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1巻
1-2
「クゥ! クゥゥゥ……!」
「ど、どうした? お腹が空いたのか?」
急に唸り声を上げるイワトカゲ。
その視線の先には……やたらデカいネズミがいた。
宿屋の店主はやせ細っていたのに、その宿に巣くうネズミはまるまる太ってるなんて……皮肉なものだ。
「そんなに威嚇しなくても大丈夫だよ。あいつらはたまに噛みついて来るくらいだから……」
「クアァァァァァァッ‼」
イワトカゲが口から火を吐いた⁉
その火は見事にネズミを捉え、一瞬で丸焼きにしてしまった……!
「クーッ!」
丸焼きになったネズミにかじりつき、一口でバリバリと食べてしまうイワトカゲ。
……いや、これイワトカゲじゃないぞ!
雑魚の魔獣が、ネズミとはいえ生物を一瞬で殺すほどの火を吐けるはずがない!
それに吐かれた火は床や壁には飛んではいない。
狙いすましてネズミだけを正確に攻撃したんだ。
トカゲのような外見、背中の翼、火を吐く、そして生まれてすぐでこれほどの戦闘能力……。
「お前、ドラゴン……なのか?」
「クー?」
直接聞いても答えが返って来るはずないか……。
だが、少なくとも目の前にいる魔獣はイワトカゲじゃない。その亜種という範囲にも収まらない。
特徴を正確に捉えて分析すればするほど、ロックバードなんて目じゃないくらいの伝説の魔獣……ドラゴンと思えてならない!
でも、そんなことってあり得るのか……⁉
「おいっ! チェックアウトの時間だぞ! これ以上居座るなら追加料金を払ってもらう!」
宿屋の主がドンドンドンッと薄い扉を叩く。
「す、すみません! 今すぐ出て行きます!」
「……ったく、早くしろよ!」
主の足音が遠ざかっていく。
反射的に出て行くと言ってしまったが、今日泊まるあてもない。
まあ、見つからなかった時は、またお金を払ってここに泊まればいいか。
「クゥゥゥ……!」
大きな音に驚いたドラゴン……は扉に向かって威嚇している。
「大丈夫、大丈夫。あの人は敵じゃないよ。これからは急に火を吐いたりしないでね」
「クー!」
言葉がわかってるんだか、いないんだか。とりあえず、俺のことを親と思っているのは間違いなさそうだ。
宿から出るためにサッと荷物をまとめる。割れた卵の殻は貴重そうだし、捨てずに持っておこう。ドラゴンは……袋の中に隠れてもらうか。
「少し窮屈かもしれないけど、我慢してくれ」
「クー!」
意外と狭いところは嫌いじゃないみたいだ。
ドラゴンの子どもらしきものを抱えて、俺は街へと繰り出した。
こいつがどんな種族にせよ、魔獣であることには変わりがない。
そして、人の社会の中で魔獣を連れ歩くには、やらねばならないことがある。
それは「従魔契約」!
簡単に言えば、主の命令に強制的に従わせるための縛り。同時に、誰が主なのかを証明するための首輪のようなものだ。
ただし、これだけで魔獣を完全に制御出来るわけじゃない。この契約はあくまでもトロッコについたブレーキのようなものだ。暴れる魔獣の動きを止めることは出来ても、主の意のままに魔獣を動かすことは出来ない。
それでも、この契約があるのとないのとでは大違い。基本的に未契約の魔獣を連れ歩くことは禁じられているからだ。
それに、未契約の魔獣は誰が主なのかを証明出来ない……。つまり、殺されたり奪われたりしても権利を主張出来ないんだ。
魔獣のことを大切に思うなら、まずこの契約を結ばなければ話にならない。
ただ、この契約を交わすには……ある程度の「立場」が必要になる。
そういう意味では貴族の立場は強い。従魔契約さえ結んでいれば、好きに魔獣を飼うことが出来る。
しかし、平民の場合はしかるべき機関で申請を行い、魔獣が仕事を効率的に進めるために必要だと認められなければ飼うことが出来ない。
そして、その仕事が冒険者の場合は……。
所属するギルドに申請し、ギルドマスターが従魔契約を行うことで魔獣の飼育が許可される。
つまりギルドが、申請を行う機関と従魔契約の両方を代行してくれるんだ。
が、しかし……俺は昨日そのギルドをクビになった。
俺みたいな実力も実績もない冒険者は、ギルドという大きな集団に属していなければ、魔獣を扱う資格を与えられない。
よって、今の俺の最優先事項はどこかのギルドに再就職すること……!
少なくとも2年間は冒険者として働き、生き残ってきたという実績がある。
それに気に入らないが『黒の雷霆』は上級ギルドだ。職歴としてはまあまあ強い。
中堅……いや、失礼ではあるが弱小ギルドとかなら、俺を単純な労働力として採用してくれる可能性が高い。
自分のことを卑下せずにいこう。俺だって頑張ってきたじゃないか!
「クー?」
「心配するな。俺が何とかする……!」
袋からちょこっと顔を出したドラゴンの頭を撫でる。
本当なら元々の親の元に帰してやるのが一番なんだろうけど、その親ドラゴンの居場所はまったくわからない。
そもそも、なぜあんな崖に、ドラゴンみたいな伝説の魔獣の卵が引っかかっていたのかも不明だ。あの山岳地帯にドラゴンが出るなんて話は聞いたことがないし……。
何はともあれ、親元に帰すにせよ、一緒に生きるにせよ、お金と実力がいる。
そして、平民が魔獣を飼う権利を得るには、冒険者ギルドを頼るのが一番手っ取り早い!
「とりあえず、近場の冒険者ギルドを総当たりだ!」
王都の中心街には実力のあるギルドの拠点が立ち並んでいる。
そして、中心街から離れるほどにギルドとしての実力は下がっていき、王都の外れに来ると組織として機能しているのかわからないギルドがちらほら出て来る。
狙うのはそういうギルドだ。
人材が揃っていないギルドじゃないと、剣も魔法もからっきしの俺は雇ってもらえない。
「……あった! まずは1つ目!」
最初に見つけたギルドの名前は……『キルトのギルド』?
「なんか変わった名前だな……」
上級ギルドはみんな『黒の雷霆』みたいなシャレた名前を採用している。
それに対して『キルトのギルド』って……キルトって名前の人がマスターをやってるのか?
それにギルドの拠点となる建物、通称「ギルドベース」も年季が入っていて、壁や屋根に穴こそ開いていないが、なんとも辛気臭い雰囲気だ。
窓から中を覗いてみても、薄暗くて中がどうなっているのかわからない。
人の気配もほとんど感じない……。
看板の文字も擦り切れてるし、怪しい雰囲気満載だ。
ギルドベースというより、悪党のアジトっぽい……。
「……流石にどこでもいいってわけじゃないよな」
ここはやめておこう……。ドラゴンだけじゃなく自分の身の危険も感じる。
というか、このギルドってもう誰もいないんじゃないか?
だから、こんなに寂れて……。
「待ちなよ、少年」
「ひぃ⁉」
扉がひとりでに開き、中から声が響いて来た。
み、見られていたのか……⁉
「相当困ってるんだろう? 入って来なよ」
「あー、いや、その……」
「私に出来ることなら、力になるよ」
「うーん……はい」
こうやって直接声をかけられると断れないタイプ……。
開け放たれた扉から、恐る恐る中に入る。
建物の中は一般的なギルドベースと変わらない構造だった。
依頼を受け付けるためのカウンター、依頼が貼り出された掲示板、パーティが依頼解決に向けて話し合うためのテーブルが複数、そして2階への階段……。
「やあやあ、少年。今日はどうしたんだい?」
声の主はカウンターの中に座っていた。
薄暗い中でもわかる白い肌と青い髪を持つ女性だ。
髪は長く、くせ毛なのかいろんなところの髪がハネている。
年齢は……わかりにくいな。俺よりは年上で、20代後半から30代前半の雰囲気がある。
「おっと、まずは自己紹介だったね。私はキルト。ギルド『キルトのギルド』のギルドマスターのキルトだ。覚えやすいだろう?」
「まあ……あはは……」
かなり美人ではあるけど、変な人だ……。
ここに入って来て良かったんだろうか……すごく不安になる……。
「よく見たら君……怪我してるじゃないか」
「あ、そういえば……」
昨日は床に叩き付けられたり、投げ捨てられたり、卵をぶつけられたりしたからな……。
打撲や擦り傷が全身のそこかしこに散らばっている。
「まずは手当てをしよう」
「あ、お構いなく……」
「いやいや、こういう細かい傷も放っておくと悪化して面倒になる」
キルトさんは俺を椅子に座らせると、傷口を濡れた布で拭き、薬を塗ってくれた。
顔の傷を手当てしてもらってる時なんかは、彼女の深い青の瞳が間近になって、こう……ドキドキしてしまった。
それに立ち上がったキルトさんはすごく背が高かった。
俺よりもずっと大きくって強そうで、近くにいてとても安心感を覚える人だ……。
「よし、これで綺麗に治るだろう」
「ありがとうございます……」
「なになに、人として当然のことをしたまでだよ。それで君はどんな悩みを抱えているんだい?」
「その、わかるもんですか? 悩みを抱えているって……」
「そりゃこんな寂れたギルドの前で神妙な顔をしてたらね! よほど思い悩んでいないと、この建物の前なんてすぐに通り過ぎるよ」
「なるほど……」
その通りだと言わざるを得ない。
キルトさんは変わった人だけど、ギルドマスターという立場を鼻にかける感じはないし、ざっくばらんとしていて話がしやすい。
この人にならドラゴンのことを話しても問題ないかも?
……いや、まずは様子見だ。
情報を小出しにしつつ、このギルドのことを探っていこう。
「あの、俺……所属していたギルドをクビになっちゃって、新しいギルドを探してたんです」
「ふむふむ、ではライセンスカードを見せてくれるかな?」
冒険者にはカード型のライセンスが配付されている。
所属するギルドを変えてもライセンスは変わらず、それまでの経歴や冒険者ランクなどがカードの中に記録されている。
まさに冒険者の命ともいえる、魔法技術の粋が詰め込まれた一品だ。
キルトさんにライセンスカードを手渡すと、彼女は受付カウンターの中に戻り、カードに記録されている情報を確認し始める。
「ふーん、あの『黒の雷霆』に2年も所属していたんだね。ふふっ、あそこのマスターはあまり褒められた人物ではないと聞いているよ」
「……ええ、それはもう。この傷もほとんどあいつにつけられたものですから」
「やっぱりねぇ。そういうギルドにいたら君の才能も腐ってしまう」
「いやぁ、俺に才能なんかは……」
「あるある、誰にだってあるよ。今までそれを発揮出来る環境に恵まれなかっただけでね。だからさ、うちのギルドで活躍してみないかい? ユート・ドライグくん」
「いいんですか? あっさり入れちゃって……」
「いいよいいよ。なんせ、うちのギルドは見ての通り人手不足でね……。入りたいと言ってくれる子を拒むわけはないのさ」
「……1つだけ質問いいですか?」
「何かな?」
「どうして、このギルドには人がいないんでしょうか……?」
大変失礼な質問だが、聞いておかなければならない。
何か大きなトラブルがあって人が辞めていったのなら、俺も同じように辞めて、また路頭に迷う可能性だってある。
「それはね……元からいないからだよ! このギルドは最初から私1人! 増えても減ってもないのさ!」
「ええっ⁉」
そんなことって……あり得るのか?
新規ギルドは、実績を積んだ冒険者がマスター試験をパスし、所属しているギルドから独立するような形で立ち上げられると聞く。
立ち上げの際には関わりの深い仲間が一緒について来ることが多く、少人数でのスタートはよくあるが、まさかマスター1人でスタートだなんて……!
「いやぁ、私ってさ……人付き合いが苦手なんだよね……。だから、1人で気楽にやるためにギルドを立ち上げたんだけど、理由が理由だから当然誰もついて来なくて……」
「まあ、そりゃそうですよね」
「でもさ……1人になると孤独の寂しさが身に染みてね……。新しいメンバーが欲しくなってきちゃったんだ。でも、他人に声をかけるのは苦手だし、前のギルドに戻るのは恥ずかしいしで……」
「困ってたところに俺が来たと……?」
「うん、そういうことだね。ギルドの前にいる君に声をかけるのも、相当勇気を出したんだよ? そんな私を助けると思って、入ってくれないかな……?」
助けを求めてギルドを探していたはずが、逆に助けを求められた……!
でも、キルトさんの話に嘘はないような気がする。
悪意をむき出しにしている人たちの近くにずっといた反動だろうか。
彼女は純粋で素直な人だと強く感じる。
果たしてキルトさんの誘いを断って、それ以上の出会いが俺にあるだろうか……?
俺の答えは……。
「……よろしくお願いします。お互いのために頑張りましょう」
「やった! じゃあカードをこうして……よし! これが書き換わったライセンスだよ!」
手渡されたカードには『キルトのギルド』に所属していることを示す、青い水滴のエンブレムが描かれている。
少し前まではここに、『黒の雷霆』の黒い稲妻のエンブレムが描かれていたわけだが、綺麗さっぱり消えている。
決断したのは自分とはいえ、まさか1件目にして納得のいく再就職が叶うとは……!
「それで……悩みはこれだけじゃないよね? 新しいギルドを探しているだけなら、あんな思い詰めた表情はしないはずだもの」
「……ええ、その通りです。俺はある魔獣と従魔契約を結びたいんです」
「ほうほう、その魔獣とは?」
「この子です」
袋をカウンターに乗せ、その口を開ける。
すると、中からよちよちと歩くドラゴンが出て来た。
「クー!」
「なっ、何この子……! か、かわいい……っ!」
キルトさんが恐る恐る手を伸ばす。
それに対してドラゴンは自分から歩み寄り、彼女の手に頬をすりすりし始めた。
正直、俺以外の生き物に対しては威嚇行動をとると思っていたので、この反応は予想外だ。
もしかして、警戒すべき相手とそうでない相手をドラゴンなりに判断しているのか?
「すりすりしてるっ! かわいい! この子はイワトカゲ……いや、ドラゴンじゃないの⁉」
「キルトさんにもそう見えますか?」
「特徴を見ればそうと言わざるを得ないね。でも、ドラゴンの子なんてどうやって……」
「話せば少し長くなりますが……」
俺は事の経緯をキルトさんに話した。
ロックバードの卵の採取、間違い、追放、そして誕生……。
「なるほどね。ロックバードの卵なんて探して見つかるもんじゃないのに、ヘイズも無茶な依頼を受けたもんだよ。でも、その代わりにもっと珍しいドラゴンの卵は見つかったわけだから、世の中ってわからないよねぇ……」
「俺も本当にそう思います。でも、ヘイズも依頼主の男爵も、間違って持って来た卵がドラゴンの卵とは思わなかったようで」
「それは傑作だね! 卵を集めて魔獣を飼ってる奴も、金を稼いでる奴も、結局は愛と知識がないから大切なものを見逃してしまったわけだ!」
ニコニコ顔でとっても楽しそうなキルトさん。
彼女の言う通り、貴族もヘイズもマヌケだったわけで、俺の心も多少はスカッとする。
でも、一番に俺はホッとしている。
このドラゴンが貴族やヘイズの手に渡っていたら、一体どんな目に遭っていたか……。
「結果的にユートくんの手に渡って、この子も安心してるだろうね。イライラしてるからって卵を投げ付けるような奴らに、魔獣を飼う資格はないよ。まあ、そんな奴らがドラゴンの卵を逃したと知ればどう思うか……想像するだけで楽しいけど、今やるべきは従魔契約だったね」
「出来ますか?」
「私はギルドマスターだよ? 当然、従魔契約くらい出来なきゃ試験に受からないって! まあ、ドラゴンとの契約を結んだことはないけど、これだけ懐いてれば問題ないはずさ」
従魔契約は魔獣側が拒否すると成立しない。なので、野生の魔獣を無理やり捕まえて契約で縛るのは無理だ。
そういった意味でも魔獣の卵は価値が高い。魔獣が人を親だと思えば、契約にも抵抗しないからだ。
「じゃあ、ユートくんは右手を出して」
俺は言われた通りカウンターに右手を載せる。
「それじゃあ、次は……えっと、この子の名前はなんて言うの?」
「まだ決めてません」
「これから契約を結んでパートナーになるのに、名前がないんじゃ困るよね! ここでサクッと名前を付けてあげなよ」
いつかは名付けないとなぁ……とは思っていたけど、ここでいきなりアイデアを出せとなると、安直な名前しか浮かんでこない。
「えっと、ロックバードの卵を探す時に見つけて、見た目もイワトカゲに似てるから……『ロック』って名前はどうかな? 頑丈な体に育ってほしいって意味もあるんだけど……」
「クー! クー!」
言葉を理解しているのかはわからないけど、ドラゴンは嬉しそうに小さな翼をパタパタする。
「じゃあ、今日からお前はロックだ。改めてよろしくな、ロック」
「クー!」
しっぽもぶんぶん振っている。
名前を呼ぶと反応するし、『ロック』を気に入ったみたいだ。
「よし! じゃあ、ロックちゃんの左前足を、ユートくんの手に載せるんだ」
俺がロックの足を動かす前に、ロックが自分で小さな手をぺちっと俺の手の上に載せた。
もしかして、ある程度言葉を理解している……?
「これで準備は完了だ。後は私の手も載せて……!」
キルトさんの手が俺たちの手の上に重なる。
すると、鮮やかな紅色のオーラが立ち上り、俺とロックの手を包み込んだ。
「……契約完了。これであなたたちは正式にパートナーになったよ」
右手の甲には紅色の紋章が浮かび上がり、しばらくするとスゥ……と手に馴染むように消えた。
「その紋章は契約の力を使って魔獣を止める時や、お互いの契約を確認する時に浮かび上がる『従魔紋』だよ。色や模様は契約を結ぶ魔獣によって違うから、ユートくんのそれは、言わば『竜の従魔紋』だね」
「竜の従魔紋……!」
そう言われると、何だか右手に強い力が宿ったような気がする。
でも、これはあくまでも契約の証だから、力を感じるのは気分的なものかな?
まあ何はともあれ、これで俺とロックは正式にパートナーになった!
これからはロックと一緒に街を歩いても咎められることはない。ただ、ロックがドラゴンとバレたらトラブルに巻き込まれそうなのは変わらない。街中ではあまり目立たないように行動した方がいいな。その分、人目のない場所ではうんと遊ばせてやろう。
「良かった良かった! お姉さんも嬉しいよ」
「ありがとうございます、キルトさん。何から何まで……」
「いいってことよ。ギルドマスターとして当然のことをしたまでだしね」
「俺、精一杯働きます! キツい仕事でも何でもします!」
「あらあら、冒険者がギルドマスターに『何でも』なんて言ったらダメよ? 本当に『何でも』させられちゃうかもしれないからね……フフフ」
「い、以後気をつけます……」
恩人だけどやっぱり変わったところがあるというか……おちゃめなんだろうな。
でも、慣れてくるとそれが魅力的に感じる。
「さて、ギルドの一員になったからには普通に仕事をしてもらおうかしら。全然人手が足りてない割に、総本部から仕事は振り分けられるからね……うちのギルドは」
総本部……正式名称はグランドギルド。
すべての冒険者ギルドのまとめ役で、最強の冒険者であるグランドマスターがトップに立つ組織だ。
各ギルドが犯した不正や犯罪を裁く立場でもある。
そこから依頼が送られて来るということは、この『キルトのギルド』はそれなりに信頼されているギルドということになる。
もしかして、キルトさんって実はすごい冒険者なのかも?
「ど、どうした? お腹が空いたのか?」
急に唸り声を上げるイワトカゲ。
その視線の先には……やたらデカいネズミがいた。
宿屋の店主はやせ細っていたのに、その宿に巣くうネズミはまるまる太ってるなんて……皮肉なものだ。
「そんなに威嚇しなくても大丈夫だよ。あいつらはたまに噛みついて来るくらいだから……」
「クアァァァァァァッ‼」
イワトカゲが口から火を吐いた⁉
その火は見事にネズミを捉え、一瞬で丸焼きにしてしまった……!
「クーッ!」
丸焼きになったネズミにかじりつき、一口でバリバリと食べてしまうイワトカゲ。
……いや、これイワトカゲじゃないぞ!
雑魚の魔獣が、ネズミとはいえ生物を一瞬で殺すほどの火を吐けるはずがない!
それに吐かれた火は床や壁には飛んではいない。
狙いすましてネズミだけを正確に攻撃したんだ。
トカゲのような外見、背中の翼、火を吐く、そして生まれてすぐでこれほどの戦闘能力……。
「お前、ドラゴン……なのか?」
「クー?」
直接聞いても答えが返って来るはずないか……。
だが、少なくとも目の前にいる魔獣はイワトカゲじゃない。その亜種という範囲にも収まらない。
特徴を正確に捉えて分析すればするほど、ロックバードなんて目じゃないくらいの伝説の魔獣……ドラゴンと思えてならない!
でも、そんなことってあり得るのか……⁉
「おいっ! チェックアウトの時間だぞ! これ以上居座るなら追加料金を払ってもらう!」
宿屋の主がドンドンドンッと薄い扉を叩く。
「す、すみません! 今すぐ出て行きます!」
「……ったく、早くしろよ!」
主の足音が遠ざかっていく。
反射的に出て行くと言ってしまったが、今日泊まるあてもない。
まあ、見つからなかった時は、またお金を払ってここに泊まればいいか。
「クゥゥゥ……!」
大きな音に驚いたドラゴン……は扉に向かって威嚇している。
「大丈夫、大丈夫。あの人は敵じゃないよ。これからは急に火を吐いたりしないでね」
「クー!」
言葉がわかってるんだか、いないんだか。とりあえず、俺のことを親と思っているのは間違いなさそうだ。
宿から出るためにサッと荷物をまとめる。割れた卵の殻は貴重そうだし、捨てずに持っておこう。ドラゴンは……袋の中に隠れてもらうか。
「少し窮屈かもしれないけど、我慢してくれ」
「クー!」
意外と狭いところは嫌いじゃないみたいだ。
ドラゴンの子どもらしきものを抱えて、俺は街へと繰り出した。
こいつがどんな種族にせよ、魔獣であることには変わりがない。
そして、人の社会の中で魔獣を連れ歩くには、やらねばならないことがある。
それは「従魔契約」!
簡単に言えば、主の命令に強制的に従わせるための縛り。同時に、誰が主なのかを証明するための首輪のようなものだ。
ただし、これだけで魔獣を完全に制御出来るわけじゃない。この契約はあくまでもトロッコについたブレーキのようなものだ。暴れる魔獣の動きを止めることは出来ても、主の意のままに魔獣を動かすことは出来ない。
それでも、この契約があるのとないのとでは大違い。基本的に未契約の魔獣を連れ歩くことは禁じられているからだ。
それに、未契約の魔獣は誰が主なのかを証明出来ない……。つまり、殺されたり奪われたりしても権利を主張出来ないんだ。
魔獣のことを大切に思うなら、まずこの契約を結ばなければ話にならない。
ただ、この契約を交わすには……ある程度の「立場」が必要になる。
そういう意味では貴族の立場は強い。従魔契約さえ結んでいれば、好きに魔獣を飼うことが出来る。
しかし、平民の場合はしかるべき機関で申請を行い、魔獣が仕事を効率的に進めるために必要だと認められなければ飼うことが出来ない。
そして、その仕事が冒険者の場合は……。
所属するギルドに申請し、ギルドマスターが従魔契約を行うことで魔獣の飼育が許可される。
つまりギルドが、申請を行う機関と従魔契約の両方を代行してくれるんだ。
が、しかし……俺は昨日そのギルドをクビになった。
俺みたいな実力も実績もない冒険者は、ギルドという大きな集団に属していなければ、魔獣を扱う資格を与えられない。
よって、今の俺の最優先事項はどこかのギルドに再就職すること……!
少なくとも2年間は冒険者として働き、生き残ってきたという実績がある。
それに気に入らないが『黒の雷霆』は上級ギルドだ。職歴としてはまあまあ強い。
中堅……いや、失礼ではあるが弱小ギルドとかなら、俺を単純な労働力として採用してくれる可能性が高い。
自分のことを卑下せずにいこう。俺だって頑張ってきたじゃないか!
「クー?」
「心配するな。俺が何とかする……!」
袋からちょこっと顔を出したドラゴンの頭を撫でる。
本当なら元々の親の元に帰してやるのが一番なんだろうけど、その親ドラゴンの居場所はまったくわからない。
そもそも、なぜあんな崖に、ドラゴンみたいな伝説の魔獣の卵が引っかかっていたのかも不明だ。あの山岳地帯にドラゴンが出るなんて話は聞いたことがないし……。
何はともあれ、親元に帰すにせよ、一緒に生きるにせよ、お金と実力がいる。
そして、平民が魔獣を飼う権利を得るには、冒険者ギルドを頼るのが一番手っ取り早い!
「とりあえず、近場の冒険者ギルドを総当たりだ!」
王都の中心街には実力のあるギルドの拠点が立ち並んでいる。
そして、中心街から離れるほどにギルドとしての実力は下がっていき、王都の外れに来ると組織として機能しているのかわからないギルドがちらほら出て来る。
狙うのはそういうギルドだ。
人材が揃っていないギルドじゃないと、剣も魔法もからっきしの俺は雇ってもらえない。
「……あった! まずは1つ目!」
最初に見つけたギルドの名前は……『キルトのギルド』?
「なんか変わった名前だな……」
上級ギルドはみんな『黒の雷霆』みたいなシャレた名前を採用している。
それに対して『キルトのギルド』って……キルトって名前の人がマスターをやってるのか?
それにギルドの拠点となる建物、通称「ギルドベース」も年季が入っていて、壁や屋根に穴こそ開いていないが、なんとも辛気臭い雰囲気だ。
窓から中を覗いてみても、薄暗くて中がどうなっているのかわからない。
人の気配もほとんど感じない……。
看板の文字も擦り切れてるし、怪しい雰囲気満載だ。
ギルドベースというより、悪党のアジトっぽい……。
「……流石にどこでもいいってわけじゃないよな」
ここはやめておこう……。ドラゴンだけじゃなく自分の身の危険も感じる。
というか、このギルドってもう誰もいないんじゃないか?
だから、こんなに寂れて……。
「待ちなよ、少年」
「ひぃ⁉」
扉がひとりでに開き、中から声が響いて来た。
み、見られていたのか……⁉
「相当困ってるんだろう? 入って来なよ」
「あー、いや、その……」
「私に出来ることなら、力になるよ」
「うーん……はい」
こうやって直接声をかけられると断れないタイプ……。
開け放たれた扉から、恐る恐る中に入る。
建物の中は一般的なギルドベースと変わらない構造だった。
依頼を受け付けるためのカウンター、依頼が貼り出された掲示板、パーティが依頼解決に向けて話し合うためのテーブルが複数、そして2階への階段……。
「やあやあ、少年。今日はどうしたんだい?」
声の主はカウンターの中に座っていた。
薄暗い中でもわかる白い肌と青い髪を持つ女性だ。
髪は長く、くせ毛なのかいろんなところの髪がハネている。
年齢は……わかりにくいな。俺よりは年上で、20代後半から30代前半の雰囲気がある。
「おっと、まずは自己紹介だったね。私はキルト。ギルド『キルトのギルド』のギルドマスターのキルトだ。覚えやすいだろう?」
「まあ……あはは……」
かなり美人ではあるけど、変な人だ……。
ここに入って来て良かったんだろうか……すごく不安になる……。
「よく見たら君……怪我してるじゃないか」
「あ、そういえば……」
昨日は床に叩き付けられたり、投げ捨てられたり、卵をぶつけられたりしたからな……。
打撲や擦り傷が全身のそこかしこに散らばっている。
「まずは手当てをしよう」
「あ、お構いなく……」
「いやいや、こういう細かい傷も放っておくと悪化して面倒になる」
キルトさんは俺を椅子に座らせると、傷口を濡れた布で拭き、薬を塗ってくれた。
顔の傷を手当てしてもらってる時なんかは、彼女の深い青の瞳が間近になって、こう……ドキドキしてしまった。
それに立ち上がったキルトさんはすごく背が高かった。
俺よりもずっと大きくって強そうで、近くにいてとても安心感を覚える人だ……。
「よし、これで綺麗に治るだろう」
「ありがとうございます……」
「なになに、人として当然のことをしたまでだよ。それで君はどんな悩みを抱えているんだい?」
「その、わかるもんですか? 悩みを抱えているって……」
「そりゃこんな寂れたギルドの前で神妙な顔をしてたらね! よほど思い悩んでいないと、この建物の前なんてすぐに通り過ぎるよ」
「なるほど……」
その通りだと言わざるを得ない。
キルトさんは変わった人だけど、ギルドマスターという立場を鼻にかける感じはないし、ざっくばらんとしていて話がしやすい。
この人にならドラゴンのことを話しても問題ないかも?
……いや、まずは様子見だ。
情報を小出しにしつつ、このギルドのことを探っていこう。
「あの、俺……所属していたギルドをクビになっちゃって、新しいギルドを探してたんです」
「ふむふむ、ではライセンスカードを見せてくれるかな?」
冒険者にはカード型のライセンスが配付されている。
所属するギルドを変えてもライセンスは変わらず、それまでの経歴や冒険者ランクなどがカードの中に記録されている。
まさに冒険者の命ともいえる、魔法技術の粋が詰め込まれた一品だ。
キルトさんにライセンスカードを手渡すと、彼女は受付カウンターの中に戻り、カードに記録されている情報を確認し始める。
「ふーん、あの『黒の雷霆』に2年も所属していたんだね。ふふっ、あそこのマスターはあまり褒められた人物ではないと聞いているよ」
「……ええ、それはもう。この傷もほとんどあいつにつけられたものですから」
「やっぱりねぇ。そういうギルドにいたら君の才能も腐ってしまう」
「いやぁ、俺に才能なんかは……」
「あるある、誰にだってあるよ。今までそれを発揮出来る環境に恵まれなかっただけでね。だからさ、うちのギルドで活躍してみないかい? ユート・ドライグくん」
「いいんですか? あっさり入れちゃって……」
「いいよいいよ。なんせ、うちのギルドは見ての通り人手不足でね……。入りたいと言ってくれる子を拒むわけはないのさ」
「……1つだけ質問いいですか?」
「何かな?」
「どうして、このギルドには人がいないんでしょうか……?」
大変失礼な質問だが、聞いておかなければならない。
何か大きなトラブルがあって人が辞めていったのなら、俺も同じように辞めて、また路頭に迷う可能性だってある。
「それはね……元からいないからだよ! このギルドは最初から私1人! 増えても減ってもないのさ!」
「ええっ⁉」
そんなことって……あり得るのか?
新規ギルドは、実績を積んだ冒険者がマスター試験をパスし、所属しているギルドから独立するような形で立ち上げられると聞く。
立ち上げの際には関わりの深い仲間が一緒について来ることが多く、少人数でのスタートはよくあるが、まさかマスター1人でスタートだなんて……!
「いやぁ、私ってさ……人付き合いが苦手なんだよね……。だから、1人で気楽にやるためにギルドを立ち上げたんだけど、理由が理由だから当然誰もついて来なくて……」
「まあ、そりゃそうですよね」
「でもさ……1人になると孤独の寂しさが身に染みてね……。新しいメンバーが欲しくなってきちゃったんだ。でも、他人に声をかけるのは苦手だし、前のギルドに戻るのは恥ずかしいしで……」
「困ってたところに俺が来たと……?」
「うん、そういうことだね。ギルドの前にいる君に声をかけるのも、相当勇気を出したんだよ? そんな私を助けると思って、入ってくれないかな……?」
助けを求めてギルドを探していたはずが、逆に助けを求められた……!
でも、キルトさんの話に嘘はないような気がする。
悪意をむき出しにしている人たちの近くにずっといた反動だろうか。
彼女は純粋で素直な人だと強く感じる。
果たしてキルトさんの誘いを断って、それ以上の出会いが俺にあるだろうか……?
俺の答えは……。
「……よろしくお願いします。お互いのために頑張りましょう」
「やった! じゃあカードをこうして……よし! これが書き換わったライセンスだよ!」
手渡されたカードには『キルトのギルド』に所属していることを示す、青い水滴のエンブレムが描かれている。
少し前まではここに、『黒の雷霆』の黒い稲妻のエンブレムが描かれていたわけだが、綺麗さっぱり消えている。
決断したのは自分とはいえ、まさか1件目にして納得のいく再就職が叶うとは……!
「それで……悩みはこれだけじゃないよね? 新しいギルドを探しているだけなら、あんな思い詰めた表情はしないはずだもの」
「……ええ、その通りです。俺はある魔獣と従魔契約を結びたいんです」
「ほうほう、その魔獣とは?」
「この子です」
袋をカウンターに乗せ、その口を開ける。
すると、中からよちよちと歩くドラゴンが出て来た。
「クー!」
「なっ、何この子……! か、かわいい……っ!」
キルトさんが恐る恐る手を伸ばす。
それに対してドラゴンは自分から歩み寄り、彼女の手に頬をすりすりし始めた。
正直、俺以外の生き物に対しては威嚇行動をとると思っていたので、この反応は予想外だ。
もしかして、警戒すべき相手とそうでない相手をドラゴンなりに判断しているのか?
「すりすりしてるっ! かわいい! この子はイワトカゲ……いや、ドラゴンじゃないの⁉」
「キルトさんにもそう見えますか?」
「特徴を見ればそうと言わざるを得ないね。でも、ドラゴンの子なんてどうやって……」
「話せば少し長くなりますが……」
俺は事の経緯をキルトさんに話した。
ロックバードの卵の採取、間違い、追放、そして誕生……。
「なるほどね。ロックバードの卵なんて探して見つかるもんじゃないのに、ヘイズも無茶な依頼を受けたもんだよ。でも、その代わりにもっと珍しいドラゴンの卵は見つかったわけだから、世の中ってわからないよねぇ……」
「俺も本当にそう思います。でも、ヘイズも依頼主の男爵も、間違って持って来た卵がドラゴンの卵とは思わなかったようで」
「それは傑作だね! 卵を集めて魔獣を飼ってる奴も、金を稼いでる奴も、結局は愛と知識がないから大切なものを見逃してしまったわけだ!」
ニコニコ顔でとっても楽しそうなキルトさん。
彼女の言う通り、貴族もヘイズもマヌケだったわけで、俺の心も多少はスカッとする。
でも、一番に俺はホッとしている。
このドラゴンが貴族やヘイズの手に渡っていたら、一体どんな目に遭っていたか……。
「結果的にユートくんの手に渡って、この子も安心してるだろうね。イライラしてるからって卵を投げ付けるような奴らに、魔獣を飼う資格はないよ。まあ、そんな奴らがドラゴンの卵を逃したと知ればどう思うか……想像するだけで楽しいけど、今やるべきは従魔契約だったね」
「出来ますか?」
「私はギルドマスターだよ? 当然、従魔契約くらい出来なきゃ試験に受からないって! まあ、ドラゴンとの契約を結んだことはないけど、これだけ懐いてれば問題ないはずさ」
従魔契約は魔獣側が拒否すると成立しない。なので、野生の魔獣を無理やり捕まえて契約で縛るのは無理だ。
そういった意味でも魔獣の卵は価値が高い。魔獣が人を親だと思えば、契約にも抵抗しないからだ。
「じゃあ、ユートくんは右手を出して」
俺は言われた通りカウンターに右手を載せる。
「それじゃあ、次は……えっと、この子の名前はなんて言うの?」
「まだ決めてません」
「これから契約を結んでパートナーになるのに、名前がないんじゃ困るよね! ここでサクッと名前を付けてあげなよ」
いつかは名付けないとなぁ……とは思っていたけど、ここでいきなりアイデアを出せとなると、安直な名前しか浮かんでこない。
「えっと、ロックバードの卵を探す時に見つけて、見た目もイワトカゲに似てるから……『ロック』って名前はどうかな? 頑丈な体に育ってほしいって意味もあるんだけど……」
「クー! クー!」
言葉を理解しているのかはわからないけど、ドラゴンは嬉しそうに小さな翼をパタパタする。
「じゃあ、今日からお前はロックだ。改めてよろしくな、ロック」
「クー!」
しっぽもぶんぶん振っている。
名前を呼ぶと反応するし、『ロック』を気に入ったみたいだ。
「よし! じゃあ、ロックちゃんの左前足を、ユートくんの手に載せるんだ」
俺がロックの足を動かす前に、ロックが自分で小さな手をぺちっと俺の手の上に載せた。
もしかして、ある程度言葉を理解している……?
「これで準備は完了だ。後は私の手も載せて……!」
キルトさんの手が俺たちの手の上に重なる。
すると、鮮やかな紅色のオーラが立ち上り、俺とロックの手を包み込んだ。
「……契約完了。これであなたたちは正式にパートナーになったよ」
右手の甲には紅色の紋章が浮かび上がり、しばらくするとスゥ……と手に馴染むように消えた。
「その紋章は契約の力を使って魔獣を止める時や、お互いの契約を確認する時に浮かび上がる『従魔紋』だよ。色や模様は契約を結ぶ魔獣によって違うから、ユートくんのそれは、言わば『竜の従魔紋』だね」
「竜の従魔紋……!」
そう言われると、何だか右手に強い力が宿ったような気がする。
でも、これはあくまでも契約の証だから、力を感じるのは気分的なものかな?
まあ何はともあれ、これで俺とロックは正式にパートナーになった!
これからはロックと一緒に街を歩いても咎められることはない。ただ、ロックがドラゴンとバレたらトラブルに巻き込まれそうなのは変わらない。街中ではあまり目立たないように行動した方がいいな。その分、人目のない場所ではうんと遊ばせてやろう。
「良かった良かった! お姉さんも嬉しいよ」
「ありがとうございます、キルトさん。何から何まで……」
「いいってことよ。ギルドマスターとして当然のことをしたまでだしね」
「俺、精一杯働きます! キツい仕事でも何でもします!」
「あらあら、冒険者がギルドマスターに『何でも』なんて言ったらダメよ? 本当に『何でも』させられちゃうかもしれないからね……フフフ」
「い、以後気をつけます……」
恩人だけどやっぱり変わったところがあるというか……おちゃめなんだろうな。
でも、慣れてくるとそれが魅力的に感じる。
「さて、ギルドの一員になったからには普通に仕事をしてもらおうかしら。全然人手が足りてない割に、総本部から仕事は振り分けられるからね……うちのギルドは」
総本部……正式名称はグランドギルド。
すべての冒険者ギルドのまとめ役で、最強の冒険者であるグランドマスターがトップに立つ組織だ。
各ギルドが犯した不正や犯罪を裁く立場でもある。
そこから依頼が送られて来るということは、この『キルトのギルド』はそれなりに信頼されているギルドということになる。
もしかして、キルトさんって実はすごい冒険者なのかも?
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