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第ニ章 記憶喪失の転生幼女〜幼女×モフモフは最強説!?
アイリの(獣)人たらしは止まらない
しおりを挟むアイリは完全装備でルークに抱っこされてギルドにやってきたが、そんなルークのささやかな抵抗など関係なく皆がアイリを囲んで話し掛けてきた。
「アイリちゃん久しぶりね。」
「これじゃ可愛いお顔が分からないじゃない。またルークさんの仕業ね。」
「おっ、アイリ。こないだの薬草採取も上手くいったみたいだな。」
「アイリちゃん、厨房の皆がおやつ作ったみたいだから、後で食堂にも行ってあげてね!」
わらわらと群がってくるギルド職員に冒険者達。認識阻害で分かりにくくなってるものの、アイリが笑顔を振り撒いているのはきちんと皆に伝わっていた。
そこへ先日到着したセイラン王国の獣人達も姿を表した。
「⋯この集まりは何だ?ルークさんが来たから⋯と言うより、あの幼子に対して集まっているような?」
「⋯そうみたい。皆『アイリちゃん』て子に声掛けてるみたいね。それと認識阻害かしら?いまいち表情が見えないわね。」
デュランの戸惑うような声に、ラビが耳をピクピクさせて言葉を返す。
作業中のギルド職員や冒険者達も、いつもの光景とばかりに温かい視線を送るだけで誰も何も言わないその様子に、他の獣人メンバーも戸惑いを隠せない。
そんな獣人パーティーにアリシアが声をかける。
「驚いたかしら?ここではいつもの光景なんですけど、他から来た方には不思議に映るでしょうね。顔合わせの時にまたきちんとご紹介があると思いますが、あの子はルークさんが後見人をしているアイリちゃんです。一時期このギルドで保護していたから、皆アイリちゃんの親代わりのようなもので⋯今でも見かける度に、ああなるんですよ。」
そう言って話すアリシアも、孫を見るような温かい眼差しでアイリを見つめていた。
デュランも、ルークが保護した幼子の後見人となったことは風の噂で聞いていたが、まさかここまで皆に受け入れられ認知されているとは思わなかった。
「もうすぐ他のメンバーもやって来ますので、先に会議室にご案内致しますね。」
アリシアは獣人パーティーの皆を会議室に案内すると、飲み物などを用意して部屋を出た。
漸く少し落ち着いた所で、デュランは先程のアリシアの言葉を思い返した。
「あの子がアイリ⋯ラオール王の言っていた、獣人を恐れない幼子か⋯」
今回の任務の依頼を受けた時、デュランは王直々に同胞の救出を頼まれていた。
デュランはセイラン王国でも実力を認められた冒険者で、王からの覚えもめでたい。
今回の任務に関して話していた際に、ラオールは徐に何かを思い出したのか、突然笑ったのだ。
楽しそうな嬉しそうな⋯そんな王の表情を見たことの無かったデュランは、驚きに目を見開いた。
そんなデュランの視線に気付いたのだろう。ラオールは少し気まずそうに視線を逸して表情を元に戻すと、人族の幼い女の子の事を話して聞かせてくれたのだ。
短い時間でここまで王の心に残った幼子がどんな子か、デュランも気になっていたのだが、それがまさか先程の子であるとは思わず、しかもあのルークが後見人として引き取った子なのか、と余計に関心を持った。
そんな事を考えていると部屋の扉がノックされ、ルーク達が案内されてきた。
「遅れてすまない。少し人に捕まってしまってな⋯。」
少し⋯⋯デュランは先程の光景を思い出したが、何も触れずに「いや、問題ない」と答えた。
そんなルークの腕には、先程の女の子が抱っこされていた。しかし今はフードも外されその表情が晒されていた。
さっきは認識阻害でよく見えなかったアイリを間近で目にした獣人達は、息を飲んで固まってしまった。
先程の騒動の中心にいた女の子⋯アイリは、今までに見た事もない程可愛らしい子供だった。
獣人は本能的に幼い子を可愛がり大切にするのだが、アイリに対する感情はずば抜けていた。
まるで神聖な存在であるかのようにデュランでさえ感じているのだから、他のメンバーの反応は見なくても分かる。
特に母性本能の強いラビは先程からプルプルと小刻みに震えていた。
そんなデュラン達に追い打ちをかけるように、天使は笑って声をかけた。
「はじめまちて。わたしはアイリでしゅ。みなしゃんに会えるのとってもたのちみにちてたのー♪」
デュランの横で何人かが「ゴフッ」呻き、その場で蹲り倒れた。
(⋯これは危険だ。俺達のメンタルが持たない。)
デュランは鋼の精神で何とかアイリの攻撃?を耐えたが、獣人達の殆どが瀕死の重傷を負わされた。
その様子を見ていたミリーナやアレク、サニアやジーニア達は苦笑いするしかなかった。ルークだけは何故か「うちの子可愛いだろう」とばかりに得意気な表情でうんうんと頷いている。
さて、このままでは話が進まない。
アイリには再びフードを被って貰って何とか復活した獣人メンバーは、先程の失態を詫びて改めて自己紹介を行なった。
「先日ルークさんには簡単に紹介させて貰ったが、改めて。俺はこのパーティーのリーダーでデュランだ。豹の獣人で、気配を消して相手に近づく事ができる。それと多少魔力もあるから、魔法も使える。宜しく頼む。」
最初に自己紹介をしてくれたデュランは、ルークと変わらないぐらいの年齢に見えた。しかし獣人は人族よりも成長が早く、実は見た目と違い成人してる者が多い。
デュランは背が高く靭やかな筋肉がついており、グレーの瞳に柔らかい金髪の美青年といった雰囲気だ。髪の間からは丸い耳が覗いており、細長い尻尾は腰に巻き付けていた。
「次は私ね。私は兎の獣人で名前はラビ。この長い耳で数キロ離れた先でも物音を聞き分けることができるわ。あと暗い所でも夜目が利くから夜の諜報活動も得意よ。」
ラビと名乗った女性は、背は150cmないくらいでとても小柄だったが、体つきは大人の女性で、一部の邪な男性に大変狙われやすいのだとか⋯。
淡いピンクの髪を肩まで下ろしており、長い耳をピンと立てていた。瞳は鮮やかなローズレッドの色をしている。
後ほど知るのだが、このパーティーでは一番歳上らしい。
次に自己紹介を始めたのは、ブラウンの髪にコバルトブルーの鮮やかな青い瞳が印象的な端正な顔立ちの男性だった。
三角に立った耳が特徴的で、細身ながらも筋肉質でガッシリした体格をしている。
「初めまして。犬の獣人のウルドと言います。嗅覚や聴覚も人族よりは良いですが、他のメンバーの方が優れていますね。私はどちらかと言うと万能型ですので、補助的な役割がメインです。」
「謙遜してるが、普段このパーティーでの作戦や指揮はコイツに任せている。ドーベルマン種の犬の獣人だから責任感が強いんだ。頼りにしてるよ。」
ウルドの自己紹介に、デュランが補足で紹介した。気軽に話している所を見ると、長年の信頼関係が窺い知れた。
次に、シークと変わらないくらいの子供?達が元気に自己紹介をしてくれた。
「次は僕達ね。初めまして!僕達双子の鼠の獣人なんだ。僕はルイ。」
「私はララ。これでもちゃんと成人してるからね。」
「僕達はC級だけど、今回の任務にはきっと役に立てると思うから。」
「獣化しちゃえばどこにでも忍び込めるのよ。」
「「宜しくね!」」
ルイとララは流石双子だけあって、息もピッタリ。背格好も顔立ちもそっくりだ。見分け方は、白に近い灰色の髪を右に流してるのがルイで、左に流してるのがララらしい。あと、若干瞳の色も違うらしいが、パッと見どちらも薄緑色をしている。
困らないのか聞いてみたところ、獣人は匂いで判別できるからそこまで困らないらしい⋯⋯
うん。人族用に色違いの物を身に着けて貰う必要がありそうだ。
そして最後に、こちらも鋼の精神で先程のアイリの攻撃に耐えたと思われる男性が口を開いた。
「俺は鷹の獣人、グランだ。普段はパーティーを組まずに単独で任務に当たる事が多い。今回は国からの依頼もあり、特例で参加している。慣れないこともあると思うが、宜しく頼む。」
どうやら普段は一匹狼らしいグランの挨拶に、アレクやサニアやミリーナは少し前までのルークを思い出した。
⋯今では見る影もないほどアイリにベッタリだが。
つい温かい目で見てしまったが、幸いにもグランには気付かれなかった。
グランは青みがかった灰黒色の髪に、黄金の瞳をしていた。人型をとっている今は、見た目には殆ど人族と変わらない容姿をしている。
後からデュランに聞く所によると、視力が良く微かな気配にも敏感らしい。
そして獣化すると空からの諜報活動が行える為、今回のパーティーに抜擢されたらしい。
やはり獣人は個人の能力が高いなぁ⋯と関心しつつ、だからこそ人族はそこを魔力で補って魔法を扱いカバーしている。
恐らくシークの影魔法なんかは、諜報活動には持ってこいだろう。
ルーク達もそれぞれ自身の自己紹介と属性魔法なんかも説明し、互いの能力をある程度知っておこうとの話の流れで、一同は鍛錬場に向かった。
※いつもご覧下さりありがとうございます!
前回伝えそびれておりましたが、兎の獣人冒険者として登場しました「ラビ」ですが、らび猫621さんのお名前を採用させて頂きました♪
他にも使用許可のコメント下さった方は、候補としてストックさせて頂いてますので、いずれどこかで使わせて貰いますね♪
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