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11:暴君の二の足2(マクシミリアン視点)
「……スクワイアは騎士家系だろ」
ここ数日、クリフは例の隣級の転入生と共にいる事が多い。それは俺だけでなく、バイロンやアランも承知している。
「そうねえ。レイ・スクワイアくんのお祖父ちゃまってたぶんあれだろ。人殺しそうな顔した王立軍の治安部隊の統括」
たぶん、ではなく確定だ。うちの家業は下手な大店より治安部隊と別懇だ。それくらいは調べるまでもない。
「金貸しの息子より軍上層部の孫の方が良い後ろ盾になるんじゃねえか」
「アンタんちただの金貸しじゃねえじゃん」
「国内の金融御諚を受けることもあるが、それも金貸し業務だろ」
「剣で斬って人を殺せるヤツより、金で殴って人を殺せるヤツの方が怖いと思うけどな」
「剣持ってる奴は金も持ってんじゃねえの」
「程度が違い過ぎる」
教師の子守唄のような朗誦が一度止み、映像が終わると同時に室内照明が全て灯され、居眠り共が目を覚ます。ふらついていた昆布茶色の頭も少し伸び上がってから姿勢を正した。顔を見なくても、デカい目を眠そうに瞬かせているのが容易く想像出来る。
「クリフを狙った商業科の糞な、前に俺が絞めた奴だった」
「それは物理的に絞めた感じ?」
「馬鹿言うな。猿じゃねえんだから主に言語だ」
「は~、主にねえ」
バイロンは信じていないようだが、実際手は上げていない。胸倉を掴み上げた程度だ。
講義の締めに入った老教師が、次講提出の課題の話を始めている。昆布茶色が忙しなく上下して、熱心に書き留めているのが分かる。その小動物みがどうにも胸に来る。
「まあ、それで足らなかったわけだ。腹立つが、俺の抑止力なんて大したことねえんだよ」
腹立ち紛れにそいつの事はつい先日物理と金関係の両方からぶん殴っておいた。腕力とコネだけはままあるのだ。その糞はひと月の停学処分中らしいが、恐らくもう学院には通えないだろう。
「それでアンタ自信なくしてんのか。可愛らしいこってー」
他人事じみた言い草が鼻について軽く睨むが、「僕から見たらマクスさんよりあいつを守れるヤツなんてどこにもないと思うけど」とからかいの無い声が返ってきた。それにまたバツの悪さを覚える。
「……クリフの親は私営学舎に通うより安全だと思って学院受験を許したんだとよ」
きっとクリフがこの学院に入学出来ていなくても、私営学舎への進学は親が許可しなかっただろう。私営施設の善し悪しは千差万別で、通う人間も含めて社会的信用度が低いからだ。
「安全だと思って通わせた先で事案発生でクリフトンの家族も可哀想って話?ならやっぱアンタが恋人でも婚約者でもお好きなもんになってしっかり守りゃいいんじゃね。取り巻きだとかパシリだとか言わせてっから手を出す隙を与えてんだろ」
バイロンは雑に動かしていたペン先を止めて、責めるような目でこちらを見た。バイロンとアランが前々からそう考えている事はよく分かっている。俺の口からは「駄目だろ」と覇気の無い声が出た。
「クリフが“この俺”の傍に侍る方が、あいつの親からしたら怖えだろう。今からでもあいつは俺から離れた方がいい」
言外を察したバイロンは化け狐のように嗤った。
「あー。そりゃあ暴君だもんなあ。腕力も財力もぶん回すの大得意な男なんて信用なんねえわな」
「おまけにつるんでる奴等も胡散くせえ輩ばっかりだしな」
「えー?それ僕も入ってんの?」
「いっそお前だろ、成金」
「やめてー。親の悪口はいいけど、僕個人の悪口はやめてー」
「逆だろ」
終礼の鐘が鳴り、生徒からの簡易礼を受けた老教師が伝達事項を繰り返して退室した。
ざわつく室内で斜前方のクリフはアランと一言二言交わすと、こちらに一瞥もくれる事なくそそくさと荷物をまとめて講義室を出て行った。それを見送ったアランは案の定険しい顔でこちらに戻って来た。
「マクス!お前責任持って追いかけろよ」
「……何の責任だよ」
「クリフトンをイジメた責任だよ」
「虐めてねえだろうが」
バイロンだけでなく幼馴染もクリフに関しては口煩くて困る。第一、クリフは喧しい女共を味方にするのも上手い。見た目が異様に儚げな分、初見で女から警戒されにくいらしく、あの裏表無いガキ臭い話口が後から効いて来ていつの間にか気に入られている。クリフの友人を名乗る女共は、俺がクリフと一緒にいてもいなくても睨んで来やがる。
そのうちさらっとその中のどれかの女とクリフはくっつくかと思っていたが、いつまでもそんな事もなく女の中に馴染んでいるから不思議だ。アラン曰く、「自分より美人な男を恋愛対象に見る女は滅多にいない」らしいが、そんなもんだろうか。俺が知った事じゃねえけどな。
俺としては、クリフが望むなら女だろうが男だろうがどんな奴とくっついてもある程度許容はしようと思っている。
まあ、ある程度な。
仮に相手が俺より屑だった場合は即処分だ。
講義室を出てからもやんやうるせえアランを躱しつつ、グチグチ小言を挟んでくるバイロンをいなしつつ、昼食時で騒がしい食堂内で適当に飯を受け取ってさっさと席を確保する。すぐ近くの席に、クリフの気を引こうと「パシリだ」とか「媚を売ってる」とか糞どうでもいい陰口をよく言ってる小物共がいた。適当に睨んで威嚇すると、目を泳がせながら席を移動していった。
くさくさしていた気分を幾らか収めていると、不意に背後から、「マクシミリアン・ブゼル!」と食堂の端まで届くような声で呼ばれた。糞でけえ声に単純に腹が立って二、三発ぶん殴るつもりで振り返ったが、予想外にもしょげ返ったクリフと目が合って毒気が抜かれた。
「マクシミリアン・ブゼル、こいつと話し合え。傍迷惑だ」
こちらに向かって歩いてくる、如何にも怒り心頭のレイ・スクワイア。そして、そのレイ・スクワイアに、両脇を双羽固めにされたまま無様に運ばれてくるクリフ。
何だよその状況。俺の背後で馬鹿二人が失笑している。
呆気にとられていると、クリフが「あー、なんかすんません」と更に眉尻を下げて力無く項垂れた。
ここ数日、クリフは例の隣級の転入生と共にいる事が多い。それは俺だけでなく、バイロンやアランも承知している。
「そうねえ。レイ・スクワイアくんのお祖父ちゃまってたぶんあれだろ。人殺しそうな顔した王立軍の治安部隊の統括」
たぶん、ではなく確定だ。うちの家業は下手な大店より治安部隊と別懇だ。それくらいは調べるまでもない。
「金貸しの息子より軍上層部の孫の方が良い後ろ盾になるんじゃねえか」
「アンタんちただの金貸しじゃねえじゃん」
「国内の金融御諚を受けることもあるが、それも金貸し業務だろ」
「剣で斬って人を殺せるヤツより、金で殴って人を殺せるヤツの方が怖いと思うけどな」
「剣持ってる奴は金も持ってんじゃねえの」
「程度が違い過ぎる」
教師の子守唄のような朗誦が一度止み、映像が終わると同時に室内照明が全て灯され、居眠り共が目を覚ます。ふらついていた昆布茶色の頭も少し伸び上がってから姿勢を正した。顔を見なくても、デカい目を眠そうに瞬かせているのが容易く想像出来る。
「クリフを狙った商業科の糞な、前に俺が絞めた奴だった」
「それは物理的に絞めた感じ?」
「馬鹿言うな。猿じゃねえんだから主に言語だ」
「は~、主にねえ」
バイロンは信じていないようだが、実際手は上げていない。胸倉を掴み上げた程度だ。
講義の締めに入った老教師が、次講提出の課題の話を始めている。昆布茶色が忙しなく上下して、熱心に書き留めているのが分かる。その小動物みがどうにも胸に来る。
「まあ、それで足らなかったわけだ。腹立つが、俺の抑止力なんて大したことねえんだよ」
腹立ち紛れにそいつの事はつい先日物理と金関係の両方からぶん殴っておいた。腕力とコネだけはままあるのだ。その糞はひと月の停学処分中らしいが、恐らくもう学院には通えないだろう。
「それでアンタ自信なくしてんのか。可愛らしいこってー」
他人事じみた言い草が鼻について軽く睨むが、「僕から見たらマクスさんよりあいつを守れるヤツなんてどこにもないと思うけど」とからかいの無い声が返ってきた。それにまたバツの悪さを覚える。
「……クリフの親は私営学舎に通うより安全だと思って学院受験を許したんだとよ」
きっとクリフがこの学院に入学出来ていなくても、私営学舎への進学は親が許可しなかっただろう。私営施設の善し悪しは千差万別で、通う人間も含めて社会的信用度が低いからだ。
「安全だと思って通わせた先で事案発生でクリフトンの家族も可哀想って話?ならやっぱアンタが恋人でも婚約者でもお好きなもんになってしっかり守りゃいいんじゃね。取り巻きだとかパシリだとか言わせてっから手を出す隙を与えてんだろ」
バイロンは雑に動かしていたペン先を止めて、責めるような目でこちらを見た。バイロンとアランが前々からそう考えている事はよく分かっている。俺の口からは「駄目だろ」と覇気の無い声が出た。
「クリフが“この俺”の傍に侍る方が、あいつの親からしたら怖えだろう。今からでもあいつは俺から離れた方がいい」
言外を察したバイロンは化け狐のように嗤った。
「あー。そりゃあ暴君だもんなあ。腕力も財力もぶん回すの大得意な男なんて信用なんねえわな」
「おまけにつるんでる奴等も胡散くせえ輩ばっかりだしな」
「えー?それ僕も入ってんの?」
「いっそお前だろ、成金」
「やめてー。親の悪口はいいけど、僕個人の悪口はやめてー」
「逆だろ」
終礼の鐘が鳴り、生徒からの簡易礼を受けた老教師が伝達事項を繰り返して退室した。
ざわつく室内で斜前方のクリフはアランと一言二言交わすと、こちらに一瞥もくれる事なくそそくさと荷物をまとめて講義室を出て行った。それを見送ったアランは案の定険しい顔でこちらに戻って来た。
「マクス!お前責任持って追いかけろよ」
「……何の責任だよ」
「クリフトンをイジメた責任だよ」
「虐めてねえだろうが」
バイロンだけでなく幼馴染もクリフに関しては口煩くて困る。第一、クリフは喧しい女共を味方にするのも上手い。見た目が異様に儚げな分、初見で女から警戒されにくいらしく、あの裏表無いガキ臭い話口が後から効いて来ていつの間にか気に入られている。クリフの友人を名乗る女共は、俺がクリフと一緒にいてもいなくても睨んで来やがる。
そのうちさらっとその中のどれかの女とクリフはくっつくかと思っていたが、いつまでもそんな事もなく女の中に馴染んでいるから不思議だ。アラン曰く、「自分より美人な男を恋愛対象に見る女は滅多にいない」らしいが、そんなもんだろうか。俺が知った事じゃねえけどな。
俺としては、クリフが望むなら女だろうが男だろうがどんな奴とくっついてもある程度許容はしようと思っている。
まあ、ある程度な。
仮に相手が俺より屑だった場合は即処分だ。
講義室を出てからもやんやうるせえアランを躱しつつ、グチグチ小言を挟んでくるバイロンをいなしつつ、昼食時で騒がしい食堂内で適当に飯を受け取ってさっさと席を確保する。すぐ近くの席に、クリフの気を引こうと「パシリだ」とか「媚を売ってる」とか糞どうでもいい陰口をよく言ってる小物共がいた。適当に睨んで威嚇すると、目を泳がせながら席を移動していった。
くさくさしていた気分を幾らか収めていると、不意に背後から、「マクシミリアン・ブゼル!」と食堂の端まで届くような声で呼ばれた。糞でけえ声に単純に腹が立って二、三発ぶん殴るつもりで振り返ったが、予想外にもしょげ返ったクリフと目が合って毒気が抜かれた。
「マクシミリアン・ブゼル、こいつと話し合え。傍迷惑だ」
こちらに向かって歩いてくる、如何にも怒り心頭のレイ・スクワイア。そして、そのレイ・スクワイアに、両脇を双羽固めにされたまま無様に運ばれてくるクリフ。
何だよその状況。俺の背後で馬鹿二人が失笑している。
呆気にとられていると、クリフが「あー、なんかすんません」と更に眉尻を下げて力無く項垂れた。
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