25 / 59
第一章 記憶喪失の転生幼女〜ギルドで保護され溺愛される
闇魔法
しおりを挟むさて、ジーニアがカンザックに居住を移して来て3ヶ月程経った。
その間、アイリは週に3日は午後から魔法の練習、合間の時間に一般常識の勉強をして過ごした。
勿論、食事と睡眠と遊ぶ時間はきちんと確保し、アイリの体調には細心の注意を払って組まれた教育課程だ。
アイリは既に、水魔法はほぼ習得していた。
今日はジーニアが連れてきた、闇魔法を扱う魔道士との初対面だ。
「アイリ様、アレク殿、ミリーナさん。この子が闇魔法の使い手シークと言います。希少な属性ですので私が王都で保護していたのですが、この度の移住で一緒に連れてくることにしました。手続きの関係でこっちにくるのが遅れてしまいまして、先日やっとこちらに着いたんですよ。今日は早速、闇魔法の扱い方を学んでいきましょう。」
「あいっ。アイリでしゅ。シークしゃん、よろしくおねがいしましゅ!」
アイリはシークと紹介された少年に挨拶をすると、ペコリと頭を下げた。
「⋯ょろしく⋯」
シークはボソリと小さな声で返事をすると、俯いておずおずと隠れてしまった。そんなシークにジーニアは苦笑を浮かべる。
「この通り、シークはちょっと人見知りでしてね。ですが闇魔法の扱いに関しては一流なので安心して大丈夫ですよ。今日はルーク殿がいませんので、私が認識阻害と防音結界を張りましょう。」
そう、今日はいつもアイリと一緒のルークは後見人の手続きの件で王宮に行っているのだ。なので、代わりにアレクとミリーナが付き添っている。
「まずは闇魔法についてですが⋯実はあまり詳しくは解明されていないのです。希少という事もありますが、精神に影響を与える魔法等もあり、人々に忌避されやすいのです。しかし扱い方をきちんと学んで正しく扱えば、怖いものではありません。」
ジーニアはあえて闇属性のデメリットをアイリに伝えた。
これはきちんと知っておかなければ、アイリのように『想い』に大きく力が左右される場合、闇属性は一番厄介だからだ。
「では、まずはシークの『影使い』を見てみましょう。シーク、お願いします。」
「⋯『シャドーウルフ』『シャドーバード』」
シークが呟くと、地面から黒い影の狼と同じく黒い影の鳥が現れた。
影の狼はシークの隣でお座りをし、影の鳥は羽ばたいてシークの肩に止まった。動きはまるで生きている動物みたいだ。
アレクもミリーナも闇魔法は初めて見たらしく、目を丸くして驚いていた。そんな中アイリはと言うと⋯
「シークしゃんしゅごいのー!!ワンワンと、とりしゃんも可愛いー!」
どうやら影で出来た動物に興味津々みたいだ。
「⋯っ!?」
「ね?だから大丈夫だと言っただろう?」
アイリの反応に僅かにたじろぐシークに、ジーニアが優しく話しかける。
シークの両親は、シークに闇属性の魔力があると分かるや否や、シークを捨てた。
「気持ち悪い。こんな子産まなければよかった⋯」最後に母親にそう言われて。
それから人に心を開かなくなったシークを、ジーニアが見つけ出し引き取ることになった。希少な闇属性だった為、当時まだ王宮魔道士長として働いていたジーニアの元に情報が上がっていたのだ。
それから少しずつ心を通わし、魔力コントロールや闇魔法の扱い方を教えていった。
その中でも、シークは『影使い』と名付けた影を操る魔法が得意だった。
想像した生き物を影で創り出し操るというもので、本来の生き物と同じ特徴を活かすことができる。先程の鳥で例えるなら、空を飛ぶことができるので偵察などにはもって来いだ。
今回ジーニアがアイリに闇魔法を見せて欲しいとシークに伝えた時は、母親の言葉を思い出したのかあまり乗り気ではなかった。
また「気持ち悪い」と言われるのではないかと不安になったのかもしれない。
今までも「闇魔法は忌むべきものではない」とジーニアは伝えてきたが、やはり心の奥底では信じきれなかったのだろう。
しかし、アイリから予想外すぎる反応が返ってきて驚くシークに、ジーニアは思わず笑みが溢れた。
アイリとの出会いで、シークにも愛される喜びを感じてほしい。アイリの属性を知る皆からも変わらずに愛されて、のびのびと過ごすアイリは、忌むべき存在か?
すっかりシークの創り出した影の動物に興味を持ったアイリは、狼狽えるシークに更に爆弾を落とした。
「このワンワンたち、しゃわってもいいでしゅか?」
「!!?」
どうしたらいいか分からなくなって、シークは助けを求めるようにジーニアを見上げてきた。
そんなシークの代わりに答えてあげる。
「触っても大丈夫ですよ、アイリ様。」
アイリはそっとシークに近付くと、隣で大人しく座っているワンワン⋯もとい狼の影に触れた。
触られるのが嬉しいのか、尻尾が左右に揺れている。
(本当はシークの気持ちが現れただけなのだが、それは誰にも分からない)
「ふわぁ~ちょっとちゅめたいけど、ふんわりちてるの!」
アイリの様子を見ていたアレクとミリーナも交ざって、一緒に狼や鳥の影に触れてみる。
「わぁっ、確かにアイリちゃんの言った通りね。それに動きも本当に生きてるみたい⋯お手。」
「あっ、おいこの鳥俺の頭の上で寛ぎだしたぞ!?」
それぞれが楽しそうに触れ合う姿に、アイリは自分もシークと同じ魔法をやってみたいと言い出した。
「⋯これ、難しいかも⋯大丈夫?」
心配そうなシークだが、アイリは俄然やる気満々だ。そしてジーニアとシークの教えの元特訓し、夕食前には一匹の影を創り出せるようになっていた。
「わんわんっ!」
アイリが叫んだと同時に小さな影の子犬が地面から現れた。
アイリの元にテトテトっと走ってくると、尻尾をブンブン振って構って欲しそうに見ている。
魔法が成功した事に喜んで影の子犬と戯れるアイリの姿を、皆ほっこりして見ている。
その姿に、シークもローブの陰で自然と口角が上がっていた。
今日の所はここまでとして、また後日シークの闇魔法を見せてもらう事にした。
ジーニアとシークは帰ろうと踵を返したが、そこでアイリが呼び止める。
「ジーニャしゃん、シークしゃんも、よるご飯いっしょにたべよー?」
ギルドの食堂は一般開放されているので、基本誰でも利用する事ができる。
アイリの誘いに否やはないジーニアは、躊躇うシークを連れて一緒に食堂に向かった。
食堂内でも中々フードを取ろうとしないシークに、ジーニアは「大丈夫だよ」と声をかける。
おずおずとフードを取った少年は、黒髪で毛先にかけて赤がグラデーションのように入った綺麗な髪で、瞳はルビーのように赤く煌めいていた。
中性的な顔立ちにまだ幼さを残していたた為、ミリーナよりも年下かもしれない。
見られることに慣れないシークは、俯いてそわそわと落ち着かなそうだったが、今日は週に一度の『カレーの日』だった為、食堂には例のごとくいい匂いが充満していた。
途端に食欲を刺激され、シークのお腹が鳴る。
恥ずかしそうに更に縮こまってしまったが、そこにくぅ~っと小さな音が聞こえ顔を上げると、お腹を押さえるアイリと目があいニコッと笑われた。
シークも釣られて笑ってしまい、久し振りに沢山の人と一緒にご飯を食べた。
「美味しい⋯ですね。」
シークの呟きは、隣で食べていたジーニアにはしっかりと届いていた。
そしてすっかり『カレー』にハマってしまったジーニアに連れられ、度々シークもこの食堂を訪れるようになり、自然と人と一緒に笑いあってご飯を食べれるようになっていた。
433
あなたにおすすめの小説
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる