残念魔王とロリ邪神は移動図書館で異世界を巡る

日野 祐希

文字の大きさ
65 / 113

準備しよう

しおりを挟む
「――で、お主はいったい何をしておるのじゃ?」

 ユーリ&クレアの兄妹と別れ、万桜号の中へ引っ込んだ俺に、セシリアが不思議そうに声をかけてくる。
 対して俺は、手を止めることなくこう答えた。

「何って、本を作る準備だよ」

「は? 本を作るじゃと?」

「そう」

 セシリアに頷き、目の前の作業を続ける。
 あの兄妹と話している時に、ピコーンと思いついたんだよね。

 ここにある本は上げられない。買ってやることもできない。
 だったら、作ればいい。

 それなら、図書館員である俺の領分でもある。
 幸い、俺だって簡単に作れる本の一つや二つは知っている。
 まさにナイスアイデアということだ。
 俺って、頭いい~。

「ふむふむ。で、お主は今、肝心な本の中身を作っておるというわけか」

 そういうこった。
 題材は、とりあえずユーリは桃太郎、セアラは白雪姫でいいだろう。二人とも、この話好きだったみたいだし。
 こいつを買ってきた紙に書き写していく。
 もちろん、文字はこの世界の文字に翻訳してだ。
 ついでに絵も写せば、立派な本を作れるだろう。

「……残念じゃが、それは無理じゃ」

「は? 別に無理じゃないだろう」

 なんか超残念そうに首を振るセシリアへ食って掛かる。

 無理ってどういうことだよ。
 これ以上ないくらい、完璧なアイデアだろうが。

 ――ハッ!
 てめえ、まさか邪魔でもする気か!

「いや、わらわは何もする気はないのじゃが……。そのな、お主の絵と字……ぶっちゃけ汚すぎて何書いてあるのかわからん」

「……は?」

 お、俺の字と絵が下手?
 ハッハッハ。そんな馬鹿な。
 俺は昔から、「あなたの絵は、なんていうかその……そう、前衛芸術ね」とか「君の文字、達筆すぎて先生にはちょっと読めないかな。できれば、崩し字じゃなくて普通の文字を書いてくれる?」と褒められ続けてきたんだぞ。
 その俺の字と絵が下手だなんて、お前、芸術性が乏しいんじゃないか?
 まったく、可哀想に……。

「あー、うん。お主が超ポジティブシンキングなのはよくわかった。お主の言うとおり、これだって見方をアクロバティックに変えれば芸術にもかろうじて見えるかもしれん」

 目を逸らして残念そうに言うな。
 それじゃあ、俺が可哀想な子みたいじゃないか。
 アクロバティックにしなくたって、普通に芸術だ。

「うんうん、そうじゃな。お主のこれは、芸術じゃ。そういうことにしておこう。――じゃがな、これはちと子供たちにはレベルが高すぎると思うのじゃ」

 俺を労わるように優しい声音でそう言うセシリア。 

 その態度は気に入らないが……ふむふむ、なるほど。
 それは考えていなかった。
 確かに、俺の芸術性は高度過ぎて、子供には理解が及ばないかもしれない。
 フッ……。自分の才能が恐ろしい。

「ああ、そうじゃな。お主の芸術は高度過ぎる。故に、今回はレベルを落として、量産品でも作るがよい」

「量産品を作るって、どうすりゃいいんだよ。ここには、紙と鉛筆しかないわけで……」

 この世界にコピー機やら何やらはないんだからな。
 他に方法はあるまい。
 子供たちには、頑張って高度な芸術を理解してもらえばいい。
 なーに、幼い内から本物の芸術に触れるのもいい勉強だ。

「……わかった。仕方ないから、これを貸してやるわい。――ほれ」

 ――ズシーンッ!

 万桜号の床が振動する。
 セシリアが取り出したのは、まごうことなき複合機(コンビニに置いてあるようなでっかいやつ)だった。
 ちなみに、コンセントは異次元収納空間内に向かって伸びている。
 あの中、コンセントもあるんだろうか。

 あと、セシリアはおなじみの愛用ノートPCを俺に差し出した。

「この複合機で絵を取りこんで、文章はパソコンで打ちこめ。一応この世界用にカスタマイズしてあるから、問題なくこの世界の文字も打てるようになっておる」

 言われてみてみれば、確かにそんなソフトウェアが入っている。
 ついでに編集系のソフトも無駄に充実しているな、このパソコン。
 本の原稿も十分作れそうだ。
 作れそうなんだが……。

「どうじゃ? これならあっという間じゃろう?」

 いや、うん。
 確かに早くて便利であっという間だけどさ……。
 なんつうか、ホント世界観ぶち壊しだよ。
 日々頑張って活字汲んだり、手で書き写している人たちに謝れ。
 てかお前、なんでこんなもん持ってんの?

「細かいことを気にしたら負けじゃ。ほれ、さっさとコピーするぞ」

「いや、俺はそろそろ自分の世界への帰還も視野に、お前とじっくり話し合うべきだと思う」
 
 こいつ、絶対俺の世界の場所知ってるだろう。
 俺の知らないところで、家電量販店とか行ってるだろう。

「ふぃー、ふぃー、ふー♪」

 相変わらず吹けない口笛を吹いて、そっぽを向くセシリア。
 うわー、適当なごまかし。
 せめてもうちょっと気合入れてごまかせや。

「……まあいい。実際助かったしな。んじゃ、遠慮なく使わせてもらうぜ」

 セシリアの頭をポンポンと撫でながら、複合機の天板を開け、本をセットする。
 こういうのも随分と久しぶりだな。
 とりあえず、ユーリ用に桃太郎、クレア用に白雪姫だな。

 とりあえずそれぞれ全ページをスキャンして、USBケーブル経由でパソコンにデータを送る。
 そしたら編集用のソフトを立ち上げて、取り込んだ画像の日本語部分を切り取り、代わりにこの世界の言葉で同じ文章を作っていく。

 フフフ。
 なんかモテそうだと思って大学時代にやっていた、翻訳バイトの経験が活きてきたぜ。(←モテたかどうかは推して知るべし)

 興に乗った俺は、ものの数時間で二冊分の翻訳を終わらせた。
 あとは最後の微調整をして、もう一度複合機へデータを送り、印刷すれば終了だ。

 ……てか、この複合機、コピー用紙満載だな。
 こんなことなら、高い金出して紙を買ってくる必要なかったぜ。
 はあ……。これがあったら、今日の晩飯ももう少し奮発できたんだけどな……。

 ……………………。

 うん。まあいいや。
 今更、後の祭りだし。
 ともあれ、これで今日のうちにやっておくべきことは終わった。
 あとは、明日のお楽しみだ。

「うん? 製本はしないのか? それに、一枚で見開き二ページ分なのはいいとして、なんで片面しか印刷しないのじゃ? 脳みそが足らずに印刷方法をミスったか?」

「別にミスっとらんわ! いいんだよ、この印刷のやり方で。あと、製本は明日、あの二人が来てからやるから問題ない」

 セシリアにパソコンを返しながら言う。

 せっかく本に興味を持ってくれてんだ。
 どうせなら、一生思い出に残るような本をプレゼントしてやりたい。
 自分で仕上げた本なら、きっといい思い出になるだろう。

「なるほどの。顔と性格の割に、なかなかピュアなことを考えるのう」

「うるせえ。大きなお世話だ」

 ニッと笑いながら、セシリアの悪態に悪態で返す。
 セシリアも相変わらずひでぇ口ぶりだが、今はバカにした素振りもない。
 こいつなりに、俺の計画へ賛同を示してくれているんだろう。
 まったく、素直じゃないやつだな。さすが邪神。

「それと、わらわも少し興味が出てきた。明日はわらわも参加するから、もう1セット用意してたもれ」

「へいへい。仰せのままに、お姫様」

 芝居がかった仕草で一礼し、もう一度セシリアからパソコンを受け取る。
 さてはて、それじゃあ最後の準備といきますか。

 俺は一度電源を落としたパソコンを立ち上げ直し、うちのお嬢様のための準備に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...