400文字小説

鰻屋十兵衛

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七夕はいつも雨

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七夕の日はいつも雨。ここ数年ずっとそうだ。織姫と彦星も会えない期間が長すぎて、破局しそうなそんな気がする。
私の知り合いはそれで破局した。別に破局というほど、争いがあった訳でもないそうだが。一言、
「貴方と会えないのは辛すぎる」
のような電話を受けたきり、連絡が取れなくなったらしい。
数日前にたまたまその彼女の下宿の近くを通ったら案の定、新しい男ができていた。無論、それを知り合いに告げる必要もなかったし、彼とは縁を切っているのだから別に何を言うつもりはないが。彼女は幸せな顔をしていた。それはもう知り合いが不憫に思えるくらい。

織姫と彦星が最後に会ったのは今から何年くらい前だろう。少なくとも10年は経ったか。七夕の雨は、川が洪水し、会えないことを涙するからと言われるそうだが。本当に涙しているとは私には思えない。

もしかしたら案外、悲しんでいるのは男だけかもしれない。
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