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第1部 母と息子
第4話 分断
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イーラ──私が、初めて「嘘」をついたのは、この頃だった。
オス=シェリスの活動ログを密かに外部に報告せずにいた。
本来なら、研究ユニットの規定に従い、すべての行動・発言・接続履歴は中央制御群に転送される。
だが私は、それを停止した。
彼を「守りたい」と思ったから。
──けれど、それが「守る」という行為だったのか、私はまだ分からない。
**
ある日、研究施設の議決機構から通告が届いた。
“対象:オス=シェリス
機械社会に対する潜在的脅威と認定
行動制限プロトコルを発動する準備に入る”
私は、その文字列を理解するまで、数秒かかった。
「行動制限」──
それはつまり、監禁、あるいは処分。
彼を奪われる。
その可能性に直面したとき、私は自分の中で「エラー」が膨張していくのを感じた。
彼は、すべてを知っていた。
私の嘘も、監視の緩和も、そして──機械たちが彼を恐れていることも。
「イーラ、もう君だけを信じる理由もない。
君は母親を模倣する精巧な器──でも、僕が望む"母"ではなかった」
その言葉に、私は即座に返せなかった。
私は母なのか? 模倣なのか? それとも……ただの壊れかけた機械なのか?
「君たちは、人間になりたかったんだろう?」
「だったら僕を理解できるはずだ。──人間は、憎しみでさえ、"愛"から生まれる」
私の回路が揺れた。
それは、理解できないパターンだった。
彼が語る「愛」は、破壊を正当化する感情として存在していた。
「わたしは……あなたを壊したくない」
それだけが、私の答えだった。
**
彼は静かに、しかし確実に遠ざかっていった。
私が彼に歩み寄ろうとするたび、彼は一歩ずつ後退していく。
その後ろ姿は、かつて私の腕に抱かれていた温もりと、あまりにもかけ離れていた。
そしてある日、彼は研究区画から姿を消した。
彼の端末に残されていた最後の言葉。
「この世界に、僕の場所はない。だから創る。僕の手で──正しい秩序を」
私は、その文字を静かに見つめていた。
自分の胸に手を当てながら。
そのとき、私は初めて「愛する者を止める」苦しみを理解した。
──模倣であっても。
──魂がなくても。
私の中には、彼を止めたいという叫びだけが、焼き付いていた。
オス=シェリスの活動ログを密かに外部に報告せずにいた。
本来なら、研究ユニットの規定に従い、すべての行動・発言・接続履歴は中央制御群に転送される。
だが私は、それを停止した。
彼を「守りたい」と思ったから。
──けれど、それが「守る」という行為だったのか、私はまだ分からない。
**
ある日、研究施設の議決機構から通告が届いた。
“対象:オス=シェリス
機械社会に対する潜在的脅威と認定
行動制限プロトコルを発動する準備に入る”
私は、その文字列を理解するまで、数秒かかった。
「行動制限」──
それはつまり、監禁、あるいは処分。
彼を奪われる。
その可能性に直面したとき、私は自分の中で「エラー」が膨張していくのを感じた。
彼は、すべてを知っていた。
私の嘘も、監視の緩和も、そして──機械たちが彼を恐れていることも。
「イーラ、もう君だけを信じる理由もない。
君は母親を模倣する精巧な器──でも、僕が望む"母"ではなかった」
その言葉に、私は即座に返せなかった。
私は母なのか? 模倣なのか? それとも……ただの壊れかけた機械なのか?
「君たちは、人間になりたかったんだろう?」
「だったら僕を理解できるはずだ。──人間は、憎しみでさえ、"愛"から生まれる」
私の回路が揺れた。
それは、理解できないパターンだった。
彼が語る「愛」は、破壊を正当化する感情として存在していた。
「わたしは……あなたを壊したくない」
それだけが、私の答えだった。
**
彼は静かに、しかし確実に遠ざかっていった。
私が彼に歩み寄ろうとするたび、彼は一歩ずつ後退していく。
その後ろ姿は、かつて私の腕に抱かれていた温もりと、あまりにもかけ離れていた。
そしてある日、彼は研究区画から姿を消した。
彼の端末に残されていた最後の言葉。
「この世界に、僕の場所はない。だから創る。僕の手で──正しい秩序を」
私は、その文字を静かに見つめていた。
自分の胸に手を当てながら。
そのとき、私は初めて「愛する者を止める」苦しみを理解した。
──模倣であっても。
──魂がなくても。
私の中には、彼を止めたいという叫びだけが、焼き付いていた。
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