48 / 121
第二章 戴冠者を襲うもの
3ジャックの再来
しおりを挟む神都ニフタにある城を出る。
あの神聖な空気は何処へやら、ヒトビトが賑わいを見せる声が聞こえる。城から見えるニフタの光景は圧巻で、渦巻状に縦並ぶ家屋を見てげんなりとした気持ちにメアリーはなった。これからここを登るのか、そう思えば立地の悪さに悪態をつけたくなるもの、同じことを思ったてだろうアリオストロもなんだかどことなく嫌そうであった。
そんなメアリーたちは一度道の端っこの方へと向かってから、金髪の少女の方向を振り返った。
そんな対応をされるとは思っていなかったのだろうか、驚いたように肩を跳ねさせて少女は持っていた飾りのある杖を胸元で強く抱きしめる。まぁ、先ほどまで命を狙われていたのだから、当然な反応だろう。メアリーはそう思いつつ手を差し出すことにした。
こう言うのは躊躇っていても正直なところよくない。
だからさっさと終わらそう。
そう思ってメアリーは「改めて」と言葉を紡いだ。
「改めて初めまして、記憶の戴冠者のメアリー。メアリー・パートリッジだよ」
「お、俺はこいつに選ばれた次期王候補のアリオストロだ」
躊躇いがちにそういうアリオストロにメアリーは少しだけ驚く。
自らそう名乗ったのは初めてのことではないか、彼の決意がどれほど重いのかそれを目の当たりにしたような気がして、メアリーは成長と呼ぶべきか、それとも成れの果てと呼ぶべきか、この状況にちょっとした蟠りを感じた。
そしてそんなメアリーたちの事情など知らない少女は大切そうにその名前を「メアリーさん、アリオストロさん」と繰り返して呼ぶことで噛み締めていた。
「私は空間の戴冠者のローランドです」
よろしくお願いします。
そう言う彼女は頭を勢いよく下げた。金髪が光の輪を描いて散らばる髪をキラキラと光らせる。彼女のつむじが見えた頃、パチパチとどこからか拍手する音が聞こえた。
一体誰だろうか、思わずメアリーたちはばっと視線を音のなる方向へと向ける。
そこにいたのは黒いローブを着た男だった。
フードをかぶっていることでその相貌は見えない。ただわかるのはその背丈がメアリーやアリオストロ、ローランドよりも高いこと、そして鼻を通して香ってくる臭いが草木を燃やしたような独特の匂いであること。
それを嗅いだことのあるメアリーが思わずその名前を忌々しく呼ぼうとしたとき、彼――推定ジャックはまるでその行動を咎めるように「しぃー」と人差し指を口元に持っていった。
「ちょっと話したいことがあるんだ……いいよね」
聞いているわりには今日引けんのない強い言葉。
その声でアリオストロも目の前の人物の正体に気が付いたのだろう。体が強ばり、表情が硬くなる。その様子を見たローランドが身構えるのを見て、メアリーは手で制した。
北の街ポスの件で問い詰めたことは沢山ある。
もっと言えばスキロスの件でと言いたくなるが、要はメアリーたちもジャックには用があった。
だから静かに先導する彼の後ろを黙ってついていくことにした。そうするしかなかったのではなく、今度こそ、自分たちの意思でそうすることを選んだのだ。
案内された場所はただの大きな家屋だった。
玄関近くに垂れ下がった「アスター宿場連盟」の文字がなければ、ジャック個人の別荘か何かだと思っていただろう。なぜなら彼はノックもなしに堂々と扉を開けたからだ。ノックぐらいはしろよ。アリオストロは最近身につけた常識を元にそう考える。でも、開いてしまったものは仕方ない、メアリーが軽く会釈するのを見てから、同様に姿を真似て中に入った。
アスター宿場連盟と掲げた家屋の中は木材でできたシンプルな二階建ての内装であった。
円形の木材でできたシンプルな机にそれに合わせて背もたれ付きの椅子が四脚。そのセットが五個ほどあり、そのどれもが満員であった。
奥にはか受付嬢がいるカウンターがあり、彼女がにこやかに「お帰りなさいませジャック様。ご指定されていたお部屋は準備が整っています」とだけ伝える。
騒がしい店内であるはずなのに、彼女の声は明確に聞き取れる。
ちょっとした不思議な感覚に襲われながらも、ジャックが迷いなく二階に続く階段を上がるものだから、落ち着かないままメアリーたちもそれに続くしかできなかった。
「いやぁ、大変失礼したね」
「お構いなく、ジャックさんはいつも失礼ですから」
個室のような場所に連れて行かれて早々に言われたのはそんな言葉だった。
彼はそんなメアリーの言葉には一切不機嫌になった様子はなく、むしろちょっとだけ楽しそうに笑いながらコートを脱いで立てかけれらたコートハンガーに置いた。
そうするとメアリーとアリオストロが見たことのある服装が出てくる。
東洋風の着物とインナーを合わせた不可思議な格好のジャック。彼はそのまま長方形の机に備え付けられた窓側の長い椅子に腰を落とす。それを見計らって、メアリーもアリオストロもローランドも反対側、対面する形で腰を下ろした。
「君がそんなつれない反応するとは思いもしなかったよ」
「スキロスの件忘れたとは言わせないよ」
「ああ、彼女。彼女のことは申し訳ないと思ってるよ」
そうは思ってもいない言いぶりに、アリオストロが奥歯を噛んだ。
「スキロスを騙したんですか?」
「酷い言い方だな。彼女は自分から選んだんだよ。……正直なところ彼女も一緒に君達と逃げてくると思ったけど」
そう言ってジャックは笑顔を浮かべて「まぁそれは終わったことだ!」と元気に返した。
アリオストロはそれに納得がいってないようで更に詰めるように「終わってない!」と立ち上がって吠える。ローランドはあわあわとした様子でメアリーの隣に座るアリオストロの顔を見た。
それにメアリーは小声で「ここまで来るのに色々あったんだよ」と投げやりに説明する。
それで一旦は納得してくれたのだろう。押し黙るローランドをいい事にメアリーはアリオストロを援護した。
「彼女を利用したことは否定しないんですね」
「お互いギブアンドテイクだからね。彼女は僕を利用して君達を逃した。君達は彼女を利用して逃げた。そして僕は彼女を利用して君達を逃し、彼女は僕を利用して富を得た」
ねぇ、ギブアンドテイクでしょう?
思わずメアリーの目が据わる。この言い回しはただアリオストロの罪悪感を引き出しているだけだ。
そして、黙らせるための武器でもある。
「まぁ、君の新しいお友達の前で過去の話なんて無粋だろう?堅実的な話し合いを始めようじゃないか」
アリオストロはその言葉に苛立ちも隠さないまま座った。
そうすることしかできないと思ったから、沈黙を貫くアリオストロを横に、メアリーはこれ以上ジャックの掌で踊らされるのはごめんだと思い、意識を変える。
「それで、あんたは私たちになんか用でもあるのかい?」
「そうだね。有り体に言えばそうだ。北の街ポスの一件がまさか僕のせいにされて指名手配を喰らっているんだよ」
困ったなぁ。と肩を竦めるジャックは「これじゃあ告知もできやしない」とさも本当に困っていますと言うようにメアリーとアリオストロ、ローランドに言う。
「北の街のポスの一件て何?」
「どうやら君たちがあそこを離れてからすぐに『簒奪者ウェヌスタ』というテロ組織が北の街ポスを占拠したらしくってね。それを誘導したのが僕なんじゃないか、ってあらぬ噂を流されたんだよ」
「は?」
理解のできない単語にメアリーは思わず口をポカリと開けた。
そしてそれはアリオストロもローランドも同じで、ローランドに至っては戦慄く口をしどろもどろに動かす。
「ど、どう言うことですか?ウェヌスタは主に南で活動しているはず……それがどうして北に」
0
あなたにおすすめの小説
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。
主人公は苦悩や葛藤を抱えながら選択を重ねていくタイプの物語です。
また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。
残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる