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冒険者ギルド誕生!

ギルドマスター任命式

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 ついにこの日がやってきました。

 先輩が行方不明になって私たちの夢が頓挫とんざしたのも、もう半年前になるんですね。やっと開拓技能者組合が正式に国の認可を受けましたよ、先輩。先輩との約束、必ず果たして見せますからね。

 そう、あの『商人ギルド』を凌ぐ世界一の規模を持った職業組合ギルドになって、冒険者という職業を誰もが知っている職業にするという約束を!

「お待たせいたしましたエスカ・ゴッドリープ様、謁見の間までご案内します」

「はい! ありがとうございます!」

 このあと組合の長、つまりギルドマスターとしての任命状を国王陛下が直接私に手渡して下さるのです。さすがに緊張しますね……。

「ちょっとー、宮廷魔術師ともあろうものが国王に謁見するぐらいで緊張しないでよ」

 兵士の人(名前は知りません、ごめんなさい!)に案内され、きらびやかな待ち合い室から謁見の間へ向かう途中で、ミラさんに話しかけられました。燃えるような赤い髪を持ち、胸元の開いたドレスを着た美人さんな彼女は私と同じ宮廷魔術師で、見た目通りに火の魔法を得意としています。これからは冒険者ギルドのサブマスターとして私の手伝いをしてくれるのです。

「ミラさん……そうはいっても、やっと念願の任命式がやってきたんですよ。これが落ち着いていられますか!」

 白く磨きあげられた廊下を歩きながら話す私達を、メイドの皆さんがお辞儀をして見送ってくれます。このチリ一つ落ちていない廊下に汚れの見えない壁や柱は、彼女達が日々手入れをしてくれているから維持できているのです。こちらこそ頭の下がる思いです。

「ふう……ま、この半年間本当に忙しそうだったからね。でも本当に大変なのはここからよ」

 ミラさんの言うとおり、私達はこれから多くの冒険者をサポートしていかなくてはなりません。新人さんの育成や、貴族達からの依頼斡旋、それに商人ギルドとの調整も大切になっていきます。

 冒険者達の功績をちゃんと記録して国に報告もしないといけないし、悪さをする人達を取り締まる必要も出てくるでしょう。時には障害を排除するためにギルド員をまとめて作戦行動をとらないといけないかもしれません。

 ああ、考えただけで頭が痛くなりそう。

「新人の育成はサラディンとアタシに任せておきなさい。エスカは組織運営に専念してね、アタシはそういうの苦手だから」

 そんなこと言って、私も別に得意じゃないんですよ? 困ったことがあったら、サラディンさんにお任せしてしまいましょうかね。

「どうぞ、お入り下さい」

 話しているうちに謁見の間まで到着しました。ミラさんとおしゃべりしていたおかげで、すっかりリラックスしています。彼女は恥ずかしがって認めませんが、いつもこういう気づかいをしてくれる優しい人なのです。ありがたいなあ。

 謁見の間の前には、ミラさんと同じくサブマスターのサラディンさんがいました。この人は傭兵だったのですが、その剣技と人柄にれ込んだ先輩がお願いしてギルドの立ち上げに協力してもらったのです。無口で黒い短髪の大柄な彼は見た目で怖がられたりしますが、とても情に厚い人で、先輩が行方不明になって落ち込んでいる私を励まし、一緒に色々な手続きをしてくれました。

 謁見の間に入ると、立派な王冠を被って王の正装である豪華なマントを身につけたフォンデール国王のオルレアン三世が正面の玉座に座り、そこまで伸びる立派な赤いカーペットの左右に大臣達が並んでいます。あ、よく見ると国王の一人息子である王子様も参列していますね。開拓事業は国家の財産を増やす一大事業なので、それを取りまとめるギルドには大きな期待が寄せられているのです。だからこそ、立ち上げに大変な苦労をさせられたのですが……まあ、もう過ぎたことはいいでしょう。

「ああ、堅苦しい挨拶は抜きだ。早速始めよう。汝エスカ・ゴッドリープを開拓技能者組合の組合長に任命する。同時にミランダ・トゥルダクス、サラーフ・アッディーンの両名を組合長補佐官に任命する。汝等の働きに期待しておるぞ。このフォンデール王国に富と領土をもたらしてくれ」

 陛下は私が宮廷魔術師ということもあって、かなり気安い態度で任命式を行って下さいました。普段から気さくな方ですが、外向けには威厳ある王様として知られています。フォンデール人の特徴でもある金髪と青い目は、四十一歳という若い王の存在感を増すのに役立っているようです。

「国王陛下のご期待に添えるよう、全力で任務に当たります!」

 前に出て跪き、口上を述べる私に宰相のクレメンス閣下が国家による正式なギルド結成許可を表す旗、ギルドフラッグを手渡してくれます。

 こうして、私は正式に開拓技能者、すなわち冒険者の職業組合である冒険者ギルドのギルドマスターになったのです。

 実は国家を越えて全ての冒険者を支援するようになるのが目標なのですが、それは国王や大臣に伝えるべきではないですね。実際にギルドを運営していくうちに、自然な流れで他国へ進出できればいいなと思っています。

 さあ、頑張っていきますよ!
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