47 / 116
エルフ領ネーティアの内情
新開拓地フロンティア
しおりを挟む
無帰還の迷宮は完全に掃討され、地上に作る町の備蓄倉庫として再利用されることになりました。
「住み心地良さそうなのに倉庫にするのね~」
「地下に住むというのはけっこう危険なんですよ。もちろんいざという時の避難所も中に作られてますけどね」
迷宮を住居にするといくつも問題が起こります。そもそも入り口が一つしかないので多くの人が住むのには向かないというのもありますが。
なので、この頑丈な迷宮には沢山の物資を保管しておいて、上に住むための家を建設していくという形になりました。この開拓地には『フロンティア』という名前がつきます。開拓の最前線という意味の古代語ですが、本格的な開拓がはじまった場所として歴史に名を刻もうという、オルレアン三世の意向です。
「ファーストウッドとフロンティアの間に道を整備して、フロンティアを囲むように城壁を作ります。モンスターやエルフが攻めてくるのはわかりきってますからね」
ダンジョンを攻略しても、それだけでいきなり領地が増えるというものではありません。開拓に成功した国が自国領として責任をもって整備する義務があります。だからこそそんなに急激な開拓はできないわけですが。
「クエストが沢山だぬー、冒険者の稼ぎ時だぬー」
タヌキさんがフロンティア周辺のモンスター退治を終えて酒場で休憩しています。工芸者達が町を作るまでの間は彼等のような戦闘職が開拓地を守らないといけません。
フロンティアはグラズク川に支流が流れ込む部分にあるので、利便性の観点からも移住希望者がかなり多いです。最前線で危険も多い代わりに、先に移住してしまえば後々かなりのイニシアティブを取れるので貴族にもここに新居を建てようとする人が少なくありません。政治的にもしばらくは混沌とした場所になりそうですね。
「そういえばちょうどヨハンさんが見回りの仕事をしている頃ですね。ちょっと現地の様子を見てみましょうか」
私は冒険者管理板を取り出し、ヨハンさんの名前を指でつつきました。
「異常なしっす!」
ヨハンさんはちょうど一回りして防衛隊長の騎士さんに報告したところのようですね。こういう防衛任務は基本的に国の騎士や兵士が任されるのですが、人手が足りないので実員はギルドに出されたクエストを受けた冒険者で賄われます。この隊長さんのように防衛計画を立てる指揮者だけが国から派遣されるというのが一般的なのですが、今回は場所が場所だけにかなり多くの騎士がやってきています。その中での防衛隊長というのはかなりの要職に当たるでしょう。
「ご苦労。引き続き頑張ってくれたまえ」
隊長さんは椅子にふんぞり返ってヨハンさんを労います。騎士も一応貴族の一種だから偉そうにするのも分かりますが、誰のおかげでそこにいられると思ってるんでしょうかね?
「はいっ! 頑張るっす!」
ヨハンさんは元気いっぱいに変な敬礼をしています。やる気があるのは良いことですが、功労者の一人なのにこんな扱いを受けているのは可哀想な気がします。対エルフではヨハンさんがいないと苦戦必至ですからね? わかってるんですか隊長さん!
髪の毛が無い頭を磨いてる場合じゃないですよ!
「この防衛隊長はなんて名前でしたっけ……ハンニバル・ゲイナー? もう略してハゲでいいですね」
「辛辣ね~」
「だってうちのギルドメンバーに偉そうにしてるんですよこのハゲ! 自分達は何もしてないくせに」
「偉そうなだけで何も悪いことしてないじゃない~」
「そうなんですけどぉ……」
恋茄子の言うとおり、ハゲは何も悪いことをしていないのですが、偉そうにしているのが気に入らないんですよ。
そんな会話がアーデンで行われているとも知らず、ハゲは機嫌良さそうな様子でヨハンさんに話しかけています。
「フロンティアの防衛隊は国家の最重要事業である開拓の最先端だ。ここを見事守り通せば、陛下の覚えも良くなろうというもの。フフフ……君は確か騎士になりたいんだったね」
「黒騎士っす!」
「黒……まあいい。いい働きをすれば、私からも陛下に口添えをしてやろう。しっかりと働くんだぞ」
「了解っす!」
なんか悪だくみしてるみたいな言い方してますけど、それ普通のことですからね。大丈夫ですかハゲ。当然防衛隊長である彼が一番評価されるわけですからね。開拓につきものの新領地の取得で爵位を貰って、貴族とは名ばかりの騎士からちゃんとした貴族になる青写真を描いているのでしょうね。
「貴族なんて面倒くさいだけなんですけどねー」
いつも挨拶回りにいく貴族のパーティーを思い浮かべつつ、ため息をつきました。
ヨハンさんはそのまま部屋を出て、また見回りに行くようです。自分が守った拠点という意識があるのでしょうか、本当に元気ですね。
「ん? エルフの匂いがするっす!」
突然そう言って走り出したヨハンさんの言葉を聞いて、建築作業をしていた人達が大騒ぎになります。エルフの襲撃ですか。ほらハゲ、出番ですよ!
ヨハンさんが開拓地の入り口まで走っていくと、森の中からやってくる人影が見えます。でも、一人だけ? それになんか足取りがおぼつかないような。
「あっ、あの時のエルフっす!」
ヨハンさんが指差した彼女は、前にヨハンさんと追いかけっこをしていたエルフでした。確かシトリンとか言いましたっけ。何故かヨロヨロと歩く彼女は、ずいぶんと疲れているようですが……何かの罠でしょうか?
シトリンはヨハンさんに気付くと、弱々しい声で言いました。
「た、助けて……」
「住み心地良さそうなのに倉庫にするのね~」
「地下に住むというのはけっこう危険なんですよ。もちろんいざという時の避難所も中に作られてますけどね」
迷宮を住居にするといくつも問題が起こります。そもそも入り口が一つしかないので多くの人が住むのには向かないというのもありますが。
なので、この頑丈な迷宮には沢山の物資を保管しておいて、上に住むための家を建設していくという形になりました。この開拓地には『フロンティア』という名前がつきます。開拓の最前線という意味の古代語ですが、本格的な開拓がはじまった場所として歴史に名を刻もうという、オルレアン三世の意向です。
「ファーストウッドとフロンティアの間に道を整備して、フロンティアを囲むように城壁を作ります。モンスターやエルフが攻めてくるのはわかりきってますからね」
ダンジョンを攻略しても、それだけでいきなり領地が増えるというものではありません。開拓に成功した国が自国領として責任をもって整備する義務があります。だからこそそんなに急激な開拓はできないわけですが。
「クエストが沢山だぬー、冒険者の稼ぎ時だぬー」
タヌキさんがフロンティア周辺のモンスター退治を終えて酒場で休憩しています。工芸者達が町を作るまでの間は彼等のような戦闘職が開拓地を守らないといけません。
フロンティアはグラズク川に支流が流れ込む部分にあるので、利便性の観点からも移住希望者がかなり多いです。最前線で危険も多い代わりに、先に移住してしまえば後々かなりのイニシアティブを取れるので貴族にもここに新居を建てようとする人が少なくありません。政治的にもしばらくは混沌とした場所になりそうですね。
「そういえばちょうどヨハンさんが見回りの仕事をしている頃ですね。ちょっと現地の様子を見てみましょうか」
私は冒険者管理板を取り出し、ヨハンさんの名前を指でつつきました。
「異常なしっす!」
ヨハンさんはちょうど一回りして防衛隊長の騎士さんに報告したところのようですね。こういう防衛任務は基本的に国の騎士や兵士が任されるのですが、人手が足りないので実員はギルドに出されたクエストを受けた冒険者で賄われます。この隊長さんのように防衛計画を立てる指揮者だけが国から派遣されるというのが一般的なのですが、今回は場所が場所だけにかなり多くの騎士がやってきています。その中での防衛隊長というのはかなりの要職に当たるでしょう。
「ご苦労。引き続き頑張ってくれたまえ」
隊長さんは椅子にふんぞり返ってヨハンさんを労います。騎士も一応貴族の一種だから偉そうにするのも分かりますが、誰のおかげでそこにいられると思ってるんでしょうかね?
「はいっ! 頑張るっす!」
ヨハンさんは元気いっぱいに変な敬礼をしています。やる気があるのは良いことですが、功労者の一人なのにこんな扱いを受けているのは可哀想な気がします。対エルフではヨハンさんがいないと苦戦必至ですからね? わかってるんですか隊長さん!
髪の毛が無い頭を磨いてる場合じゃないですよ!
「この防衛隊長はなんて名前でしたっけ……ハンニバル・ゲイナー? もう略してハゲでいいですね」
「辛辣ね~」
「だってうちのギルドメンバーに偉そうにしてるんですよこのハゲ! 自分達は何もしてないくせに」
「偉そうなだけで何も悪いことしてないじゃない~」
「そうなんですけどぉ……」
恋茄子の言うとおり、ハゲは何も悪いことをしていないのですが、偉そうにしているのが気に入らないんですよ。
そんな会話がアーデンで行われているとも知らず、ハゲは機嫌良さそうな様子でヨハンさんに話しかけています。
「フロンティアの防衛隊は国家の最重要事業である開拓の最先端だ。ここを見事守り通せば、陛下の覚えも良くなろうというもの。フフフ……君は確か騎士になりたいんだったね」
「黒騎士っす!」
「黒……まあいい。いい働きをすれば、私からも陛下に口添えをしてやろう。しっかりと働くんだぞ」
「了解っす!」
なんか悪だくみしてるみたいな言い方してますけど、それ普通のことですからね。大丈夫ですかハゲ。当然防衛隊長である彼が一番評価されるわけですからね。開拓につきものの新領地の取得で爵位を貰って、貴族とは名ばかりの騎士からちゃんとした貴族になる青写真を描いているのでしょうね。
「貴族なんて面倒くさいだけなんですけどねー」
いつも挨拶回りにいく貴族のパーティーを思い浮かべつつ、ため息をつきました。
ヨハンさんはそのまま部屋を出て、また見回りに行くようです。自分が守った拠点という意識があるのでしょうか、本当に元気ですね。
「ん? エルフの匂いがするっす!」
突然そう言って走り出したヨハンさんの言葉を聞いて、建築作業をしていた人達が大騒ぎになります。エルフの襲撃ですか。ほらハゲ、出番ですよ!
ヨハンさんが開拓地の入り口まで走っていくと、森の中からやってくる人影が見えます。でも、一人だけ? それになんか足取りがおぼつかないような。
「あっ、あの時のエルフっす!」
ヨハンさんが指差した彼女は、前にヨハンさんと追いかけっこをしていたエルフでした。確かシトリンとか言いましたっけ。何故かヨロヨロと歩く彼女は、ずいぶんと疲れているようですが……何かの罠でしょうか?
シトリンはヨハンさんに気付くと、弱々しい声で言いました。
「た、助けて……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる