海の国再興譚~腹黒国王は性悪女を娶りたい~

志野まつこ

文字の大きさ
9 / 67
第一章 わだつみの娘と拾われた男

9、神というより王子さま

しおりを挟む
 海賊船はそのままそこに停留し、ドレファン一家のドレイク号は予定通り沖へと動き出す。
 海賊船が完全に離れた頃シーアはずるずるとそこへへたり込むのをレオンが慌てて支えた。回りの船員も怪我でもしていたのかと騒然となったが、周囲の心配をよそにシーアはうめく。

「あ~怖かったぁぁぁ 🙂🤗~よその船、怖いわ~」
 わずかにおどけの含まれる様子に皆ほっとした顔をしてから、「海姫でも海賊船は怖かったか」と船員達は皆あえて馬鹿にしたように笑った。

「知らないやつの馬に相乗りするようなもんだぞ! 癖も勝手も違うし! やっぱうちの操舵士が一番だわ」
 食って掛かるように反論した後、シーアは甲板に両手をつく。
 海賊の中では道義に厚い一家と言われてはいるが、海賊であることには変わりない。
 そんな連中と二日過ごした。
 神経を張り詰めていたが、それを悟られては足元を見られる。
 夜も一睡もしていない。それらをおくびにも出さず過ごすのは、非常に労力を要した。
 そして極めつけはドレイク号と海賊船が船を並べる状況。何か起きるのではないかと言う不安に胸が苦しくなるほど緊張した。

「ダメだ……眠い……」
 重い息をついて眉間に皺を寄せて目をつむるシーアの頭を、ウォルターがわしづかみにする。
「な、に、を、やらかしてるんだ、お前は?」
 ウォルターの顔は笑っていたが、さすがに目は笑っていなかった。

「あー、スミスんトコの馬鹿息子が迷子になってたから船まで送ってやっただけだって……だめだ、ほんとに眠い」
 スミス一家の跡取り息子はシーアより年上である。迷子と言うような年ではない。
 ウォルターの手がぎりぎりと頭を締め付けるが、文句は言わなかった。

「説明するまで寝かせんぞ。レオン、そいつ持って来い」
 レオンは言われた通り抱え上げようとしたが、シーアは「自分で歩く……」と目をつむったままレオンの肩を押して抵抗する。

「船長命令だ。運んでやるから休んでろ」
 レオンはため息をついて強引に抱き上げた。
 そうは言ってもすぐに降ろすことになる。彼女のひどく疲れた様子に、状況はともかく少しの休養が必要である事を判断したレオンは一瞬、思考を巡らせた。
「船長、ちょっと脱水起こしかけてるみたいなんで食堂寄ってなんか飲ませてから行きます」
 レオンの言葉に首だけ振り返ったウォルターの表情は心底嫌そうな顔を作った。

「やっかいだな。仕方ない。ちょっと寝かせとけ」
 本来ならばここまでの勝手をした船員にそんな処遇は許すべきではない。
 けれど、結局はみな彼女には甘いのだ。
 そしてウォルターもまた、レオンの機転に助けられた。船長としての立場もあるが、娘がここまでの睡魔に襲われるのは一晩以上寝ていないからだと窺い知る事が出来たし、彼自身思い当たる負い目もあった。

「んー、眠い、だけだから、だいじょぶーぅぅぅ」
 シーアは目を閉じたまま、しかめっ面で呻いて降りようともがいていたが、体に力が入らないようだった。
「みんなごめんん~、心配かけた……」

 あ、ダメだ、こいつ完全に寝ぼけてる。
 彼女が寝ぼけた時にだけ妙に素直になるのを把握している船員達は、彼女の本心からの詫びと捉えて受け入れる事にした。

 頭がはっきりした後は大抵ほとんど思い出す事はないので、本人には詫びた記憶はないだろうが。
 両手がふさがっているレオンの代わりにギルがドアを開き、「一応・・水でも持って来てといてやるよ」と含みを持たせて出て行く。
 脱水と言った以上、体裁が必要だった。

 船員は船長などを除き皆大部屋にて順番に睡眠をとるが、さすがにシーアは性別を配慮されて無理やり仕切って作った小さな部屋を与えられていた。
 レオンはすでに眠ったらしい相棒を、寝返りも出来ないような小さく簡素なベッドに寝かせると靴を脱がして毛布をかけてやる。
 部屋を出ようとするその背に、声が投げかけられた。

「ありがとう、王子様。1時間したら起こしてくれ」
 一瞬ぎくりと体が硬直した。ゆっくりとシーアを振り返ったが、彼女はもそもそ動いて壁に向かって毛布にくるまったところだった。
 軽口なのか否か、それとも寝ぼけているだけなのか。判別に迷ったが、疲れ切った彼女にそれ以上言葉を発する事は出来ず、またかける言葉も咄嗟に見付からず、レオンは後ろ手に静かにドアを閉める。
 後ろ手にドアノブをつかんだまま、一瞬でため込んでしまった緊張を吐き出すように息をついた。

 身の上を秘す事としたのはウォルター・ドレファンとの密約だった。船長である彼だけがそれを知っている。
 だが「それはそうだろうな」と思う。有能な彼女が気付かない筈がないのだ。
 こちらの準備も整った。いい頃合いだ。レオンは顔を上げると甲板へと繋がる扉へと歩き出した。

 それにしても。
 海賊船に乗って帰るのはさすがにまずいだろう。
 この件が広まればこれからの仕事にも影響を及ぼす可能性さえある。
 仲間内からもシーアに対して糾弾の声が上がるのではないかとレオンは危惧したが、全て杞憂に終わった。

「親が親なら子も子」
「あんな父親を見て育ちゃ、娘もそりゃ平気で無茶するようになるだろ」
 年嵩の船員達は笑っていた。
 むしろ「さすがはあのウォルターの娘だ」とばかりに褒めた者まであった。
 あれだけの騒ぎを起こしておきながら、まだ父親よりはマシだと笑われるなど━━やはり「海王」と呼ばれるだけの人物なのだと思わぬところでウォルター・ドレファンという人間のすごさを改めて思い知らされた。

「一時間だけ寝るそうです」
 甲板にいたウォルターにそう報告すれば、それを聞いた船員達は目を見張った。
 一時間とはまた相変わらず自分に厳しい。

「……その頃はちょっと忙しいな」
 視線を泳がせるウォルターに、内心「そんな事はないだろう」と目を細めながらもレオンは畳みかける。
「では一時間半後に起こしに行きます」
 あえて区切って言うと、ウォルターは唸るように降参した。

「……二時間後で頼む」
 せめて二時間位は休ませてやってくれ、と言う親心がありありと見えた。
 彼女を休ませてやりたくとも立場上それを良しとしない船長を、またしても甘やかす事に成功したレオンは「わかりました」と内心苦笑しながら従順な体で答える。
 二時間後起こしに行った際、「一時間と言っただろうが」とシーアに文句を言われたが「船長の配慮だ」と言うにとどめた。

 その後、シーアが入った船室から響いた怒号に皆一様に耳を疑う。
「━━おい、なんで船長が怒鳴られてるんだ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...