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1、出会いは娼館の受付カウンター前
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「申し訳ございませんお客様……」
男体淫魔のルクスは馴染の娼館の階段を降りたところで支配人のそんな声を聞いた。
つい目をやれば、受付カウンターによく立っている働き者の支配人が客らしきジャケット姿の男に丁寧に頭を下げている。男の整えられた黒い髪の毛からはみ出るように小さなツノが見えた。
ツノ仲間だがルクスと違って男には羽根も尻尾もない。
オーガかぁ。
大きいな。ここにはあんな大きな人の相手できるお姉さんいないんだよなー
イケメンなのに気の毒に。
30過ぎであろうそのオーガは恵まれた体格と堂々とした風格を持つと同時に、こんな地方都市ではあまりお目にかかれない洗練された雰囲気があった。襟のないインナーにジャケットを羽織っただけの所謂「無難なファッション」なのに自然と視線を集めるだけの佇まいがそこにあった。そのあまりに完璧なルックスにルクスもつい見詰めすぎてしまったらしい。ルクスと目を合わせたオーガが少しだけ驚いたように目を瞠った。
はいはい、僕みたいなヒョロっこい若造が娼館は似合わないって言いたいんでしょうけどね、しょうがないじゃないか。
ここには食事に来てるんだよ。
支配人がオーガの視線を辿りデニムにシャツを羽織っただけの実にカジュアルな格好のルクスに気付くと常連向けの笑顔を浮かべた。ルクスは定期的に訪れる「いいカモ」なのだ。
「またのお越しをお待ちしております」
そうルクスに向けられた支配人の言葉に顔が引きつらないよう気をつけながら、ルクスも曖昧な愛想笑いを返した。
支配人がルクスの登場のタイミングをこれ幸いとばかりにオーガの相手も一緒に終わらせようとしているのは一目瞭然で、オーガもあっさりと引き下がるようだった。身なりもよく穏やかで弁えたオーガらしい。
この世界では娼館は恥ずべき施設ではない。よって出入口は一つで、ルクスは頭一つ以上背の高い男前オーガと並ぶようにして娼館を出る事になった。
「この辺りの店にはオーグリスのお姉さんとかはいないと思うよ」
ルクスは沈黙に耐えかね呟くように言った。無視されるならそれはそれでいい。
「そうらしいな。仕事でこっちに来たんでついでに覗いてみたんだが……オーグリスはどこも需要がなくてな」
案外普通に返答が帰って来た。オーガは男性のみに使われる呼称で、女性体はオーグリスだ。
「そうなんだ、大変だね。でもお兄さん男前なんだからモテそうなのに」
オーガは何か気に障ったらしくルクスのそれを鼻で笑った。
「顔がよくても相手が出来る娼婦がいない。いいなお前さんは」
皮肉には聞こえなかった。むしろ羨望さえ感じられ、不思議なことを言うとルクスは内心首をかしげる。
顔がいいのだから娼館じゃなくてもいくらでも相手はいそうなものなのに、と。
そして同時にルクスはため息をつく。
羨ましがられる事なんて何もない。
「うん、まぁ、出来るよ。出来るんだけどね」
ルクスは娼館帰りだというのにずっと浮かない顔をしている。そんなルクスの態度にオーガはピンと来た。
「うまくいかなかったか? 気にするな。次は案外うまく行ったりするもんだ。気に病むのが一番よくない。誰だってある事だ。みな言わないだけで一定数いるもんだよ」
「ちゃんと出来たってば!」
男前オーガは意外なほど真摯かつ丁寧に対応してくれたが、あまりに見当違いな励ましにルクスは噛みつくように反論した。
そしてもう一度嘆息する。
「出来るけど僕、インキュバスなんだよね」
黒いツノにと背中には飛ぶ事の出来ない飾りのような小さな羽根。その下には先端が膨らんだ細く長い尻尾がある。見ればわかるだだろうがとルクスは肩をすくめて自虐するように小さく笑った。それが寂し気な独白に見えたオーガは前を向いたまま少し厚くセクシーな唇を開く。
「飲みに行くか」
「そうだね」
二人の足は自然と飲み屋街へと向かった。
*********************
オークに続きオーガ×インキュバスですが筆者はモンスターの知識がほぼゼロです。
インキュバスとサキュバスの性別もおぼつかなかったりします。
男体淫魔のルクスは馴染の娼館の階段を降りたところで支配人のそんな声を聞いた。
つい目をやれば、受付カウンターによく立っている働き者の支配人が客らしきジャケット姿の男に丁寧に頭を下げている。男の整えられた黒い髪の毛からはみ出るように小さなツノが見えた。
ツノ仲間だがルクスと違って男には羽根も尻尾もない。
オーガかぁ。
大きいな。ここにはあんな大きな人の相手できるお姉さんいないんだよなー
イケメンなのに気の毒に。
30過ぎであろうそのオーガは恵まれた体格と堂々とした風格を持つと同時に、こんな地方都市ではあまりお目にかかれない洗練された雰囲気があった。襟のないインナーにジャケットを羽織っただけの所謂「無難なファッション」なのに自然と視線を集めるだけの佇まいがそこにあった。そのあまりに完璧なルックスにルクスもつい見詰めすぎてしまったらしい。ルクスと目を合わせたオーガが少しだけ驚いたように目を瞠った。
はいはい、僕みたいなヒョロっこい若造が娼館は似合わないって言いたいんでしょうけどね、しょうがないじゃないか。
ここには食事に来てるんだよ。
支配人がオーガの視線を辿りデニムにシャツを羽織っただけの実にカジュアルな格好のルクスに気付くと常連向けの笑顔を浮かべた。ルクスは定期的に訪れる「いいカモ」なのだ。
「またのお越しをお待ちしております」
そうルクスに向けられた支配人の言葉に顔が引きつらないよう気をつけながら、ルクスも曖昧な愛想笑いを返した。
支配人がルクスの登場のタイミングをこれ幸いとばかりにオーガの相手も一緒に終わらせようとしているのは一目瞭然で、オーガもあっさりと引き下がるようだった。身なりもよく穏やかで弁えたオーガらしい。
この世界では娼館は恥ずべき施設ではない。よって出入口は一つで、ルクスは頭一つ以上背の高い男前オーガと並ぶようにして娼館を出る事になった。
「この辺りの店にはオーグリスのお姉さんとかはいないと思うよ」
ルクスは沈黙に耐えかね呟くように言った。無視されるならそれはそれでいい。
「そうらしいな。仕事でこっちに来たんでついでに覗いてみたんだが……オーグリスはどこも需要がなくてな」
案外普通に返答が帰って来た。オーガは男性のみに使われる呼称で、女性体はオーグリスだ。
「そうなんだ、大変だね。でもお兄さん男前なんだからモテそうなのに」
オーガは何か気に障ったらしくルクスのそれを鼻で笑った。
「顔がよくても相手が出来る娼婦がいない。いいなお前さんは」
皮肉には聞こえなかった。むしろ羨望さえ感じられ、不思議なことを言うとルクスは内心首をかしげる。
顔がいいのだから娼館じゃなくてもいくらでも相手はいそうなものなのに、と。
そして同時にルクスはため息をつく。
羨ましがられる事なんて何もない。
「うん、まぁ、出来るよ。出来るんだけどね」
ルクスは娼館帰りだというのにずっと浮かない顔をしている。そんなルクスの態度にオーガはピンと来た。
「うまくいかなかったか? 気にするな。次は案外うまく行ったりするもんだ。気に病むのが一番よくない。誰だってある事だ。みな言わないだけで一定数いるもんだよ」
「ちゃんと出来たってば!」
男前オーガは意外なほど真摯かつ丁寧に対応してくれたが、あまりに見当違いな励ましにルクスは噛みつくように反論した。
そしてもう一度嘆息する。
「出来るけど僕、インキュバスなんだよね」
黒いツノにと背中には飛ぶ事の出来ない飾りのような小さな羽根。その下には先端が膨らんだ細く長い尻尾がある。見ればわかるだだろうがとルクスは肩をすくめて自虐するように小さく笑った。それが寂し気な独白に見えたオーガは前を向いたまま少し厚くセクシーな唇を開く。
「飲みに行くか」
「そうだね」
二人の足は自然と飲み屋街へと向かった。
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オークに続きオーガ×インキュバスですが筆者はモンスターの知識がほぼゼロです。
インキュバスとサキュバスの性別もおぼつかなかったりします。
応援ありがとうございます!
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