僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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直輝と別れと小さな夢

11話

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あれから一週間は経った。
地震は起こるどころか前兆すら見えることはなかった。
でも分かる。

今周りにある歴史のある住居は未来にはない。
いつか瓦礫と共に流されてしまうからだ。
沖縄の独特なゴーヤの入り交じった料理や、酒に酔う人、家族の団欒……それら全てがたった一瞬で無くなるのだ。

でも、俺には勝算があった。
かつて日本で起きた東日本大震災、その津波が10mを超えていたらしい。
そして、今いる位置は海抜4メートル程度……今は亡き光景だ。
つまりこの地震は少なくとも6メートル以上の津波があって、両親を早めに誘導すれば良い。

「おーい、直輝?」

問題は……母ちゃんだ。
普段は決まったルートを行き来するのだが、若さゆえか突発性がある。
母ちゃんの実家が厳しすぎる所以かもしれない。
直人は基本一緒にいればいいけど、どうしても母ちゃんだけはコントロールできなかった。

「聞いてる?難しい顔してるね。」

俺は神様から両親を救えと神隠しを請け負ったとすっかり使命に燃えていてとにかく当日を静かに待っていた。
でも、下手すれば母ちゃんどころかまだ受精卵の俺ですら殺しかねないと考えるとプレッシャーが凄かった。

「直輝!」
「はっ、すまん……直人。」
「……大丈夫?」

ずっと直人に呼ばれていたことに気がつく。
彼はすっかり俺に興味津々だった。

「良かったら、散歩しない?」
「お前……学校には行かなくていいのか?」
「大丈夫、僕ね……1人で勉強してる方が理解が楽なんだよね。」

どうやら俺とはまた違ったタイプの不登校らしい。
直人は我が父ながら本当に変人である。
俺が首を縦に振るとウキウキとしながら家を出ていく。

「何見るんだ?」
「海だよ!沖縄の海……ちゃんと見たのかい?」
「……見てないけど、やめた方が。」

あろう事かこの父は海が好きだった。
ことある事に海沿いを歩きたがる。

「1回だけ!君にも見てほしいんだ!」
「ったく……しょうがないな。」

俺は今日だけ地震が絶対来ないことを祈りつつマンションを出て海辺を歩いていく。
砂浜の海岸を進んでいくと、その光景に言葉を失ってしまった。

「なんて……綺麗なんだ……。」

砂浜が白く太陽を乱反射している。
そしてコバルトブルーの海はそこがはっきりと見えて静かに波打つのが心地よかった。

地震が来たら、即死だと言うのはわかっていつつも……その美しさに呆気を取られてしまった。

「君は、少し肩の力が入りすぎてるよ。色々抱えてるのはわかるけど、もう少し肩の力を抜いてもいい。その方がもっとたくさんのことが見えてくるからね。」

俺は、心地よい常夏の海辺で伸びをする。
確かに……こんなにちゃんと見ることはなかった。
直人を救うことしか、考えてなかった。
それでより幸せになる母ちゃんの姿しか、願ってなかった。

直人は言葉ではなく心で何かを教えてくれる。
俺は……この父が大好きになっていた。
今は同い歳として肩を並べてるけど、紛れもなくこの人は父だった。

「ありがとう、直人。」
「うん、いい顔になった!なんというか……君の一生懸命になると一直線になるとこ……あの人にそっくりなんだよね。」
「あの人って?」
「天野遥香!あの子も家の機嫌を伺うことで手一杯な時期があったからね!もしかしたら君の親族だったりして~。」
「げほっ!げほっ!」

あまりの核心にむせてしまう。
そうです、その人俺の母ちゃんなんです。
そしてあなたは僕のお父さんなんですよ。

なんだコイツ……やっぱり怖え、16歳なのにどうしてこんなにも思考が深いんだよ。

「……冗談だよ。」
「まあでも!遠い親戚みたいなもんなんだよ!家族から聞かされていてね……!」
「ふーん……。」

直人は興味が逸れたのか海を見つめ直していた。
俺も何事も無かったかのように海を見つめ直す。
意外と、大きな自然を見ると目の前のことがどうでも良くなる。
そこまで考えなくてもいいのかもしれない。

「あのさ、もし……俺と直人が今回の妊娠の件で家族になったら……どう思う?」

ついそんな間抜けな質問を……してしまった。
俺はこの父からの愛を無意識に欲していたのかもしれない。
もう少し、少しでも長くこの男と見てる景色を分かち合いたかったから。

彼はニンマリと……遠くを見つめるように微笑んだ。

「そんなの……最高じゃないか。」
「え。」
「君は面白い、それでいて真っ直ぐなところが心地いいんだ。こんな僕を理解して……一緒にいてくれる。もっと君を知りたい、今はそんな気持ちだよ。」

父は俺を1人の友人として受け入れてくれていた。

「直人、約束してくれないか?」
「約束?どうしたんだ急に……。」
「この先……何があろうとも生きると決めて欲しい。」
「……へぇ。」

直人は顎に手を当てて、楽しそうに微笑んだ。
まるでこれから自分が死ぬというのに、それすらも小説のページとしてめくるかのようにウキウキとしていた。

「じゃあ僕からも……生きて欲しいと約束を守ってくれるかい?」

やっぱり彼の本心はここまで来ても読めなかった。
たまに見えてくる時があるけど、それは彼のほんの一部の油断してる時だけだった。
俺は彼の提案を静かに受け入れることにした。

何故、数日後に父が死んだのか分からない。
でもそれまでやる事は沢山やったつもりだ。

帰りに買った彼とのアイスはまた同じチョイスだった。
彼は頑なにあずきバーを頬張っている。
俺は少し飽きたのでチョコモナカジャンボを食べる。
中のクリームがチョコと共に混ざりあって、そこをモナカの食感が楽しませてくれる。

「直人飽きないよなー。美味いか?それ。」
「……僕はこの固さが好きなんだ。」
「やっぱ直人って変わってるよ。」
「君も負けてないと思うけどね。」

夕陽が砂浜を照らし、俺たちはゆっくりと帰っていく。
帰り道の街並みは少しずつあかりが目立ち始めて歩く人も増えてきた。

もし、直人がこの時代を生き抜いてくれたら、未来でどんな帰り道が待ってるのかと思うと少し心が踊りそうだった。
天真爛漫な母ちゃんと、ミステリアスな父ちゃん……その2人の団欒に囲まれて、そんな幸せを願ってもバチは出ないだろう。

肩の力を抜いて、虎視眈々と運命の日を待つ。
地震まで、あとX-7日。
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