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第14話 ミルク&ポーションの屋台
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牛乳というのは基本的にその日に搾れたものを売りに行く。
なので、まだ商売の準備ができていない今日に搾れたものは、牧場のみんなで飲むことにした。
しかし、冷静になってみればこの世界にメガスタイン牛のミルクを飲んだ人間はまだいない。
ないと思いたいが、なにか危ない成分が入っている可能性もある。
まずはウェンディに調べてもらおうと俺が牛乳缶を運ぼうとしたところ……。
「う~ん、このミルク最高においしい~」
匂いに誘われ起きてきたのか、七女のナナミに一つの缶すべてを飲まれてしまった。
いったいどんな良い嗅覚を持っているんだ?
それに胃袋はどうなっているんだ?
ツッコミどころは満載だが、とりあえず勝手に飲んでいいと言っていないものを飲んだことは叱った。
すると、ナナミは非常に不満そうな顔をした。
「え~、考えなしに飲んだんじゃないも~ん! ナナミには食べても大丈夫な物とダメな物を見抜く力があるんだも~ん」
「それって本当なの? 言い訳じゃ……」
「ちが~う!! 匂いの時点でその食べ物がどういう状態かわかるの!! この牛乳は飲んだら美味しいよって匂いがしてたの!!」
こ、怖い……。
食べ物への執念は恐ろしい子なんだ。
ただ、『食べていい物かそうでないかがわかる』という能力は本当なのかもしれない。
ローザといい、姉妹はどこか他の人とは違う力がある気がしている。
でも、もしこの牛乳が飲んで体に害がない物だとして、それをナナミに飲んでいいという許可は出していないのだからやはりそこは叱らないといけないのでは?
俺は正真正銘彼女たちの保護者だ。
ダメなことはダメと言わなければいけない。
「ナナミ、君の力は信じる! でも、これからは勝手にものを食べたり飲んだりしないこと! 美味しい物でも独り占めしたらみんなに嫌われるよ」
「うう……。でも、牛乳はたくさんあるんでしょ? ナナミたちじゃ飲み切れないくらい」
ローザとの会話が聞こえていたのか、匂いで他にも絞られたミルクがあることを把握しているのか……。
どちらにしろ、もう彼女の食べ物に対する能力は疑わない。
「ま、まあそうだけど、どう使うかとか、どう分けるかとかはまだ決まってないから、それまで待ってほしいな」
「う~、仕方ない。わかった!」
「良い子だ。飲んじゃった物は飲んじゃった物だし、もう気にしなくていいよ。次からまず俺に食べていいか聞いてね」
「努力します~」
くっ、根気よく教えていかないとなぁ……。
まあ、これが美味しくて害のないミルクだと判明したけど、一応ウェンディにも見てもらっておこう。
ナナミの体が食べることに関して強靭過ぎる可能性もあるから……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ウェンディの調査の結果、やはりメガスタイン牛のミルクは害のない物だとわかった。
むしろ、通常のミルクより栄養が豊富で体にも良いらしい。
ということで、夕食にはたくさんのミルクスープを作り、みんなで飲んだ。
甘くてコクがあって体の芯から温まる最高のスープだった。
七姉妹とネクスの発育にも良さそうだし、仕事に疲れた女性陣にも疲れがとれると好評だ。
もちろん、牧舎のモンスターたちにもふるまった。
みな美味しそうに飲んでくれたし、弱った体を完全に戻すために必要な栄養素を補給できたことだろう。
メガスタイン牛のミルクを得たことで俺たちの牧場生活はまた一歩前に進んだ。
ここから、さらに一歩踏み出すためにノームとある物の作ることにした。
それは『移動式屋台』だ。
「まあ、こんなもんじゃろう。木製で軽いとはいえ、あんまりデザインに凝ると重くなって引っ張るバイコーンたちに負担がかかる。機能性は十分に追求しとるから、物を売るときに不便はせんはずじゃ」
「ありがとう、ノーム。最高の屋台だ」
中には大きな収納スペースがあり、ミルクやポーションの入ったビンをたくさん運べる。
ビンは直径とほぼ同じ大きさの穴に差し込む形で固定するため、倒れて割れることはないだろう。
また、計り売りに対応するため大きい缶も固定して収納している。
テーブル部分は折り畳み式で移動の邪魔にはならない。
そして、展開すればその面積は広く、商品の陳列に困らない。
中に人が乗って移動することも可能だ。
流石に大人数は乗れないが、町と牧場の間を移動する際の負担を減らせる。
それに引っ張るバイコーンたちも人間の歩行速度に合わせなくていいため、移動が早く済む。
車輪もこだわっているので、ガタガタ道でも振動が屋台の中に伝わりにくい。
商品が割れたり、こぼれたりする心配がさらに減る。
うん、良い完成度だ。
贅沢を言うならば、この馬車自体に防犯機能をつけておけば七姉妹を連れて売りに出た時より安心だ。
まあ、バイコーンにケンカを売る者は少ないと思うが、彼らも人間に一度は捕まった身なので、警戒するに越したことはない。
初回の町への売り出し時には、ガルーがついてきてくれる。
彼がいれば百人どころか千人力だが、番犬がいなくなった牧場が手薄になる。
心配すぎかもしれないけど、とにかく安全に暮らしたいからね。
防犯意識は高く持っておこう。
そんなこんなで商売の準備は完了し、あとは誰が行くかを決める段階になった。
牧場主である俺は確定。
屋台を引っ張るバイコーン一頭と護衛のガルーも確定。
薬の効果を詳しく説明できるウェンディも同行する。
七姉妹たちも興味を示したが、やはり人ごみにまだ抵抗があるのか行きたいとは言わなかった。ナナミを除いては。
彼女は一時的に冒険者ギルドに保護されていた際に、町には美味しい食べ物屋さんがたくさんあると知ってしまったのだ。
食い気が人間への不信感を上回り、ナナミも同行することになった。
まあ、彼女は食べ物の美味しさを口で説明するのが得意だし、良い宣伝をしてくれるだろう。
「ルイルイフェニックス牧場、本当の始まりだ!」
ある朝早く、俺は屋台に乗ってレギンズの町へと向かった。
種類は少ないが、自信をもっておススメできるものを揃えている。
初めてなんで、お客さんがそこそこ来てくれるだけでいい。
でも、商品が足りなくなったらどうしようとか、取り合いになったらどうしようとかも考えてしまうのが、俺という能天気な人間だった。
なので、まだ商売の準備ができていない今日に搾れたものは、牧場のみんなで飲むことにした。
しかし、冷静になってみればこの世界にメガスタイン牛のミルクを飲んだ人間はまだいない。
ないと思いたいが、なにか危ない成分が入っている可能性もある。
まずはウェンディに調べてもらおうと俺が牛乳缶を運ぼうとしたところ……。
「う~ん、このミルク最高においしい~」
匂いに誘われ起きてきたのか、七女のナナミに一つの缶すべてを飲まれてしまった。
いったいどんな良い嗅覚を持っているんだ?
それに胃袋はどうなっているんだ?
ツッコミどころは満載だが、とりあえず勝手に飲んでいいと言っていないものを飲んだことは叱った。
すると、ナナミは非常に不満そうな顔をした。
「え~、考えなしに飲んだんじゃないも~ん! ナナミには食べても大丈夫な物とダメな物を見抜く力があるんだも~ん」
「それって本当なの? 言い訳じゃ……」
「ちが~う!! 匂いの時点でその食べ物がどういう状態かわかるの!! この牛乳は飲んだら美味しいよって匂いがしてたの!!」
こ、怖い……。
食べ物への執念は恐ろしい子なんだ。
ただ、『食べていい物かそうでないかがわかる』という能力は本当なのかもしれない。
ローザといい、姉妹はどこか他の人とは違う力がある気がしている。
でも、もしこの牛乳が飲んで体に害がない物だとして、それをナナミに飲んでいいという許可は出していないのだからやはりそこは叱らないといけないのでは?
俺は正真正銘彼女たちの保護者だ。
ダメなことはダメと言わなければいけない。
「ナナミ、君の力は信じる! でも、これからは勝手にものを食べたり飲んだりしないこと! 美味しい物でも独り占めしたらみんなに嫌われるよ」
「うう……。でも、牛乳はたくさんあるんでしょ? ナナミたちじゃ飲み切れないくらい」
ローザとの会話が聞こえていたのか、匂いで他にも絞られたミルクがあることを把握しているのか……。
どちらにしろ、もう彼女の食べ物に対する能力は疑わない。
「ま、まあそうだけど、どう使うかとか、どう分けるかとかはまだ決まってないから、それまで待ってほしいな」
「う~、仕方ない。わかった!」
「良い子だ。飲んじゃった物は飲んじゃった物だし、もう気にしなくていいよ。次からまず俺に食べていいか聞いてね」
「努力します~」
くっ、根気よく教えていかないとなぁ……。
まあ、これが美味しくて害のないミルクだと判明したけど、一応ウェンディにも見てもらっておこう。
ナナミの体が食べることに関して強靭過ぎる可能性もあるから……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ウェンディの調査の結果、やはりメガスタイン牛のミルクは害のない物だとわかった。
むしろ、通常のミルクより栄養が豊富で体にも良いらしい。
ということで、夕食にはたくさんのミルクスープを作り、みんなで飲んだ。
甘くてコクがあって体の芯から温まる最高のスープだった。
七姉妹とネクスの発育にも良さそうだし、仕事に疲れた女性陣にも疲れがとれると好評だ。
もちろん、牧舎のモンスターたちにもふるまった。
みな美味しそうに飲んでくれたし、弱った体を完全に戻すために必要な栄養素を補給できたことだろう。
メガスタイン牛のミルクを得たことで俺たちの牧場生活はまた一歩前に進んだ。
ここから、さらに一歩踏み出すためにノームとある物の作ることにした。
それは『移動式屋台』だ。
「まあ、こんなもんじゃろう。木製で軽いとはいえ、あんまりデザインに凝ると重くなって引っ張るバイコーンたちに負担がかかる。機能性は十分に追求しとるから、物を売るときに不便はせんはずじゃ」
「ありがとう、ノーム。最高の屋台だ」
中には大きな収納スペースがあり、ミルクやポーションの入ったビンをたくさん運べる。
ビンは直径とほぼ同じ大きさの穴に差し込む形で固定するため、倒れて割れることはないだろう。
また、計り売りに対応するため大きい缶も固定して収納している。
テーブル部分は折り畳み式で移動の邪魔にはならない。
そして、展開すればその面積は広く、商品の陳列に困らない。
中に人が乗って移動することも可能だ。
流石に大人数は乗れないが、町と牧場の間を移動する際の負担を減らせる。
それに引っ張るバイコーンたちも人間の歩行速度に合わせなくていいため、移動が早く済む。
車輪もこだわっているので、ガタガタ道でも振動が屋台の中に伝わりにくい。
商品が割れたり、こぼれたりする心配がさらに減る。
うん、良い完成度だ。
贅沢を言うならば、この馬車自体に防犯機能をつけておけば七姉妹を連れて売りに出た時より安心だ。
まあ、バイコーンにケンカを売る者は少ないと思うが、彼らも人間に一度は捕まった身なので、警戒するに越したことはない。
初回の町への売り出し時には、ガルーがついてきてくれる。
彼がいれば百人どころか千人力だが、番犬がいなくなった牧場が手薄になる。
心配すぎかもしれないけど、とにかく安全に暮らしたいからね。
防犯意識は高く持っておこう。
そんなこんなで商売の準備は完了し、あとは誰が行くかを決める段階になった。
牧場主である俺は確定。
屋台を引っ張るバイコーン一頭と護衛のガルーも確定。
薬の効果を詳しく説明できるウェンディも同行する。
七姉妹たちも興味を示したが、やはり人ごみにまだ抵抗があるのか行きたいとは言わなかった。ナナミを除いては。
彼女は一時的に冒険者ギルドに保護されていた際に、町には美味しい食べ物屋さんがたくさんあると知ってしまったのだ。
食い気が人間への不信感を上回り、ナナミも同行することになった。
まあ、彼女は食べ物の美味しさを口で説明するのが得意だし、良い宣伝をしてくれるだろう。
「ルイルイフェニックス牧場、本当の始まりだ!」
ある朝早く、俺は屋台に乗ってレギンズの町へと向かった。
種類は少ないが、自信をもっておススメできるものを揃えている。
初めてなんで、お客さんがそこそこ来てくれるだけでいい。
でも、商品が足りなくなったらどうしようとか、取り合いになったらどうしようとかも考えてしまうのが、俺という能天気な人間だった。
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