いていたという。
◆◇◆
ーー浮遊島から下界にダイブして2時間。
2人は食料確保を終え、散歩をしていた。
「じぃじ、これは?」
水晶の様な透明な球体を足元から拾い見せる少年。それは時々色を変え、光っていた。
「これは『未来玉』じゃ」
球体を見るなり即答。老爺にとってはそれだけ常識的な物なのだ。
「未来玉?」
「未来玉は近い未来の自身に危険が及ぶなら赤く光り、悲しいことが起きるなら青く光り、良いことが起きるなら黄色く光るんじゃ。ーークソガキ、それ今何色に光っちょる?」
少年の拳に握られた未来玉は、青色に輝いたと、思うと次は、赤色に光る。
その繰り返し、だが確実に色の入れ替わる速度が速くなってるのが確認出来た。
その速度はますます上がっていき、遂にはよく分からない色に見えるくらいだった。
その時、未来玉は少年の手から砕け散る。
辺りを駆け巡る戦慄。只ならぬ気配。
老爺の口元は既に笑ってはいなかった。
「ガキ!帰り玉を使え!はやく!」
「え?」
焦る老爺、困惑する少年。時間は2人を待ってはくれない。
「はやく!!!」
瞬間、老爺の背後つまり少年側から、鋭い爪に鋭利な牙を兼ね揃えた人型の獣族が襲いかかってきた。
「ーーゔっ!!」
声と同時に老爺は地面に倒れ込む。砂埃が舞う地面に鮮やかな赤色の血が広がる。老爺はとっさに少年を守る時、代償として右足を失ったのだ。
老爺から流れ出す鮮やかな赤色の液体は止まる気配を見せない。
「じぃじ!!!」
「はぁやくぅにげぇろぉ!!」
少年が駆け寄ると老爺は思いっきり突き飛ばす。突き飛ばされた時、手の温もりと衝撃で少年は思い出す。『わしが太刀打ちできない相手と遭遇したら、直ぐに[帰り玉]を使って島に戻るんじゃ』老爺の言葉が脳内で反響する。
「逃げなきゃ。ーーでも…」
少年はどうにもならない現状をただ嘆く事と彼の右足を小さな手で止血する事しかできなかった。
「わしゃ死なん!!」
「じぃじ。ーーごめんなさい。すぐに助けを呼んでくるから!」
少年は意を決して、ポケットに入っていた帰り玉を天にかざし使おうとした。
その時、地面に何かを擦り付ける鈍い音。
奴が老爺の頭に足を乗せ、少年を凝視。
少年は、老爺の叫び声に驚き振り返る。
「生き延びろよ!イズヤ…」
「死ね」
瞬間、大地に赤色の雨が降り注ぐ。
砕け散った骨は、空を舞う。
泣き叫ぶ少年に、奴は一歩二歩と近づいていく。その足音は二歩に一回だけ、生々しい濡れた足音だった。
ーー 少年は拭えぬ程の涙を押し殺し帰り玉を使用。
奴が攻撃してくるのと使うタイミングはわずか0.01秒の差だったという。
「じぃじ!!!!!」
銀髪赤眼の少女は涙ながらに呟いた。
「やっぱり、無理だよ。私達の負け」
◆◇◆
「くっそ…腹減った…!」
「わしのりんごやるから黙っちょれ!このクソガキ!」
街外れ、壊れかけの廃墟に響く怒鳴り声。
廃墟の中は、部屋の真ん中にテーブルが1つ置いてあるだけの殺風景。
「俺もフードテイクしに行きたいぃぃぃぃ!」
「うーん…分かったわい。今度連れてっちゃるから黙っちょれ!」
駄々をこねる少年にしかめっ面をするが彼の意思は揺るがない。
ーーそんな少年に老爺はため息混じりに許可を出す。
「いいかよく聞くんじゃぞ、イズヤ。フードテイクには勿論危険が伴う、わしはこの島で2人といない1級フードテイカーじゃが、お前みたいなクソガキを確実に守れる自身はない。万が一、わしが太刀打ちできない相手と遭遇したら、直ぐに[帰り玉]を使って島に戻るんじゃ。これは1つしかない。慎重に使うんじゃぞ」
※[帰り玉]とは、下界に存在する物体であり、空にかざすと浮遊島の中心部へと移動する物である。尚、何故《浮遊島の中心部》に移動するかはまだ分かっていない。
説明ながらに老爺は少年の手を握り拳に[帰り玉]を入れた。
少年は、硬くその手を握り直すと、ズボンのポケットにしまい込む。
「分かったよ、じぃじ。その代わりしっかりフードテイク教えてね!」
「誰じゃと、思っとるんじゃ。生きる伝説ハヤミじゃぞ。わしの全てを教え込んじゃるわ!」
少年が笑みを浮かべると、老爺は声を上げて高笑いをした。
掠れた笑い声は部屋中を反響した。
◆◇◆
「とうとう来たね!今日が!」
「そうじゃのぉ」
浮遊島の最南部、舟乗り場に響く騒ぎ声。
老爺は冷静に相打ちを打つと、下界を見下ろす。
瞬間、下界からの上昇気流が肌を掠める。
「クソガキよく聞けよ、この『ダイブスーツ』を着たらワシが飛びを降りるまで黙って立っちょれよ!」
※『ダイブスーツ』とは、浮遊島から下界に登り降りする為のスーツである。
「わかった!そして俺はじぃじが飛び降りたら飛び降りればいんだよね?」
大きく首を振る老爺は、少年の手を硬く握る。
「ワシが飛び降りてから2分後じゃ。これだけは必ず守るんじゃぞ」
『じぃじはそう言い残すと、ダイブした』
老爺が下界にダイブすると、すぐに目視出来ないほどに姿は小さくなっていった。
ーー2分後。少年も老爺の指示通りにダイブした。
スーツはただただ、落下速度を遅くするだけの装置で顔に襲いかかる風を避けてはくれなかった。
降りる途中、何度も獣族を目にしたが、何故だか決して襲いかかって来る事は無かった。
しばらくして、下界がはっきりと目視できるようになると、立ち並ぶ木々の間にハヤミが確認出来た。
「じぃじ!」
「なんじゃその情けない顔は!もしかして怖かったんか?」
大樹の前、少年は周りを二度三度見ると、全力で老爺の元へ駆けた。
老爺の問いかけ、それをきっかけに少年の顔は紅一色。
「ち、違うし!風が目にしみただけ!」
渾身の見栄っ張りで少年は自身の羞恥心に嘘をついた。
ーー老爺はそれを見ると、高らかに笑った。その声ははるか遠方の浮遊島にまで届いていたという。
◆◇◆
ーー浮遊島から下界にダイブして2時間。
2人は食料確保を終え、散歩をしていた。
「じぃじ、これは?」
水晶の様な透明な球体を足元から拾い見せる少年。それは時々色を変え、光っていた。
「これは『未来玉』じゃ」
球体を見るなり即答。老爺にとってはそれだけ常識的な物なのだ。
「未来玉?」
「未来玉は近い未来の自身に危険が及ぶなら赤く光り、悲しいことが起きるなら青く光り、良いことが起きるなら黄色く光るんじゃ。ーークソガキ、それ今何色に光っちょる?」
少年の拳に握られた未来玉は、青色に輝いたと、思うと次は、赤色に光る。
その繰り返し、だが確実に色の入れ替わる速度が速くなってるのが確認出来た。
その速度はますます上がっていき、遂にはよく分からない色に見えるくらいだった。
その時、未来玉は少年の手から砕け散る。
辺りを駆け巡る戦慄。只ならぬ気配。
老爺の口元は既に笑ってはいなかった。
「ガキ!帰り玉を使え!はやく!」
「え?」
焦る老爺、困惑する少年。時間は2人を待ってはくれない。
「はやく!!!」
瞬間、老爺の背後つまり少年側から、鋭い爪に鋭利な牙を兼ね揃えた人型の獣族が襲いかかってきた。
「ーーゔっ!!」
声と同時に老爺は地面に倒れ込む。砂埃が舞う地面に鮮やかな赤色の血が広がる。老爺はとっさに少年を守る時、代償として右足を失ったのだ。
老爺から流れ出す鮮やかな赤色の液体は止まる気配を見せない。
「じぃじ!!!」
「はぁやくぅにげぇろぉ!!」
少年が駆け寄ると老爺は思いっきり突き飛ばす。突き飛ばされた時、手の温もりと衝撃で少年は思い出す。『わしが太刀打ちできない相手と遭遇したら、直ぐに[帰り玉]を使って島に戻るんじゃ』老爺の言葉が脳内で反響する。
「逃げなきゃ。ーーでも…」
少年はどうにもならない現状をただ嘆く事と彼の右足を小さな手で止血する事しかできなかった。
「わしゃ死なん!!」
「じぃじ。ーーごめんなさい。すぐに助けを呼んでくるから!」
少年は意を決して、ポケットに入っていた帰り玉を天にかざし使おうとした。
その時、地面に何かを擦り付ける鈍い音。
奴が老爺の頭に足を乗せ、少年を凝視。
少年は、老爺の叫び声に驚き振り返る。
「生き延びろよ!イズヤ…」
「死ね」
瞬間、大地に赤色の雨が降り注ぐ。
砕け散った骨は、空を舞う。
泣き叫ぶ少年に、奴は一歩二歩と近づいていく。その足音は二歩に一回だけ、生々しい濡れた足音だった。
ーー 少年は拭えぬ程の涙を押し殺し帰り玉を使用。
奴が攻撃してくるのと使うタイミングはわずか0.01秒の差だったという。
「じぃじ!!!!!」
応援ありがとうございます!
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