稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話

こぶじ

文字の大きさ
77 / 83
後日談

【後日談8】皇国にて1(セブ視点)

しおりを挟む
 サンロマリナ皇国までの道程は、難儀の一つも起こらず安定したものだった。最も心配されていたブリジット殿下の体調は、サンロマリナの国境を越えるまでは顔色もよく笑顔も見られた。しかし、首都のラバが近付くにつれて徐々に食欲を落とし伏し勝ちになった。殿下自身が詳らかにすることを避けている為誰も明言こそしないが、殿下の体調不良は心労によるものだろうと思われる。それは、どんな従者よりブリジット殿下に心砕かれているジャスティン皇子が最も感じ、更なる悪化を深く懸念しているようだった。



「部隊長である優秀で煩忙な貴公に、このようなことを頼むのはあまり適切ではないことはわかっているんだ。だが、どうしてもブリジットの心痛を減らしてやりたい。日中の国民への報告の場とその後の夜会出席の際、ブリジットの側近護衛を引き受けてくれないか」

 首都まであと僅かとなった途次、小休憩の為立ち寄った宿場町にて、ジャスティン皇子から内密に呼び出されて特例任務の打診を受けた。その内容は皇子本人が言うように、今回の部隊の管理指揮を行っている人間が為すべきことではなかったが、皇子の狙いがすんなりと察せられた為、私はただ職務の一部として承服した。

「拝命致します」

「ありがとう。助かるよ。もちろん浮名を流せと言っているわけではない。少しばかりブリジットに集まる人目を貴公の存在で散らしてくれればいい。貴公が愛想を振りまけば、貴婦人たちの汚い口が開く間すらないだろう」

 つまりは、ブリジット殿下への根も葉もない陰口等叩く間のないよう、社交界の華を名乗る蝿共の口を私の噂話で塞いでおけ、ということだ。愛想を撒くなど側近護衛のやることではないが、ブリジット殿下の胃痛の種が増えれば帰国の旅程に影響が出兼ねない。
 私は一刻でも早く国に帰りたいのだ。任務の最中にこのようなことを思うのは、彼に出会う前には考えられないことだった。



 首都に着いて私が真っ先にしたことは、部隊の管理業務ではなく儀礼服の調達だった。そんなものは末端の部下の手を使えばいいのだが、ジャスティン皇子は本格的に私の存在を酷使する腹積りらしく、「鋼鉄の英雄の来訪とその美貌を国民に周知させたい」などと私自身を街中に降ろして話題作りをさせた。皇子の意企通りに衆目は容易く集まり、また、見世物の扱いは当たり前に居心地の良いものでは決してなく、酷く重い溜め息しか出ない。何てことのない一挙一動にまで騒ぎ立てる意味が理解出来ない。英雄などと呼ばれているが、所詮はたった一つ功を立てただけのただの人間だ。
 正式な肩書は付いていないが、実質私の副官扱いで今任務に同行しているスペンサーには、「お前は僕が知りうる中でぶっちぎりの大衆一番人気の見世物だよ」と冷やかされた。私が見世物として長く駆り出されれば、当然私の受け持っている雑務の大半はスペンサーにそのまま流れると言うのに呑気なものだ。



 ジャスティン皇子の思惑はほぼほぼ全てが功を奏した。ラバ市民の最大の関心事は「ブリジット・バルデス第二王女」ではなく、見事「セバスチャン・バルダッローダ」に移行したらしい。ジャスティン皇子とブリジット殿下の婚約報告の拝謁式の当日ですら、大衆紙の一面には何の役にも立たない私の来歴等がつらつら書かれていたのだから呆れる。
 そして、今回の本来の目的である婚約報告は、当初懸念されていた国民からの非難めいた反応や妨害を受けるでもなく、儀礼的に何の問題もなく遂げられた。それに最も安堵したのは、きっとブリジット殿下ではなく、初々しい婚約者を寵愛しているジャスティン皇子だっただろう。



 我が国の第一王女には難が多かったが、その妹君はそれに似通った所為は一つもなく、ジャスティン皇子が殿下の為に私を利用していることにも、殿下は早い段階で気付いているようだった。

「私のせいで仕事を増やしてしまって申し訳ありません。バルダッローダ伯爵に負担を掛けることは本意ではありませんが、私個人としては大変救われました。本当にありがとう」

 自身もまた拝謁式とその心労で疲弊しているにも関わらず、殿下は王族に相応しい所作でもって私の労をねぎらった。自国では抑圧されて目立たない姫君だが、虚弱な体質さえ寛解すれば非常に良い皇妃になるだろう。その資質を最も理解していないのが、殿下の肉親だというのが厄介だが。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
 没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。  そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。  そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。 そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?

【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。 理想の彼氏はスパダリよ! スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。 受:安田陽向 天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。 社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。 社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。 ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。 攻:長船政景 35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。 いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。 妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。 サブキャラ 長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。 抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。 兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。 高田寿也:28歳、美咲の彼氏。 そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。 義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。

中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36) 低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。 諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。 冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。 その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。 語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。

辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで

月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆ 辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。 けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。 孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。 年齢差、身分差、そして心の距離。 不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

処理中です...