20 / 26
20、え、やりっぱなし!?
や、ヤバい。
顔が、耳が熱い。
ものすごく熱い。
どこに視線を持って行けばいいのか分からず、何も言えない中、またニーニャさんが口を開く。
「ちゃんと別れてもないのに他の男とどうこうしたりしなイッテ。誰かサンと違ってサ」
「俺だって浮気とかしてないって! ちょっと待って、ニーニャ、出てったのってそれなの!?」」
「冗談ヨ。でもアンタが1年近くシテないとか、ちょっと考えらんないんだケド」
なんか、ものすごい赤裸々な話になってるんじゃ、と思ったらそんな二人との間に立つようにして、千秋さんが私をドアへと誘導してくれた。
うん、ここらで退席した方が良さそうだ。
……そういやライオンさんって発情期がないとか、ウソかホントか1日に300回とか聞いた事があるような、っていやいや、動物のライオンさんと一緒だと考えるのはさすがに失礼だしマズいよなー
「奈々ちゃん」
本当にろくでもない事を考えていたので「ひぇっ」とも「ひゃ」とも表現しづらい声を上げてしまった。
「今日はありがとう」
外に出るなり、千秋さんはそう言った。
それから顔を寄せて続ける。
「もう少しで流血沙汰の殴り合いになるとこだったから。助かった」
熱を持ったままの熱い耳にそっと囁かれた。
「いえ、こちらこそ」
秋に水かけてすみません、ってなんか近いですからッ。
「どっちにしろ兄貴とは揉めただろうから、気にしないで。こっちが巻きこんだようなもんだし。……怖くは、なかった?」
ためらいがちに聞かれ、何が、と思った瞬間、思わず首を振った。
あまりにも千秋さんの目が不安そうで、いつの間にか垂れてしまった耳。
全力で、誤解ないよう否定しなければと思った。
「今日の千秋さんは怖かったというよりも凛々しくて、本当にカッコ良かったです」
恥ずかしいくらいリキんで言えば、つらそうに細めていた目を一瞬見張ってから、もう一度目を細めたけど、それはいつものように穏やかな表情に戻ったから。
「次からは俺を呼んで欲しいんだけど」
……?
言われた言葉が思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。
「いや、ワシザキ呼んだからさ。隣にいるんだから頼ってくれたんでいいのにな、と思って」
咄嗟にワシザキさんを呼んだのは、日本人だからだと思う。
やっぱりこういう時はお巡りさんに助けを求めるものかと。
これまでもワシザキさんやイナバさんから「何かあったら呼ぶように」と散々指導されてるし。
「頼りないかもしれないけど、隣だし、すぐに行けると思うし」
今日の姿を見て、頼りないなんて思わない。
ただ、好きな人を呼ぶとか、マンガだけだと思うんだよ。
一般人を呼んでもあんまり解決しないし、好きな人に来てもらっても危険な目に遭わせる可能性を考えたらこれまた微妙じゃないかと。
ましてやニーニャさんという彼女さんがいると思っていた千秋さんを、呼べるわけないじゃないですか。
「あの、皆さんは三角関係というやつではないんですよね……?」
その瞬間の、千秋さんの顔!
しかめた表情は、ものすごく嫌そうだった。
「それ、すごく嫌」
「あ、すみません。いや、このまま修羅場になるんじゃないかとか思って」
「……もしかしてそれで最近よそよそしかった?」
そんなつもりはなかった。
なかったのに!
「……挙動不審でした?」
「少しね」
そう言って目を細めて笑って、一瞬何か考えるように首を傾げる。
「今日はありがとう」
またそう言ってヒトの左手を差し出された。
感謝の握手って、そんなに感謝するくらい流血沙汰になるところだったのか。
ガッツリ握手も気恥ずかしくて千秋さんの長い指の部分を握って照れ笑いで誤魔化す。
手を下ろすと今度は何か試すようにライオンの右手を差し出される。
握手を交互にする文化なんてあったっけ?
それともいきなり何かの心理テスト?
何が正解かと千秋さんを見上げれば。
うわ、確実に観察されてるよ。
えー
じゃぁ……
右手を遠慮なく握って上下に振る。
まさにシェイクハンド。
ヒトの手だと自分の手汗とか気になるけど、ライオンの手だと指は毛に埋もれてるしガッツリつかむしかない。
で、これで何が分かるんですか?
聞こうと思ったのに千秋さんはなにやら嬉しそうな顔をして「じゃあ明日」と言った。
え、なんだったんですか。
答えは!?
えぇー、なんかすごい気になるー
すっきりしないー
ニーニャさんに聞いてみようかなー、なんか千秋さん教えてくれない気がするし。
ていうか。
そっか、二人は付き合ってなかったのか。
「CLOSE」の札になっている家に戻り、両親を見てふと思い出す。
「ねぇ、保護条例って知ってた? 習ったっけ?」
「悪質なのは去勢の刑ってやつでしょ」
打てば響く、なレベルであっさりと母は言ったけど。
……きょ━━!?
え、ま、マジで?
法律が変わるけど対象年齢じゃなかったり、手続き不要・生活も変わらないといった案件を気にしないのと一緒で、イナバさんに「しっぽのないお客さんを守る法律がありますから、身の安全は保証されていますからね」と言われて「守ってくれるんなら覚えなくても大丈夫かー」的にスルーしたらしい。
しっぽのないお客さんが義務違反をした場合、下手したら一生軟禁ってのが衝撃的過ぎたのもあるんだろうけど。
「抑止力目的の法律だから、執行された事はないらしいけどねー」
レジを締めながら言う母。
ああ、そうなのか。
あーびっくりした。
「それにしても夏樹さんもなぁ。仕事に励んでたら離婚される日本のサラリーマンみたいだねぇ」
父は商品棚の陳列用のカゴを集めながらのほほんとそう言った。
「そういう時ってどうするもの?」
入口にあるピックアップ用のトレイを拭きながら年長者の意見を求めれば。
「そこまで行ったらどうしようもないだろうなぁ。『ああ、そういう事か』って己を省みるくらい? いなくなって気付くってやつだよ」
まぁ夏樹くんは甘え過ぎたんだろうね、と肩をすくめながら父は奥の厨房にトレイを運んで行った。
うーん、やっぱそうなるよねぇ。
ってお父さん、さっきの言ってから恥ずかしくなったでしょ。
ちなみに両親に聞いてみたけど左右交互に握手するという文化も、心理テストも知らないと言われた。
顔が、耳が熱い。
ものすごく熱い。
どこに視線を持って行けばいいのか分からず、何も言えない中、またニーニャさんが口を開く。
「ちゃんと別れてもないのに他の男とどうこうしたりしなイッテ。誰かサンと違ってサ」
「俺だって浮気とかしてないって! ちょっと待って、ニーニャ、出てったのってそれなの!?」」
「冗談ヨ。でもアンタが1年近くシテないとか、ちょっと考えらんないんだケド」
なんか、ものすごい赤裸々な話になってるんじゃ、と思ったらそんな二人との間に立つようにして、千秋さんが私をドアへと誘導してくれた。
うん、ここらで退席した方が良さそうだ。
……そういやライオンさんって発情期がないとか、ウソかホントか1日に300回とか聞いた事があるような、っていやいや、動物のライオンさんと一緒だと考えるのはさすがに失礼だしマズいよなー
「奈々ちゃん」
本当にろくでもない事を考えていたので「ひぇっ」とも「ひゃ」とも表現しづらい声を上げてしまった。
「今日はありがとう」
外に出るなり、千秋さんはそう言った。
それから顔を寄せて続ける。
「もう少しで流血沙汰の殴り合いになるとこだったから。助かった」
熱を持ったままの熱い耳にそっと囁かれた。
「いえ、こちらこそ」
秋に水かけてすみません、ってなんか近いですからッ。
「どっちにしろ兄貴とは揉めただろうから、気にしないで。こっちが巻きこんだようなもんだし。……怖くは、なかった?」
ためらいがちに聞かれ、何が、と思った瞬間、思わず首を振った。
あまりにも千秋さんの目が不安そうで、いつの間にか垂れてしまった耳。
全力で、誤解ないよう否定しなければと思った。
「今日の千秋さんは怖かったというよりも凛々しくて、本当にカッコ良かったです」
恥ずかしいくらいリキんで言えば、つらそうに細めていた目を一瞬見張ってから、もう一度目を細めたけど、それはいつものように穏やかな表情に戻ったから。
「次からは俺を呼んで欲しいんだけど」
……?
言われた言葉が思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。
「いや、ワシザキ呼んだからさ。隣にいるんだから頼ってくれたんでいいのにな、と思って」
咄嗟にワシザキさんを呼んだのは、日本人だからだと思う。
やっぱりこういう時はお巡りさんに助けを求めるものかと。
これまでもワシザキさんやイナバさんから「何かあったら呼ぶように」と散々指導されてるし。
「頼りないかもしれないけど、隣だし、すぐに行けると思うし」
今日の姿を見て、頼りないなんて思わない。
ただ、好きな人を呼ぶとか、マンガだけだと思うんだよ。
一般人を呼んでもあんまり解決しないし、好きな人に来てもらっても危険な目に遭わせる可能性を考えたらこれまた微妙じゃないかと。
ましてやニーニャさんという彼女さんがいると思っていた千秋さんを、呼べるわけないじゃないですか。
「あの、皆さんは三角関係というやつではないんですよね……?」
その瞬間の、千秋さんの顔!
しかめた表情は、ものすごく嫌そうだった。
「それ、すごく嫌」
「あ、すみません。いや、このまま修羅場になるんじゃないかとか思って」
「……もしかしてそれで最近よそよそしかった?」
そんなつもりはなかった。
なかったのに!
「……挙動不審でした?」
「少しね」
そう言って目を細めて笑って、一瞬何か考えるように首を傾げる。
「今日はありがとう」
またそう言ってヒトの左手を差し出された。
感謝の握手って、そんなに感謝するくらい流血沙汰になるところだったのか。
ガッツリ握手も気恥ずかしくて千秋さんの長い指の部分を握って照れ笑いで誤魔化す。
手を下ろすと今度は何か試すようにライオンの右手を差し出される。
握手を交互にする文化なんてあったっけ?
それともいきなり何かの心理テスト?
何が正解かと千秋さんを見上げれば。
うわ、確実に観察されてるよ。
えー
じゃぁ……
右手を遠慮なく握って上下に振る。
まさにシェイクハンド。
ヒトの手だと自分の手汗とか気になるけど、ライオンの手だと指は毛に埋もれてるしガッツリつかむしかない。
で、これで何が分かるんですか?
聞こうと思ったのに千秋さんはなにやら嬉しそうな顔をして「じゃあ明日」と言った。
え、なんだったんですか。
答えは!?
えぇー、なんかすごい気になるー
すっきりしないー
ニーニャさんに聞いてみようかなー、なんか千秋さん教えてくれない気がするし。
ていうか。
そっか、二人は付き合ってなかったのか。
「CLOSE」の札になっている家に戻り、両親を見てふと思い出す。
「ねぇ、保護条例って知ってた? 習ったっけ?」
「悪質なのは去勢の刑ってやつでしょ」
打てば響く、なレベルであっさりと母は言ったけど。
……きょ━━!?
え、ま、マジで?
法律が変わるけど対象年齢じゃなかったり、手続き不要・生活も変わらないといった案件を気にしないのと一緒で、イナバさんに「しっぽのないお客さんを守る法律がありますから、身の安全は保証されていますからね」と言われて「守ってくれるんなら覚えなくても大丈夫かー」的にスルーしたらしい。
しっぽのないお客さんが義務違反をした場合、下手したら一生軟禁ってのが衝撃的過ぎたのもあるんだろうけど。
「抑止力目的の法律だから、執行された事はないらしいけどねー」
レジを締めながら言う母。
ああ、そうなのか。
あーびっくりした。
「それにしても夏樹さんもなぁ。仕事に励んでたら離婚される日本のサラリーマンみたいだねぇ」
父は商品棚の陳列用のカゴを集めながらのほほんとそう言った。
「そういう時ってどうするもの?」
入口にあるピックアップ用のトレイを拭きながら年長者の意見を求めれば。
「そこまで行ったらどうしようもないだろうなぁ。『ああ、そういう事か』って己を省みるくらい? いなくなって気付くってやつだよ」
まぁ夏樹くんは甘え過ぎたんだろうね、と肩をすくめながら父は奥の厨房にトレイを運んで行った。
うーん、やっぱそうなるよねぇ。
ってお父さん、さっきの言ってから恥ずかしくなったでしょ。
ちなみに両親に聞いてみたけど左右交互に握手するという文化も、心理テストも知らないと言われた。
あなたにおすすめの小説
落ちて拾われて売られて買われた私
ざっく
恋愛
この世界に来た日のことは、もうあまり覚えていない。ある日突然、知らない場所にいて、拾われて売られて遊女になった。そんな私を望んでくれた人がいた。勇者だと讃えられている彼が、私の特殊能力を見初め、身請けしてくれることになった。
最終的には溺愛になる予定です。
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
蝋梅
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。