僕のお母さんは△▽女優

kyonkyon

文字の大きさ
115 / 369
第9章 俺と母ちゃんの富士五湖修行

7話

しおりを挟む
コトン……

ガラス張りの窓は闇夜に紛れ、まるで黒い壁のようだった。
そこに、温泉に入る俺の姿が映し出される。

自分の顔ってとても不思議だ。
他の人はただの他人だと認識するのに、自分を見ると複雑な気持ちが湧いてくる。

俺の顔は、痩せ型で以前よりもクマが減っている。
目鼻はくっきりしていて、昔見た自分の顔よりも余裕があるような顔だった。

そうか、顔って人柄を移す鏡のようなんだ。
きっと、変わろうと努力すると人は顔立ちが変わるのかもしれない。

まあ、それはさておき……とにかく温泉が気持ちが良かった。
お風呂だと湯冷めが早いのだけれど、温泉だと芯から温まるような感覚があって心地いい。

「たまに1人で温泉行くのもいいのかもしれないな。」

そういって、俺は温泉を後にした。

「戻ったよ~。」
「あら、早かったのね!」
「母ちゃんは風呂戻るの早くないか?もっと味わってもいいんだぞ?」
「実は母ちゃんのぼせるのが早くてね。」
「そうかい。」

母ちゃんは小さいおちょこに日本酒とイカそうめんなどを片手にブログを書いていた。

「どう?ブログの方は。」
「うん、いい感じ!談合坂で投稿したものは……いいねが150件ついてる。」
「150件!?」

いやいや、スタートとしては順調過ぎるだろ!
何をどうしたらそんないいねを貰えるのだろう。

「……母ちゃん?ちなみにアカウント名はなんてやってる?」
「え?橘遥香だけど?」
「それだぁぁぁぁぁ!」

母ちゃんは元々数万人のファンを持つ人気AV女優……それがブログを始めたなんてきいたらコアなファンはチェックするのも無理はないと思う。

「いや~、AVやめて歳をとっても人は私のことを好きで居てくれるんだね!ありがたい。」
「そのメンタルあれば何でもできそうな気がする。」

普通はAV女優やってたなんて黒歴史化する人がいる中、母ちゃんは敢えて強みに変えているのだ。
あまりにも覚悟が決まりすぎたその姿勢に脱帽せざるを得ない。

「ねね!そんなことより見てよあれ!」

母ちゃんは窓の方に指を指す。
俺はその先を見ると漆黒の暗闇の中月明かりで照らされた子抱き富士と精進湖があった。
今日は満月なので湖の形まではっきりと見えている。

「すげー綺麗だな。」
「ね!これをみながら飲む日本酒は最高よ!山梨って水が綺麗なのか透明感があって柔らかい味わいしてる。」
「ごめん、未成年なので分からない。」
「なによ~!いつかちゃんと飲みに行きましょ、それも母ちゃんの夢なんだから!」

はいはい、と適当に相槌を打つ。
やはり親としては子どもと飲むのは嬉しいものなのだろうか。

「んじゃあ、疲れたしそろそろ寝るか。」
「……ねえ、直輝?たまには一緒に寝ない?」
「やだ。」
「いや、反応早すぎでしょ。」

相手は高校生だぞ?
それに子供としては最も反抗期に近い年頃なので少し距離感が近すぎじゃないかとツッコミをいれたくなる。

「……まあ、たまにはいいか。」
「ありがとう~!」

そして、ダブルベッドで俺と母ちゃんが横になる。
高校生にもなってこんなこと……なんてぼやきたくなる。
しかし、本能なのか不思議と安心感が生まれてしまうことも感じた。

俺はその懐かしさを感じつつ、それが永遠でないことも感じてしまう。
年齢差が少ないとはいえ、俺もあと数年したら母ちゃんの元を離れてしまう。
そして、人並みに仕事して人並みに家庭を持って、気がついたら母ちゃんは弱って……いつかは亡くなってしまうかもしれない。

高校生が見るには随分先を見すぎているのかもしれ無いけど、この感覚も二度と来ないかもしれないのだ。

俺は母ちゃんに背を向けながら声をかける。

「なあ、母ちゃん……いつか俺たち離れ離れになるかもしれない。家族ってそんなもんだよな。そうなったら……母ちゃんはどうするんだ?1人はキツイだろ、再婚とかするのか?」

随分ズバズバ言ってしまった。
旅行なのに不安にさせてどうするんだと自分の軽率さを憎んでしまう。

すると、母ちゃんは俺の方向を向いてこう語った。

「再婚なんか、しないわよ。
そうなったら直輝としての家族の形は歪んでしまうじゃない。それにひとりじゃないわ、直輝が一人前の大人になって、たまにその子どもが遊びに来て……おばーちゃん!って言われながら唐揚げを作ってあげる。それってめっちゃ幸せじゃない?」

確かに、その風景は幸せそのものである。
想像するだけでもいい夢が見られそうだ。

「私ね、お父さんや家族みんなが死んじゃった時……死のうと思ったの。直輝を身ごもっていたのにね。」
「そうなの?」
「そうよ。」

その言葉にゾッとしてしまう。
もし、母ちゃんが自害の選択をしたらこの日常も無いわけだ。運命とは……ある意味ほんの少しの違いで大きく変わってしまう。この日常も母ちゃんが生み出した奇跡なのだ。

「なんで、生きようと思ったの?俺だったら死を選ぶかも。」
「簡単よ、辛いことがあったからこそ生きてみたいと思ったの。」

まだ、俺には理解の出来ない回答だった。

「死のうと、学校の屋上にたった時に色んなものを見たんだ。青く澄んだ空……そして浜辺が白く煌めく海辺、緑と調和した街並み。死ぬ瞬間にこんなに世界は残酷で美しいのかと思ったら……生きてみたくなっちゃった。この子どもにも美しい世界を見せたくなったの。」

俺は……言葉が出なかった。
決して簡単な決断ではなかったと思う。
その先にAV女優になるなんて決断があるわけだし、死ぬほうが楽な選択だったかも知れない。

でも、母ちゃんは敢えて辛い道を選んだんだ。
その先の幸せを見て。
やはり……俺はまだ母ちゃんに叶わなかった。

「なあ、母ちゃん……今日は、くっついて寝ていいか?」
「なあに~?甘えたいの?このマザコン~。」
「うっせぇ!だまってろ!」
「はいはい。」

母ちゃんの少し高めの体温が体に感じる。
どこかそこは安心感があって、懐かしささえ感じた。
それは、幼少の頃に母ちゃんに強く愛されていた証拠だろう。

俺は少しずつ……頭の働きが鈍くなって……意識が……朦朧としてきた。

「おやすみ、直輝。」

そう語りかける母ちゃんの声が聞こえる頃には俺は深い眠りについていた。
最後の母の体温に安心し身を委ねるように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...