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銀のとまりぎ亭──side セイ──②

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 なんと、希少品のイベント限定レシピなないろキャンディー──ビン込みというかほぼビンの値段だけれども──この世界での推定売価十万ガルドを惜しげもなく少女に手渡すイリヤ様……透明感のあるいかにも高級そうな繊細な細工のされたビンに、これまた宝石のごとく美しいキャンディーがキラキラとしている。
 イリヤ様が採取したり討伐したりで集めた材料を自分で加工しているから原価はほぼほぼ労力のみ……否、逆にこの世界では加工出来る人が限られるからプライスレスとでも言えば良いだろうか?
 見るからに高級すぎるプレゼントをもらってしまった我が子を見て、銀のやどりぎ亭の受付である少女の母親の顔はどこからどう見ても引きつって固まっていた。


 このエタブレに似た世界の食のレベルは低い。城でだされた食事の質から見てもチラリと覗いた露天や屋台からもわかるが、そもそも飽食かつ繊細であり多彩な味が溢れているのが通常仕様の現代日本と比べれば低い。
 塩味が一般的で、胡椒やハーブなどの香辛料、砂糖や蜂蜜などの甘味は値段が高いからかあまり使われていない。だから海や塩湖、岩から取れる岩塩まで、塩、塩、塩味オンリー。砂糖の精製栽培方法などが確立されていないのかもしれない。
 魔導書グリモワール仕様なのだからもう少しなんとかなりそうなものなのに……
 他の国がどうなのかは分からないが、この国は中世並みの文化といったところだろう。


閑話休題それは、さておき


「イリヤ様、それってなないろキャンディーじゃないっ!」

「あ、セイも食べたかった?なないろキャンディー美味しいからさ実はクエストの合間に食べる用にたくさんあるんだ」

 わざとらしくならない様にキャンディーの名前を出す。すると基本的には単純なイリヤ様は私が食べたいのだと思ったらしく、革のポーチから出す振りをしてインベントリからなないろキャンディーを取り出すと私に手渡しほわんと笑う。
 テレーザちゃんのママ、安心して下さい。決してけっしてイリヤ様は少女趣味などではありませんからっ!
 材料も特に苦労せず入手でき、尚且つ自分で作れるからもあって、日本基準でお手伝い頑張っている子供に飴あげとこー、くらいしか考えてませんから……

「さて、イリヤ様。お部屋を借りたので神銀ミスリルの装備の手入れをしてから町にでませんか?セイはお腹がすきました」

「あっ、そういえばお昼ご飯食べてなかったもんな。ん?手入れ?……あ、そっか。ゲームじゃないから手入れが必要なのか?耐久値だけじゃないんだな」

 ……別に手入れが必要だとは思いませんが、多分耐久値に気をつけてエタブレ同様スキルで修理していれば大丈夫だと思います。身に着けているキラキラと輝くプレートが神銀ミスリルをふんだんに使ったものだと受付である少女の母親に周知させれば、そちらの余計な心配をさせなくてすみますし。
 高価な装備なのがバレるのはほんの少しデメリットはあるもののずっと宿に泊まるでもなし、常日頃からスーパー鈍感ヘタレなので地球がひっくり返ってもあり得ませんが、この世界の少年少女をいいように扱うそこいらの横暴で下劣な権力者や貴族とイリヤ様が同列に思われるのは本人が気付かなくとも私が不快ですからね。

「ミ、ミスリル」

「お兄ちゃんのこの鎧ってミスリルなのっ?!」

 この世界の事……鉱石についても学んだ時、稀少鉱石を手に入れるには採掘スキルを持つ者を連れてその護衛をしながらダンジョンないし鉱山に潜り採掘しなくてはならない。だから神銀ミスリルなどの稀少鉱石は高位冒険者ぐらいしか手に入れられないからもあり、価値が高くこんなにふんだんに使う事はなかなか出来ない。まぁ、金にあかせて手に入れる事もできるだろうけど。依頼とか依頼とか高ランクの所にあったもの。

「そうだよ。そっか、冒険者じゃないと神銀ミスリルって珍しいよな。このプレートが総神銀ミスリルで、こっちの剣が神銀ミスリルの合金。セイ……あっちのお姉ちゃんの籠手も神銀ミスリル合金だよ」

「あの、イリヤ様。出掛けるのが遅くなりますよ?」

「ごめん、セイ。テレーザちゃんまたね」

 意図して若干声音に不機嫌さを混ぜ込めば、イリヤ様は少女に別れを告げ階段をエスコートしてくれる。そういうとこ……ヘタレの癖に。もう。

 …………一つ訂正しておきますが、冒険者だって神銀ミスリルはなかなかお目にかかれない希少鉱石ですからね?
 エタブレ内でのイリヤ様と言えば自分で採掘して精製から加工まで出来ちゃうからこの世界での価値がまったく分かって無いみたいですけど。

 装備する時に気にしていたのは過剰戦力の部分だけでしたし、案外昔なつかしゲームもプレイしていたイリヤ様なら鉄の剣で冒険者ごっことかをしたかっただけかもしれませんが…………

 とりあえず目を離すと何かやらかしそうなのでイリヤ様からは一瞬たりとも目を離せません。










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