僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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松本みなみの婚活日記

10話

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ジャズのレトロな曲が流れてる。
バーテンがロックアイスを包丁で切ってブリリアントカットをして、ウイスキーの入ったロックグラスにクルクルと回してオシャレに渡す。

なんというか、ここのバーテンさん妙に技術にクオリティがあった。

その後にアルコールに火をつけて、テーブル横一列に撒き散らしてカウンターテーブルに日の壁ができる。

青く弱い火が柔らかく萌えていて、その中を切るようにロックグラスをシュッと出すと、その部分だけ火が消えて初めてそれが危険行為ではなくパフォーマンスだと理解する。

「お待たせしました、こちら白州のロックです。」
「いや!びっくりしたわ!ちょっと~、吉良さんと何話してたか忘れたじゃない!!」

途中までお互いの経緯を話してた気がしたけど、私が調子に乗って白州飲みたくなってお願いしたらとんでもないパフォーマンスが着いてきた。

「……お気に召しませんでしたか?」
「いや!最高のクオリティよ、ありがとう!!」

この店ががらがらなのは……恐らくパフォーマンスのクオリティが高すぎるのと、欲しくもないのにパフォーマンスしちゃうからだとこの瞬間初めての私でも理解してしまった。

「……お前、多分もうちょい抑える方が儲かるぞ~。」
「いやいや!ここ最近だとあんたがエースなんでな!そりゃあVIP待遇にもなるさ!」

そして、このバーテンさんちょっと空気が読めなかった。
色々勿体ないな~このバー。

私はロックグラスの白州を呑む。
程よく氷水でアルコールが入り交じり、白州独特の柑橘のような香りがこの空間を楽しませてくれる。

「で、2人はどんな話をしていたの?」
「ああ、そうでしたわね!私が教師で吉良さんがエンジニアさんという話をしていたところでした!」
「いや~ほんと、吉良さん社長だからね~、こう見えても凄いんだぞー!」

吉良さんはパッと見は頼りない印象だ。
肌が痩せこけてるし、目の下のクマもあり冴えない雰囲気が全身から出ている。
なので、私はバーテンの言葉に半信半疑だった。

「いや!みなみちゃん疑ってるでしょ!」
「……バーテンさん、たまに適当なんだもん。」
「あ、バレた?」
「もう!ほんと困った人!」

そんな様子を苦笑いしながら同じ白州を飲む吉良さん。
ほんと、缶ビールだけの私と違って酒を嗜んでるようだった。

「でもな!元々は上場企業で月収40万も貰ってたよな!すぐ吉良っちの作ったアプリとか検索すれば出てくるし。」
「……え?そうなの?」
「あ、一応……デリバリー用のアプリとか、単発バイトのアプリとか、あとは中小企業向けの経理ソフトなんかも。」
「えー!これ……吉良さんが?」
「はい。」
「だから言ったでしょ!こいつは筋金入りのエリート社長なんだよ!」

確かに実績はあるしフリーランスで年収1000万のスペックはあるけど……。

「でも、なんでそんな弱々しいんですか?」
「そ……それは……。」

男はロックグラスをダン!とテーブルにたたきつけて同じものをバーテンさんにお願いする。
そして、男はわなわなと震えていた。

「夢……だったんだ、父さんが吉良商事の社長でさ、彼の力を借りないで社長になるのが。」
「え……吉良商事って……上場してるあの?」

そう、吉良さんはめちゃくちゃおぼっちゃまだった。
でも彼はその肩書きを心から嫌っていた。

「だって……僕に近づく人は僕じゃなく父さんを見ていた。だからこそ……吉良商事の子息ではなく、吉良誠二自体を見てほしいと思ったんだ。」

そういって彼はカランとグラスを鳴らす。
そろそろ結露が溜まってきて水滴が少しだけテーブルに落ちていたのがここにいる時間の長さを物語っていた。

ジャズの曲が転調をする。
それに呼応するように彼はまたため息をついた。

「で……でも!社長になれたじゃない!フリーランスだってきちんとした社長だと思うわよ?」

彼はどんどん顔が青ざめてくる。
白州を飲む度に少しずつ彼は肌が白くなるようだった。

「おいおい……飲みすぎだぜ。」
「だってなぁ~!なんで……こんなに安い案件を沢山こなさなきゃいけないんだよ!」
「……失礼ですけど、もうどれくらい働いてるんですか?」
「3ヶ月、休み無し。手取りは……20万ちょいくらい。」

ちょっとフリーランスへの認識が変わってしまった。
ダラダラと毎月10回以上休みのある公務員の私は、比較的幸せなのかもとすら思ってしまった。

「少し休んだらどうです?」
「無理だぁ!だって……業務委託は……なんか納期遅れたら罰金の会社だってあるん……だ……よ。」

彼はそのままテーブルに突っ伏してしまった。

「あちゃー。」
「ちょ、吉良さん!?吉良さん!!」

私は起こそうとするが青い顔していた。
時刻はもう1時になる。
私もそろそろ帰って寝ようと思ったのだけれど、どうにもこの情けない男を放っておくことが出来なかった。

この、なんだろう……頑張ってるけど空回りして、利用されてる感じがどうにも他人事に思えなかった。

「この人の家は……!?」
「すまん、そこまでは……。」

私は彼の分のお代も払ってタクシーを呼んで彼を担いで言った。

「大丈夫かい?ごめん……まさかこんなにハイペースで飲むとは思わなくて……こいつの分はツケにしとくから大丈夫だよ。」
「……また来ます。」

私はそう言ってバーを後にした。
目的地は彼の家を探すのもめんどくさかったのだ私の家に連れて行くことにした。

「……ここは。」
「タクシーです!もう少しで休めるから……水飲んでください!」
「すみません、見ず知らずの私を。」

彼は虚ろな目で私とタクシーを共にした。
そして、私のマンションに担いで運んで私の部屋のベッドに彼を寝かせた。

私は急いで彼の為にインスタントのしじみの味噌汁を用意して彼に渡した。
彼は本当に弱々しかった、寝てるのかも食べてるのかすらも怪しくて、その分酒を飲んでいたから尚更体に悪いことこの上ないだろう。

少しだけ、彼の顔色が良くなっていた。

「吉良さん、今日は泊まって下さい!」
「い……いや、仕事こなさなきゃ……。」
「ダメです!こんなにボロボロになって!やめてください……ムカつくんですよ!なんか、そういえの……。」

私を見てるみたいで……なんて言葉は言えなかった。
パッと見は違うけど、どこか私と彼は似ているような気がした。
不器用で仕事に追われて余裕がなくなっるところが私そのものに見えて妙に自分をバカにされてるような気持ちになってしまった。

「……ごめんなさい。」
「あ、ちょ……。」

彼は悔しそうに、惨めにすすり泣きをしていた。
こんなにも自分を追い詰めいたのが妙に胸を締め付けるようだった。

「なんか、バーテンのあいつ以外で久しぶりに優しくされて……うれしかったです。人に頼るのって悪くないですね。」
「そ……そうですか、でも、明日には帰ってもらいますからね!!」
「すみません、本当におっしゃる通りです。」

彼はしじみの味噌汁を飲んで、血色も良くなった。
言葉も饒舌になっていたので本当に休息が足りてないだけだった。

「じゃあ……私シャワー浴びてから寝ますね。」
「あ、ごめんなさい……僕、汚いですよね。」
「いえ、私もたまに仕事忙しすぎてお風呂入らない時あるので似たよんなもんですよ。」

私は、静かに電気を消して来客用の布団を敷いて彼から少し離れて眠った。
吉良さんもシャワーを浴びてる間に深い眠りについていて、私もそれに合わせてゆっくりと眠りについた。

まるで、無限の無重力にゆっくりと沈むように、この晩はよく眠れたと思う。

☆☆

眠ったと言っても私の中では一瞬程度に思える時間だったけど、いつも起きる6時の時間をスマホのタイマーが鳴っていた。

昨日は飲みすぎたので身体がボロボロな感じがしたけど、妙にいい匂いがした。

「ああ、松本さん!おはようございます!」

昨日の吉良という男性がすっかり良くなって初めて聞いた覇気のある声になっていた。

「えーーーーーっと……。」
「あ、昨日バーで知り合った吉良です。」
「そうでしたそうでした。」
「泊めていただいたお礼に……朝ごはん作らせてもらいました。」
「へ?」

すると、私のテーブルには綺麗に料理が並べられてあった。
捨て忘れたゴミ袋も捨ててあって、洗濯物も干してくれている。
昨日の布団のシーツも既に選択をしていて私の部屋は私単体でいる時よりも女子っぽさで溢れていた。

料理はベーコンエッグに、サラダと味噌汁……お米が炊いてあった。
久しぶりの、人が作った手料理だった。

私は静かにそれを食べる。
彼の料理の腕は悪くない……というか、めちゃくちゃ美味しかった。

「……おいしいです。」
「よかった!」

昨日の情けない姿とは打って変わって彼は爽やかな雰囲気だった。
少しだけ、頼もしくかっこよくさえ感じてしまう。

私はあまりの美味しさにすぐに平らげてからお互い身支度を整えて部屋を出ていった。
こうして見ると、お互い全然時間はない。
最後、彼と別れる交差点で私たちは並んで歩いていった。

「ほんと、このご恩はなんとお返しすれば…。」
「いや、朝ごはん美味しかったんでこれで貸し借りなしです。」
「そうですか?お陰様で昨日より仕事頑張れそうです。」
「あなた、多分頑張りすぎてるだけだと思うんですけどね。」

そういって、秋の紅葉が舞い散る並木道の坂道を進んでいく。
最近夜更かしばっかしていて、少しだけ肩が重い。
今日は仕事をのんびりこなして沢山寝ようと思った。

「あ、ちょっとまだ借り返しきれてなかったですよ。」
「え……なんか自分に出来ることがあればやりますよ。」
「じゃあ……これ……。」

そういって私は連絡先のQRコードを差し出す。

「……へ?」
「なんですか!悪いですか?」
「ああ……いえいえ!」

彼はすぐにスマホを出してから私のQRコードを読み取り連絡先を交換する。
妙に彼とは居心地が良かった。
ここで終わりという縁にするにはまだ早いとおもったからだ。

わたしは、彼に少しだけ笑顔を向けてから後ろ姿を見せて去っていった。

「また、会いましょう。」

紅葉とイチョウが入り交じり赤と黄のカーペットの道ができる。
少しだけ、銀杏の匂いが入り交じっている。

朝の気だるさと二日酔いで吐き出してしまいそうだったが、心だけが妙にさわやかになっていた。

私と彼の別れは、今生の別れではなく再会のための別れとなった。

そんな私を朝日は優しく祝福して体をほんのりと温めてくれるようでもあった。
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