上 下
50 / 113

脱獄するぜ!

しおりを挟む
「なあ、セシリアよ……」

「なんじゃ、ヨシマサ?」

「……脱獄しよう」

 リザさんたちがいなくなった地下牢で、俺は高らかに脱獄を宣言した。

 なんだろう。
 今のセリフ、スパイ映画の主人公にでもなった気分だな。
 何気にかっこよくないか、今の俺!

「安心するのじゃ、ヨシマサ。かっこよく感じるのは気のせいじゃ、幻想じゃ、妄想じゃ」

 よし。
 悪魔のささやきは無視するとして……。

「ともかく、今すぐここから脱獄するぞ、セシリア」

「ふむ……。――して、その心は?」

「ハッハッハ! そんなの決まっているだろう!」

 いいか、セシリアよ。
 そもそも、俺たちがここに来た理由はなんだ。
 やつらを退治し、ヴァーナ公国の平和を取り戻すためだったはずだ。
 ならば、俺たちは一刻も早くここから脱出して、任務に戻らなければならないのは必定。
 そう!
 ヴァーナ公国を輝ける明日へ導くために、俺たちはリザードマンと戦わねばならないのだ!!

「だって、ぶっちゃけ奴隷とかだるいしさ~。この快適な引きニート生活ができなくなるなら、そろそろ潮時かな~って」

「ヨシマサよ、建前が奥に引っ込んで、本音が表に出ておるぞ。お主今、いっそ清々しいほどのクズ発言をしておるぞ!」

 おっと、いけない。
 最近口に出さずに会話することが多くなった所為で、口に出すべきことと考えるだけにすべきことの境が曖昧になっている気がするな。
 大いに気を付けねば……。

「まあ、わらわも奴隷になり下がる気は毛頭ないでな。ここから出ていくことには賛成じゃ。ついでに、やつらにも宿泊料を弾んでやるとしよう。ぬふふふふ……」

「ナイスアイデアだ、セシリア。派手に支払いをしてやるとするか。ククク……」

 ぬふふ……、ククク……と笑い合う俺とセシリア。
 傍から見たら、完全に俺たちの方が悪者だな、これ。
 まあいっか。俺たち、邪神と魔王だし。
 ついでに相手も極悪モンスターだから、文句は言われん。

「んじゃ、早速出るとするか。セシリア、頼むぞ」

「うむ」

 そう言って、セシリアが鉄格子の方へ向けて、手を水平に持ち上げる。
 すると、空間が凸レンズのように歪み、鉄格子にぽっかりと穴が開いた。

 そう。
 実は俺たち、いつでも脱出できたのです。
 ただ、この牢獄があまりに居心地よかったので長いこと遊んでいたけどな。

 ちなみにこの穴、セシリアの異次元収納空間の応用だ。
 セシリアが収納空間から物を取り出す時の穴を二つ開けて、檻の中と外をトンネルのようにつないだってわけだ。
 と言ってもこの穴、セシリアの目に映る範囲にしか開けられないから、牢屋の入り口が鉄の扉とかだったらアウトだったな。
 ここが古式ゆかしい鉄格子の牢屋でよかったぜ。

「よっこいしょっと。セシリア、転ぶなよ」

「心配いらん。――ほいっとな!」

 俺に続き、セシリアもピョンと牢屋から飛び出してくる。
 よし。
 これで無事に脱出成功。

 さて、お次は……。

「おおい、セシリア。例のアレ、出してくれ」

「ほいさ」

 再びセシリアが異次元収納空間に手を突っ込み、ゴソゴソと中を探る。
 しばらくして出てきたのは、一冊の和装本だ。
 タイトルは『できる! 陰陽道』。
 言わずもがな、当然これも魔導書だ。

「サンキュー。念のため収納空間にも入れておいて正解だったな」

「まあ、人間万事、備えあれば憂いなしということじゃな。――さて、それでは取られた魔導書を取り返して、あやつらを懲らしめに行くとするか」

「おうともよ!」

 和装本型の魔導書を手に、ピクニック気分で階段を上る。
 さーて、そんじゃあ反撃開始といきますか。
 待っていろよ、リザードマンたち。お前たちが鼻で笑った魔王と邪神の恐ろしさ、とくと味わわせてやる。
 クーックックック! (←人様に見せられないような悪人面)
しおりを挟む

処理中です...