368 / 369
春と挫折と宮古島
6話
しおりを挟む
家のドアはいつもよりも重かった。
そして、ゆっくりと開けて俺は静かに帰ってくる。
「ただいま……。」
しかし、いざ帰ってくると日常は特に変わってる様子もなかった。
そりゃあそうだ、今回ばっかりは家出もしていなければ母ちゃんとも喧嘩していない。
変わったのは、俺が模試の結果が散々だったことくらいだった。
母ちゃんがジューと何かをフライパンで焼いている音が聞こえる。
また何かを作ってるのだろう。
「おかえり、直輝!」
「母ちゃん……何作ってるの?」
「何って……じゃーん!トルティーヤ!」
母ちゃんはクレープ状の何かをトルティーヤと言い張っていた。
トルティーヤってこんなんだっけ?もう少しモチモチとしてる気がするのだけど、薄くクリスピーに仕上がっていてクレープの方がやはり表現が近い気がしていた。
「これに……オーロラソースをかけて、ほれ!」
母ちゃんにそれを渡される。
中にはひき肉を焼いたものとレタス、トマトにピクルスが乗っていた。
俺はそれを恐る恐るたべると、そのクオリティに驚かされた。
「…美味い!」
「どう?ビッグマ〇ク超えた?」
「……う、うん。」
「え?」
母ちゃんの謎のフリで少し困惑してしまう。
いや……確かに組み合わせとしては近いものを感じるけど比較対象かと言われると少し分からない。
「ビッグマ〇ク超えた?」
「いや、なんで二回目。でも……すげー美味いよ。よく考えたね。」
「なんか、インスタで目に入ったから作ってみたの。」
「すご、普通そんな行動力ないよ。」
母ちゃんは、本当にすごい。
いつもいつも知らない面が見えて、それでいて前を進んでいる。
一瞬、試験の結果を忘れるほど美味しかった。
やっぱり、努力家な母ちゃんには敵わないなと感じてしまう。
こうやって思いついたら行動して、自分の行動に自信を持つこと……それこそが今の彼女を作っているのだ。
「母ちゃん……試験難しかった。」
「お、珍しーじゃん。直輝から弱音が出るなんて。」
「一生懸命やったんだけど、頭がフリーズしてしまうほど敵わなかった。せいぜい偏差値60前後くらいだ。」
「それでも日本全国だと上澄みなんだけど……やっぱ厳しいんだね。中卒AV女優の私にはわからん世界だわ。」
そんな自虐を彼女は続ける。
いや、そんなことは無い。
恐らく俺を産まない選択をしていたら母ちゃんは恐らく医者になっていた。
母ちゃんも俺くらいの歳の時は親が厳しくめちゃくちゃ勉強していたのだから。
「ちょっと今……本当に医学部に行けるのかわからない。だけど、俺頑張ろうと思うんだ……だから今からめちゃくちゃ勉強して」
「直輝。」
早口になる俺を母ちゃんは遮った。
まるで今闇雲に努力しても何も得られないかを悟るかのように。
「旅行いこ!直輝!」
「……は?聞いてた?俺は今から勉強して成績を上げて行こうと。」
「直輝の悪い癖!ちょっとしたしくじりを無理やり努力で詰め込んでカバーしようとする。そうやって無理ばっかすると折れちゃうよ。」
……何も言い返せない。
俺は母ちゃんに指で胸を刺されるけどなにも反論できず怯んでしまった。
「で…でも、こうしてる間にもライバルが。」
「そんなの、移動しながら勉強すればいいのよ。」
「ええ……。」
そういって、母ちゃんはカレンダーを再確認してスマホを操作しだした。
相変わらずその行動力はどこから来てるのだろうか。
「ほら、ちょうどこの土日あなた開校記念日もあって三連休じゃない。」
そう言って母ちゃんは新年の年間表を持ってニコニコしていた。
「この一週間直輝頑張ったんだから、たまには羽を伸ばさないと……あ!みて、宮古島の便が安い!」
そういって彼女はあっさりと予約を済ませてトルティーヤを食べ始めた。
「予約OK!今回はビジネスクラスにしました。」
「ビジネスクラスって何?」
「んー、まあ……そこそこ快適な席。」
「なんだそりゃ。」
調べてみると飛行機にはファースト、ビジネス、エコノミーの3種類がある。
ビジネスはコスパが良いとされ、勉強や忙しいビジネスマン向けの席になっていた。
「へえ~こりゃあ快適そうだ。」
「こういうシチュエーションで勉強もいいかもよ。」
「いや、非日常的すぎて勉強にならないよ。」
母ちゃんに押されて旅に出る事になったけど、俺は少しだけ心を驚かせていた。
確かに修学旅行で沖縄には行ったけど、あれよりももっと遠い宮古島に行くのだから。
俺は、少しだけ肩の荷が降りてまた勉強机に向かおうとすると母ちゃんは去り際に声をかけた。
「あ……直輝。」
「なんだよ母ちゃん。」
「受験は長距離走だから頑張るのも大事だけど、無理しすぎないのもひとつのコツだからね。確かに焦る気持ちは分かるけど直輝は確実に進んでいるんだから。」
「……ああ、お休み。」
そういって、俺はまた勉強机にもどって勉強をする。
しかしその晩はあまり集中が出来ずに徒労に終わってしまった。
どうにも試験のショックをまだ引きずっていたからだ。
俺は、こんな状態で本当に旅行なんか行っていいのだろうか?
どうにも時間というロウソクが燃え上がり、残された時間というロウをどんどんと溶かされてるような焦燥感に駆られる。
残された時間と自分の無力さに絶望しつつ布団に入り、俺は何度も目が覚めてその晩はよく寝れることはなかった。
俺は、自分でも気づかないうちに少し壊れかけていた。
寝ては起きてを繰り返して……気がついたら気を失うかのように深い眠りに入るのだった。
そして、ゆっくりと開けて俺は静かに帰ってくる。
「ただいま……。」
しかし、いざ帰ってくると日常は特に変わってる様子もなかった。
そりゃあそうだ、今回ばっかりは家出もしていなければ母ちゃんとも喧嘩していない。
変わったのは、俺が模試の結果が散々だったことくらいだった。
母ちゃんがジューと何かをフライパンで焼いている音が聞こえる。
また何かを作ってるのだろう。
「おかえり、直輝!」
「母ちゃん……何作ってるの?」
「何って……じゃーん!トルティーヤ!」
母ちゃんはクレープ状の何かをトルティーヤと言い張っていた。
トルティーヤってこんなんだっけ?もう少しモチモチとしてる気がするのだけど、薄くクリスピーに仕上がっていてクレープの方がやはり表現が近い気がしていた。
「これに……オーロラソースをかけて、ほれ!」
母ちゃんにそれを渡される。
中にはひき肉を焼いたものとレタス、トマトにピクルスが乗っていた。
俺はそれを恐る恐るたべると、そのクオリティに驚かされた。
「…美味い!」
「どう?ビッグマ〇ク超えた?」
「……う、うん。」
「え?」
母ちゃんの謎のフリで少し困惑してしまう。
いや……確かに組み合わせとしては近いものを感じるけど比較対象かと言われると少し分からない。
「ビッグマ〇ク超えた?」
「いや、なんで二回目。でも……すげー美味いよ。よく考えたね。」
「なんか、インスタで目に入ったから作ってみたの。」
「すご、普通そんな行動力ないよ。」
母ちゃんは、本当にすごい。
いつもいつも知らない面が見えて、それでいて前を進んでいる。
一瞬、試験の結果を忘れるほど美味しかった。
やっぱり、努力家な母ちゃんには敵わないなと感じてしまう。
こうやって思いついたら行動して、自分の行動に自信を持つこと……それこそが今の彼女を作っているのだ。
「母ちゃん……試験難しかった。」
「お、珍しーじゃん。直輝から弱音が出るなんて。」
「一生懸命やったんだけど、頭がフリーズしてしまうほど敵わなかった。せいぜい偏差値60前後くらいだ。」
「それでも日本全国だと上澄みなんだけど……やっぱ厳しいんだね。中卒AV女優の私にはわからん世界だわ。」
そんな自虐を彼女は続ける。
いや、そんなことは無い。
恐らく俺を産まない選択をしていたら母ちゃんは恐らく医者になっていた。
母ちゃんも俺くらいの歳の時は親が厳しくめちゃくちゃ勉強していたのだから。
「ちょっと今……本当に医学部に行けるのかわからない。だけど、俺頑張ろうと思うんだ……だから今からめちゃくちゃ勉強して」
「直輝。」
早口になる俺を母ちゃんは遮った。
まるで今闇雲に努力しても何も得られないかを悟るかのように。
「旅行いこ!直輝!」
「……は?聞いてた?俺は今から勉強して成績を上げて行こうと。」
「直輝の悪い癖!ちょっとしたしくじりを無理やり努力で詰め込んでカバーしようとする。そうやって無理ばっかすると折れちゃうよ。」
……何も言い返せない。
俺は母ちゃんに指で胸を刺されるけどなにも反論できず怯んでしまった。
「で…でも、こうしてる間にもライバルが。」
「そんなの、移動しながら勉強すればいいのよ。」
「ええ……。」
そういって、母ちゃんはカレンダーを再確認してスマホを操作しだした。
相変わらずその行動力はどこから来てるのだろうか。
「ほら、ちょうどこの土日あなた開校記念日もあって三連休じゃない。」
そう言って母ちゃんは新年の年間表を持ってニコニコしていた。
「この一週間直輝頑張ったんだから、たまには羽を伸ばさないと……あ!みて、宮古島の便が安い!」
そういって彼女はあっさりと予約を済ませてトルティーヤを食べ始めた。
「予約OK!今回はビジネスクラスにしました。」
「ビジネスクラスって何?」
「んー、まあ……そこそこ快適な席。」
「なんだそりゃ。」
調べてみると飛行機にはファースト、ビジネス、エコノミーの3種類がある。
ビジネスはコスパが良いとされ、勉強や忙しいビジネスマン向けの席になっていた。
「へえ~こりゃあ快適そうだ。」
「こういうシチュエーションで勉強もいいかもよ。」
「いや、非日常的すぎて勉強にならないよ。」
母ちゃんに押されて旅に出る事になったけど、俺は少しだけ心を驚かせていた。
確かに修学旅行で沖縄には行ったけど、あれよりももっと遠い宮古島に行くのだから。
俺は、少しだけ肩の荷が降りてまた勉強机に向かおうとすると母ちゃんは去り際に声をかけた。
「あ……直輝。」
「なんだよ母ちゃん。」
「受験は長距離走だから頑張るのも大事だけど、無理しすぎないのもひとつのコツだからね。確かに焦る気持ちは分かるけど直輝は確実に進んでいるんだから。」
「……ああ、お休み。」
そういって、俺はまた勉強机にもどって勉強をする。
しかしその晩はあまり集中が出来ずに徒労に終わってしまった。
どうにも試験のショックをまだ引きずっていたからだ。
俺は、こんな状態で本当に旅行なんか行っていいのだろうか?
どうにも時間というロウソクが燃え上がり、残された時間というロウをどんどんと溶かされてるような焦燥感に駆られる。
残された時間と自分の無力さに絶望しつつ布団に入り、俺は何度も目が覚めてその晩はよく寝れることはなかった。
俺は、自分でも気づかないうちに少し壊れかけていた。
寝ては起きてを繰り返して……気がついたら気を失うかのように深い眠りに入るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
