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純白の女帝と漆黒の騎士

ギルド酒場・歌う恋茄子亭

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「鉢植えを持っていったのですが、受け取り拒否されてしまいました」

 アルベルさんが恋茄子の鉢植えを持って帰ってきました。

「あー、ソフィアっちの回復魔法はいいっすね~」

 なんですかその呼び方。でも、一番の懸念だったヨハンさんがソフィアさんの正体に気付く様子がないのは安心しました。戦力面では心配の必要もありませんし、思ったほど苦労しなくてすみそうですね。

「森の中で人に直撃する雷なんて不思議ね~♪」

 ギクッ。

「……それではその鉢植えはギルドで預かりますね」

「どんな薬を作るのですか?」

 ソフィアさんが嬉しそうに聞いてきます。いや、すり潰す前提で話さないでくださいよ。

「美味しく食べてね~♪」

 食べませんからね? なんでノリノリなんですか。

「興味本位で抜かれると危険なので、私の目の届くところに置いておきますよ。金竜なんて呼ばれたら困りますからね」

「恋茄子が金竜を呼ぶってよく知ってるぬー」

 ギクギクッ。

「さ……さあ、依頼の報酬も受け取ったことですし、今日はゆっくり休んでくださいね。疲労を残したら次の仕事が上手くいきませんよ!」

 これ以上話すと余計なことを知られてしまいそうなので、強引に四人を追い払ってごまかした私は、受け取った鉢植えを受付の横にあるテーブルに乗せて一息つきました。恋茄子は好き勝手に歌っています。

「あら、ちょうどいいわね」

 そこに、酒場の見回りをしていたミラさんが恋茄子の鉢植えを見て言います。

「何がちょうどいいんですか?」

「酒場の名前よ。冒険者ギルドの中だからってお店に名前がないのは寂しいでしょ? 『歌う恋茄子亭』ってどう?」

 確かに恋茄子が歌ってますが、そんな名前で大丈夫ですかね?

「悪くないと思うぞ。酒を飲むと歌う者も多いし、酔って目が回るのと恋茄子の幻覚作用は近いものがある。酒飲みにとって実に馴染みやすい名称だ」

 サラディンさんもミラさんの案を支持しました。彼がそう言うならそうしましょう。

「分かりました。ではその名前で看板でも作りましょうか」

 こうして冒険者ギルド一階の酒場は『歌う恋茄子亭』という名前になったのでした。



 次の日、私はクレメンスさんにソフィアさんとアルベルさんの様子を報告しにきました。

「エスカ殿、実は少々困ったことになりましてな」

 開口一番、とてつもなく不吉な言葉を発する宰相閣下。回れ右して帰っていいですか?

「どうされました? ソフィーナ帝国で問題が発生したのでしょうか」

 皇帝不在な時点で大問題ですが、今の状況でクレメンスさんが困ったことと言うからには、何か新たな問題が発生したのでしょう。すると、彼は地図を指し示しながら言いました。

「これが開拓予定ルートですが、このソフィーナ帝国の入り口にあるカイラスの町で、皇帝とその従者を名乗る二人組が現れたそうです」

 ええっ? 想像もしていなかった事態です。

「国主が不在の時に偽者が現れるのはよくあることですが、今回ソフィーナ帝国は皇帝と従者が抜け出したことを秘密にしております。更にこの二人は旧ハイムリル領までの道を開拓するために冒険者を募っているそうです」

 これは、内部事情に詳しい人物が関わっていますね。その上冒険者を集めるなんて行動を取ったら本物を刺激するのは確実です。冒険者ギルドにも喧嘩を売ってきています。

「フォンデール王国にも敵対する行動ですよ。ファーストウッド周辺の地域は既に開拓したフォンデール王国の領地でもあるのですからね」

 クレメンスさんが私の顔色を見て考えを読んだようです。確かにこの偽者は皇帝を名乗ってフォンデール王国に敵対しています。宣戦布告・侵略宣言に等しい行動です。単なるいたずらでやることではないですね。

「かなりの悪意と確固たる実力を持ち合わせた何者かが暗躍している可能性が高いです。国王陛下もこの件を重く見て、例の指令を急ぐようにとおっしゃられました」

「本物の方はどうしますか?」

「ご本人自ら明かすなら、その方が我々としても都合が良いでしょう。あくまで正体を秘密にするなら……」

「するなら?」

「上手く話を合わせて、冒険者として開拓に参加して頂くしかないですね」

 ですよねええええ!

 それ絶対さらに面倒くさい状態になるじゃないですか。そして間違いなくソフィアさんはバレバレなのにごまかそうとします。今もあれで隠し通せているつもりなんですから。

「国からの報酬は上乗せしますので、何とか上手く対処するようお願いします。偽者の方はこちらで帝国と連携を取って対応します」

 クレメンスさんにそう言われ、暗い気持ちでギルドに戻るのでした。



「それは偽者です!」

 知ってます。

 ギルドに戻り、次の依頼を受けに来たソフィアさん達にカイラスの話をしたらソフィアさんが語気を強めて主張しました。これで自分の正体を明かしてくれると話が早いのですが。

「なぜカイラスの二人が偽者だと思うのですか?」

 さあ、気付いてください! 私は貴女に正体を明かして欲しいんですよ!

 今なら自然な流れでみんながソフィアさんがソフィーナ帝国の皇帝だと知るストーリーになるんです!!

「そっ、それは……」

 言葉を濁しました。やはり正体を隠しているつもりなんですね。でもここで思い切って言っちゃいましょう、さあ!!

「我々はソフィーナ帝国で本物の皇帝陛下にお会いしたことがあります。フォンデール王国に攻め込むような真似をするようなお方ではありません」

 アルベルさああああん!

 空気読んで! そこは助け船出しちゃダメな場面ですから!!

「そ、そうです! ソフィーナ……様はそんなことしません!」

 はい、そんなわけで引き続き正体不明の聖職者ソフィアさんと謎の黒騎士アルベルさんに冒険者ギルドで働いてもらうことになりました。追及して機嫌を損ねたら任務失敗ですからね……。

「俺達が先に開拓してしまえばいいぬー」

 そうですぬー。
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