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case1.綾瀬瞬の場合_1

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四月七日。
今日は僕、綾瀬瞬が高校生になった記念すべき日だ。
 今日から通うここ、酒井田高校は創立五十周年のこの辺りではそこそこに有名な進学校。最初に言っておくが僕の成績は普通…、普通と言っても中の下くらい。そんな僕がこの進学校に合格した理由は僕でさえよくわかっていない。過ぎたことは忘れる。それが僕のスタンスだ。今は入学式の最中なのだが…、校長の話はどこの学校も長いものなのだろうか。十分は話してるんじゃないか?頭が固いとこういうところでグチグチ言うんだよなとまだほとんど何も知らない校長を脳内で蔑みつつぼーっとしていたとき。隣からくいっ、と僕の制服の袖を掴む手があった。僕の幼馴染、神田凜だ。
「なんだよ、校長の話の間ぐらいじっとしていられないのか?」
「違うの、どうしても言いたくて。あそこに立ってる教頭先生のカツラ、ズレてない?」
何も違くないじゃないかと思いつつ、凜が指差す方向を見る。凜は見た目こそアホっぽいが一度見たものは忘れない、学習能力の塊というか、いわゆる地頭がいいタイプというか…、僕にもその脳を分けてほしいくらい優秀なやつだ。
凜の言う通り、確かに教頭の頭は少し地肌が覗いている。
「いや、ちょっと禿げてるだけだろ、頼むから入学式の間はじっとしてろ。」
その会話を聞いて僕たちの前の席の奴がぶふっと吹き出した。
「そこ、うるさいですよ」
教頭に注意されたらしい。
わかりやすくシュンとする凜と背筋を伸ばす前の席の人。僕は心の中で前の人に謝りつつ校長の話が終わるのを待った。
 入学式が終わり、凜と二人で教室へ向かう。
桜が綺麗に散っていた。
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