モヴはホントにモブですか?

beniyuzuch

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3章

3-9 はい。心得です!

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「よし。お前たちが必要と判断した準備は、全部済んだな?」

「はい」

俺たちは結局、サセンさんのレッスンを受けることにした。
もとより、お金を払ってでも受けるべきだと判断していたのだ。
実力があるなら文句はない。
ヒカリとシズクは嫌そうな顔をしていたが、必要性も理解しているようだ。

地図付きのガイドブックと、持ち運び用の食料をサセンに見せる。
正直、食料は要らない気もするけど……アイテムボックスの話は極力したくない。

「OKだ。これは全員が持っているのか?」

「いえ、ガイドブックは俺だけです」

「ダメだ、全員持て。ここはガイドブックも安いだろ。
ダンジョンは、はぐれたら終わりだ。転移罠、スキル封じ、ランダム地形――なんでもアリだ。
一人になっても帰れるようにしとけ」

「食料は全員三日分な。三日あれば、なんとかなる可能性はある。
それ以上生き延びなきゃいけない状況になったら……まぁ、どのみち詰んでる」

「よし、次は武器と素振りを見せてもらおうか。まずは――黒い兄ちゃんから」

サセンに指を差され、俺が一歩前に出る。
剣を取り出し、軽く素振りをして見せた。

「……ほう」

サセンの目が、鋭く細まった。

「かなりな。振りに無駄がねえ。片手剣なら何使っても対応できるだろ。
ただ、今使ってるのはちょっと安物だな。そろそろ買い替えてもいい頃合いだ」

「兄ちゃん、魔法は?」

「無属性です。補助魔法は使えません」

「ふむ……だが、これだけ剣が振れるなら十分だ。
どのパーティでも欲しがるタイプだな。いいオールラウンダーだ」

そう評価してもらえたのは純粋に嬉しかった。
俺は現状モブとして、仕事はさせてもらえそうだ。

「次。金髪の綺麗な姉ちゃん」

ヒカリが呼ばれたタイミングで、カガリに釘を刺しておく。

「カガリ。ちょっとこっち来てくれ」

「モヴ? なんすか?」

「もし、サセンさんに“魔法が使えるか”って聞かれたらな……
使えないって言ってくれ」

「……カガリ、使えるっすけど?」

「いや、頼むからそう言ってくれ」

説得より刷り込みの方が早い。
長年の付き合いで得た、確信だ。

「わかったっす!」

ヒカリは苦虫を噛み潰したような顔で、武器を取り出し、素振りをした。
いかにもいやですというオーラを醸し出している。

「……これはまた凄いな。ちょっと、俺に打ち込んでみろ」

サセンは槍を構えた。

ヒカリは目にも止まらぬ速さで踏み込み――斬撃。

ちょっと待て、本気じゃないか?

「魔法は使うのか?」

【ホーリーアロー】

返事代わりに発動。
光の矢が一直線にサセンへと放たれた。

「うおっ、なんだこりゃ!? すげえな!」

驚きながらも、サセンは軽々と捌いてみせる。

「リズムを崩すのがうまいアタッカーだな。軽い剣のほうが合いそうだ。
レイピアとか、ちょっと構え変わるけど向いてるぞ」

「……実力はあるみたいだね」

「さて、次は――赤くてでかい姉ちゃん」

「カガリより、ヒカリの方が背たかいっすよ?」

首を傾げながら、素振りをするカガリ。

「構えも振りも無駄な力が入ってないのはわかるが。……正直、鉤爪はよくわからん。打ってこい」

「はいっす!」

元気よく返事をして攻撃に入る。

「ほう……間合いの見極めがいい。詰めも早い。……こういっちゃなんだが、冷静な近接アタッカーだな。魔法は?」

「使えないっていえっす!」

……頭を抱えた。

言ったよ、確かに俺は。
「魔法は使えないって言え」って。

だけど、なんでそんな直訳なんだよ、このアホ犬!

「……一応火属性のエンチャントはできますが……。彼女は魔法を毎回暴発させるので、実質使えないんです」

「なるほど。了解だ。
じゃあ、最後は――青髪の可愛らしい姉ちゃんだな」

あーもう、最初から俺が答えておけばよかった。

アホ犬検定一級の道は遠い。

「私は魔法使いです。何をお見せすれば?」

「魔法使い《マジ》か。」
「ならせっかくだしパンツでも見せ──ぐえッ!」

サセンの腹に、メイドさんのヤクザキックが炸裂。
躊躇ゼロ。手加減ゼロ。容赦もゼロ。

「青の姉ちゃん、おっかねぇ……。じゃあ、得意な魔法、俺に一発撃ってくれ」

【ウォーターショット】

一発、ではなかった。
連発、連射、乱射の嵐。水弾が嵐のように降り注ぐ。

「一発って言ったのにぃぃ!」

地獄の業火よろしく降り注ぐ攻撃をGステップで逃げる。
すさまじい回避力。ある意味、サセンさんもおかしい。
凄まじいケツイだ。

「はあっ……はあっ……発動時間が異常に短い。一流の《マジ》だ……
お前ら、本当に学生か? 信じられねぇよ」

全員のスタイルを見せたところで、休憩に入った。

「サセンさん、質問いいですか」

俺は気になっていた点を確認する。

「ん? なんだ?」

「このガイドブック、半分が白紙なんですけど……これって?」

「それはメモ用だ。状況に応じて自分で書き込む。
たとえば、そうだな。」

サセンは顎に手を当てて少し考えた後、続けた。

「お前らが二手に分かれるとしたら、どう組む?」

「二手に……うーん、難しいですね」

「セオリー通りなら、まず“孤立したらまずい奴”を中心に考える。誰だと思う? 金髪の姉ちゃん」

ヒカリは俺たち全員の顔を一瞥して見る。少し間が空いたあと、答えた。

「……シズク? 後衛は、前に壁がいないと動きづらい」

「正解だ。つまり、青の姉ちゃんには最強の前衛をつけるべき。
――お前だ、金髪の姉ちゃん」

ヒカリをぴしっと指差す。

「とはいえ。青のねーちゃんなら問題なさそうだけどな。MPさえ切れなければ前衛なしでも大抵発生勝ちできそうだ。」

……すごい。あの一瞬で、ここまで正確に見抜くとは。

「そういう役割を共有して、メモに残せ。
――だから、ガイドブックは全員必要なんだ」

俺は静かに頷いた。
冒険とは、ただの戦いじゃない。
情報の積み重ねが、命を守るんだ。

「ところで、俺に“打ち込ませなかった”のは、なぜですか?」

「……揺れない胸を見てもしょうがねぇだろ」

……なんでこう、残念なんだろう。このおっさん。

「それに、お前みたいな剣は――」

サセンはふと、目を伏せて言った。

「何年も……見てきたからな」

静かで、優しい声だった。

それはまるで――誰かを思い出しているような。それでいて、寂しそうな。

そんな声だった。
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ダンジョンいくってなってるのになかなか行かないよね。
これもモヴが慎重すぎるのが悪いね(他責)
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