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後日談
【後日談8】皇国にて1(セブ視点)
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サンロマリナ皇国までの道程は、難儀の一つも起こらず安定したものだった。最も心配されていたブリジット殿下の体調は、サンロマリナの国境を越えるまでは顔色もよく笑顔も見られた。しかし、首都のラバが近付くにつれて徐々に食欲を落とし伏し勝ちになった。殿下自身が詳らかにすることを避けている為誰も明言こそしないが、殿下の体調不良は心労によるものだろうと思われる。それは、どんな従者よりブリジット殿下に心砕かれているジャスティン皇子が最も感じ、更なる悪化を深く懸念しているようだった。
「部隊長である優秀で煩忙な貴公に、このようなことを頼むのはあまり適切ではないことはわかっているんだ。だが、どうしてもブリジットの心痛を減らしてやりたい。日中の国民への報告の場とその後の夜会出席の際、ブリジットの側近護衛を引き受けてくれないか」
首都まであと僅かとなった途次、小休憩の為立ち寄った宿場町にて、ジャスティン皇子から内密に呼び出されて特例任務の打診を受けた。その内容は皇子本人が言うように、今回の部隊の管理指揮を行っている人間が為すべきことではなかったが、皇子の狙いがすんなりと察せられた為、私はただ職務の一部として承服した。
「拝命致します」
「ありがとう。助かるよ。もちろん浮名を流せと言っているわけではない。少しばかりブリジットに集まる人目を貴公の存在で散らしてくれればいい。貴公が愛想を振りまけば、貴婦人たちの汚い口が開く間すらないだろう」
つまりは、ブリジット殿下への根も葉もない陰口等叩く間のないよう、社交界の華を名乗る蝿共の口を私の噂話で塞いでおけ、ということだ。愛想を撒くなど側近護衛のやることではないが、ブリジット殿下の胃痛の種が増えれば帰国の旅程に影響が出兼ねない。
私は一刻でも早く国に帰りたいのだ。任務の最中にこのようなことを思うのは、彼に出会う前には考えられないことだった。
首都に着いて私が真っ先にしたことは、部隊の管理業務ではなく儀礼服の調達だった。そんなものは末端の部下の手を使えばいいのだが、ジャスティン皇子は本格的に私の存在を酷使する腹積りらしく、「鋼鉄の英雄の来訪とその美貌を国民に周知させたい」などと私自身を街中に降ろして話題作りをさせた。皇子の意企通りに衆目は容易く集まり、また、見世物の扱いは当たり前に居心地の良いものでは決してなく、酷く重い溜め息しか出ない。何てことのない一挙一動にまで騒ぎ立てる意味が理解出来ない。英雄などと呼ばれているが、所詮はたった一つ功を立てただけのただの人間だ。
正式な肩書は付いていないが、実質私の副官扱いで今任務に同行しているスペンサーには、「お前は僕が知りうる中でぶっちぎりの大衆一番人気の見世物だよ」と冷やかされた。私が見世物として長く駆り出されれば、当然私の受け持っている雑務の大半はスペンサーにそのまま流れると言うのに呑気なものだ。
ジャスティン皇子の思惑はほぼほぼ全てが功を奏した。ラバ市民の最大の関心事は「ブリジット・バルデス第二王女」ではなく、見事「セバスチャン・バルダッローダ」に移行したらしい。ジャスティン皇子とブリジット殿下の婚約報告の拝謁式の当日ですら、大衆紙の一面には何の役にも立たない私の来歴等がつらつら書かれていたのだから呆れる。
そして、今回の本来の目的である婚約報告は、当初懸念されていた国民からの非難めいた反応や妨害を受けるでもなく、儀礼的に何の問題もなく遂げられた。それに最も安堵したのは、きっとブリジット殿下ではなく、初々しい婚約者を寵愛しているジャスティン皇子だっただろう。
我が国の第一王女には難が多かったが、その妹君はそれに似通った所為は一つもなく、ジャスティン皇子が殿下の為に私を利用していることにも、殿下は早い段階で気付いているようだった。
「私のせいで仕事を増やしてしまって申し訳ありません。バルダッローダ伯爵に負担を掛けることは本意ではありませんが、私個人としては大変救われました。本当にありがとう」
自身もまた拝謁式とその心労で疲弊しているにも関わらず、殿下は王族に相応しい所作でもって私の労をねぎらった。自国では抑圧されて目立たない姫君だが、虚弱な体質さえ寛解すれば非常に良い皇妃になるだろう。その資質を最も理解していないのが、殿下の肉親だというのが厄介だが。
「部隊長である優秀で煩忙な貴公に、このようなことを頼むのはあまり適切ではないことはわかっているんだ。だが、どうしてもブリジットの心痛を減らしてやりたい。日中の国民への報告の場とその後の夜会出席の際、ブリジットの側近護衛を引き受けてくれないか」
首都まであと僅かとなった途次、小休憩の為立ち寄った宿場町にて、ジャスティン皇子から内密に呼び出されて特例任務の打診を受けた。その内容は皇子本人が言うように、今回の部隊の管理指揮を行っている人間が為すべきことではなかったが、皇子の狙いがすんなりと察せられた為、私はただ職務の一部として承服した。
「拝命致します」
「ありがとう。助かるよ。もちろん浮名を流せと言っているわけではない。少しばかりブリジットに集まる人目を貴公の存在で散らしてくれればいい。貴公が愛想を振りまけば、貴婦人たちの汚い口が開く間すらないだろう」
つまりは、ブリジット殿下への根も葉もない陰口等叩く間のないよう、社交界の華を名乗る蝿共の口を私の噂話で塞いでおけ、ということだ。愛想を撒くなど側近護衛のやることではないが、ブリジット殿下の胃痛の種が増えれば帰国の旅程に影響が出兼ねない。
私は一刻でも早く国に帰りたいのだ。任務の最中にこのようなことを思うのは、彼に出会う前には考えられないことだった。
首都に着いて私が真っ先にしたことは、部隊の管理業務ではなく儀礼服の調達だった。そんなものは末端の部下の手を使えばいいのだが、ジャスティン皇子は本格的に私の存在を酷使する腹積りらしく、「鋼鉄の英雄の来訪とその美貌を国民に周知させたい」などと私自身を街中に降ろして話題作りをさせた。皇子の意企通りに衆目は容易く集まり、また、見世物の扱いは当たり前に居心地の良いものでは決してなく、酷く重い溜め息しか出ない。何てことのない一挙一動にまで騒ぎ立てる意味が理解出来ない。英雄などと呼ばれているが、所詮はたった一つ功を立てただけのただの人間だ。
正式な肩書は付いていないが、実質私の副官扱いで今任務に同行しているスペンサーには、「お前は僕が知りうる中でぶっちぎりの大衆一番人気の見世物だよ」と冷やかされた。私が見世物として長く駆り出されれば、当然私の受け持っている雑務の大半はスペンサーにそのまま流れると言うのに呑気なものだ。
ジャスティン皇子の思惑はほぼほぼ全てが功を奏した。ラバ市民の最大の関心事は「ブリジット・バルデス第二王女」ではなく、見事「セバスチャン・バルダッローダ」に移行したらしい。ジャスティン皇子とブリジット殿下の婚約報告の拝謁式の当日ですら、大衆紙の一面には何の役にも立たない私の来歴等がつらつら書かれていたのだから呆れる。
そして、今回の本来の目的である婚約報告は、当初懸念されていた国民からの非難めいた反応や妨害を受けるでもなく、儀礼的に何の問題もなく遂げられた。それに最も安堵したのは、きっとブリジット殿下ではなく、初々しい婚約者を寵愛しているジャスティン皇子だっただろう。
我が国の第一王女には難が多かったが、その妹君はそれに似通った所為は一つもなく、ジャスティン皇子が殿下の為に私を利用していることにも、殿下は早い段階で気付いているようだった。
「私のせいで仕事を増やしてしまって申し訳ありません。バルダッローダ伯爵に負担を掛けることは本意ではありませんが、私個人としては大変救われました。本当にありがとう」
自身もまた拝謁式とその心労で疲弊しているにも関わらず、殿下は王族に相応しい所作でもって私の労をねぎらった。自国では抑圧されて目立たない姫君だが、虚弱な体質さえ寛解すれば非常に良い皇妃になるだろう。その資質を最も理解していないのが、殿下の肉親だというのが厄介だが。
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