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月下に灯るメイド長
13話
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身体が火照り心地良さよりも船酔いに近いような世界がぐるぐると周り続けてるような錯覚を感じる。
私はさっきまで何をしてたのだろうか?
記憶が若干曖昧である。
確か今日は……メイド喫茶キュートローズのオープン初日で、それでいて……そうだやばい客に飲まされてた気がする。
思い出すだけで吐き出しそうに嗚咽をする。
それは女性だからというものもなく「オ゛エ゛エ゛」とドスの聞いたおっさんのような音を出してしまった。
「起きました?」
目を覚ますと赤と黒の左右非対称のツインテールをした女の子がこちらを見ていた。
この子は確か……。
「……くるみちゃん……よね?」
「だいぶうなされてましたよ、ことねさん……。」
「……ごめんなさい、見苦しいところを見せたわ。」
「いえいえ!」
そして、しばらく二人の間に沈黙が流れると、私は時計を見る。
時刻は既に2時となっていて、終電が過ぎても介抱してくれてたと思うと少し情けなくなった。
というか、シンプルに二日酔いでまだ気持ち悪い。
眠気と気だるさが同時に襲ってるような感覚だった。
「私……今日ことねさんに体張って守ってくれたの嬉しかったんですよね。」
「……そ、そうな……うっ!」
「ああ、やばそうですね。ほら……背中さすりますよ。」
私はエチケット袋を用意されてそこに吐瀉物を吐き出す。
お店の中が動物のような私のうめき声だ響き渡っていた。
何も食べてなかったので体内のものは余すとこなく吐き出されて、胃液独特の甘酸っぱい香りと逆流した負担が喉に来て苦しい。
情けない……従業員の前でこんなはしたないところを見せて。
「……ご、ごめんなさい。」
「あはは、大丈夫ですよ!」
彼女はペットボトルの水を差し出して私はそれを静かに飲む。
少しだけ悪寒と火照りが収まり心地よい感覚がして少しずつ調子を取り戻してきた。
「私いっつもNOって言えないんですよね。実は弟がいるんですけど……音楽に夢持って音大に行って、でもうちは貧しくて、それで20からはずっとキャバで働いてたんですよ。」
その話を聞いて、私は彼女の背景を考えた。
彼女はいつも本音を出さない。
仮面を常に被っていて、それでいて人より1番飲んでは売上を上げる。
店を運営する身としてはこれ以上ない頼もしい存在だったけど、私は彼女に頼りすぎていたのかもしれない。
「どんな時でもくるみちゃんだから大丈夫って思われるのが普通だったから、あの時助けてくれて本当に嬉しかったんです。私……本気でここ頑張りたくなりました。」
「……そう、なのね。」
そういって、月明かりに照らされた彼女が仮面ではない本当の笑顔をこちらに向ける。
私の思いが、また一人に伝わってるようで少しだけ泣きそうになる。
「……くるみちゃん、これからは約束して欲しいわ。しんどい時は素直に私に言って欲しいなって。別に接客が上手いとか、酒を沢山飲めるとかそんなものでは無く本当のあなたの声を尊重したいの。」
「もちろんです。でも……ことねさんもしんどかったら私に行ってください。」
「……言うわね、って、私も人のこと言えないか。」
そういって、また彼女はいつもの含みのある笑顔に戻る。私は本音を話した彼女が好きだから少し寂しくさえ感じた。
「ことねさん、吐かせといてあれなんですけど、良かったらこの後飲みに行きませんか?」
「……仕方ないわね。ちょっとだけよ。」
そういって、私たちは静まり返ったメイド喫茶を後にした。さっきまであんなに人がいたのにまるで嘘かのようなその建物を静かに閉じて行った。
☆☆
「かーっ!やっぱ刺身とビールは最高っすね!」
「……くるみちゃん、なんというかキャラ変わるのね。」
ここは秋葉原のヨドバシカメラの奥に行った飲み屋街。
サブカルに溢れた電気街とは違ってこっちはレトロな飲み屋街というような印象だった。
「……にしても、秋葉原もこんなところがあったとはね。てっきり道の真ん中でハレ晴レユカイ踊るのが全てだと思ってた。」
「ことねさん?結構偏見だし、いつの話してるんですか?」
「……え、ハルヒって世代違う?」
「んー、人周り年上の人が好きなイメージですね。」
「……ニコニコ動画とか見ないの?」
「んー!10歳の頃はみてたかもですね!でも今はYouTubeがメインですよ。」
怖……くるみちゃんは歳が近いと思ってたけどたった7歳の差でこんなにも世界は違って見えるのかと発見ばかりだった。
私は世間で言うババアなのかもしれない。
いかん、そう考えると頭がどうにかなりそうだった。
「……それにしても、キャバからメイド喫茶って結構思い切ったわね。なんかきっかけとかあったの?」
とりあえず、話題を変えよう。
そう思って質問すると、彼女は少し黙り込んでしまった。
え、私……なんかやばいこと聞いちゃった?
「実は私……一度前のメイド喫茶で働いてる時のことねさんに会ったことあるんです。」
「……え、そうなの?」
「はい!キャバの同伴でご飯かなと思ったらその人メイド喫茶が好きで……その人と行かされたんですよ。」
どうしよう、私としたことが一切記憶がない。
2回目のリピーターは覚えられるけど初見さんは覚えられないんだよね。
「あー!覚えてないって顔でしたね?」
「……そ……そんなことないわよ。」
「いやいや!バレバレですよ。でもあの時は金髪だったし多分分からないですよ。でもその時、ことねさんのダンスとか、外国人に英語で喋ってるところとかかっこよくて……私にもこういう生き方出来ないかなって思ってたんですよ。」
「……くるみちゃん。」
「それで、また話そうと思ってたら突然辞めてたからその時はすごいショックでしたよ。」
「……ごめんなさい、その時は年齢とか色々思うことがあったのよ。」
知らないところで推してくれてたんだと思うと少し申し訳なかった。
もしかしたら、彼女以外にも同じ思いしてる人がいるかもしれない。
知らないところで誰かが自分たちを求めている。じゃあ、それに報いることって今目の前のことは頑張ることにこそ意味があるんじゃないだろうか?
私はそう思うと力が出て、ビールを飲み干す。
「……くるみちゃん、ありがとう。そしてごめんなさいね。」
「ことねさん。」
「……私、頑張るから!だから一緒に成長していきま……うっ!」
言い切る前に、無闇に飲んだお酒から天罰が下される。
また悪寒が私を襲って私は胃液で焼かれた喉がさらに痛みを襲っていた。
「ことねさーん、そろそろ学びましょ。」
そろそろ夜が開ける。
少しの具合の悪さと朝の日差しをかんじる。
私はまた体調が悪くなり、そしてくるみちゃんは少しだけ苦い顔をしていた。
でもどこか、そのやり取りにいつもに増して安心感を感じた。
今日も忙しない一日が始まる。
さて、今日はどんなことが待っているだろう。
私はさっきまで何をしてたのだろうか?
記憶が若干曖昧である。
確か今日は……メイド喫茶キュートローズのオープン初日で、それでいて……そうだやばい客に飲まされてた気がする。
思い出すだけで吐き出しそうに嗚咽をする。
それは女性だからというものもなく「オ゛エ゛エ゛」とドスの聞いたおっさんのような音を出してしまった。
「起きました?」
目を覚ますと赤と黒の左右非対称のツインテールをした女の子がこちらを見ていた。
この子は確か……。
「……くるみちゃん……よね?」
「だいぶうなされてましたよ、ことねさん……。」
「……ごめんなさい、見苦しいところを見せたわ。」
「いえいえ!」
そして、しばらく二人の間に沈黙が流れると、私は時計を見る。
時刻は既に2時となっていて、終電が過ぎても介抱してくれてたと思うと少し情けなくなった。
というか、シンプルに二日酔いでまだ気持ち悪い。
眠気と気だるさが同時に襲ってるような感覚だった。
「私……今日ことねさんに体張って守ってくれたの嬉しかったんですよね。」
「……そ、そうな……うっ!」
「ああ、やばそうですね。ほら……背中さすりますよ。」
私はエチケット袋を用意されてそこに吐瀉物を吐き出す。
お店の中が動物のような私のうめき声だ響き渡っていた。
何も食べてなかったので体内のものは余すとこなく吐き出されて、胃液独特の甘酸っぱい香りと逆流した負担が喉に来て苦しい。
情けない……従業員の前でこんなはしたないところを見せて。
「……ご、ごめんなさい。」
「あはは、大丈夫ですよ!」
彼女はペットボトルの水を差し出して私はそれを静かに飲む。
少しだけ悪寒と火照りが収まり心地よい感覚がして少しずつ調子を取り戻してきた。
「私いっつもNOって言えないんですよね。実は弟がいるんですけど……音楽に夢持って音大に行って、でもうちは貧しくて、それで20からはずっとキャバで働いてたんですよ。」
その話を聞いて、私は彼女の背景を考えた。
彼女はいつも本音を出さない。
仮面を常に被っていて、それでいて人より1番飲んでは売上を上げる。
店を運営する身としてはこれ以上ない頼もしい存在だったけど、私は彼女に頼りすぎていたのかもしれない。
「どんな時でもくるみちゃんだから大丈夫って思われるのが普通だったから、あの時助けてくれて本当に嬉しかったんです。私……本気でここ頑張りたくなりました。」
「……そう、なのね。」
そういって、月明かりに照らされた彼女が仮面ではない本当の笑顔をこちらに向ける。
私の思いが、また一人に伝わってるようで少しだけ泣きそうになる。
「……くるみちゃん、これからは約束して欲しいわ。しんどい時は素直に私に言って欲しいなって。別に接客が上手いとか、酒を沢山飲めるとかそんなものでは無く本当のあなたの声を尊重したいの。」
「もちろんです。でも……ことねさんもしんどかったら私に行ってください。」
「……言うわね、って、私も人のこと言えないか。」
そういって、また彼女はいつもの含みのある笑顔に戻る。私は本音を話した彼女が好きだから少し寂しくさえ感じた。
「ことねさん、吐かせといてあれなんですけど、良かったらこの後飲みに行きませんか?」
「……仕方ないわね。ちょっとだけよ。」
そういって、私たちは静まり返ったメイド喫茶を後にした。さっきまであんなに人がいたのにまるで嘘かのようなその建物を静かに閉じて行った。
☆☆
「かーっ!やっぱ刺身とビールは最高っすね!」
「……くるみちゃん、なんというかキャラ変わるのね。」
ここは秋葉原のヨドバシカメラの奥に行った飲み屋街。
サブカルに溢れた電気街とは違ってこっちはレトロな飲み屋街というような印象だった。
「……にしても、秋葉原もこんなところがあったとはね。てっきり道の真ん中でハレ晴レユカイ踊るのが全てだと思ってた。」
「ことねさん?結構偏見だし、いつの話してるんですか?」
「……え、ハルヒって世代違う?」
「んー、人周り年上の人が好きなイメージですね。」
「……ニコニコ動画とか見ないの?」
「んー!10歳の頃はみてたかもですね!でも今はYouTubeがメインですよ。」
怖……くるみちゃんは歳が近いと思ってたけどたった7歳の差でこんなにも世界は違って見えるのかと発見ばかりだった。
私は世間で言うババアなのかもしれない。
いかん、そう考えると頭がどうにかなりそうだった。
「……それにしても、キャバからメイド喫茶って結構思い切ったわね。なんかきっかけとかあったの?」
とりあえず、話題を変えよう。
そう思って質問すると、彼女は少し黙り込んでしまった。
え、私……なんかやばいこと聞いちゃった?
「実は私……一度前のメイド喫茶で働いてる時のことねさんに会ったことあるんです。」
「……え、そうなの?」
「はい!キャバの同伴でご飯かなと思ったらその人メイド喫茶が好きで……その人と行かされたんですよ。」
どうしよう、私としたことが一切記憶がない。
2回目のリピーターは覚えられるけど初見さんは覚えられないんだよね。
「あー!覚えてないって顔でしたね?」
「……そ……そんなことないわよ。」
「いやいや!バレバレですよ。でもあの時は金髪だったし多分分からないですよ。でもその時、ことねさんのダンスとか、外国人に英語で喋ってるところとかかっこよくて……私にもこういう生き方出来ないかなって思ってたんですよ。」
「……くるみちゃん。」
「それで、また話そうと思ってたら突然辞めてたからその時はすごいショックでしたよ。」
「……ごめんなさい、その時は年齢とか色々思うことがあったのよ。」
知らないところで推してくれてたんだと思うと少し申し訳なかった。
もしかしたら、彼女以外にも同じ思いしてる人がいるかもしれない。
知らないところで誰かが自分たちを求めている。じゃあ、それに報いることって今目の前のことは頑張ることにこそ意味があるんじゃないだろうか?
私はそう思うと力が出て、ビールを飲み干す。
「……くるみちゃん、ありがとう。そしてごめんなさいね。」
「ことねさん。」
「……私、頑張るから!だから一緒に成長していきま……うっ!」
言い切る前に、無闇に飲んだお酒から天罰が下される。
また悪寒が私を襲って私は胃液で焼かれた喉がさらに痛みを襲っていた。
「ことねさーん、そろそろ学びましょ。」
そろそろ夜が開ける。
少しの具合の悪さと朝の日差しをかんじる。
私はまた体調が悪くなり、そしてくるみちゃんは少しだけ苦い顔をしていた。
でもどこか、そのやり取りにいつもに増して安心感を感じた。
今日も忙しない一日が始まる。
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