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保護観察
第八話:地獄の金魚
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第八話:地獄の金魚
ーこれまでのあらすじー
怪異対策課の月乃に保護された金魚の幽霊の怪異である八宵。現在、保護観察中ではあるが、外出の許可を得て京都を散策するのであった。ハ宵の事を思い、あるお土産屋で、余命いくばくも無い金魚を購入する月乃。八宵はそのことに感謝するのだが、自分の過去についても思い出すのであった。
ある縁日の事でした。ある公園、そこの木に金魚が一匹、金魚掬いの袋に入れられたまま、静かに吊るされていました。周りは楽しく賑やかにお祭り気分です。とても人間達は楽しそう…。その金魚は薄いビニール越しにじっと人間界を眺めながら、息絶えようとしていました。
「ー狭い。苦しい。あっちに行きたい。ここから動けない。誰も見てくれない。誰も助けてくれない。一人ぼっち。ここだけ暗いー」
その金魚は、木に吊るされたまま三日間の時間を経て死んでゆきました。生前に人間への憎しみを拗らせてしまったその金魚は、ゆっくりと地獄に落ちていったのでした。
地獄は金魚にとって、そう悪い場所ではありませんでした。金魚の憎しみの感情に寄り添う、一人の悪魔がそばに居たからです。金魚はもう一人ではありませんでした。
しかし、金魚には思うところがありました。こうやって、ただただ憎しみの連鎖の音を聴き続ける事に何か意味はあるのだろうかと。本当に自分はこのまま、落ちていく所まで落ちていくのかと。
毎日毎日そう考えていましたが、とうとう疲れて何も考えられなくなりました。地獄でじっとしていると、金魚を地獄から掬ってやろうとする人間が現れました。その人間はどうやら現世における死霊使いのようでした。
金魚はただただ身を任せて、もう一度人間界に出てみることにしたのです。
ーー
「月乃~金魚鉢はどこに置くの?」
八宵は月乃の下宿先に来ていた。お土産屋さんで譲ってもらった余命いくばくもない金魚をどうにかして看取ろうと、気を張っているらしい。
月乃はというと、自分の霊力で目の前の金魚鉢に入っている金魚の余命も、だいたい感じ取っていた。ただ、霊力を使わなくとも目の前の金魚がかなり弱っているのは明白の事実であった。
「金魚鉢はなるべく日の当たらないような所で…薬浴もできたらしてやりたいけど…」
と月乃は八宵と、金魚鉢の金魚に語りかけた。
「この子さぁ、尻尾も背びれもぼろぼろだよ…可哀想に…どうしてこんなことになるまで放置してたんだろう…」
と八宵は今すぐにも泣きそうな表情をしている。
月乃はというと、まぁ割とよくある事だからな、と考えつつ八宵に何と声を掛ければ良いのかが分からなかった。
二人であれこれと金魚鉢の周りを整備していると、八宵が月乃に声をかけた。
「ねぇ、月乃、折角だからさ、この子に名前つけてあげようよ、僕はこの子の事、”金魚”じゃなくて名前で呼びたいな」
その事に対しては月乃はやや反対であった。変に情が入りすぎると、かえって金魚が死んだ時に辛いからである。
月乃はとっさに
「いや、名前をつけるのはやめておこう…これはお前のためでもあるし…」
と言うと八宵は遮るように強い口調で月乃に反発した。
「嫌だよ!どうしてそんな冷たい事言うのさ!月乃はほんとに何も分かっていないよね…!」
今まで八宵が強い感情で月乃に歯向かうようなことがなかったため、月乃はその剣幕に大変驚いてしまった。
八宵は続けて
「もういいよ、この子の名前は僕だけのものだから、月乃には教えてあげない。僕が呼ぶだけだからねっ!」
とかなり腹を立てている様子であった。
八宵はしばらくの時間金魚鉢をじっと眺めていた。外は夜が深まっていた。
月乃は
「お前、そろそろ保護室に帰らなきゃ駄目だろ?俺がちゃんと送ってやるから、もう帰るぞ…」
と八宵に提案した。
八宵はまだ帰りたくないようであったが、月乃に迷惑をかける事もしたくはなかった。
八宵はやや渋々ながらも、保護室に帰ることにした。その夜道の道中は、二人とも何も話さずにただ気まずい雰囲気が流れていたのであった。
ーこれまでのあらすじー
怪異対策課の月乃に保護された金魚の幽霊の怪異である八宵。現在、保護観察中ではあるが、外出の許可を得て京都を散策するのであった。ハ宵の事を思い、あるお土産屋で、余命いくばくも無い金魚を購入する月乃。八宵はそのことに感謝するのだが、自分の過去についても思い出すのであった。
ある縁日の事でした。ある公園、そこの木に金魚が一匹、金魚掬いの袋に入れられたまま、静かに吊るされていました。周りは楽しく賑やかにお祭り気分です。とても人間達は楽しそう…。その金魚は薄いビニール越しにじっと人間界を眺めながら、息絶えようとしていました。
「ー狭い。苦しい。あっちに行きたい。ここから動けない。誰も見てくれない。誰も助けてくれない。一人ぼっち。ここだけ暗いー」
その金魚は、木に吊るされたまま三日間の時間を経て死んでゆきました。生前に人間への憎しみを拗らせてしまったその金魚は、ゆっくりと地獄に落ちていったのでした。
地獄は金魚にとって、そう悪い場所ではありませんでした。金魚の憎しみの感情に寄り添う、一人の悪魔がそばに居たからです。金魚はもう一人ではありませんでした。
しかし、金魚には思うところがありました。こうやって、ただただ憎しみの連鎖の音を聴き続ける事に何か意味はあるのだろうかと。本当に自分はこのまま、落ちていく所まで落ちていくのかと。
毎日毎日そう考えていましたが、とうとう疲れて何も考えられなくなりました。地獄でじっとしていると、金魚を地獄から掬ってやろうとする人間が現れました。その人間はどうやら現世における死霊使いのようでした。
金魚はただただ身を任せて、もう一度人間界に出てみることにしたのです。
ーー
「月乃~金魚鉢はどこに置くの?」
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月乃はというと、自分の霊力で目の前の金魚鉢に入っている金魚の余命も、だいたい感じ取っていた。ただ、霊力を使わなくとも目の前の金魚がかなり弱っているのは明白の事実であった。
「金魚鉢はなるべく日の当たらないような所で…薬浴もできたらしてやりたいけど…」
と月乃は八宵と、金魚鉢の金魚に語りかけた。
「この子さぁ、尻尾も背びれもぼろぼろだよ…可哀想に…どうしてこんなことになるまで放置してたんだろう…」
と八宵は今すぐにも泣きそうな表情をしている。
月乃はというと、まぁ割とよくある事だからな、と考えつつ八宵に何と声を掛ければ良いのかが分からなかった。
二人であれこれと金魚鉢の周りを整備していると、八宵が月乃に声をかけた。
「ねぇ、月乃、折角だからさ、この子に名前つけてあげようよ、僕はこの子の事、”金魚”じゃなくて名前で呼びたいな」
その事に対しては月乃はやや反対であった。変に情が入りすぎると、かえって金魚が死んだ時に辛いからである。
月乃はとっさに
「いや、名前をつけるのはやめておこう…これはお前のためでもあるし…」
と言うと八宵は遮るように強い口調で月乃に反発した。
「嫌だよ!どうしてそんな冷たい事言うのさ!月乃はほんとに何も分かっていないよね…!」
今まで八宵が強い感情で月乃に歯向かうようなことがなかったため、月乃はその剣幕に大変驚いてしまった。
八宵は続けて
「もういいよ、この子の名前は僕だけのものだから、月乃には教えてあげない。僕が呼ぶだけだからねっ!」
とかなり腹を立てている様子であった。
八宵はしばらくの時間金魚鉢をじっと眺めていた。外は夜が深まっていた。
月乃は
「お前、そろそろ保護室に帰らなきゃ駄目だろ?俺がちゃんと送ってやるから、もう帰るぞ…」
と八宵に提案した。
八宵はまだ帰りたくないようであったが、月乃に迷惑をかける事もしたくはなかった。
八宵はやや渋々ながらも、保護室に帰ることにした。その夜道の道中は、二人とも何も話さずにただ気まずい雰囲気が流れていたのであった。
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