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北の帝国と暗黒神の使徒
闇の法王
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神殿は、異様な姿をしていました。フローラリアの町が非常に都会的だったので、神殿もアーデンやクレルージュにあるような荘厳な建物だろうと勝手に想像していたのですが……。
「おおー、これはまさに闇の神殿だぬー」
「なんすかこの禍々しい石像」
「それは風の魔神パズズね。闇の軍勢のトップで破壊神テュポーンの分身とも言われているわ。暗黒神の子は神だけだから、闇の陣営に属する神の使いを象った像を置いているのよ」
そんなパズズの像が入り口の両脇に置かれています。形を簡単に説明すると、背中に大きな四枚の翼が生えていて、サソリの尻尾がある四つ足の獣です。大きな牙を持つ顔は獰猛な肉食獣を思わせます。
ですが、そんな像があることは大した問題ではありません。それよりも建物の形状が、なんというか刺々しくて真っ黒、物語に登場する魔王の城みたいな外観で、窓らしきものも見当たりません。
「なんかダンジョンみたいっすね!」
ヨハンさんは楽しそうです。よかったですね。
『パズズ様がこの世界に現れたら国が一つ消滅するぜ。呼び出そうとするなよ?』
なんですかそれ、急に危険な感じになりましたね。やっぱり闇エルフと友好関係を結ぶのは難しそうです。
「あれは凄かったわねえ、暴風でお城が丸ごと飛んでいってしまったり」
そこに、のんびりした口調で思い出話のように語る女性が現れました。
「プロテア様!」
これが闇エルフの女王プロテアですか。見た目はやはり若い女性です。と言っても私よりは年上に見える見た目をしていますね。他の闇エルフと違うのは、全体的に装飾が多いことでしょうか。全て黒いですけど。
「いらっしゃいませ、勇者様とその仲間の皆さん。私が『闇の安息』の法王を務めております、プロテアといいます」
名乗りはそっちなんですね。種族ではなく信仰で分類される集団の長だからでしょうか。
「ヨハンっす! パズズを見たことがあるっすか?」
ヨハンさん、ブレませんね。闇エルフの女王が相手なんですから、もうちょっと礼儀正しくできないんですか。勇者もそうですけど、騎士になりたいんでしょう?
「ちょっとヨハン、女王様相手に失礼でしょ!」
まさかのシトリンが叱りました。あなたも大概失礼ですけど、エルフにとって女王というのはやはり特別なのでしょうか。
ですが、プロテアさんは微笑みを浮かべて二人に話しかけます。
「お気になさらないで。女王なんて、ただ一番歳を取っているだけの者ですよ」
うーん、優しさに凄みを感じます。本当に千年は生きていそうなエルフですね。
「ところで、本当に俺が勇者なんっすか?」
ここでまさかの疑問を述べるヨハンさん。さすがに勘違いされている空気は感じていたんですね。でも今それを言うのは空気が読めてないですよ。
さてプロテアさんはどうするのでしょう?
「うふふ、勇者というのは職業でもなければ、神に指名された救世主でもありませんよ。その方の行いを指して、周囲の者がそう認定するのです」
なんと、プロテアさんが正論中の正論を唱えました。じゃあ指名されたレナさんはなんなんですか?
「ヨハンさん、貴方はそれまで敵対していたエルフの娘が助けを求めてきた時に、迷わず手を差しのべて黒エルフの国に乗り込み、女王アレキサンドラを救い出しました。そして今、暗黒神を信奉する我々の友人を救うために力を貸して下さるおつもりです。そんな行動が出来る人物は、世界広しと言えどもヨハンさん以外には存在しないでしょう。誰がなんと言おうと、私にとって貴方は真の勇者様なのです」
あれ? ヨハンさんに助けられた顛末をシトリンはそんなに詳しく話していませんよね? この女王様は、何らかの方法で森で起こった出来事を把握しているということですか。侮れない相手です。
それにしても、ヨハンさんは完全に勇者認定されてしまいましたね。闇エルフの国ではありますが、一国の王が公の場ではっきり彼を勇者と呼んだ事実は大きいですよ。
当のヨハンさんは、全面的に肯定されてしまって逆に戸惑っているようです。モンスターを退治して女の子にモテモテとか言ってギルドにやって来た頃から考えると、とんでもない出世です。
でも、全てはヨハンさんが自分の行いで示してきたことです。私もヨハンさんのことは高く評価しているんですよ?
「それでは、これをお持ちください。ウサギ達はハイネシアン帝国の首都ケストブルグにいます。奴隷は大切な労働力なので、むやみに危害を加えられることはありませんが、重労働を強いられて疲れているみたいです。どうか助けてやってください」
そう言ってプロテアさんはヨハンさんに一振りの剣を渡しました。
「え、これって……」
シトリンが驚いています。なんでしょうか? 私の眼で視てみましょう。
☆光の剣エンシェント・エルヴンソード
かつて風の魔神パズズを打ち倒したエルフの英雄が愛用していた剣。持ち主を災いから守る光明神トゥマリクの祝福が込められている。
凄いのでたーーーー!?
え、なんで闇の法王が光の剣なんて持ってるんですか? そんな貴重品をあげちゃっていいんですか?
「なんかカッコいいっす!」
ヨハンさん、振り回さないで! それ伝説の武器だから!!
そしてヨハンさん達はハイネシアン帝国に向かい、今に至るわけです。レナさん達の方に戻りましょう。こちらで起こったこともサラディンさんに伝えないと。
「おおー、これはまさに闇の神殿だぬー」
「なんすかこの禍々しい石像」
「それは風の魔神パズズね。闇の軍勢のトップで破壊神テュポーンの分身とも言われているわ。暗黒神の子は神だけだから、闇の陣営に属する神の使いを象った像を置いているのよ」
そんなパズズの像が入り口の両脇に置かれています。形を簡単に説明すると、背中に大きな四枚の翼が生えていて、サソリの尻尾がある四つ足の獣です。大きな牙を持つ顔は獰猛な肉食獣を思わせます。
ですが、そんな像があることは大した問題ではありません。それよりも建物の形状が、なんというか刺々しくて真っ黒、物語に登場する魔王の城みたいな外観で、窓らしきものも見当たりません。
「なんかダンジョンみたいっすね!」
ヨハンさんは楽しそうです。よかったですね。
『パズズ様がこの世界に現れたら国が一つ消滅するぜ。呼び出そうとするなよ?』
なんですかそれ、急に危険な感じになりましたね。やっぱり闇エルフと友好関係を結ぶのは難しそうです。
「あれは凄かったわねえ、暴風でお城が丸ごと飛んでいってしまったり」
そこに、のんびりした口調で思い出話のように語る女性が現れました。
「プロテア様!」
これが闇エルフの女王プロテアですか。見た目はやはり若い女性です。と言っても私よりは年上に見える見た目をしていますね。他の闇エルフと違うのは、全体的に装飾が多いことでしょうか。全て黒いですけど。
「いらっしゃいませ、勇者様とその仲間の皆さん。私が『闇の安息』の法王を務めております、プロテアといいます」
名乗りはそっちなんですね。種族ではなく信仰で分類される集団の長だからでしょうか。
「ヨハンっす! パズズを見たことがあるっすか?」
ヨハンさん、ブレませんね。闇エルフの女王が相手なんですから、もうちょっと礼儀正しくできないんですか。勇者もそうですけど、騎士になりたいんでしょう?
「ちょっとヨハン、女王様相手に失礼でしょ!」
まさかのシトリンが叱りました。あなたも大概失礼ですけど、エルフにとって女王というのはやはり特別なのでしょうか。
ですが、プロテアさんは微笑みを浮かべて二人に話しかけます。
「お気になさらないで。女王なんて、ただ一番歳を取っているだけの者ですよ」
うーん、優しさに凄みを感じます。本当に千年は生きていそうなエルフですね。
「ところで、本当に俺が勇者なんっすか?」
ここでまさかの疑問を述べるヨハンさん。さすがに勘違いされている空気は感じていたんですね。でも今それを言うのは空気が読めてないですよ。
さてプロテアさんはどうするのでしょう?
「うふふ、勇者というのは職業でもなければ、神に指名された救世主でもありませんよ。その方の行いを指して、周囲の者がそう認定するのです」
なんと、プロテアさんが正論中の正論を唱えました。じゃあ指名されたレナさんはなんなんですか?
「ヨハンさん、貴方はそれまで敵対していたエルフの娘が助けを求めてきた時に、迷わず手を差しのべて黒エルフの国に乗り込み、女王アレキサンドラを救い出しました。そして今、暗黒神を信奉する我々の友人を救うために力を貸して下さるおつもりです。そんな行動が出来る人物は、世界広しと言えどもヨハンさん以外には存在しないでしょう。誰がなんと言おうと、私にとって貴方は真の勇者様なのです」
あれ? ヨハンさんに助けられた顛末をシトリンはそんなに詳しく話していませんよね? この女王様は、何らかの方法で森で起こった出来事を把握しているということですか。侮れない相手です。
それにしても、ヨハンさんは完全に勇者認定されてしまいましたね。闇エルフの国ではありますが、一国の王が公の場ではっきり彼を勇者と呼んだ事実は大きいですよ。
当のヨハンさんは、全面的に肯定されてしまって逆に戸惑っているようです。モンスターを退治して女の子にモテモテとか言ってギルドにやって来た頃から考えると、とんでもない出世です。
でも、全てはヨハンさんが自分の行いで示してきたことです。私もヨハンさんのことは高く評価しているんですよ?
「それでは、これをお持ちください。ウサギ達はハイネシアン帝国の首都ケストブルグにいます。奴隷は大切な労働力なので、むやみに危害を加えられることはありませんが、重労働を強いられて疲れているみたいです。どうか助けてやってください」
そう言ってプロテアさんはヨハンさんに一振りの剣を渡しました。
「え、これって……」
シトリンが驚いています。なんでしょうか? 私の眼で視てみましょう。
☆光の剣エンシェント・エルヴンソード
かつて風の魔神パズズを打ち倒したエルフの英雄が愛用していた剣。持ち主を災いから守る光明神トゥマリクの祝福が込められている。
凄いのでたーーーー!?
え、なんで闇の法王が光の剣なんて持ってるんですか? そんな貴重品をあげちゃっていいんですか?
「なんかカッコいいっす!」
ヨハンさん、振り回さないで! それ伝説の武器だから!!
そしてヨハンさん達はハイネシアン帝国に向かい、今に至るわけです。レナさん達の方に戻りましょう。こちらで起こったこともサラディンさんに伝えないと。
応援ありがとうございます!
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