美形令息の犬はご主人様を救いたい

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 最初のご主人様は、僕のお父様でした。

 僕は物心ついた時からお父様の犬でした。
 お父様は、僕が何か間違ったことをすれば、僕が気絶する寸前まで躾をしました。
 お父様を前にした僕に許された返事は『はい』か『わん』だけ。それ以外の言葉は全て口答えで、お父様への反抗でした。

 お父様は僕を嫌っていましたが、僕を躾けているときは楽しそうでした。
 僕は、お父様に楽しそうにしていただけることが、本当に嬉しかったのです。

 



 しかし、僕が9歳になったとき、お父様は事故で亡くなってしまいました。

 ご主人様を失い、僕は絶望しました。
 絶望から抜け出せないうちに別の家に引き取られることになりましたが、その家の方々は僕のご主人様にはなってくれませんでした。
 絶望が晴れぬまま10歳で国立学園の初等部に入学し、僕はそこで、新しいご主人様を見つけることになります。

 その方こそ、ルスラン・テオス・ゾロテスティ様。
 ルスラン様は、僕の生涯の主人となりました。
 僕が間違えれば、否を唱えれば、ルスラン様は愛を持って僕を躾けてくださいました。僕が絶対服従していても、ルスラン様が加害衝動を覚えたときには、僕を使ってすっきりしてくださいました。
 僕は、僕を使ってくださるルスラン様に心から心酔しておりました。
 僕はまさしく、ルスラン様の犬でした。

 美しきルスラン様は成績も優秀で、文武両道でした。ルスラン様はその才を遺憾なく発揮しながら学生時代を過ごしておられました。
 その中で、ルスラン様はだんだんと王家への不信感を募らせることになります。
 全くもってその通りだと、僕はルスラン様に同調しました。僕がルスラン様の言葉を否定するわけがありませんでした。
 ルスラン様は同じ思想の仲間を集めていきました。僕もお手伝いをさせていただきました。
 ルスラン様は王家の重要人物たちを殺害し、混乱させる計画を立てました。僕もお手伝いさせていただきました。
 ルスラン様は王城に乗り込みました。僕もお手伝いさせていただきました。
 ルスラン様は王の首を斬りました。僕もお手伝いさせていただきました。
 ルスラン様が騎士に斬られそうになって、僕が庇いました。

 ルスラン様は倒れる僕を置いて、

 逃げませんでした。



 あれ?

 背中から刺され、激痛の最中、ルスラン様の足が動いていないことに気が付き、ルスラン様を見上げると、こぼれそうなくらい見開かれた、美しい青い瞳と目が合いました。
 逃げてと叫ぼうとして口を開き、血が溢れました。内臓が傷ついていたようでした。ルスラン様は逃げるどころか、僕の方へ歩み寄ってきました。
 出血でぼんやりする頭でも、ルスラン様のその行動がルスラン様を危険に晒すことくらいはわかりました。僕は逃げてほしくて、だけど声が出ませんでした。

「──俺は、」

 ルスラン様のよく通る声が耳に響いて、
 ルスラン様の喉元を、王家の騎士の剣が貫きました。

 僕の隣に崩れ落ちるルスラン様。
 致死量の血を首から噴き出させるルスラン様。
 僕の方に手を伸ばそうとして、力なく下ろしたルスラン様。

 ルスラン様がもう助からないことは誰の目にも明らかでした。

 僕の頭に、様々な疑問が浮かびます。
 どうして、ルスラン様は逃げなかったのでしょうか?
 どうして、ルスラン様は僕の隣で倒れているのでしょうか?
 どうして、ルスラン様は死ななければならなかったのでしょうか?

 ルスラン様は、なにか、間違っていたのでしょうか?



 僕は、なにを間違えたのでしょうか?



 背中に鋭い痛みが走りました。とどめを刺されたのでしょう。
 思考はそこで止まり、僕は命を落としました。
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