神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ

綴咎

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第一章 東の街リトス

1ウィリアムという男

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 作戦は決まった。
 作戦と言っていいのかわからないものの、取り敢えず方針を決めたメアリー、アリオストロ、ローランド、へロスはジャックがいるであろうアスター宿場連盟の本拠地に向かうことにした。
 本日は晴天。
 青白い太陽が顔を出し、気のせいでなければいつもいつも以上に爛々と輝いている。
 いつもなら肌を焼く程よい光は今はちょっと暑すぎた。これほどまでの快晴を今まで感じたことはあるだろうか。そう気になってしまうくらいにはメアリーは今日という日に暑さを感じていた。
 もしかしたら新しくできた仲間に、思っている以上はしゃいでいるのかもしれない。
 そう言った心理面が暑さを感じさせている原因なのかも、なんて考えながらメアリーは先頭を行くへロスに続いて商店街を進む。

 アスター宿場連盟の本拠地は商店街を真っ直ぐに行ったところにある。
 昨夜の静寂が嘘のようにわいわいと聞こえるヒトビトの声や足音たちが耳に響く。出店された店は数々のものを取り扱っており、流石金銭が流通した領地だと感嘆するようにその様を見ていた。

 食べ物に日用品、果や財宝系まで、加えてローマの時代ではなかなか見ないだろう豪華絢爛に飾られた剣や槍、そう言った武器を扱う店が見える。

 メアリーやへロス以外には新鮮に見えたのだろう。
 忙しなく視線を動かすアリオストロとローランドを後方に、メアリーは思わず微笑みを浮かべた。

 そんな時だった。

「おっちゃん。この林檎売ってくれよ」
「おう、毎度。三カルネテルだよ」
「ほいよ。サンキュー」

 ローランドの足が止まった。
 風が吹く。それが髪を揺らし、ローランドの視線を奪った。
 アリオストロがそれに首を傾げ、メアリーもへロスも止まる。そしてローランドの視線の先を辿れば、そこには一人の少年がいた。
 黄金のように輝く髪、上から乱雑につけたゴーグル、宝石をカットしたようなオレンジ色に光る瞳、インナーのようなものの上にキトンを着て、その腕と首は黄金で飾られる。
 黒い手袋をした手がカルネテルを渡してリンゴを受け取った。
 その行動一つ一つがまるで絵画のような、うまく作られた彫刻のようなものと錯覚させる。

「ほら、これならお前も食べれるだろう」

 その美貌に思わず息を吐くのを忘れた。
 だが、見窄らしいフードを深く被った少年?少女?に手渡すところを見て止まった息をなんとか元に戻すことに成功する。どうやら二人組だったらしい。見窄らしいフードの中から伸ばされたか細い色白の腕が林檎を乗せられ戸惑ったように動く。しかし、躊躇いがちに口元だと思われる部分に持っていき、シャクリという音が妙に大きく聞こえた。

「……」
「だろ?」
「…………」
「おう、ちょっと待ってろ」

 生憎、もうひとりの声は聞こえない。
 だが、何かを確信したような声色でその少年は「おっちゃんこの林檎どこで育てたんだ?」と聞いた。それに驚いたのはメアリーだった。この世界は完全配給制、育てるという発想さえ奪われた世界ではなかったのではないか、そんな疑問とは裏腹に「おっちゃん」と呼ばれた体格のいい男が笑って答える。

「今回のコロシアムでの優勝商品の大釜さ、なんとその大釜がどんな食べ物でも一瞬のうちに生まれるという特別制でね。話によりゃ、セウズ神が作ったと思われるものらしい」
「……へぇ、そりゃあ、いいことを聞いた」

 少年がそう言った瞬間。
 へロスが「少しいいだろうか」と言った。まさか間に入ると思ってもいなかったメアリーとアリオストロ、ローランドは一瞬遅れて急いでへロスの元に行く。なんというか、あの剣呑な雰囲気が出そうになった瞬間によくもまぁ間に入ろうと思ったな、なんて思った。

「初めまして、俺の名前はへロス」
「お、俺はアリオストロ」
「メアリー。メアリー・パートリッジです」
「ロ、ローランドです!」
「おおう?」

 突如として間に入ってきたへロスたちに少年は目を丸くさせる。
 それから何を思ったのか、メアリーとローランドを睨みつけて、それから笑ってみせた。

「なんだかよくわからないが俺たちに何のようだ?」
「わからないとは言わせない」
「……へぇ……」

 へロスの言葉に戸惑うのはメアリーとアリオストロ、ローランドのみだ。
 どうやら少年の連れであるフードを被った子は全く何も気にしていないようで、どこか夢見心地のように体をフラフラと彷徨わせる。その様子を横目で見た少年が、良い笑顔で「あっちに座る場所がある。よければ来るか?」とまさかの誘いをしてきた。
 それにどう答えるか感があぐねているとその間にへロスは頷いた。

 こうして異色のメンバーで近くにある外に設置された木で作られた椅子に座り、二人組も対面するようにテーブルを挟んだ場所に座った。

「あの店主を殺すつもりであっただろう」
「あちゃーバレたか」

 フードの子が席についたのを見計らってへロスはとんでもないことを言った。
 それに呆気に取られるのはメアリー、アリオストロ、ローランドで、一瞬理解を拒んだ言葉が頭の中をめぐる。へロスは今何を言ったのだろうか、殺す?殺すと言ったか?その言葉を呑み込んだ頃にはローランドの口から「なんで」と言葉がでた。

「おお、変なことを言うからな。殺してやったほうがいいかなってな」
「道理が理解できん」
「理解なんて必要ない。俺がそう決めたならそうなるのが自然なんだ」

 なんだそのパワーコミニケーション。
 言葉が通じない。文字通りの意味ではなく、コミニケーションにおける意味だ。メアリーは漠然と目の前の存在が自然の不条理のような、そんな存在に見えてしまう。
 少年はなんとなしのように「それだけか?」と聞いた。
 殺すことに対しての一切の躊躇がない。今もこれからあの店主を殺すために動くだろうと言う変な意味の信頼があった。それはだめだこんな大通りで、しかも止めてしまった以上目覚めが悪い。なんとかできないだろうか、メアリーがそう思ったとき、思いっきり緊張しまくった声が隣から聞こえた。

「そ、そ、そ、その。コロシアムに参戦するんですか?」

 アリオストロがそういう。
 そうすれば、一瞬目を瞬かせた少年が「あは」と声を出して「あはははは!」と笑った。
 それがどんな意味かはわからないが、とにかく意識をあの店主から逸らせたことは確かだ。それにホッとする一方で、なんというか胃がゾワゾワするような恐怖と言っていいかもわからない感覚がメアリーを襲う。
 これはなんだ。
 理解できないそれにメアリーはそう漠然と心内に零す。
 自分が自分ではなくなってしまったような感覚とはまた別の恐怖。言うなればもっと根源的で根が深いところにある……。

「しねーよ。そんなまどろっこしいこと」

 それはどう言う意味だろうか、メアリーは少年の言葉に思わず反応してしまう。

「それはどう言う意味で?」
「なんだ俺は何かを疑われているのか?」
「俺にはまるで別の方法で景品を手に入れると聞こえた」

 メアリーの援護をするようにへロスがそういう。
 そうすれば、少年はその顔から表情という表情の一切をそぎ落として「そうだが?」と言った。
 そこでやっとメアリーはジャックの言葉を思い出す。「出るんだよ」たったそれだけの言葉が、誰に向かって言われていたのか、それを理解して全身の血管を通して恐怖が身に染みた。

 この殺しに一切躊躇のない彼こそがジャックの言っていた最強の男。
 ウィリアム・アルベリヒ・ルーなのだと。

「その……なんのためにとかって聞いても?」

 そこに疑問を投じたのはまさかの人物。
 ローランドだった。ローランドはあたかも今回の賞品が盗品であることを知らない体でそう聞く。そうすれば、少年、ウィリアムの視線はローランドに向かった。「ひっ」と声が上がる。怖い。ただ単純に怖い。この状況をどうにかしなくては、流れる額からの汗を誤魔化しながらメアリーは思考する。
 しばらく硬直状態が続いたとき、見窄らしいマントの中から白色の腕が伸びる。そしてそれは恐る様もなくウィリアムの服を摘んだ。
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