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廃墟脱出編

覚醒

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ハク「晴っ!」
叫ぶハクに皆がハッとする、飛び出した晴の姿が
見えない事に、下敷きになった陸を救う為、迅速に
飛び出した晴は陸を庇う様に倒れる木材に間一髪
飛び込んだのだった。

皆が晴、陸を救おうと木材の倒れた場所へ行こうと
するが、その前に新たなゾンビの餌となる肉が
彼等の前に放り投げられた……

ハクの目に佐々木が映るが晴を助けに駆け出すも
肉に群がるゾンビがゆく手を阻む。
矢の無い水中銃で対抗し戦うハク、少しでも早く
晴の側に行かねば!その一心だった。

佐々木「おいおい!2人脱落じゃねーか!盛り
上がってきたな!こうじゃなきゃ面白くねえ!」

時男「ひでぇ!お前最低だよ!」

佐々木「あん?言う事素直に聞かない僕ちゃん達が
悪いんでちゅよぉ、まぁ……言う事聞いててもさ、
お前達助ける気なんざ元々ねーけどな!」

ユキ「どうしてこんな事するのよ!」

佐々木「ゲームだよ、人間生き残りゲーム、弱い
者は淘汰される、実に自然極まりない、エコだな
実力があってもお前らみたいに人生のうのうと
生きてる奴は甘いヤツを巻き込んでくんだよ」

「どうだ?言い返す言葉はあるか?お前ら何回
アイツら裏切った?何回危険に追い込んだ?」

正人達に言い返す言葉は見付からなかった……

(何回立ち上がろうが俺様がお前らの心を
折ってやる)


ーー木材下ーー

僅かな時間、意識が無かった陸が目を覚ました、
暗い空間に木材の隙間から差し込む光

視界が戻り始め光の中に映ったのは頭から血を流す
晴であった、彼は仁王立ちで両腕で背中越しに
木材を支えていた、

陸「晴さん!大丈夫!」

晴「……」

陸「晴さん!晴さん!どうしよう、どうしよう!」

晴「大丈夫だ」

陸「ゴメンなさい僕、また邪魔した……怪我まで
負わせてしまって 本当にごめんなさい、何も
しなきゃ良かった、僕なんかが何かしようとした
せいだ」

晴「何言ってんだ、陸は俺達を救おうとした結果
じゃ無いか!偉いぞ陸、だから俺はここに入る」

ポタポタと落ちる血に後悔と懺悔に押しつぶされ
そうな陸、

「行動した結果はやってみなきゃわからん、何か
した結果が悪い方に働いてもそれをプラスに
しようと……イテテ、や、やり続けたらいつか
プラスになるさ、全てが100%マイナスの結果
なんて逆になる方が不自然ってもんだろ?な」

陸「……」

陸は晴に守られた狭い空間に半身になり懸命に木材
を押し返そうとするもビクともしない。

陸「そんな事言ったって!晴さんがこのまま
倒れたら僕は……僕は……」

晴「人には成長期ってのがある、陸、それが今
でなくて良いんだ、いつかお前がそのナイフから
卒業して自分の足で成長する時まで大事に取っとけ
人から何を言われようがお前はお前、俺はお前の事
好きだぜ?」

陸「晴さん……僕なんか見捨てればよかったのに」

晴「……何回も言わせんなって」
晴が呼吸を整え始める……呼吸する口をすぼめ、
目を閉じた。

晴「俺は……」

「お前のした行動を……」

「後悔させただけで……」

腕の血管が浮き、奥歯を食いしばる音が歯軋りと
なり、陸にも聞こえる音量で聞こえ始めた、

「絶対に終わらせやしねぇぇえつ!」

『バキっ』

奥歯が破裂する様な音が聞こえたと同時に晴は
全身にありったけの力で木材を押し弾け飛ばした。

『ドゴーン!!』

それはまるで何かが爆発したかの様な音が炸裂する

佐々木「は?」

それに驚き佐々木が後ろを信じられないと言った
表情で振り返った、

佐々木「……そんなバカな事、あの重さだぞ?
ゴリラかアイツ……」

戦いながらハクが笑顔で佐々木に言い放った。

「あれが晴だ!」

佐々木「……」

黙ってニコリと微笑み温かいその手は陸に差し
伸べられた……

そのあり得ない行動と奇跡、そう陸にとっては奇跡
の出来事に腰を抜かすような姿勢の陸もシッカリと
晴の手を掴んだ、晴の温かい人間味溢れる体温が陸
の全てを癒していく、過去、現在、全ての
冷え切った思い出を溶かす様に……

晴がフラつき倒れそうになるのをハク
が支えた、そして陸は彼ら2人に襲いかかるゾンビ
の前に立ちはだかる。

陸「このナイフはお母さんから唯一貰った物……
なんだ、でも……コレは……そう」

陸 「ただの鉄の塊だ」
ハク「ただの鉄の塊だ」

呼応するかの様にハクも陸の言葉と同時に発する。

晴はそれを見て凄く嬉しそうな顔をした。

それを見ていた正人、時男、ユキ、美香にも何かが
届く、それは言葉や文字で言い表せる感情では無い
だが確かに存在する何か

彼等の心に今何かが宿る。

ハク「さぁ今からみんなで逆転しますか」

陸は静かに頷き、しばし顔を挙げなかった。

そして再び顔を上げた時、それは男の子の顔を
していた、それは陸に留まらず、
正人達も同じであった。




【陸、談】

晴は僕に教えてくれた、それは絶対的な信頼だった
彼の言う見捨てないは言葉だけでは無い、僕は
今までの経緯から人を心から信用した事は無かった
だが彼は違った、本当にこの人は何があっても僕を
助けてくれた、こんな人が本当にいたんだ……
熱い漫画や小説に出てくる人物、それは架空の者と
心の何処かで思っていた。

そんな人居るわけないなんて大人や友達が言った
『言い切るその言動に』僕は世界に絶望した……

僕は今、初めて心からこの人達を守りたい、
そう思えた、その感情は酷い事をされても、
見捨てられない親や恋人と言った感情と同じ感覚

僕は『いつ』ではなく『今』だとわかった、この
貴重な出会い、そしてこの人達を失ってはいけない
それは僕自身の為だとも他の人はいうかも知れない

そんな事はどうでもいい

自己満足そんな言葉は他人が他人を評価する為
だけに作られた言葉だ、勝手に言っとけばいい

僕は今この人を守りたい、ただそれだけだ










































































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