105 / 121
第一章 東の街リトス
1ウィリアムという男
しおりを挟む作戦は決まった。
作戦と言っていいのかわからないものの、取り敢えず方針を決めたメアリー、アリオストロ、ローランド、へロスはジャックがいるであろうアスター宿場連盟の本拠地に向かうことにした。
本日は晴天。
青白い太陽が顔を出し、気のせいでなければいつもいつも以上に爛々と輝いている。
いつもなら肌を焼く程よい光は今はちょっと暑すぎた。これほどまでの快晴を今まで感じたことはあるだろうか。そう気になってしまうくらいにはメアリーは今日という日に暑さを感じていた。
もしかしたら新しくできた仲間に、思っている以上はしゃいでいるのかもしれない。
そう言った心理面が暑さを感じさせている原因なのかも、なんて考えながらメアリーは先頭を行くへロスに続いて商店街を進む。
アスター宿場連盟の本拠地は商店街を真っ直ぐに行ったところにある。
昨夜の静寂が嘘のようにわいわいと聞こえるヒトビトの声や足音たちが耳に響く。出店された店は数々のものを取り扱っており、流石金銭が流通した領地だと感嘆するようにその様を見ていた。
食べ物に日用品、果や財宝系まで、加えてローマの時代ではなかなか見ないだろう豪華絢爛に飾られた剣や槍、そう言った武器を扱う店が見える。
メアリーやへロス以外には新鮮に見えたのだろう。
忙しなく視線を動かすアリオストロとローランドを後方に、メアリーは思わず微笑みを浮かべた。
そんな時だった。
「おっちゃん。この林檎売ってくれよ」
「おう、毎度。三カルネテルだよ」
「ほいよ。サンキュー」
ローランドの足が止まった。
風が吹く。それが髪を揺らし、ローランドの視線を奪った。
アリオストロがそれに首を傾げ、メアリーもへロスも止まる。そしてローランドの視線の先を辿れば、そこには一人の少年がいた。
黄金のように輝く髪、上から乱雑につけたゴーグル、宝石をカットしたようなオレンジ色に光る瞳、インナーのようなものの上にキトンを着て、その腕と首は黄金で飾られる。
黒い手袋をした手がカルネテルを渡してリンゴを受け取った。
その行動一つ一つがまるで絵画のような、うまく作られた彫刻のようなものと錯覚させる。
「ほら、これならお前も食べれるだろう」
その美貌に思わず息を吐くのを忘れた。
だが、見窄らしいフードを深く被った少年?少女?に手渡すところを見て止まった息をなんとか元に戻すことに成功する。どうやら二人組だったらしい。見窄らしいフードの中から伸ばされたか細い色白の腕が林檎を乗せられ戸惑ったように動く。しかし、躊躇いがちに口元だと思われる部分に持っていき、シャクリという音が妙に大きく聞こえた。
「……」
「だろ?」
「…………」
「おう、ちょっと待ってろ」
生憎、もうひとりの声は聞こえない。
だが、何かを確信したような声色でその少年は「おっちゃんこの林檎どこで育てたんだ?」と聞いた。それに驚いたのはメアリーだった。この世界は完全配給制、育てるという発想さえ奪われた世界ではなかったのではないか、そんな疑問とは裏腹に「おっちゃん」と呼ばれた体格のいい男が笑って答える。
「今回のコロシアムでの優勝商品の大釜さ、なんとその大釜がどんな食べ物でも一瞬のうちに生まれるという特別制でね。話によりゃ、セウズ神が作ったと思われるものらしい」
「……へぇ、そりゃあ、いいことを聞いた」
少年がそう言った瞬間。
へロスが「少しいいだろうか」と言った。まさか間に入ると思ってもいなかったメアリーとアリオストロ、ローランドは一瞬遅れて急いでへロスの元に行く。なんというか、あの剣呑な雰囲気が出そうになった瞬間によくもまぁ間に入ろうと思ったな、なんて思った。
「初めまして、俺の名前はへロス」
「お、俺はアリオストロ」
「メアリー。メアリー・パートリッジです」
「ロ、ローランドです!」
「おおう?」
突如として間に入ってきたへロスたちに少年は目を丸くさせる。
それから何を思ったのか、メアリーとローランドを睨みつけて、それから笑ってみせた。
「なんだかよくわからないが俺たちに何のようだ?」
「わからないとは言わせない」
「……へぇ……」
へロスの言葉に戸惑うのはメアリーとアリオストロ、ローランドのみだ。
どうやら少年の連れであるフードを被った子は全く何も気にしていないようで、どこか夢見心地のように体をフラフラと彷徨わせる。その様子を横目で見た少年が、良い笑顔で「あっちに座る場所がある。よければ来るか?」とまさかの誘いをしてきた。
それにどう答えるか感があぐねているとその間にへロスは頷いた。
こうして異色のメンバーで近くにある外に設置された木で作られた椅子に座り、二人組も対面するようにテーブルを挟んだ場所に座った。
「あの店主を殺すつもりであっただろう」
「あちゃーバレたか」
フードの子が席についたのを見計らってへロスはとんでもないことを言った。
それに呆気に取られるのはメアリー、アリオストロ、ローランドで、一瞬理解を拒んだ言葉が頭の中をめぐる。へロスは今何を言ったのだろうか、殺す?殺すと言ったか?その言葉を呑み込んだ頃にはローランドの口から「なんで」と言葉がでた。
「おお、変なことを言うからな。殺してやったほうがいいかなってな」
「道理が理解できん」
「理解なんて必要ない。俺がそう決めたならそうなるのが自然なんだ」
なんだそのパワーコミニケーション。
言葉が通じない。文字通りの意味ではなく、コミニケーションにおける意味だ。メアリーは漠然と目の前の存在が自然の不条理のような、そんな存在に見えてしまう。
少年はなんとなしのように「それだけか?」と聞いた。
殺すことに対しての一切の躊躇がない。今もこれからあの店主を殺すために動くだろうと言う変な意味の信頼があった。それはだめだこんな大通りで、しかも止めてしまった以上目覚めが悪い。なんとかできないだろうか、メアリーがそう思ったとき、思いっきり緊張しまくった声が隣から聞こえた。
「そ、そ、そ、その。コロシアムに参戦するんですか?」
アリオストロがそういう。
そうすれば、一瞬目を瞬かせた少年が「あは」と声を出して「あはははは!」と笑った。
それがどんな意味かはわからないが、とにかく意識をあの店主から逸らせたことは確かだ。それにホッとする一方で、なんというか胃がゾワゾワするような恐怖と言っていいかもわからない感覚がメアリーを襲う。
これはなんだ。
理解できないそれにメアリーはそう漠然と心内に零す。
自分が自分ではなくなってしまったような感覚とはまた別の恐怖。言うなればもっと根源的で根が深いところにある……。
「しねーよ。そんなまどろっこしいこと」
それはどう言う意味だろうか、メアリーは少年の言葉に思わず反応してしまう。
「それはどう言う意味で?」
「なんだ俺は何かを疑われているのか?」
「俺にはまるで別の方法で景品を手に入れると聞こえた」
メアリーの援護をするようにへロスがそういう。
そうすれば、少年はその顔から表情という表情の一切をそぎ落として「そうだが?」と言った。
そこでやっとメアリーはジャックの言葉を思い出す。「出るんだよ」たったそれだけの言葉が、誰に向かって言われていたのか、それを理解して全身の血管を通して恐怖が身に染みた。
この殺しに一切躊躇のない彼こそがジャックの言っていた最強の男。
ウィリアム・アルベリヒ・ルーなのだと。
「その……なんのためにとかって聞いても?」
そこに疑問を投じたのはまさかの人物。
ローランドだった。ローランドはあたかも今回の賞品が盗品であることを知らない体でそう聞く。そうすれば、少年、ウィリアムの視線はローランドに向かった。「ひっ」と声が上がる。怖い。ただ単純に怖い。この状況をどうにかしなくては、流れる額からの汗を誤魔化しながらメアリーは思考する。
しばらく硬直状態が続いたとき、見窄らしいマントの中から白色の腕が伸びる。そしてそれは恐る様もなくウィリアムの服を摘んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。
主人公は苦悩や葛藤を抱えながら選択を重ねていくタイプの物語です。
また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。
残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる