口が悪い悪役令嬢は婚約破棄されたので執事に求婚する。

東雲馨

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第1章 婚約破棄はテンプレです

ラッキーデイ

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 乙女ゲームの悪役令嬢。
 所謂負け組に転生してしまった私・ノア·サンチェスは今人生の帰路に立たされている。


 生まれてからずっと妃教育を受け、礼儀と立ち振舞いを学んだ。
 容姿はめちゃくちゃ良いし、それなりに友人にも恵まれている。
 ……はず、なのだけれど。


「ノア·サンチェスとの婚約破棄を言い渡す!」


 私の婚約者って、こんなに大馬鹿者だったっけ?
 小さい頃はもっと可愛げと思いやりがある優しい子だったはず……人は変わるのね。


 私は婚約者であり皇太子のルイ·ベネット……ではなく、その隣に怯えるように立つ正ヒロインを見つめた。


 名前は確か、マナ。
 平民出身で、飾らない態度と素朴な容姿から学内にファンクラブが存在するらしい。
 確かに、可愛らしい容姿をしているけれど。
 随分中身のない脳味噌なのね、感心するわ。
 大方、身分が高くて有名な私を蹴落としたいのだろう。
 でも、こんな子としても無駄なのよね。


「あらあら、貴女も貧乏くじを引きましたわね、同情しますわ!」


 こんなボンクラ皇太子、立派なのは肩書きだけですわよ。


 悪役っぽく高笑いし、私は「ですが、」と言葉を続ける。


「これで私も心置きなく求婚できますわ! ありがとうございます!」


 長かった。
 いやぁ、ヒロインも皇太子も、予想以上にお馬鹿さんで良かった。
 どちらか片方でも頭の良い方がいらっしゃったら失敗でしたが、それは杞憂だったのね。


「……こっち見ないでくださいお嬢様、視線が痛いです」


 ……あら、


「気付いているなら早く言いなさいよね。ヒロ、私と結婚しなさい!」


 ヒロは私の幼少の頃からの執事であり、推し。
 そして、私の好きな人だ。
 ヒロと結婚するために転生したといっても過言ではない。
 いや、本当に。
 ヒロは完璧な人間だし、そもそも私が拾った孤児だから所有権は私にある。
 だけど、そんな関係は嫌なのだ。
 物扱いなんてしたくないし、ヒロはヒロだ。


「ノア様、今日はもう帰りましょう。皇太子に婚約破棄されて気が可笑しくなってるんですよ、きっとそうです」


 うんうん、と1人で納得するヒロ。


 そんなんじゃないわよ、私は正気でヒロに告白してるのに。
 言いたいことは分かるわよ、ヒロと私じゃ身分が違いすぎる。
 でもね、身分違いの恋だって実るのよ、きっと。
 確証はないけれど。
 そういう恋愛小説だって沢山あるでしょう!?


「可笑しくなんてなってないわよ、私はヒロが好きなの」


 そう言う私を、ヒロはドアの外へ押し出していく。


 つれないわね……私ほどの美女に靡かないなんて、どういう神経してるのよ。
 私、自慢できるものといえばこの容姿と頭脳と身体能力くらいしか……って、結構あるわね。
 厳しい教育を受けたから、当たり前といえば当たり前なのだけれど。


「お嬢様、皇太子との婚約破棄の件、ちゃんと報告してくださいよ」


 念を押すように、ヒロが言う。


「分かってるわよ。明日話すわ」


 お父様って、堅物だから苦手なのよね……。
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