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豚の国と二つの帝国

増え続けるダンジョン

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「それでは闇エルフの女王様に勇者認定されたヨハンさんと森の移動が得意なシトリンさんに行ってもらいましょう」

 やはり向こうに話を伝えるなら信頼されている人物が適任でしょう。匂いで怪しいウサギを見つけることもできます。こう考えるとヨハンさんは相当頼れる人材に育ちましたね。先走りがちな性格さえ何とかなれば間違いなくギルドのエースになれるんですが。あとシトリンはヨハンさんのおまけみたいなものですが、実際向こうから自力で帰ってきてもらうことを考えたらエルフがいた方がいいですからね。

「よーし、ブタの鼻をあかしてやるっすよ!」

「森の移動ならエルフにお任せよ!」

「あ、シトリンさんはまず冒険者登録してくださいね」

 シトリンは大人しく私の指示に従って冒険者登録を済ませました。これで役割ロール戦士ファイター職業ジョブ弓使いアーチャーの冒険者シトリンさんが正式にギルドの一員となったわけです。初めてのエルフの冒険者でもあります。これで貴族達のエルフに対する認識が変わってくれるといいのですが。

 二人をフローラリアに飛ばしたら、この件についてギルドができることは終わりです。我々は本来の業務に戻ることにしました。

 つまり、ダンジョン攻略です!

「さて、フロンティア周辺に現れたダンジョンを攻略していきたいところですが、先ほども言った通り盗賊が圧倒的に足りません」

「それならいい考えがあるぬー」

 おっと、タヌキさんが何か名案を出してくれそうですよ?

工芸者クラフターは手先が器用だから盗賊スキルを覚えてもらえばいいぬー」

 なるほど。工芸者にはフロンティア周辺地域を探索できるDランク以上の冒険者も多いですし、盗賊しか盗賊スキルを使ってはいけないという決まりもありませんしね。でもそう上手くいくでしょうか?

「工芸者だけでなく、広く盗賊スキル取得者を募ってみてはどうだ? 需要があれば手を挙げる冒険者は増えるだろう」

「そうですね、その辺をまとめてギルドの恒常的な依頼にしてみましょう」

 手をこまねいていても仕方ないですからね。タヌキさんとサラディンさんの案をまとめていい感じにした依頼を出しておきます。

・恒常依頼『盗賊スキル取得』
 対象:Dランク以上の冒険者
 鍵開け、罠解除等の盗賊スキルを取得している冒険者には奨励金として200デント支給します。

 さて、いずれにしても当面はゲンザブロウさん一人に頑張ってもらうしかないのですが、そういえばダンジョンを探索しているソフィアさんはどんなパーティーで行っているのでしょう?

 ダンジョンの探索自体は国の指令やギルドの依頼を受けなくてもできますからね。抜け駆けされるとギルド的に困るところもあるのですが、どうせダンジョンで手に入れた戦利品はギルド経由で換金するのが一番手っ取り早くて換金率も高いので、あまり問題にはなっていません。たまに貴族の子飼いが取っていきますが、あまり派手にやるとその貴族がクレメンスさんに睨まれるので損害と言えるほどの事態にはなりにくいのです。

 まあソフィアさんはソフィーナ帝国の人なので、普通だったら戦利品を国に持って帰って問題になるところなんですが……あの人は変わり者ですからね。

「おや、ソフィアさんとアルベルさんの二人だけでダンジョンを探索しているっぽいですね」

 依頼を受けていないので正確には分かりませんが、冒険者管理板で彼女達の現在地を見ると同じ場所にいるのはこの二人だけのようです。さっきまでのシトリンのように冒険者登録をしていない仲間がいれば別ですが。

「いやー、アイツがついていってるのよ」

 ミラさんが手をヒラヒラと振りながら言います。冒険者以外でそんな親しげに語られる人がいましたっけ? モミアーゲさん?

「アイツ?」

「トウテツよ」

 ああ、そういえばそんなのもいましたね。コウメイさんに引き渡したのですが、ギルドに協力的なので貸し出しもされているとか。盗賊スキル持ってるのかしら?

「トウテツは最近ダンジョンが増えていることに興味を持っていましたね」

 ここでコウメイさんが眼鏡をクイッとしながら現れて教えてくれます。じゃあ個人的な興味もあって同行しているんですかね。コウメイさん自身は興味がないのか、また自分の研究室に戻っていきました。

「ところでぇ、ダンジョンに関わる美味しい依頼はないのかぁ?」

 そしてダンジョン攻略の要、ゲンザブロウさんが依頼を求めてきました。もちろんあります。

「ありますよ! これは国の指令なので、むしろゲンザブロウさんは私から指名します。フロンティア周辺のダンジョン調査をクレメンスさんが指定する人物と共におこなって欲しいというものです。Cランク指令なので基本の報酬は2000デントになります」

「うっひょぉ!」

 うっひょーとか言う人、初めて見ました。指定の人物って誰なんでしょうね。私も聞いていないんですよね。クレメンスさんに連絡を取りましょう。

「指令を受ける冒険者は、ハンニバル将軍と共にダンジョンが急に増えた理由を探っていただきます」

 クレメンスさんがすぐにやってきて言いました。この人宰相閣下なのによくギルドに来ますね。意外と暇なんでしょうか?

「ハンニバル将軍?」

「フロンティアの防衛隊長をしていたハンニバル・ゲイナー殿ですよ。エスカ殿の推薦があったので、国王陛下直々に彼を将軍に抜擢されました」

 あのハゲですか!? (※ンニバル・イナー、略してハゲ)

 確かにヨハンさんの件で約束したのでクレメンスさんに「ハンニバルさん防衛頑張ってます」って伝えたのですが、そんな大事おおごとになっていたなんて。

「そうなんですよ賢者殿! 貴女のおかげでこのような大役を任されることになりました!!」

 クレメンスさんの後ろから勢いよく現れたのは目も頭も輝かせた鎧姿の中年男性です。せっかくだから兜も被って頭を隠してはいかがでしょうか。それにしても結構大柄な人なのに、この瞬間までいるのに気付かなかったのは驚きです。私が注意力散漫だからというわけではないですよ、この人が気配を消していたんです。意外にもかなりの使い手だったようです。

「なるほど、ではハンニバル将軍とゲンザブロウさんに同行する冒険者を指名しましょう」

 国からギルドに出される指令は、担当する冒険者をギルドが指名する決まりです。冒険者には拒否権もありますが、基本的に報酬が破格なので断る人は今のところ現れていません。

 現地でソフィアさん達と遭遇する可能性も考えると、機転の利くタヌキさんには参加して欲しいですね。あとは聖職者と魔術師に工芸者が欲しいところでしょうか。ミラさんは加減ができないから将軍に同行するのはやめてもらった方がいいですね。

 となると……?

 私は名簿を見て、指名する冒険者を選出しました。
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