月下のもと、彼岸の金魚

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月乃愛海と八宵の出会い

第五話:廃屋の金魚

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第五話:廃屋の金魚

ーこれまでのあらすじー
 月乃は金魚の幽霊の怪異である少年の八宵と交流を始める。八宵は月乃に友好の証として結いゴムを渡す。八宵は心の底から月乃のことを信用している訳ではなく、その日は自分隠れ家にしている廃屋に帰るのであった。

 八宵は、月乃と分かれて自身の根倉としている廃屋へ帰って行った。そこには、木箱と汚れた毛布がある。これが八宵の日常である。その晩、八宵は床につくと、こんな事を考えていた。

「やっぱりあの月乃って人、今まで会って来た人間達とはちょっと違う感じがする…なんか悪びれてるのに、良い人にもなれない、みたいな…」

「まぁでも、もう会う事はないかな…根は良い人そうだし、なんか僕のためだけに利用するのも可哀想だしな…」

 八宵自身、あまり人間を頼るのは好きではない。それは、八宵自身が、心の奥底に人間に対する憎しみの感情を払拭できていないからである。

 八宵は、今まで人間界で野良猫のように、のらりくらりと生きてきた。それは、特定の個人に固執する事で、かえって他人から強く重い感情を向けられるのが嫌だからである。

 そんな事をぼんやり考えていると、八宵はいつのまにか眠りに落ちていたのであった。

 次の日、八宵は目を覚ますと、次に利用できそうな人間を探しに行く算段をしていた。

「そろそろ手持ち無沙汰だし、シャワーも浴びたいから、適当に人間拾いに行くか…」

 ふぅ、とため息をつき、立ちあがろうとすると、自分の目の前に影が覆いかかる。ここに誰か来ているのである。

 ハッと気づくと月乃が八宵の根倉に来ていた。

 八宵は
「月乃……?なんでここに?」
 とぽつりとこぼした。

 月乃も分かりやすく大きくため息をつくのであった。
「俺の使い魔がお前の気配と霊気を覚えてるんだよ。クリオネが、ここだって教えてくれたから」

 八宵はとっさに目を逸らしてしまった。

 月乃は八宵の事を見透かしたように
「こんな所で暮らしてるなんてな、何がお家に帰る、だよ。お前みたいな、はぐれ怪異なんてな、人間界ではトラブルの元なんだよ」
 とかなり強い口調で八宵に言い放った。八宵は何も言えなくなっていた。

 月乃は続けて
「ちょっと怪異対策課まで来い。そこでちゃんと俺が聴取するから…」
 と、やや乱暴に提案された。八宵はもう何も言える事もできず、ただただ月乃と手を繋ぎ、また怪異対策課に向かうのであった。


 怪異対策課に着くと、八宵は、地下にある怪異保護収容所という所に案内された。そこにある部屋は、鉄子牛はついてはいるものの、ワンルームでテレビや本棚やシャワー室、ベッドや机などの生活必需品が置いてあるのであった。

「お前は今日からここで生活しろ。ちゃんと飯や足りない霊力の事も考えてやるし、俺がちゃんと見回りに来てやるから…」

「そんなことして、月乃に迷惑かかるんじゃないの?」
と八宵は嬉しい反面、少し泣きそうな表情をしている。


「お前の人間界での目撃情報とか噂とか実際色々あがってきてるから、これは俺だけじゃない、上からの命令なんだよ。とりあえず今から色々話聞くから、そこに座れ」
 と月乃から促され、八宵は自分が最近人間界にやって来たこと、これまで人間を利用して生きながらえて来たこと、など色々と話す。

 月乃は大体の話を聴取し終えると、
「お前の担当は、一応俺になるから、困った事とかあったらすぐ言えよ。あと、部屋の設備は好きに使って良いから」
 と。

 八宵はぽつりと
「月乃…なんか…色々ありがとう…」
 と俯いて答えるのであった。

 月乃は続けて
「それで、お前の呼吸は?そろそろまた霊力が足りないんじゃないのか?」
 と聞いてみた。八宵はこくりと頷いた。

 月乃は八宵をちょいちょいと、手招きすると、八宵の事を後手にぎゅっと抱きしめるのであった。八宵は驚いて、ぎょっとした表情をするが、

 月乃は
「こうしてるだけでも、俺には水系の霊力が備わってるから、霊力ちょっとは分け与えられるだろ、俺も一日に何回もクリオネが呼べるわけじゃないし…」
 と。

 八宵は
「月乃ってさぁ…意外とさぁ…ちょっと天然だよね…」
 と戸惑いながら、頬を赤くして言うのであった。

 こうして、金魚の幽霊の怪異の八宵は、怪異対策課の職員である月乃の保護対象になるのであった。
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