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無敵の伴侶3
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セブさんにたくさん抱き締めてもらった後、ゆったりと手を引かれて、屋敷の門前に公爵家が用意した、見栄えのする臙脂色の馬車に乗り込んだ。護衛のセドリックさんは御者と一緒に御者台に、ノエルさんは騎馬で並走するらしい。
「ハバト、真っ直ぐ教会に向かって構わないか?邪魔が入らないうちにさっさと済ませてしまいたい」
邪魔、入る可能性があるのか。
「もちろんです。邪魔が入るっていうのは、俺がいるせいですか?」
「いや、君のせいではない。私の方の始末の問題だ」
不本意そうな顔をしたセブさんは俺の左手薬指を撫でてから、御者台に向かって「教会へ」と指示を出し、俺の横に腰を下ろした。
貴族には結婚に関していろいろな制約があると俺が知ったのは、貴族議会からセブさんと俺の結婚の許可が下りたとの通知が来た後だった。
制約が多いからこそ、セブさんは国王に直訴までしてあの特例を取り付けたわけだし、他にも俺が知らない苦労が彼にはたくさんありそうだ。
本来、公爵家の子息が結婚するともなると、嫡男でなくても筆頭貴族を呼び立てて、結婚の報告を兼ねた婚姻式をするのが一般的らしい。でも、小心者の俺が嫌がることを見越して、セブさんはそういった派手なものを全て避けてくれた。結婚の事実も公表はしているが、それもセブさんの口から為されただけで、俺がそういった場に立たされたわけじゃない。セブさんは、「私がそうしたくてしているだけだ」なんて言うけど、俺はとても甘やかしてもらっていると思う。
今日は教会に婚姻の祝福を授けてもらいに行くことになっている。
貴族は教会との繋がりが深いらしい。婚姻式には教会から神官を呼び、祝詞をあげてもらって祝福を受けるものなんだそうだ。ハービル村には教会がなかったから全く知らなかったのだけど、平民でも教会に赴けばその祝福は気安く受けられ、王都ではとても馴染んだ慣習だという。
祝福がどういうものかよくわかってはいないが、街中を散策している時、真っ白な教会の礼拝堂はよく目について気になっていた。そこにセブさんと一緒に行けることが単純にとても嬉しい。
人通りの少ない場所で馬車を降りたが、セブさんの白金色と俺の赤毛は一目で誰と知れる。すぐに視線が集まるが、ノエルさんたちが丁寧に人波をさばいて先導してくれるので、俺達の足が止められることはなかった。
「セブさん、俺達が一緒に街中を歩くのってすごく久し振りですよね」
「ああ。カガリナ以来か」
もう、一年近く前のことだ。王都に限って言えば、初めてだ。セブさんはそれくらい忙しい。件のから昇進して遠征部の技能指導官というものになったらしく、細々とした遠征への参加はなくなったが、とんでもない量の指導業務と机仕事を抱えているらしい。その上、重要な任務には必ず参加しなければいけないし、彼はその合間に騎士団内の自己鍛錬にまで参加しているんだそうだ。とんでもない気力と体力だ。
「あの頃もセブさんと一緒にいるとすごく楽しくて幸せだったんですけど、今はもっと幸せなんです」
今更なことをへらへらとしゃべる俺を煩わしがることもなく、セブさんは「私もだよ」と優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
「定期遠征の決議が済めば、幾らか王都を空けられる。二人きりでどこか遠くへ観光にでも行こうか」
エメラルドを優しく細めて、とても幸せになれる提案をしてくれる。
「んふふ。どうしよう。楽しみがいっぱいですね。俺、セドリックさんに紹介してもらった仕事を増やします。おみやげたくさん買いたいですし」
俺が王都で働くのは心配だとセブさんが言うので、俺が今している仕事は全部家の中で出来る内職だ。濃石の森にいた時もそんな仕事ばかりだったし、要領としては慣れたものだ。今は主に編み物と刺繍をしている。レースを編んだり、飾り刺繍を刺したり、豪華な衣料品の需要が高い王都ならではの仕事だと思う。
「旅費なら私がいくらでも出す。君がそう働く必要などない」
「…それは、俺がセブさんみたいに稼ぎはよくないからですか?やっぱり、セブさんも俺のこと甲斐性無しだって思ってます?」
どうせ、俺のする仕事は、稼ぎも質もセブさんの足元にも及ばない。雑魚中の雑魚だ。それは一番俺自身がわかってるんだ。
ぶすくれた俺が口をへの字にして睨むと、セブさんは悩ましげに眉根を寄せた。
「違う。君は有能だ。働いて欲しくないのは、私が君を独り占めにしたいからだ」
誰からも憧れられる英雄のものとは思えないほど切ない声で囁かれてしまい、拗ねた気持ちの代わりに、今度はむず痒さで俺の口はへにゃりと曲がった。
セブさんは俺のことに関してはすごく心配性になるらしい。
「……独り占め出来てないみたいに言わないでください。俺はあなたに何もかも全部あげたのに」
本当に何もかもだ。それはセブさんが一番わかってるだろう。街中でこんな話をしていることが気恥ずかしくて、俺はセブさんから視線をそらすと、彼が今日二回目の「罪深い」を呟いたのが聞こえた。
不意に、前を歩いていたセドリックさんが片手で俺達を制止した。
「セバスチャン様、ハバト様、申し訳ねえっす。めんどくせえ接敵しちゃいました」
接敵の意味は、セドリックさんの向いた先を見ればすぐさま理解出来た。
白亜の礼拝堂前の上り階段の手前、金糸の刺繍が見事な真っ白な日傘を差し、淡い青の簡易ドレスの裾を揺らして、温かい色味の赤毛のお姫様が完璧な淑女の佇まいでこちらをじっと見つめていた。
「ハバト、真っ直ぐ教会に向かって構わないか?邪魔が入らないうちにさっさと済ませてしまいたい」
邪魔、入る可能性があるのか。
「もちろんです。邪魔が入るっていうのは、俺がいるせいですか?」
「いや、君のせいではない。私の方の始末の問題だ」
不本意そうな顔をしたセブさんは俺の左手薬指を撫でてから、御者台に向かって「教会へ」と指示を出し、俺の横に腰を下ろした。
貴族には結婚に関していろいろな制約があると俺が知ったのは、貴族議会からセブさんと俺の結婚の許可が下りたとの通知が来た後だった。
制約が多いからこそ、セブさんは国王に直訴までしてあの特例を取り付けたわけだし、他にも俺が知らない苦労が彼にはたくさんありそうだ。
本来、公爵家の子息が結婚するともなると、嫡男でなくても筆頭貴族を呼び立てて、結婚の報告を兼ねた婚姻式をするのが一般的らしい。でも、小心者の俺が嫌がることを見越して、セブさんはそういった派手なものを全て避けてくれた。結婚の事実も公表はしているが、それもセブさんの口から為されただけで、俺がそういった場に立たされたわけじゃない。セブさんは、「私がそうしたくてしているだけだ」なんて言うけど、俺はとても甘やかしてもらっていると思う。
今日は教会に婚姻の祝福を授けてもらいに行くことになっている。
貴族は教会との繋がりが深いらしい。婚姻式には教会から神官を呼び、祝詞をあげてもらって祝福を受けるものなんだそうだ。ハービル村には教会がなかったから全く知らなかったのだけど、平民でも教会に赴けばその祝福は気安く受けられ、王都ではとても馴染んだ慣習だという。
祝福がどういうものかよくわかってはいないが、街中を散策している時、真っ白な教会の礼拝堂はよく目について気になっていた。そこにセブさんと一緒に行けることが単純にとても嬉しい。
人通りの少ない場所で馬車を降りたが、セブさんの白金色と俺の赤毛は一目で誰と知れる。すぐに視線が集まるが、ノエルさんたちが丁寧に人波をさばいて先導してくれるので、俺達の足が止められることはなかった。
「セブさん、俺達が一緒に街中を歩くのってすごく久し振りですよね」
「ああ。カガリナ以来か」
もう、一年近く前のことだ。王都に限って言えば、初めてだ。セブさんはそれくらい忙しい。件のから昇進して遠征部の技能指導官というものになったらしく、細々とした遠征への参加はなくなったが、とんでもない量の指導業務と机仕事を抱えているらしい。その上、重要な任務には必ず参加しなければいけないし、彼はその合間に騎士団内の自己鍛錬にまで参加しているんだそうだ。とんでもない気力と体力だ。
「あの頃もセブさんと一緒にいるとすごく楽しくて幸せだったんですけど、今はもっと幸せなんです」
今更なことをへらへらとしゃべる俺を煩わしがることもなく、セブさんは「私もだよ」と優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
「定期遠征の決議が済めば、幾らか王都を空けられる。二人きりでどこか遠くへ観光にでも行こうか」
エメラルドを優しく細めて、とても幸せになれる提案をしてくれる。
「んふふ。どうしよう。楽しみがいっぱいですね。俺、セドリックさんに紹介してもらった仕事を増やします。おみやげたくさん買いたいですし」
俺が王都で働くのは心配だとセブさんが言うので、俺が今している仕事は全部家の中で出来る内職だ。濃石の森にいた時もそんな仕事ばかりだったし、要領としては慣れたものだ。今は主に編み物と刺繍をしている。レースを編んだり、飾り刺繍を刺したり、豪華な衣料品の需要が高い王都ならではの仕事だと思う。
「旅費なら私がいくらでも出す。君がそう働く必要などない」
「…それは、俺がセブさんみたいに稼ぎはよくないからですか?やっぱり、セブさんも俺のこと甲斐性無しだって思ってます?」
どうせ、俺のする仕事は、稼ぎも質もセブさんの足元にも及ばない。雑魚中の雑魚だ。それは一番俺自身がわかってるんだ。
ぶすくれた俺が口をへの字にして睨むと、セブさんは悩ましげに眉根を寄せた。
「違う。君は有能だ。働いて欲しくないのは、私が君を独り占めにしたいからだ」
誰からも憧れられる英雄のものとは思えないほど切ない声で囁かれてしまい、拗ねた気持ちの代わりに、今度はむず痒さで俺の口はへにゃりと曲がった。
セブさんは俺のことに関してはすごく心配性になるらしい。
「……独り占め出来てないみたいに言わないでください。俺はあなたに何もかも全部あげたのに」
本当に何もかもだ。それはセブさんが一番わかってるだろう。街中でこんな話をしていることが気恥ずかしくて、俺はセブさんから視線をそらすと、彼が今日二回目の「罪深い」を呟いたのが聞こえた。
不意に、前を歩いていたセドリックさんが片手で俺達を制止した。
「セバスチャン様、ハバト様、申し訳ねえっす。めんどくせえ接敵しちゃいました」
接敵の意味は、セドリックさんの向いた先を見ればすぐさま理解出来た。
白亜の礼拝堂前の上り階段の手前、金糸の刺繍が見事な真っ白な日傘を差し、淡い青の簡易ドレスの裾を揺らして、温かい色味の赤毛のお姫様が完璧な淑女の佇まいでこちらをじっと見つめていた。
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