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酒とタバコとバレンタインデー
9話
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「1週間ぶり……かな?」
見慣れたいつものアパート。
ポストが露呈していて、ことねぇのマンションに比べたら酷い物件だ。
だけど、懐かしさと緊張感が妙に共存している。
そして、飯田と書いてある表札の私の家の前に立つ。
家の中は静かで、でもあかりが着いていた。
私はドアを開ける。
すると、れんれんが驚いた顔でこっちを見ていた。
「笛吹……さん。」
「れんれん、ただいま。」
れんれんは料理をしていた。
ひとりで食べるにはあまりにも多い量のカレーをグツグツと煮込んでいる。
寒さと空腹が全身を支配していたので私はその匂いにはらをならしてしまった。
私は……何を言えばいいんだろう。
いつもあまりにも気を使わなかったので、妙な緊張感を感じていた。
「すみませんでした!」
その前に、れんれんが頭を下げる。
この男はやっぱりわたしには勿体ないくらい誠実だと感じた。
「俺、知らないうちに笛吹さんに居心地の悪い振る舞いとかしてたみたいで……。」
「ちがうの!」
でも、私がそれを止める。
ダメなんだ、れんれんに大人な対応をさせたら。
そう思うと自然に言葉が出てきた。
「私、ことねぇの家で家事やって……すごく大変だった。
れんれんは学生しながらこんなことやってくれてたんだなって。だから……これ!」
私は思い切ってチョコレートを渡した。
れんれんは少しだけ、フリーズしてるようだった。
「こ……これは……?」
「その、いつもの気持ち!」
「へぇー!チョコレート!これ……もしかして笛吹さんが?」
「まあね!私天才だから作れちゃったわ~あはは。」
嘘だ。何回も失敗してようやく作り上げたチョコだった。
たまにどうでもいいところで嘘をつくのも私の悪い癖だった。
「これ、今食べてもいいですか?」
「え、カレー煮込んでるんじゃん!それ食ってからでも」
「今がいいんです!」
そういうと、れんれんはチョコレートを口にほうばる。
チョコの味を噛み締めて彼は下を鳴らしていた。
「うま!しかもこれピスタチオとドライフルーツも入ってるじゃないですか!マジで天才ですね。」
「そ……そうかな。えへへ。」
れんれんは美味い美味いと私のチョコをパクパクと食べる。
的確にラムレーズンやアーモンドなど味をあてて1個1個に感想をくれて、妙に私の心は満たされていった。
人生でカップ麺以外の初めての手作りがこんなにも楽しいとは思わなかった。
何より、感想を言ってもらえるのがうれしかった。
「いやー!こりゃあ美味かった!人生で1番嬉しいバレンタインですよ。」
そう言って二ヘラと笑うれんれんにとくんと心が奪われそうだった。
優しいのに、こういうところは卑怯だなと思ってしまった。
でも、一つ気になってしまう事があった。
「れんれん……よく見たらチョコ、いっぱいある。」
そう、いつものローテーブルにチョコが14個もある。
中にはハートもあるし、私のなんか比べ物にならないくらい綺麗な箱のものもある。
そっか、思えば私とれんれんは年齢がそこそこ離れている。
それに加えて、れんれんは背が高いし、優しいし爽やかで運動もできるのだから年頃の女の子からはモテの対象になってしまう。
それって、れんれんの青春を私が阻害してるんじゃないかと不安になった。
「あ~、なんか貰っちゃいましたね。まあでも義理じゃないですか?」
「いや、めっちゃハートとかあるんだけど……れんれんは、私が重荷にならない?私、生活だらしないしお風呂入らないし……れんれんよりも一回りも年上だから。」
「え?」
そういうと、れんれんは突然笑いだした。
「あはは!笛吹さんそんなこと気にするんすね!」
「するよ!」
「別に俺は笛吹さんと一緒にいる時がいちばん楽しいですよ。小説書いてる姿まじかっこいいし、お袋と揉めた時もいちばん俺を見てくれたなって思いましたから。
逆に笛吹さんのいない生活はかんがえられないっすよ。」
れんれんは相変わらず私の全てを受け入れてくれた。
良いところも、悪いところも受け止めてくれている。
私は、恥ずかしくて顔を見せることができなかった。
身長差のある彼の懐におでこをつけて顔を隠す。
「お……おお……どうしたんすか。」
「もう少し、こうさせて。」
私は、彼の事がどうしようもなく好きになったかもしれない。
25年もほとんど起きない動揺と気分の高まりが支配して、どうにも平静を保つことができなかった。
「……じゃあ、落ち着いたらカレー食べますか。」
「うん。れんれん、いつもありがとう。」
「ええ。」
そんな私をまた受け入れるかのようにれんれんは私を抱きしめる。
アパートは少しフローリングが冷たくて、でも暖房が少し暑かった。
カレーの香りがして、れんれんからもホワイトリリーの香りがする。
私は、れんれんと仲直りができた。
チョコを渡して、感謝を伝えることができた。
こうして、私の数日間の家出は終わりを告げた。
☆☆
ここは、出版社。
いつもの打ち合わせ室で編集長と打ち合わせをしていた。
「うぃー!編集長おつかれ!カンパーイ!」
「お前さん、上の人とかにバレたら怒られるから酒は内密にな。」
「え?じょーむより偉い人って限られてない?」
「ばーか、株主様がいるんだよこっちには。」
「社会ってめんどくさいな。」
私は渋々飲む編集長を置いて酒を飲む。
今日は安酒ではなく銀色のビールを流し込んでるので気分がいい。
「まあいい……それで最終調整もしてみたけど、もうこのまま出版しようと思う。」
「編集長~仕事しろよあんた。校閲とかそこら辺はあんたの仕事なのに楽してんじゃねえよ~!」
「うるっせぇよ!そんだけお前の小説のクオリティが高いんだよ!」
そう言って編集長は怒鳴る。
いや、あんたいつも4回はボツ出すでしょうが。
「……ぶっちゃけ、4つのボツもそのまま出版できるんだよ。」
「あー!まじかよ!パワハラしやがって!」
「おまえ、もうちょいコンプライアンス気にして発言してくれるか!?」
わけが分からなかった。
クオリティは問題ないし、誤字脱字もなく校閲しても矛盾も発生しないのになぜボツを出すのだろう。
「お前さん、自覚ないと思うけどボツを出す度に面白いほどクオリティあげてくるんだよ。だから妥協させたくなかったんだよ。」
「へぇーそうなんだー。」
「話聞いてる!?……まあいい、多分これも売れるから後は出版だけだ、お疲れさん。」
こうして、数ヶ月に及ぶ私の執筆は終わりを迎えた。
もっとあれもこれもダメってダメ出し食らうかと思ったので肩透かしを食らった。
「あ、編集長!これ!」
「あ?なんだこれ。」
「いつもお世話になってるから、義理チョコだよ~。本命じゃなくてすまんな。」
「お前みたいな風呂キャンセルしまくった女願い下げだ。」
「ねえ、編集長?たまにはオブラートに包んでもいいんだよ。」
「どれどれ……うん、悪くねぇ。」
そう言って編集長はチョコを食べて酒を飲み干す。
うえ~と、おっさんみたいな息を漏らしてしばらく無言になる。
「こっちも、いつもありがとうな。」
厳しい編集長が優しい言葉をくれて嬉しくなる。
「ありがとう!じゃあ……また連絡するね。」
「おう、たまにはメールも確認しろよ。」
「うん!」
私は出版社を出て、自動ドアを抜けるとビルから陽光が優しくこちらを照らしていた。
まだまだ冷え込むけど、少しだけ寒波が去ったからか暖かく感じる。
私はひと仕事を終えた達成感で大きく伸びをして、1歩を踏み出す。
酒で火照った身体は気分を陽気にさせてくれていた。
「さーて!次は……どんな物語を書こうか!」
そう言って、私は流れる川のように歩く人々の中に消えていく。今日も忙しなく東京の一日が続くように。
見慣れたいつものアパート。
ポストが露呈していて、ことねぇのマンションに比べたら酷い物件だ。
だけど、懐かしさと緊張感が妙に共存している。
そして、飯田と書いてある表札の私の家の前に立つ。
家の中は静かで、でもあかりが着いていた。
私はドアを開ける。
すると、れんれんが驚いた顔でこっちを見ていた。
「笛吹……さん。」
「れんれん、ただいま。」
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ひとりで食べるにはあまりにも多い量のカレーをグツグツと煮込んでいる。
寒さと空腹が全身を支配していたので私はその匂いにはらをならしてしまった。
私は……何を言えばいいんだろう。
いつもあまりにも気を使わなかったので、妙な緊張感を感じていた。
「すみませんでした!」
その前に、れんれんが頭を下げる。
この男はやっぱりわたしには勿体ないくらい誠実だと感じた。
「俺、知らないうちに笛吹さんに居心地の悪い振る舞いとかしてたみたいで……。」
「ちがうの!」
でも、私がそれを止める。
ダメなんだ、れんれんに大人な対応をさせたら。
そう思うと自然に言葉が出てきた。
「私、ことねぇの家で家事やって……すごく大変だった。
れんれんは学生しながらこんなことやってくれてたんだなって。だから……これ!」
私は思い切ってチョコレートを渡した。
れんれんは少しだけ、フリーズしてるようだった。
「こ……これは……?」
「その、いつもの気持ち!」
「へぇー!チョコレート!これ……もしかして笛吹さんが?」
「まあね!私天才だから作れちゃったわ~あはは。」
嘘だ。何回も失敗してようやく作り上げたチョコだった。
たまにどうでもいいところで嘘をつくのも私の悪い癖だった。
「これ、今食べてもいいですか?」
「え、カレー煮込んでるんじゃん!それ食ってからでも」
「今がいいんです!」
そういうと、れんれんはチョコレートを口にほうばる。
チョコの味を噛み締めて彼は下を鳴らしていた。
「うま!しかもこれピスタチオとドライフルーツも入ってるじゃないですか!マジで天才ですね。」
「そ……そうかな。えへへ。」
れんれんは美味い美味いと私のチョコをパクパクと食べる。
的確にラムレーズンやアーモンドなど味をあてて1個1個に感想をくれて、妙に私の心は満たされていった。
人生でカップ麺以外の初めての手作りがこんなにも楽しいとは思わなかった。
何より、感想を言ってもらえるのがうれしかった。
「いやー!こりゃあ美味かった!人生で1番嬉しいバレンタインですよ。」
そう言って二ヘラと笑うれんれんにとくんと心が奪われそうだった。
優しいのに、こういうところは卑怯だなと思ってしまった。
でも、一つ気になってしまう事があった。
「れんれん……よく見たらチョコ、いっぱいある。」
そう、いつものローテーブルにチョコが14個もある。
中にはハートもあるし、私のなんか比べ物にならないくらい綺麗な箱のものもある。
そっか、思えば私とれんれんは年齢がそこそこ離れている。
それに加えて、れんれんは背が高いし、優しいし爽やかで運動もできるのだから年頃の女の子からはモテの対象になってしまう。
それって、れんれんの青春を私が阻害してるんじゃないかと不安になった。
「あ~、なんか貰っちゃいましたね。まあでも義理じゃないですか?」
「いや、めっちゃハートとかあるんだけど……れんれんは、私が重荷にならない?私、生活だらしないしお風呂入らないし……れんれんよりも一回りも年上だから。」
「え?」
そういうと、れんれんは突然笑いだした。
「あはは!笛吹さんそんなこと気にするんすね!」
「するよ!」
「別に俺は笛吹さんと一緒にいる時がいちばん楽しいですよ。小説書いてる姿まじかっこいいし、お袋と揉めた時もいちばん俺を見てくれたなって思いましたから。
逆に笛吹さんのいない生活はかんがえられないっすよ。」
れんれんは相変わらず私の全てを受け入れてくれた。
良いところも、悪いところも受け止めてくれている。
私は、恥ずかしくて顔を見せることができなかった。
身長差のある彼の懐におでこをつけて顔を隠す。
「お……おお……どうしたんすか。」
「もう少し、こうさせて。」
私は、彼の事がどうしようもなく好きになったかもしれない。
25年もほとんど起きない動揺と気分の高まりが支配して、どうにも平静を保つことができなかった。
「……じゃあ、落ち着いたらカレー食べますか。」
「うん。れんれん、いつもありがとう。」
「ええ。」
そんな私をまた受け入れるかのようにれんれんは私を抱きしめる。
アパートは少しフローリングが冷たくて、でも暖房が少し暑かった。
カレーの香りがして、れんれんからもホワイトリリーの香りがする。
私は、れんれんと仲直りができた。
チョコを渡して、感謝を伝えることができた。
こうして、私の数日間の家出は終わりを告げた。
☆☆
ここは、出版社。
いつもの打ち合わせ室で編集長と打ち合わせをしていた。
「うぃー!編集長おつかれ!カンパーイ!」
「お前さん、上の人とかにバレたら怒られるから酒は内密にな。」
「え?じょーむより偉い人って限られてない?」
「ばーか、株主様がいるんだよこっちには。」
「社会ってめんどくさいな。」
私は渋々飲む編集長を置いて酒を飲む。
今日は安酒ではなく銀色のビールを流し込んでるので気分がいい。
「まあいい……それで最終調整もしてみたけど、もうこのまま出版しようと思う。」
「編集長~仕事しろよあんた。校閲とかそこら辺はあんたの仕事なのに楽してんじゃねえよ~!」
「うるっせぇよ!そんだけお前の小説のクオリティが高いんだよ!」
そう言って編集長は怒鳴る。
いや、あんたいつも4回はボツ出すでしょうが。
「……ぶっちゃけ、4つのボツもそのまま出版できるんだよ。」
「あー!まじかよ!パワハラしやがって!」
「おまえ、もうちょいコンプライアンス気にして発言してくれるか!?」
わけが分からなかった。
クオリティは問題ないし、誤字脱字もなく校閲しても矛盾も発生しないのになぜボツを出すのだろう。
「お前さん、自覚ないと思うけどボツを出す度に面白いほどクオリティあげてくるんだよ。だから妥協させたくなかったんだよ。」
「へぇーそうなんだー。」
「話聞いてる!?……まあいい、多分これも売れるから後は出版だけだ、お疲れさん。」
こうして、数ヶ月に及ぶ私の執筆は終わりを迎えた。
もっとあれもこれもダメってダメ出し食らうかと思ったので肩透かしを食らった。
「あ、編集長!これ!」
「あ?なんだこれ。」
「いつもお世話になってるから、義理チョコだよ~。本命じゃなくてすまんな。」
「お前みたいな風呂キャンセルしまくった女願い下げだ。」
「ねえ、編集長?たまにはオブラートに包んでもいいんだよ。」
「どれどれ……うん、悪くねぇ。」
そう言って編集長はチョコを食べて酒を飲み干す。
うえ~と、おっさんみたいな息を漏らしてしばらく無言になる。
「こっちも、いつもありがとうな。」
厳しい編集長が優しい言葉をくれて嬉しくなる。
「ありがとう!じゃあ……また連絡するね。」
「おう、たまにはメールも確認しろよ。」
「うん!」
私は出版社を出て、自動ドアを抜けるとビルから陽光が優しくこちらを照らしていた。
まだまだ冷え込むけど、少しだけ寒波が去ったからか暖かく感じる。
私はひと仕事を終えた達成感で大きく伸びをして、1歩を踏み出す。
酒で火照った身体は気分を陽気にさせてくれていた。
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