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エルフ領ネーティアの内情
タヌキの森
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カルネの町を出発したヨハンさん達は、獣人のテリトリーに一番近い国境沿いに到着しました。ここまで馬車で二日かかっていますが、ここからタヌキ族のテリトリーまで森の中を歩いて数日かかるようです。
「森の中なら任せて! エルフの凄さを見せてやるわ!」
シトリンが自信満々です。エルフが森で人間や獣人に後れを取ったらお笑い種ですからね。ずいぶん元気ですけど目的を忘れてないですよね? ウジウジされるよりはずっといいですけどね。
「タヌキのテリトリーはこっちだぬー」
当たり前ですがタヌキさんが先導します。馬車は近くにある宿場に置いてきました。こういう時の料金はギルドの運営資金から出します。必要経費ですね。
「途中にモンスターは出るっすか?」
「いるけどこの辺は弱いやつばっかりだぬー、泣きながら逃げていく獣とか。ただ泉には気を付けた方がいいぬー、ケルピーっていうウマみたいなモンスターが出るぬー」
ケルピー……人間を水の中に引きずり込んで水死体を食べる危険なモンスターですね。上半身は馬、下半身は魚のようなモンスターですが、これまた美女に化けるという噂もあります。
泣きながら逃げていく獣は聞いたことがないですが、それただの弱気な動物なのでは?
「人間に害をなすモンスターは退治っす!」
「今はそれどころじゃないでしょ!」
ヨハンさんらしい発言が出ましたね。でも今はやることがあるのでやめましょうね?
「まあケルピー。お刺身にすると美味しいんですよね」
えっ。
「ではソフィア様のためにこのアルベルが一匹仕留めてまいりましょう!」
「俺もいくっすー!」
「だからー! さっさとタヌキの森に行くわよ!」
なんともまとまりのないパーティーですね。それにしてもあれ食べられるんですか。皇帝の食事は平民には理解できません。いや私も宮廷の料理とか食べてますけど。
「まあまあ、どうせ目的地までは数日かかるんすから、途中でそれっぽい泉のあるところに野営しましょう」
コタロウさんが仲裁して、騒がしいメンバーを静かにさせてくれました。結局ケルピーを食べるのは決定事項なんですね。
「それならちょうどいい場所があるぬー、寝床を作るのは俺とシトリンに任せてみんなはモンスターを狩って欲しいぬー」
「しょうがないわね、それで妥協するわ」
話がまとまり、今日の夜は泉の近くで野営するようです。シトリンは呆れた風を装ってますが、何気にケルピーの刺身に興味津々ですね。
「とったどー!」
その夜、哀れなケルピーは血に飢えた剣士と騎士に仕留められてしまいました。実はコタロウさんが投網で捕まえたんですけどね。
馬のくせに「助けてー!」とか叫んでいましたが、人間を食べるモンスターに情けをかける必要はありませんね。お腹を壊さないかだけが心配です。
「ほんとだ、美味しい!」
シトリンがケルピーの味を知ってしまいました。今後エルフの国が復興したらネーティアの森からケルピーの姿が消え去るかもしれません。危険なモンスターだから別にいいですけど。
ところでどんな味なんでしょう? そんなに美味しいならコウメイさんに管理下で増やしてもらって食用にしてもいいかも。でも餌が人肉とかだったら困りますね。コウメイさんは平気で『餌』を調達してきそうです。
何はともあれ、こんな図太い人々なので道中は大した危険もなく、むしろモンスターが恐怖で逃げていく旅を続けて目的の場所まで到達するのでした。
「ここからタヌキの森だぬー」
「ポンポ・コタヌー! 人間を引き連れて何しに戻ってきたぬー? 開拓する気かぬー!」
さっそくタヌキ族が現れました。タヌキさんと同じような見た目ですが、モノクルは無くベストのような上着の色が違います。ちなみにうちのタヌキさんはモスグリーンの上着です。冒険するのに派手な色は向いてないからでしょう。迎えたタヌキさんのベストは鮮やかな青色です。
「タンタ・ンタヌー、誤解だぬー。俺たちはここを通って黒エルフの国に行きたいんだぬー」
たんたんタヌ……いや何でもありません。緊迫した場面のはずなのですが、彼らの訛りのせいかほのぼのしてるように見えて来てしまいます。上手くいくのでしょうか?
「黒エルフの国に行ってどうするぬー?」
「あいつらに捕まったアレキサンドラ様を助け出したいの。お願い、通して!」
シトリンが必死に訴えます。タンタさんは困惑した様子で考え込みます。どうやら問答無用で追い返されることはなさそうですね。
「うーん、何もしないなら通るぐらいはいいぬー。でもキツネのところに行くなら向こうが攻められたと思ってこっちに攻めてくるかもしれないぬー」
ですよね。単に冒険者達が襲われるだけならまだしも、キツネ族がタヌキ族に攻め入って戦争が始まる原因になりかねません。そこをどうするかが問題です。
「どうするっすか?」
「とりあえず長に相談するぬー。お前達はまだ安全とは限らないから拘束して連れていくけど、それでいいぬー?」
「仕方ありませんね。ここは言うとおりにして長の人とお話ししましょう」
ここでソフィアさんの発言。このメンバーで彼女が決断をしたら、それに反論が上がることはありません。地位だけでなく、決断力という点で彼女が一番優れているのです。普段はただの変な人ですけど。
「分かったぬー、じゃあこのロープで体を縛るぬー」
拘束されてはいますが、とりあえずタヌキ族と対話が出来るようです。まずは最初の関門を突破できたと思っていいのでしょうか?
「森の中なら任せて! エルフの凄さを見せてやるわ!」
シトリンが自信満々です。エルフが森で人間や獣人に後れを取ったらお笑い種ですからね。ずいぶん元気ですけど目的を忘れてないですよね? ウジウジされるよりはずっといいですけどね。
「タヌキのテリトリーはこっちだぬー」
当たり前ですがタヌキさんが先導します。馬車は近くにある宿場に置いてきました。こういう時の料金はギルドの運営資金から出します。必要経費ですね。
「途中にモンスターは出るっすか?」
「いるけどこの辺は弱いやつばっかりだぬー、泣きながら逃げていく獣とか。ただ泉には気を付けた方がいいぬー、ケルピーっていうウマみたいなモンスターが出るぬー」
ケルピー……人間を水の中に引きずり込んで水死体を食べる危険なモンスターですね。上半身は馬、下半身は魚のようなモンスターですが、これまた美女に化けるという噂もあります。
泣きながら逃げていく獣は聞いたことがないですが、それただの弱気な動物なのでは?
「人間に害をなすモンスターは退治っす!」
「今はそれどころじゃないでしょ!」
ヨハンさんらしい発言が出ましたね。でも今はやることがあるのでやめましょうね?
「まあケルピー。お刺身にすると美味しいんですよね」
えっ。
「ではソフィア様のためにこのアルベルが一匹仕留めてまいりましょう!」
「俺もいくっすー!」
「だからー! さっさとタヌキの森に行くわよ!」
なんともまとまりのないパーティーですね。それにしてもあれ食べられるんですか。皇帝の食事は平民には理解できません。いや私も宮廷の料理とか食べてますけど。
「まあまあ、どうせ目的地までは数日かかるんすから、途中でそれっぽい泉のあるところに野営しましょう」
コタロウさんが仲裁して、騒がしいメンバーを静かにさせてくれました。結局ケルピーを食べるのは決定事項なんですね。
「それならちょうどいい場所があるぬー、寝床を作るのは俺とシトリンに任せてみんなはモンスターを狩って欲しいぬー」
「しょうがないわね、それで妥協するわ」
話がまとまり、今日の夜は泉の近くで野営するようです。シトリンは呆れた風を装ってますが、何気にケルピーの刺身に興味津々ですね。
「とったどー!」
その夜、哀れなケルピーは血に飢えた剣士と騎士に仕留められてしまいました。実はコタロウさんが投網で捕まえたんですけどね。
馬のくせに「助けてー!」とか叫んでいましたが、人間を食べるモンスターに情けをかける必要はありませんね。お腹を壊さないかだけが心配です。
「ほんとだ、美味しい!」
シトリンがケルピーの味を知ってしまいました。今後エルフの国が復興したらネーティアの森からケルピーの姿が消え去るかもしれません。危険なモンスターだから別にいいですけど。
ところでどんな味なんでしょう? そんなに美味しいならコウメイさんに管理下で増やしてもらって食用にしてもいいかも。でも餌が人肉とかだったら困りますね。コウメイさんは平気で『餌』を調達してきそうです。
何はともあれ、こんな図太い人々なので道中は大した危険もなく、むしろモンスターが恐怖で逃げていく旅を続けて目的の場所まで到達するのでした。
「ここからタヌキの森だぬー」
「ポンポ・コタヌー! 人間を引き連れて何しに戻ってきたぬー? 開拓する気かぬー!」
さっそくタヌキ族が現れました。タヌキさんと同じような見た目ですが、モノクルは無くベストのような上着の色が違います。ちなみにうちのタヌキさんはモスグリーンの上着です。冒険するのに派手な色は向いてないからでしょう。迎えたタヌキさんのベストは鮮やかな青色です。
「タンタ・ンタヌー、誤解だぬー。俺たちはここを通って黒エルフの国に行きたいんだぬー」
たんたんタヌ……いや何でもありません。緊迫した場面のはずなのですが、彼らの訛りのせいかほのぼのしてるように見えて来てしまいます。上手くいくのでしょうか?
「黒エルフの国に行ってどうするぬー?」
「あいつらに捕まったアレキサンドラ様を助け出したいの。お願い、通して!」
シトリンが必死に訴えます。タンタさんは困惑した様子で考え込みます。どうやら問答無用で追い返されることはなさそうですね。
「うーん、何もしないなら通るぐらいはいいぬー。でもキツネのところに行くなら向こうが攻められたと思ってこっちに攻めてくるかもしれないぬー」
ですよね。単に冒険者達が襲われるだけならまだしも、キツネ族がタヌキ族に攻め入って戦争が始まる原因になりかねません。そこをどうするかが問題です。
「どうするっすか?」
「とりあえず長に相談するぬー。お前達はまだ安全とは限らないから拘束して連れていくけど、それでいいぬー?」
「仕方ありませんね。ここは言うとおりにして長の人とお話ししましょう」
ここでソフィアさんの発言。このメンバーで彼女が決断をしたら、それに反論が上がることはありません。地位だけでなく、決断力という点で彼女が一番優れているのです。普段はただの変な人ですけど。
「分かったぬー、じゃあこのロープで体を縛るぬー」
拘束されてはいますが、とりあえずタヌキ族と対話が出来るようです。まずは最初の関門を突破できたと思っていいのでしょうか?
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