疑問だらけの異世界生活

ひなた

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15.選択授業1

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また今週も学院生活がはじまり教室に足を踏み入れるなり、変わらず剣呑な眼差しをこちらに向ける一角が目に留まり思わずため息をついた。
毎日飽きもせず絡んでくるのが面倒になり適当にあしらっていたのだが、それがまた彼らの勘に障ったらしい。
何度か先生に連行されてお叱りを受けているにも関わらず、反省の色はあまり見えない。
先週のように直接突っかかってこないことが唯一反省している点なのかもしれない。
何をしても気に食わない彼らを刺激しないよう、そっと席についた。

「魔王城採用試験満点合格者となると挨拶もなしか、大層偉いご身分だな!」
「あ~もう、先週は挨拶してくるなって言ってたのに・・・」
「何をぶつぶつ言っている、聞こえているのか」
「はいはい、おはようヒュブリス少年・・・面倒くさいなぁ」
「聞こえているぞ!面倒くさいとはなんだ!!」

ぷりぷり怒りながらこちらに近づいてくるヒュブリスに頭をかかえる。
どうやらサルヴァスの事を敬愛してるらしく、彼に可愛がられている結城が気に食わないらしい。
そして完全に嫌われているわけではないみたいで、かまってほしいが下手に出れない彼はあの態度を出してしまうようだ。
私も別に彼のことが嫌いではないのだ、ただ毎日凝りもせず突っかかってくるのが面倒で仕方ない。

「私のことが気に食わないなら関わらなければいいのに、仲良くなりたいの?」
「そんなわけあるか!ま、まぁ、貴様がどうしてもというのなら仲良くしてやらなくもない」
「はいはい、名前が呼べるようになったらね」
「き、貴様、人が下手にでればなんだその態度は!」
「出てない、全く出てないよ」

また今日も授業がはじまるまでこのままなのだろうか、早くクラスメイトと馴染みたいがいかんせんヒュブリスが毎日飽きもせずに絡んでくるので他の生徒が自分と仲良くしたがらないのだ。
ため息をつくと、教室の扉のほうからちょいちょいと先生に手招きされた。

「どこにいく!まだ話は終わっていないぞ!」
「やめたほうが身のためじゃない?」

ヒュブリスの話しを聞き流していた結城は、彼を放置して先生のほうへ歩いて行った。
結城の一言で先生の存在にやっと気づいたヒュブリスは苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべ、押し黙った。

「おはようございます、えっと・・・先生?」
「どうして疑問形なんだ」

目の前の教師を一瞥し、記憶を探るが誰だかさっぱりわからない。
誰かに似ているような気もするが、言葉を交わしたこともないのではないだろうか。

「・・・名前が思い出せなくて」
「失礼なやつだな・・・いや、先週は出張でいなかったからユウキとは初対面だな。すまない、こちらは色々と話を聞いて知っているものだからついついそのつもりで話していたよ、私はリヒトお前たち1年の担任だ」

はははと笑いながら右手を差し出してくるので、握手しておいた。
栗色の髪と瞳、年はもとの私の年齢よりも少し若いのではないだろうか。
整った顔をしているのだが、それ以上に優しそうな性格が顔に出ていて初対面ながら警戒することなくすんなり受け入れることができた。

「なにか御用ですか?」
「朝からすまないな。しかしだ、あのヒュブリスにだいぶ気に入られているようだな」
「早くデレてくれれば楽なんですけどね」
「ははは、何事も簡単ではおもしろくないだろう」

そう言ってリヒトは1枚の紙を結城に手渡した。
見てみると授業の時間割のようだが、小さく生活学とかかれている授業の欄は空白が目立っている。

「先週はまだ学院にきたばかりだから心細いと思ってリアンと同じ授業を受けさせていたが、そろそろ生活学の授業を決めてもらおうと思ってな。記入して今日中に提出してくれないか?」
「わかりました、でも生活学の授業ってなにがあるんですか?」
「そうだな~、よし!昼休みに教員室に来なさい、説明しながら昼飯を一緒に食べようか」
「わかりました」

ぺこりと頭を下げて教室に戻るとすでに1限目の授業の先生が来ており、自分を待たれているようだ。
すみませんと一言謝罪し、慌てて自分の席についた。


***


「失礼しまーす」
「おう、ユウキか。こちらに座りなさい」

教員室に行くと昼休憩の為、他の先生は昼食を取るため席をはずしているようでリヒトと自分しかいなかった。
リヒトは自分の席に手招きすると、簡易椅子に座っており結城には自分の普段使っている椅子を提供してくれた。
さりげなくいい方の椅子を進めてくれるなんて、思わず椅子を凝視してしまった。

「先生ってモテそうですよね」
「大人をからかうんじゃない。お前と話をしているとまだ1年だというのを忘れそうになるよ、何があったか知らないがもう少し子供らしくあってもいいと思うぞ」
「気を付けます」
「だからだな・・・まぁいい、食堂から昼飯が届いているから食べてから生活学の授業の話をしようか」

そう言って先生はわざわざ手書きで作ってくれたのだろう、生活学と表題が書かれた資料を1枚机の上においた。
とても分かりやすく書かれており、わざわざ呼び出して説明しなくともこの紙1枚渡せばすんだのでは?とふと思ったが、結城と昼ごはんを楽しそうに食べるリヒトの顔を見るとそんな考えもすぐに消えてしまった。

「なんだ?」

じっと見つめていたようで、視線に気づいたリヒトが訝し気な顔で結城を見た。

「やっぱり、先生はモテそうです」
「ははは、お前くらいだよ。私がモテそうなんて言うもの好きは。冷めないうちに早く食べなさい」

味気ない食堂のごはんは、ふたりで食べるといつもよりおいしく感じた。

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