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女王を奪還せよ
サフィール合流
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サフィールの話によると、彼女はジュエリアの近くにあるエルフの国を回って救援を求めて歩いていたのですが、ことごとく断られたそうです。そうなるでしょうね、仲が悪い国同士では。
それで頼れるあてもなくなってシトリンと同じようにフロンティアを訪ねたのですが、そこで防衛隊長のハゲに捕まりそうになって逃げたところ、サラディンさん達にこっそりかくまわれたそうですね。さすがサラディンさん、怖い顔して人情家です。
「そこで、サラディン殿とミランダ殿に助言を受けてシトリンを追うことにしたのだ。彼等はジュエリアを占領しているスヴァルトアールヴ達を撃退しに行くとのことだ」
それはずいぶんと思い切ったことをしますね。開拓を後回しにして森を抜け、エルフの国を直接押さえるわけですか。他にもエルフの国があることを考えると、そう簡単ではなさそうです。それにハゲやクレメンスさんに知られると余計な色気を出してジュエリアを制圧しろと言ってくるかもしれません。
「そのまま人間に占領されちゃったらどうするの?」
シトリンがもっともな疑問を口にします。ギルドを頼っている状況とはいえ、全面的に信用できるものではありませんし、実際に私達も国の意向に逆らえるほどの権力はまだ持ち合わせていませんからね。
「サラディン師匠なら大丈夫っすよ! 絶対にいい感じにしてくれるっす!」
なんですか、いい感じって。まあ、ヨハンさんの言う通り、サラディンさんなら一番いい解決法を見つけてくれるでしょう。あちらのメンバーは戦闘面では一切心配は要りませんしね。唯一の気がかりはミラさんがエルフの国を焼き払ってしまわないかという点ですね。
「うむ、私もそう思ったから彼等に任せることにした。直接顔を合わせればある程度は性根も分かるものだ」
そう言って、何故かアルベルさんをチラリと見るサフィール。彼女はアルベルさんと二回ほど剣を交えていますが、どんな性根が見えたのでしょうね? おっぱ……何でもありません。
「じゃあ一度休憩して、今度は女王様を助け出す手筈を話すぬー」
タヌキさんが話を一旦区切ります。サフィールの話は要約しましたが実際には結構長かったので休憩が必要でしょう。
「潜入だったら、いい方法があるすよ」
休憩を終え、最初に口を開いたのはコタロウさんでした。この手の任務は忍者の技能が最適でしょうし、任せてもいいのではないでしょうか?
「どんな作戦っすか?」
「どんなのどんなの!?」
いつものコンビが興味津々で食いつきます。他のみんなも静かに耳を傾けていますね。やはりこの場面ではコタロウさんが一番頼りになるという考えで一致しているようです。
「いいすか、黒エルフはエルフの国の動きを観察し、手薄な時を狙って攻め入っている。つまり何も考えずにただ攻め込むのではなく情報を収集し兵を効果的に使う連中なんすよ」
「それって、厄介な相手だってことだぬー?」
コタロウさんの説明にタヌキさんが感想を述べます。相手は知能の高い敵ってことですからね、厄介ですよね。ですが、いつも表情に乏しいコタロウさんには珍しく口角を上げニヤリと笑って言葉を続けます。
「いいえ、それがそうじゃないんすよ。そういう用兵をするってことは、兵の配置に偏りがあるってことなんす。つまり、守りたいところには兵が多く、そうでもないところは兵を少なく配置するわけで。そういう相手ほど、陽動に引っ掛かりやすいんすよ」
なるほど、確かに言われてみればその通りです。
「魘入の術を使います。敵はアレキサンドラ女王を捕まえていて、サフィール・シトリンといったエルフの兵を取り逃がしている。当然、女王を奪還しにやってくるのを警戒しているわけで。黒エルフの立場ではそんな時、敵がどこから潜入してくると考えますか?」
コタロウさんが真面目モードになって策の説明を始めると、皆さん一層真剣な顔で聞いています。そこにコタロウさんがアルベルさんを指さし、質問しました。
「そうだな……やはり裏からこっそり忍び込んでくると考えるだろう」
そうですね。ギルドでもそうしようと話し合っていましたから。
「その通りです。魘入の術は敵の考えの裏をかいて潜入する方法なので、相手が警戒している裏側ではなく、正面から入ります。もちろんそれだけではただ闇雲に攻めるのと同じ。そこでトウテツの出番です」
『おう、俺はどうすりゃいいんだ?』
「黒エルフの国の入り口で暴れてください。城門を壊してくれると助かります」
「正面から入るのにトウテツが正面で暴れるっすか?」
ふむ? 陽動と言えばおとりが逆側でひきつけるのが定番ですが。
「そうです。黒エルフはモンスターの襲来に対して兵を出すでしょう。同時に陽動を警戒するはずです。すると黒エルフの兵はトウテツのいる場所と裏手の両側に集中します。トウテツが適度に暴れつつ攻め込まずに距離を保てば、黒エルフはなお陽動を警戒して注意が裏側に向きます。そこで入り口の近くに隠れていた我々が正面からこっそり入るんです」
なるほど、時間差で潜入するんですね。理屈は分かりますが、そううまくいくでしょうか? その場の皆さんも、半信半疑といった様子です。
「意外と目の前にいても意識が向いていないと気付かないもんすよ。それにいざとなったら助っ人に全部吹き飛ばしてもらいましょう」
助っ人って誰のことですかね? 例の召喚はあんまり乱発して欲しくないんですが。
◇◆◇
「どうせピンチになったら助けるつもりなんだから、お金を払わせておけばいいのよ~」
「うっ……まあそのために追跡を行っているのですが」
恋茄子が私の考えを察して口を挟んできました。モミアーゲさんもそんな私が助けに行く言い訳を作るためにやってくれたわけで、どうにも私の考えが読まれているみたいです。
「エスカさんは組織のトップとしては非情になれないところがありますからねぇ」
モミアーゲさんはそんなことを言いながら紙に文字を書いています。早速売りに行くつもりですね?
確かに、私はちょっとギルドの皆さんに対して過保護すぎるとよくクレメンスさんに言われます。一応気を付けてはいるつもりですが、そうは言っても大切な仲間を見殺しになんてしたくないのが人情ってものじゃないですか。
「ま~、そこがマスターのいいところよ~」
恋茄子にフォローされてしまいました。うーん、なんか未熟者扱いされていますね。
◇◆◇
「あくまで目的はエルフの女王様を助け出すことですからね、使えるものは何でも使うべきだと思いますよ」
現地でもソフィアさんがフォローしてくれています。彼女はお金に困らない人でもありますけど。
「助っ人というのは、そんなに凄いのか?」
話を聞いていたサフィールが首をかしげると、シトリンが興奮した様子で言います。
「お姉さまはすっごいのよ! ヴァレリッツなんか一人で壊滅させられるんだから!」
そんなことはしませんからね?
何はともあれ、コタロウさんの案で救出作戦を行うことに決まったのでした。ちょうどいいタイミングで現れたモミアーゲさんがただの紙きれを高額で売りつけ、準備が整ったようです。
「キツネのテリトリーはもう少し先まであります。最後まで案内しましょう」
テンコさんの言葉で、パーティーが足を踏み出しました。
それで頼れるあてもなくなってシトリンと同じようにフロンティアを訪ねたのですが、そこで防衛隊長のハゲに捕まりそうになって逃げたところ、サラディンさん達にこっそりかくまわれたそうですね。さすがサラディンさん、怖い顔して人情家です。
「そこで、サラディン殿とミランダ殿に助言を受けてシトリンを追うことにしたのだ。彼等はジュエリアを占領しているスヴァルトアールヴ達を撃退しに行くとのことだ」
それはずいぶんと思い切ったことをしますね。開拓を後回しにして森を抜け、エルフの国を直接押さえるわけですか。他にもエルフの国があることを考えると、そう簡単ではなさそうです。それにハゲやクレメンスさんに知られると余計な色気を出してジュエリアを制圧しろと言ってくるかもしれません。
「そのまま人間に占領されちゃったらどうするの?」
シトリンがもっともな疑問を口にします。ギルドを頼っている状況とはいえ、全面的に信用できるものではありませんし、実際に私達も国の意向に逆らえるほどの権力はまだ持ち合わせていませんからね。
「サラディン師匠なら大丈夫っすよ! 絶対にいい感じにしてくれるっす!」
なんですか、いい感じって。まあ、ヨハンさんの言う通り、サラディンさんなら一番いい解決法を見つけてくれるでしょう。あちらのメンバーは戦闘面では一切心配は要りませんしね。唯一の気がかりはミラさんがエルフの国を焼き払ってしまわないかという点ですね。
「うむ、私もそう思ったから彼等に任せることにした。直接顔を合わせればある程度は性根も分かるものだ」
そう言って、何故かアルベルさんをチラリと見るサフィール。彼女はアルベルさんと二回ほど剣を交えていますが、どんな性根が見えたのでしょうね? おっぱ……何でもありません。
「じゃあ一度休憩して、今度は女王様を助け出す手筈を話すぬー」
タヌキさんが話を一旦区切ります。サフィールの話は要約しましたが実際には結構長かったので休憩が必要でしょう。
「潜入だったら、いい方法があるすよ」
休憩を終え、最初に口を開いたのはコタロウさんでした。この手の任務は忍者の技能が最適でしょうし、任せてもいいのではないでしょうか?
「どんな作戦っすか?」
「どんなのどんなの!?」
いつものコンビが興味津々で食いつきます。他のみんなも静かに耳を傾けていますね。やはりこの場面ではコタロウさんが一番頼りになるという考えで一致しているようです。
「いいすか、黒エルフはエルフの国の動きを観察し、手薄な時を狙って攻め入っている。つまり何も考えずにただ攻め込むのではなく情報を収集し兵を効果的に使う連中なんすよ」
「それって、厄介な相手だってことだぬー?」
コタロウさんの説明にタヌキさんが感想を述べます。相手は知能の高い敵ってことですからね、厄介ですよね。ですが、いつも表情に乏しいコタロウさんには珍しく口角を上げニヤリと笑って言葉を続けます。
「いいえ、それがそうじゃないんすよ。そういう用兵をするってことは、兵の配置に偏りがあるってことなんす。つまり、守りたいところには兵が多く、そうでもないところは兵を少なく配置するわけで。そういう相手ほど、陽動に引っ掛かりやすいんすよ」
なるほど、確かに言われてみればその通りです。
「魘入の術を使います。敵はアレキサンドラ女王を捕まえていて、サフィール・シトリンといったエルフの兵を取り逃がしている。当然、女王を奪還しにやってくるのを警戒しているわけで。黒エルフの立場ではそんな時、敵がどこから潜入してくると考えますか?」
コタロウさんが真面目モードになって策の説明を始めると、皆さん一層真剣な顔で聞いています。そこにコタロウさんがアルベルさんを指さし、質問しました。
「そうだな……やはり裏からこっそり忍び込んでくると考えるだろう」
そうですね。ギルドでもそうしようと話し合っていましたから。
「その通りです。魘入の術は敵の考えの裏をかいて潜入する方法なので、相手が警戒している裏側ではなく、正面から入ります。もちろんそれだけではただ闇雲に攻めるのと同じ。そこでトウテツの出番です」
『おう、俺はどうすりゃいいんだ?』
「黒エルフの国の入り口で暴れてください。城門を壊してくれると助かります」
「正面から入るのにトウテツが正面で暴れるっすか?」
ふむ? 陽動と言えばおとりが逆側でひきつけるのが定番ですが。
「そうです。黒エルフはモンスターの襲来に対して兵を出すでしょう。同時に陽動を警戒するはずです。すると黒エルフの兵はトウテツのいる場所と裏手の両側に集中します。トウテツが適度に暴れつつ攻め込まずに距離を保てば、黒エルフはなお陽動を警戒して注意が裏側に向きます。そこで入り口の近くに隠れていた我々が正面からこっそり入るんです」
なるほど、時間差で潜入するんですね。理屈は分かりますが、そううまくいくでしょうか? その場の皆さんも、半信半疑といった様子です。
「意外と目の前にいても意識が向いていないと気付かないもんすよ。それにいざとなったら助っ人に全部吹き飛ばしてもらいましょう」
助っ人って誰のことですかね? 例の召喚はあんまり乱発して欲しくないんですが。
◇◆◇
「どうせピンチになったら助けるつもりなんだから、お金を払わせておけばいいのよ~」
「うっ……まあそのために追跡を行っているのですが」
恋茄子が私の考えを察して口を挟んできました。モミアーゲさんもそんな私が助けに行く言い訳を作るためにやってくれたわけで、どうにも私の考えが読まれているみたいです。
「エスカさんは組織のトップとしては非情になれないところがありますからねぇ」
モミアーゲさんはそんなことを言いながら紙に文字を書いています。早速売りに行くつもりですね?
確かに、私はちょっとギルドの皆さんに対して過保護すぎるとよくクレメンスさんに言われます。一応気を付けてはいるつもりですが、そうは言っても大切な仲間を見殺しになんてしたくないのが人情ってものじゃないですか。
「ま~、そこがマスターのいいところよ~」
恋茄子にフォローされてしまいました。うーん、なんか未熟者扱いされていますね。
◇◆◇
「あくまで目的はエルフの女王様を助け出すことですからね、使えるものは何でも使うべきだと思いますよ」
現地でもソフィアさんがフォローしてくれています。彼女はお金に困らない人でもありますけど。
「助っ人というのは、そんなに凄いのか?」
話を聞いていたサフィールが首をかしげると、シトリンが興奮した様子で言います。
「お姉さまはすっごいのよ! ヴァレリッツなんか一人で壊滅させられるんだから!」
そんなことはしませんからね?
何はともあれ、コタロウさんの案で救出作戦を行うことに決まったのでした。ちょうどいいタイミングで現れたモミアーゲさんがただの紙きれを高額で売りつけ、準備が整ったようです。
「キツネのテリトリーはもう少し先まであります。最後まで案内しましょう」
テンコさんの言葉で、パーティーが足を踏み出しました。
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