稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話

こぶじ

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血に染まる2

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「どうせ殺すなら、こいつでちょっと遊んでもいいですか」

 言葉は中年の男に向けられているが、しゃがれ声の男の視線は真っ直ぐこちらを見据えている。訳知り顔になった中年の男は鼻で笑った。

「あー。そういえばお前の好みは“そっち”だったか。女の方が楽に抱けるのに、わざわざ男がいいなんて本当に狂った趣味してるよなあ。俺の目の前でおっ始めるなよ。あと、魔力と血が減るようなことはさせるな。いいな?」

「はい」

 中年の男がゆったりとした足取りで部屋を出ていくと、残されたしゃがれ声の男が「お前は廊下で見張っておけ」と、俺の背後に立ったままだった体格のいい男を部屋外に追い立てた。
 部屋の中には、手足を縛られたままの無様な俺と、意地悪くにやりと嘲笑うしゃがれ声の男だけが残された。

 何を、する気なんだろう。
 血がどうこうって言われてたから、血が出ない程度に殴られたりするんだろうか。

「そんなに震えるなよ。興奮すんだろうが」

 怖くて歯の根が合わない。男は乾いた笑いを浮かべたまましゃがみ込むと、俺の足首を掴んで引き寄せた。自分の体を支えるすべのない俺は滑稽なほどすてん、と縛られた腕を下敷きにするように背中から床に転げた。
 男はどこからか取り出したナイフで俺の足首の荒縄を切り、開かせた俺の両脛を押さえ込むように膝立ちになって見下ろしてくる。

「暴れてもいいが、優しく抱かれたいなら悪いこと言わねえから大人しくしとけ」

 だかれる?それはまさか、性行為のことだろうか?俺、男なのに?なんで?どうやって?

 俺が恐怖も忘れて目を白黒させていると、男の上体が覆いかぶさって来て、躊躇なく俺の股間を鷲掴んだ。「だいぶ縮み上がってんな。可愛いじゃねえか」と鼻で笑われて、羞恥で顔がカッと熱くなる。

「…本当に女みてえな顔してんのにチンコ付いてんだな。悪くねえ。優しくしてやる」

 ズボンのベルトを外され、俺の下履きの中に男の手が入っていく。怖いし気持ち悪いし嫌なのに、初めて感じる他人の手で性器をしごかれる刺激に、少しずつ息が上がる。噛まされた布の合間から、鼻にかかった情けない高い声が漏れてしまい恥ずかしい。

「おら、一度イけよ」

 しごく手を速められ、俺は呆気なく射精した。射精しても男はニヤついたまますぐには手を止めてくれず、俺は無様に全身をびくつかせた。嫌だ。やめて。気持ち悪い。怖い。

「あー…お前、エロ過ぎてダメだ。チンコが痛え。責任取れよ」

 苦しげに呻いた男は俺の下履きから手を抜くと、再び上体を起こして膝立ちに戻った。俺から目をそらさずに自身の性器を取り出すと、俺が吐き出した精液のついたままの手でしごき始めた。射精後で弛緩した体は身動ぐことさえ億劫で、男の自慰行為を最悪な特等席でぼんやり見つめる。完全に雰囲気に飲まれてしまった俺は、ひとつも抵抗することなくそのまま男の精液を顔と胸に浴びた。

 終わったのかな。そう思ってまぶたを閉じる。
 あわよくば、男がこのまま何処かに行ってくれたりしないだろうか。足が自由になったから、先程より逃げられる可能性が増えたと思うんだけど。

「…ケツ使ったことあるか?」

 ケツを使うってどういうこと?言い方的に排泄を指してるわけじゃないだろうし、ケツでできることって他に何?
 意味がわからなくて首を傾げたら、男が「まさかやり方も知らねえのか?」と鼻で笑った。
 不意に脛上の重さがなくなり一瞬安堵したが、今度は両腿の裏に手を入れられ持ち上げられる。尻を高く上げるように体をくの字に曲げられ、ぐううと間抜けな唸り声が漏れてしまう。

「ここに俺のチンコ入れんだよ」

 俺のケツの穴をズボンの上から指で押した男が、酷く楽しそうに言い放った。
 そんなところに入るわけない。俺をからかおうとしてるのだろうか。どんな反応を返すのが正解なのかわからず、間抜けにも瞬きを繰り返すしか出来ない。

「未経験のやつ相手は面倒なんだが、死ぬ前にいい思いさせてやるよ」

 もしかして本気なのか。
 情けない体勢のまま、靴を放るように脱がされ、ズボンと下履きは一緒くたに抜き取られる。慌てて足をバタつかせるが、「暴れんな」と感情の籠もらない声と共に拳で頬を殴られた。痛くて恐ろしくて身が竦んで、指先の震えすら自分の意思で止められない。男の指がぐっと俺のケツの穴を押し、ゆっくりと異物が入ってくる。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 涙腺が決壊して涙がぼろぼろとこぼれる。噛まされた布に邪魔されて、こらえきれなかった俺の叫びはくぐもった唸り声になった。



 不意に、鉄錆の匂いがした。暗さと涙で不鮮明な視界の中、俺に覆いかぶさる男のその肩越しに、大きな何かが音もなくゆらりと揺れるのが見えた。
 瞬き一つして、涙の膜を払うと人影だとわかる。
 瞬き二つ、暗色をまとった長駆だ。
 次の瞬間、瞬きをする間もなく、鈍い音と幾分かの衝撃と共に俺の上から男がいなくなった。
 何が起こったのかわからず目だけでぐるりと見回すと、少し離れたところに男が仰向けに倒れて咳き込んでいた。背後から長身の人物に、蹴り飛ばされたか何かしたのだろうと理解する。
 男がふっ飛ばされた衝撃で俺の体は横向きに体勢を変えており、股間はかろうじて隠れているが尻は丸出しだし我ながら酷く無様だ。体をなんとか起こそうと素足で床をもぞもぞと蹴っていると、体に大きな暗色の布を掛けられた。鉄錆が強く香る。

「ハバト」

 恋しくてたまらなかった心地よく胸に響く低音だ。愛おしさと安堵があふれて涙をこぼれる。
 目の前に跪いた彼が、噛まされた布と手首の縄を手早く切ってくれたことでやっと全てが自由になった。

「セブさん、セブさん…!」

 俺に掛けられた布は、セブさんの暗藍色のマントらしかった。それをセブさんは片手で器用に俺に巻き付けながら、「遅くなってすまない。怖い思いをさせてしまった」と暗い声で何度も謝った。セブさんは何も悪くないのに。
 マントの布端で汚物まみれの俺の顔を丁寧に拭って抱き上げてくれる。

「もう何も心配いらない。ハバトを害するものはひとり残らず排する」

 彼の美しいプラチナブロンドに鉄錆くさい黒っぽいものが飛び散っていることに気付いたが、俺はそれから目を背けるように彼の首に腕を回して、愛おしいその肩口に安堵の溜め息と共に顔を埋めた。
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