僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

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月下に灯るメイド長

18話

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その日の客足はこれまでとは比べ物にならないほど来ていた。
また忙しさでガサツになるかとおもったけどそんなことは無さそうだった。

「ことねさ~ん!オムライスとオリジナルカクテル頼むで~。」
「……わかったわすずのちゃん、すぐ作る。」
「おおきに~その間うち、4卓のテーブル片付けるわ~。」
「じゃあ、これから2名様案内しますね!」
「……お願い、舞衣ちゃん。」

明らかに連携が取れてきている。
料理を待たせることも減ったし、接客の抜けも減ってきた。
雨降って地固まる、とはよく言ったもので炎上の指摘を元に一人一人の動きが明らかに良くなっていたのだ。

「初めまして、お嬢様!メアっていいます!」
「きゃー!メアちゃん、ネットで見たけどリアルでも可愛い!」
「え……かわ……?」
「ネットで炎上してたけど、全然自信もっていいよ!私メアちゃんの頑張る姿勢好きで来ちゃったんだ!」
「ええ……!ありがとうございます!すごい嬉しい!」

このように、メアちゃんの過去の写真は寧ろ彼女の努力を測る材料となり女性のファンが圧倒的に戻ってきた。

「なんか、炎上してたからやばい店だと思ったけどすごいいい店だな。」
「だな!酒飲みのくるみちゃんと話すのめっちゃ楽しいわ。推すわ!推す!」
「ええー!ありがとうございます!あ、良かったら今いいキャンペーンもやってるんですけどどうですか?」
「「キャンペーン?」」


そして、くるみちゃんはひとつのボードを持ってニコニコしだした。そう、実はこれも店を良くする秘策でもあった。

「実はGoogleのクチコミを書いてくれた人にはスナック菓子かチェキプレゼントしてるんだけど良かったらどうです?」
「えー?どうするよ。」
「あ、でも今月目標あるらしいぜ。」
「いいよ!くるみちゃんに俺たちの愚痴とか聞いてもらったし、☆5レビューしとこうや!」
「え、いいんですか??」

男二人はあっさりと私のお店に☆5レビューをしてくれた。
こうして行くことで悪いデマよりもいい感想の絶対値が上回ってうちのお店の評判が少しずつ回復して言ったのだ。
そう、たとえ炎上してもそこから信用はいくらでも取り戻せることがわかった。
寧ろ期待値が低いまま野次馬感覚で来る人なんかは、気が付けばファンになっていた。

炎上を経てメイド喫茶キュートローズはまたひとつ強くなった。
それだけでも私は胸を張れそうだった。

しかし、炎上してるのに良い方向に向かっていたら炎上の主犯が黙っていないだろう。

カララーン

「ご主人様のおかえりです!」
「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」

……例の男がキョロキョロしながら入ってきた。
そして、また接客を無視して明らかに不思議な動きをしていた。
私も、そろそろ出番かもしれない。

「……すみません、ご主人様。」
「……。」
「……連日来ていただいてありがとうございます。失礼ですけど、カメラとかで撮影はしてないですよね?」
「してない。」

しかし、明らかに男は焦っていた。
冷や汗をかいて、喉が乾いてるのか声が掠れていた。

悪いことをしてると分かってるけど、あくまで貫き通そうとしていた。しかし、もうシラを切れないほど男はボロを出し過ぎていた。

「……店内では複数カメラを用意していて、あなたの様子も既に捉えてるんですよね。掲示板の写真もあなたの席と一致してるんですよ。」
「……。」
「……それに、あなたが荒らした評判は回復してます。」

「はあ……?なにを。」

男は明らかに今回の主犯の1人だった。
そして、回復した店の評判を見て唖然としている。

「ばかな……。」
「……ごめんなさい、最近まで気が付かなかったけどあなた……かずくんよね?」
「な!?」

その言葉に男は固まってしまった。
明らかに動揺していて目が泳いで今にも居心地が悪そうだった。

「……懐かしいわね。私が初期の頃から来てくれてて、私を推してくれた人。そんな人がこんな形で再会するとは……思いもしなかった。」
「あ……ああ……。」

そう、この人は元々私を推してくれていた。
時にはプレゼントをくれたりいつも私にチェキを撮ってくれたりと私にとってかけがえのない存在だった。
しかし、月日は経ち私はあのメイド喫茶のナンバーワンメイドとなって、それからは彼が来てもほんの数分しか話すことが出来なくなっていたのだ。

「……ねえ、どうしてこんなことしたの?」
「お前が悪いんだよ!」

男は突然声を荒らげた。
相当私は恨まれていたみたいだった。

「俺はお前を一番に推していた!ツイートに対して一番にコメントして、お前に費やしていた!そしたらお前……こんな俺に見向きもしない感覚が許せなかったんだ。」
「……ごめんなさい。でも、私には序列はつけられない。みんなを大切にしてのことねなの。」

私も歳をとった。
それに今は自分が突っ走るんじゃなくて、他の子をどう走らせるか考える立場だ。
きっとそれは……やってきた時間の長さがそうさせたのかもしれない。

「……私、あなたに感謝してるのに何も返せなかった。私のツイートに対して熱烈なリプを真っ先にくれた時は嬉しかった。イベントの時台風きて誰も来ないかと思った時にあなただけが来てくれたのも嬉しかったの。あなたがいなければ10年以上もメイド喫茶なんてできなかったと思う。」

そう言うと、男は固まっていた。

「……また帰ってきてよ。今度ははカメラとか掲示板とかなくてさ。フラットなあなたでまた会いたい。またリプ……待ってるから。」

すると、男は立ち上がって店を出ようとする。
わなわなと震えていて、明らかに居心地が悪そうだった。
きっと、嬉しい気持ちと憎い気持ちがせめぎ合ってるのかもしれない、

「ことねさん、すまなかった。俺は勘違いしていたよ。また……来るから。」
「……かずくん。ありがとう。」

「「「行ってらっしゃいませ!ご主人様!」」」

みんなも、不審な客ではなく大切なご主人様として対応をしてくれた。
その様子を男が振り返ると、嬉しそうに一歩……また一歩と歩き出すのだった。

☆☆

「ご主人様のおかえりです。」
「「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」」

それから、炎上を経てメイド喫茶キュートローズはさらに繁盛していた。
YouTubeの登録者は30万人を超えて、今や女性インフルエンサーとコラボを繰り返して秋葉原でもそれなりの知名度を得ることができた。

改めて、私はこの独特な世界観を持つこの仕事が好きだった。
私は神宮寺ことね。
施設育ちの空っぽの人生から、メイド喫茶で自分というものを見出して、10年が経った女である。
タバコを誰よりも愛し、夢のない私が夢を与えていた私が、気がついたら胸を抱いて走っていた。
そんな私も……今日で29歳になる。

「ことねさん!どうしたんですか?」
「……ううん、なんでもないわ。舞衣ちゃん。」
「まだ5組並んでますよ~。しっかりしてください!」
「……うふふ、ごめんごめん。」

私はメイド歴10年、そろそろ引退も考えたけど……やっぱり私は前に立って働くのが一番性に合っていた。
まだまだ現役メイド長として、この店を盛り上げていきたい。

そして、目の前の人を笑顔にするのが私の仕事なのだから。

カララーン
「ご主人様のおかえりです。」

もう何度言い慣れた一際変わった挨拶。
それでも、今日も精一杯のお給仕をするとしよう。

「……お帰りなさいませ、ご主人様!」


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