疑問だらけの異世界生活

ひなた

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7.学校に行こう

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あれから学院が始まるまでの2日間、この世界での常識や簡単な魔法をサルヴァスに一通り習った。
時間は全然足りなかったが誰もが小さな頃に一度は必ず憧れた魔法使いになれるのだ、魔法の勉強は全く苦にならなかった。
ただし魔法と言っても何でもできるわけではなくて、小さな火を灯したり、つむじ風をおこしたりとささやかなものだ。
しかし魔法なんて夢物語の生活を送ってきた結城からすれば、そんなささいなことでもいちいち感動してしまう。
その姿を見て温かい眼差しで自分を見つめて微笑むサルヴァスに、少し気恥ずかしくなった。
1番嬉しかった魔法は、最初に見せてもらった物を自由に出し入れする魔法だ。
サルヴァスいわく、よほどイメージが出来ていることとこの魔法との相性が良いらしく、とても難しいと言われていたが割とすんなりできた。
それにいまは小さな魔法しか使えないが、魔力が大きくなればできることも増えるらしい。
まだこの世界にきたばかりなのと魔力と無関係の生活を送っていたせいで体が魔力を使うことに馴染んでおらず、この世界の空気を吸い食べ物を食べていく間に自然と増していくだろうとのことだ。
体が小さくなったことも、そのことが原因かもしれないと言われた。
まあそのおかげでいまこの場所にいられるのだから、悪いことばかりではない。
いきなり大人の中に放り込まれるより、子供の中に放り込まれる方が比べようにならないくらい安心だ。
自分には30歳まで培ってきた色々な経験・知識がある。
全く常識の通用しない世界に放り込まれたとは言え相手は子供だ、なんとかなるだろう。

「いい?ユウキちゃんは俺様の遠縁の子供、この戦争で両親は他界して孤児になった」
「たまたま仕事で町に訪れたサルヴァスさ、じゃなくて校長に出会って引き取られた?ですよね」

苦しくないですか?と見上げて問うと、まあなるとかなるでしょとサルヴァスは笑った。
この学院ではいま1年生は10名しか在籍していないらしい、戦争で子供を産む女性や子供が犠牲になったせいでいまこの魔界は少子化なのだそうだ。
それに加え、元よりこの学院の入学条件は厳しいらしく魔力が高かったり一芸に秀でていないと中々入れないそうだ。
その話を聞いた時に魔力の少ない自分が学院に入ることが可能なのか不安だったが、どこからかテスト問題の様な紙を持ってきて問答無用で解かせられた。
ごく簡単な算数の問題だったが、サルヴァスに見られながら解いたそれはもちろん言われた制限時間をだいぶ残して解き終えたのだが、その答案用紙をどこかへ持っていったあと帰ってきた際には手に答案用紙を持っておらずいまだに結果がどうだったのか教えてもらえていない。
一体あの問題用紙はなんだったのか、何度聞いてもにやにやと意地悪い笑顔を浮かべるだけで答えてくれなかった。
サルヴァスに連れられて建物の一番奥にある部屋の前まで来ると、中から子供特有のにぎやかな声が聞こえてきた。
準備はいい?と聞くのと同時に、こちらの心の準備など御構い無しにサルヴァスは扉をひいた。

「うるさいよー、中途半端な時期だけど新入生を紹介するから」

扉の開く音がするといままでざわついていた教室はシンと静まり返った。
先にサルヴァスが教室の中に入り説明をすると、教室の中の視線は扉の方へつまり自分へと向けられた。
興味がある者、敵意がある者、詮索する者いろいろな視線を感じ怖気づいてしまう。

「ほら入って自己紹介してよ」
「えと、ユウキです。戦争で両親を亡くしてひとりのところをサルヴァス校長に助けてもらい、縁があってこの学院に入学することができました、皆さんよろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げると、パチパチと拍手が鳴った。
中にはよろしくと声をかけてくれる子もいるが、鋭い眼差しでこちらを見ている者も何人かいた。

「こんな時期に入学なんてよほど魔力が高いんでしょうね」

こんな時期に入学者がいること自体前例がないと、学院がどういうものか聞いた際に教えてもらった。
多分やっかまれるだろうけど、うまいことできるようにしておくからと。
サルヴァスは一体なにをしてくれたのであろう、なにも聞いていない。
おろおろしているとサルヴァスが口を開いた。

「魔力はまだまだ伸び盛りだけど、なんせ試験を満点合格だからね」
「そ、そんなの俺だって満点でした!」
「言うの忘れてたわ、この子が満点なのは魔王城の入隊試験だけど?」
「は?」

その瞬間教室にわっと歓声があがった。
サルヴァスは教室の子供達に見せつけるように結城の頭を撫でた。

「いや~俺様試験問題間違って渡しちゃって、採点したやつが度肝抜いてたわ」

はははと笑ってうっかりしてたなんて言ってるけど、これ絶対わざとだ。
ああ~せっかく目立たず、平穏な学院生活を送ろうと計画していたのに初日から出鼻をへし折られた。
その考えすらサルヴァスにはきっと読まれていたのであろう。

「ようこそ学院へ、楽しもうな」

にやにやした意地の悪い笑顔を浮かべ、とてもじゃないが校長のする顔ではないと思う。
サルヴァスを呆れた顔で見てから教室に目線をむけると、羨望の眼差しをする者とは別に先ほどのくってかかかってきた子が信じられないという表情を浮かべ結城のことを睨みつけていた。

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