月下のもと、彼岸の金魚

yomoginotetyou

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保護観察

第十話:金魚の死

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第十話:金魚の死


 八宵をいつものように保護室に送り続けた月乃は、自分の部屋へと帰った。寝る前に金魚鉢の中の金魚の様子を見る。金魚はやはり動きも鈍く、ふらふらと水中を漂っているだけで元気がない。飼った当所よりあまり餌を食べていなかったのも気になるところだった。

 やはり、今晩が山場だろうか…八宵を保護室に帰して良かったのだろうか…八宵も金魚のことを看取りたいのではないか、いや、むしろ自分一人で看取ったほうが、八宵のためになるのではないか…と月乃は色々と考えてしまった。

 月乃はとりあえず明日の仕事や八宵のためにも早く眠ろうと思い、床についた。

 次の日の朝、金魚鉢を確認すると、金魚は死んでいた。月乃はやはり朝までは、もたなかったか…と思うと同時に、八宵にはなんと説明したらよいかが分からないでいた。しかし、隠しておくわけにもいかない。保護室で八宵に会ったら、きちんと話そうと思い、出勤の準備を始めた。

 ただ、金魚をそのままにしておくのも、しのびない。月乃は金魚の死体を柔らかい半紙で包み、さらにハンカチで包んだ。

 保護室に着くと、やはり八宵は金魚の事をいの一番に聞いてくる。金魚の事について「ねぇ、あのこは大丈夫?ごはんはきちんと食べれてるの?」
 と。

 月乃は静かに、八宵に今朝金魚が死んでしまった事を告げるのであった。


 月乃の怪異対策課での業務が終わると、やはり八宵は月乃の部屋に、たとえ死んでいてしまっていても金魚の様子を見に行きたいと懇願した。月乃もそれは分かっていて、八宵を自分の部屋に、また招く事を決めた。

 月乃の業務が終わるまでの間、やはり八宵は一人保護室で泣いていたようだ。顔を見てすぐに分かった。月乃はこういう時に、どうやって声を掛ければよいかが、分からなかった。自分にも何か気の利いたことが言えたら、どんなに良かっただろうかと思った。

 八宵はというと、思ったより落ち着いていて
「ごめんね、もう永くないって分かってたのに、月乃に押し付けるみたいな事しちゃって…」
 と悲しそうにつぶやいた。

 月乃はというと、
「別に、いいよ」
 と答えて八宵の頭を軽く撫ででやった。

 月乃は
「金魚のお墓を作ってやるか」
 と八宵に提案すると、八宵はこくりと頷いた。

 死んでしまった金魚は何か植木鉢に土を入れて土葬してあげよう、という話になった。月乃の提案で、何か植物でも植えてやるか、という話にもなったのだが、今はまだ何も植えずに置いておく事になった。そして、金魚のお墓を自分の保護室に置いて欲しい、という八宵の願いだったため、月乃は後日、八宵の保護室に植木鉢を届ける事になった。

 外は、随分と夜が深けてしまっていた。月乃は八宵をこのまま保護室に送るのか、自分の部屋に泊めるのかを悩んだ。八宵を今晩放っておくと、きっと保護室で眠る事もせずに一晩中泣いているのだろう。自分は、八宵の担当であるという立場があるのだが、今晩だけは八宵を放っておくことはできなかった。

 八宵は月乃から
「今日は泊まっていってもいいから」
 と言われると、うんと小さく頷いた。二人は軽くご飯を食べて、八宵の好きなテレビを見たり、手間が省けるので二人一緒にお風呂に入ったりして夜の時間を過ごした。

 月乃の部屋にはベッドは一つしかないため、月乃と八宵はひとつのベッドで二人で添い寝をする事になった。月乃は、八宵を後ろからぎゅっと抱きしめてやると、流石に八宵も驚いて、
「どうしたの月乃?」
 と問いかけた。

 対して月乃はというと、
「こうやって一晩中抱きしめておけば、お前の霊力も安定するし、呼吸も安定できて手間が省けるだろ?」
 と少しも恥ずかしげもなく、少々ずれた事を言うのであった。

 八宵は
「なにそれ、なんかスマホの充電みたいに思われてない?なんか…月乃ってやっぱりデリカシーないよね…」
 と呆れたように言うのであった。

 それでも、八宵は大変嬉しそうに月乃に抱きしめられていた。月乃はあることが気になっていたので、一つ八宵に聞いてみる事にした。

「なぁ、八宵、結局金魚の名前はなんだったんだ?」
 すると、八宵はイタズラっぽく
「月乃には教えてあげないよ~~だ。でも、そうだな、じゃあヒントだけ教えてあげる、耳貸して」
 と月乃の方を向き直して言うのであった。

 八宵は月乃の耳元で
「えっとね……大好き…だよ」
 と呟くのであった。

 月乃は、いきなり耳元で告白のような事をされてしまい困惑してしまう。しかし、それ以上は八宵もなにも言わずただただ、月乃に抱かれていることに安心して眠りにつくのであった。

 次の日の朝、目覚まし時計が鳴ると八宵が起きる前に、月乃は目覚まし時計止める。

 月乃は(八宵は……まだ寝てるようだ…もう少し寝かせて早めに保護室に送らなきゃな。後で外泊許可書も書いて提出して…)などと考えていた。

 ふぅと一息つくと月乃は昨晩は全然寝られなかったな…と思うのであった。
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