322 / 369
酒とタバコとバレンタインデー
1話
しおりを挟む
新年も明けたというのに全くそんなおめでたい感じはなかった。
「締切締切締切……!」
私こと笛吹さやかはとにかく締切に追われていた。
珍しく作品が通らず添削や推敲を繰り返していたのだが、どうにも納得するようすがなかった。
「もう……私は……ダメだ。」
1杯のカップ酒を飲み干し、私はさらに悩み筆を走らせる。
どうにも毎年ベストセラーを作っていると、ある境地にたどり着く。
それは……ベストセラーを書き切るということは、その作品を背負ってそれを超えなきゃ行けないということだ。
そして、個人事業主の私は去年のより売れないとその分税金も引かれていくので物理的に命ギリギリで戦うしかないのだ。
でも、かれこれ8万文字ほど書いたのでもはや私の心から吐き出せるものは何も無かった。
「ただいまー……って!笛吹さん!?なんですかこのゴミ屋敷は!!」
この男は私のパトロン……もとい同居人の飯田蓮である。
通称、私はれんれんと呼んでいる。
まだまだ17歳という若さなのにしっかり者で、家賃が払えなくなった私を助けてくれた恩人である。
「れんれん~!もう私はダメだ。」
「何が!?」
「もう……あの作品たちを超えることができないかもしれない。もうこれが飲んでなきゃやってられないんだよ!!」
「うっわ……酒臭。笛吹さん……風呂も入ってます?」
れんれんは辛辣に鼻をつまみながら私に話しかける。
「入ってないよ!入る暇もないんだよ!」
「入って!?頼むから!」
そう言って、私はれんれんにシャワーを浴びさせられる。
いやいや入ったけど、少し酒が抜けてきてリラックスするのを感じた。
ああ……ちょっと冷静になるとそうでも無いかも。
考えるんだ……、ベストセラー、締切、税金。
「ちょっと笛吹さん!体びしょびしょだし、全裸で酒飲まないでくださいよ。」
「うええええ!!やっぱりこの状況シラフでいられるの無理だ!!」
そう言って、私は安酒をコップに入れて一気飲みしようと思ったられんれんに止められる。
「離して!れんれん!」
「……笛吹さん、まずは泡をちゃんと流してタオルで拭いてからでお願い……します。」
「……もう!」
私は少し怒ってシャワーを浴びた。
でも、正しいのは明らかにれんれんだって分かってる。
それでも、私は妙に正常な判断力を失っていた。
「とりあえず、言われた通りにしよう。」
☆☆
シャワーを終えると、れんれんは髪を乾かしてくれた。
私は髪が濡れたまま寝るのだけど、それがどうにも彼にとっては受け入れ難いものだった。
「ほれ!髪サラサラになった!可愛いですよー!」
「……れんれん、最近なんかお母さんみ増した気がするんだけど?」
「そりゃあそうですよ!笛吹さん美人なのに風呂入らないし、酒臭いし、Tシャツタバコのヤニで黄ばんでるし……勿体ないんですよ!」
「うるへー!そんなのれんれんの尺度じゃん。」
そう軽口を叩くがれんれんはスルーする。
もう一緒に住んで半年以上過ぎたのだけど、扱いが慣れてきて男女から完全に同居人……むしろペットの方が合ってる気がした。
「れんれんは最近は悩みとかないの?」
こうして一緒にいると明らかに私が無能に見えてしまう。
でも私は彼よりも8個も上のお姉さん。
ここは歳上の余裕というものを分からせてやるしかないだろう。
「いや、ないっすね。」
「……へ?いやいや、あるでしょ!進路とか!」
「公務員か美容師になりたいっすね。」
「な……、あ!そうだ、お金とかは大丈夫なの?」
「最近、お袋が今まで放任主義だった事の責任感じて仕送りするようになりました。あと、笛吹さんの確定申告も大体対策済みですよ。」
「きょ……今日の晩飯は!」
「今日は豚バラ鍋にしようと思ってますよ。あとは煮るだけです。」
……どうしよう、この17歳一切の隙がない。
私はその現実に無言で無能という事実を押し付けられてるようがして、居心地が悪くなった。
「……ろう。」
「へ?どうしました?」
「れんれんの……ばかやろおおおおお!」
「なんで!?」
私は、半分酒に酔ったままそのまま着替えて家の扉を開ける。
そして、私は家を飛び出していった。
「ちょ!晩飯までには帰ってきてくださいよー。」
私は、そんな声を振り切って外に出る。
もう無理!家出だ!
今は優しくされればされるほど私が傷つくというのに……れんれんは、いつもあんなに優しい。
それが今はどうしようもなくムカついてしまった。
しばらく走るのだけど、今日は寒波で気温はマイナスになっていた。
薄着で無鉄砲に飛び出してしまったので身体が凍えてしまう。
「……帰りたい。」
多分、帰って謝ればれんれんは許してくれて、温かい豚バラ鍋を食べることができるだろう。
でも、妙にそれが歳を取ればとるほど素直になるのが難しくなってる自分がいた。
どうすればいいのか分からなくて、コンビニでホームレスの如く紙パックの酒を飲んでいると、ある人物が私の前に現れた。
「……さやか?」
「こと……ねえ?」
そう、目の前にいるのは神宮寺ことね。
絹のように揃った髪と、凛とした表情をして女の私でもうっとりするような美人だ。
施設にいた頃からの友人で、彼女は相変わらずキツめのセブンスターを片手に持っていた。
「……何してるの?」
そういって、彼女は心配そうに私の元へと酔ってくる。
冬のベンチは座るだけでもひんやりしていて、風がいつもよりも強く、そして鋭く吹き込んでいた。
「締切締切締切……!」
私こと笛吹さやかはとにかく締切に追われていた。
珍しく作品が通らず添削や推敲を繰り返していたのだが、どうにも納得するようすがなかった。
「もう……私は……ダメだ。」
1杯のカップ酒を飲み干し、私はさらに悩み筆を走らせる。
どうにも毎年ベストセラーを作っていると、ある境地にたどり着く。
それは……ベストセラーを書き切るということは、その作品を背負ってそれを超えなきゃ行けないということだ。
そして、個人事業主の私は去年のより売れないとその分税金も引かれていくので物理的に命ギリギリで戦うしかないのだ。
でも、かれこれ8万文字ほど書いたのでもはや私の心から吐き出せるものは何も無かった。
「ただいまー……って!笛吹さん!?なんですかこのゴミ屋敷は!!」
この男は私のパトロン……もとい同居人の飯田蓮である。
通称、私はれんれんと呼んでいる。
まだまだ17歳という若さなのにしっかり者で、家賃が払えなくなった私を助けてくれた恩人である。
「れんれん~!もう私はダメだ。」
「何が!?」
「もう……あの作品たちを超えることができないかもしれない。もうこれが飲んでなきゃやってられないんだよ!!」
「うっわ……酒臭。笛吹さん……風呂も入ってます?」
れんれんは辛辣に鼻をつまみながら私に話しかける。
「入ってないよ!入る暇もないんだよ!」
「入って!?頼むから!」
そう言って、私はれんれんにシャワーを浴びさせられる。
いやいや入ったけど、少し酒が抜けてきてリラックスするのを感じた。
ああ……ちょっと冷静になるとそうでも無いかも。
考えるんだ……、ベストセラー、締切、税金。
「ちょっと笛吹さん!体びしょびしょだし、全裸で酒飲まないでくださいよ。」
「うええええ!!やっぱりこの状況シラフでいられるの無理だ!!」
そう言って、私は安酒をコップに入れて一気飲みしようと思ったられんれんに止められる。
「離して!れんれん!」
「……笛吹さん、まずは泡をちゃんと流してタオルで拭いてからでお願い……します。」
「……もう!」
私は少し怒ってシャワーを浴びた。
でも、正しいのは明らかにれんれんだって分かってる。
それでも、私は妙に正常な判断力を失っていた。
「とりあえず、言われた通りにしよう。」
☆☆
シャワーを終えると、れんれんは髪を乾かしてくれた。
私は髪が濡れたまま寝るのだけど、それがどうにも彼にとっては受け入れ難いものだった。
「ほれ!髪サラサラになった!可愛いですよー!」
「……れんれん、最近なんかお母さんみ増した気がするんだけど?」
「そりゃあそうですよ!笛吹さん美人なのに風呂入らないし、酒臭いし、Tシャツタバコのヤニで黄ばんでるし……勿体ないんですよ!」
「うるへー!そんなのれんれんの尺度じゃん。」
そう軽口を叩くがれんれんはスルーする。
もう一緒に住んで半年以上過ぎたのだけど、扱いが慣れてきて男女から完全に同居人……むしろペットの方が合ってる気がした。
「れんれんは最近は悩みとかないの?」
こうして一緒にいると明らかに私が無能に見えてしまう。
でも私は彼よりも8個も上のお姉さん。
ここは歳上の余裕というものを分からせてやるしかないだろう。
「いや、ないっすね。」
「……へ?いやいや、あるでしょ!進路とか!」
「公務員か美容師になりたいっすね。」
「な……、あ!そうだ、お金とかは大丈夫なの?」
「最近、お袋が今まで放任主義だった事の責任感じて仕送りするようになりました。あと、笛吹さんの確定申告も大体対策済みですよ。」
「きょ……今日の晩飯は!」
「今日は豚バラ鍋にしようと思ってますよ。あとは煮るだけです。」
……どうしよう、この17歳一切の隙がない。
私はその現実に無言で無能という事実を押し付けられてるようがして、居心地が悪くなった。
「……ろう。」
「へ?どうしました?」
「れんれんの……ばかやろおおおおお!」
「なんで!?」
私は、半分酒に酔ったままそのまま着替えて家の扉を開ける。
そして、私は家を飛び出していった。
「ちょ!晩飯までには帰ってきてくださいよー。」
私は、そんな声を振り切って外に出る。
もう無理!家出だ!
今は優しくされればされるほど私が傷つくというのに……れんれんは、いつもあんなに優しい。
それが今はどうしようもなくムカついてしまった。
しばらく走るのだけど、今日は寒波で気温はマイナスになっていた。
薄着で無鉄砲に飛び出してしまったので身体が凍えてしまう。
「……帰りたい。」
多分、帰って謝ればれんれんは許してくれて、温かい豚バラ鍋を食べることができるだろう。
でも、妙にそれが歳を取ればとるほど素直になるのが難しくなってる自分がいた。
どうすればいいのか分からなくて、コンビニでホームレスの如く紙パックの酒を飲んでいると、ある人物が私の前に現れた。
「……さやか?」
「こと……ねえ?」
そう、目の前にいるのは神宮寺ことね。
絹のように揃った髪と、凛とした表情をして女の私でもうっとりするような美人だ。
施設にいた頃からの友人で、彼女は相変わらずキツめのセブンスターを片手に持っていた。
「……何してるの?」
そういって、彼女は心配そうに私の元へと酔ってくる。
冬のベンチは座るだけでもひんやりしていて、風がいつもよりも強く、そして鋭く吹き込んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる