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【1-3c】イリーナの妹
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「うっ……、うーん……」
「ジン! 気がついた!?」
迅は意識を取り戻すとイリーナが具合を案じてくれた。迅は大丈夫、と答えて体を起こす。
辺りを見渡すと木々に囲まれた草地で、開けた場所のようだ。草の上に横たわっていたから痛むことはなかったらしい。
そこで、イリーナの他に何者かがいることに気づいて身構えた。
青い髪、青い肌、青い眼球。少なくとも人間の様相ではなかった。
「ん? あぁ、起きたんだな、あんちゃん。2度も気絶してオジサン心配だったんだぜぃ?」
「あなたがいきなり襲ってくるからでしょ!? 本当になんなの、あなた!?」
「オイラかい? あー、そうさな……」
男はうーんと唸って考え込み、
「オイラのことは『ソードハンター』とでも呼んでくんな。巷じゃ『剣狩り』なんてよばれてるがな。あ、一緒か。まぁ、言うなりゃ霊晶剣集めてるヤクザもんさ」
「アタシたちがあなたになにをしたっていうの!?」
怒って問い詰めるイリーナに、ソードハンターは呆れ混じりにため息をつく。
「まったく、ねぇちゃんよぉ……。お前さん『アレ』だなぁ……。お前さんは本当に『アレ』だなぁ。」
「一発殴っていいかしら?」
静かに怒るイリーナを他所に、腰に取り付けてあった木の筒を外して、中身をゴクゴクと飲む。筒から口を離すと、
「冗談はさておき、そこのあんちゃんが魔王の剣の親だって聞いてねぃ、風のウワサで。まぁ、『アレ』だから先制攻撃ってやつさ」
「なんですか、『アレ』って……?」
迅が聞くが、
「いや、気にすんな。大したことじゃねぇさ」
「大したことない理由で俺たち死にかけたんですか……?」
「まぁ、そんなことよりだ。『剣狩り』としちゃあ、世にも珍しい剣を拝んでみたかったわけよ」
ソードハンターは地面に下ろしていた袋から適当な剣を取り出す。
「オイラには剣の声が聞こえんのさ」
「剣の声?」
「物にも魂ってやつはあるもんでよ、『戦いたくねー』って泣いてる剣。それを救ってやるのがオイラの生業さ」
「意味わからないです……」
「そりゃ分かんねぇよなぁ。人の剣一本食っちまうやつには……」
ソードハンターは迅を睨み、迅もそれにたじろいでしまう。
「え? もしかしてまた……?」
鉄幹から聞いた。迅が所有する黒い霊晶剣は、他の霊晶剣を吸収して自分の力にできてしまうことを。もちろん今日も迅にそのような記憶はなかった。
しかし、自分が人の物を奪ったとなると、迅は申し訳なさそうに俯いて、
「すみません……」
みすぼらしい迅を見て、ソードハンターは鼻で笑う。
「律義なあんちゃんだねぃ……。こんなのが魔王の剣の主とは……。ま、オイラも奇襲はやりすぎたからおあいこで打っとくかね。そいつ、大事にしてくれよ?」
次にイリーナに目を向ける。半袖のジャケットから出ている腕を見ると、
「ねぇちゃんは剣持ってねぇみてぇだな。はぐれもんか」
「だったら何?」
ソードハンターは顎ヒゲをいじりながら、イリーナの双眸を瞳のない目で凝視する。
「いや、剣士じゃないのに逃げない目をしてるって思ってな。ねぇちゃんに惚れる剣がいないってのも不思議だねぃ……」
「アタシは、妹と元の世界に帰れれば剣なんてどうでもいい」
「はーん……、元の世界にねぇ……。どうやって帰るんだぃ?」
「!! それは……」
ソードハンターの問いかけにイリーナは口籠り、迅も顔を歪ませる。
ひかるを見つけたとして、どうやって帰ればいいのかと。迅より長くこの世界にいるオルフェさえ、その方法を見つけ出せていない。
手がかりがあるとすれば……。
「伏せな、お前さんら」
ソードハンターが立ち上がって腰の短剣を引き抜いた。
「は? 急になに……」
「!! イリーナ!」
迅に背中を押されてイリーナは草地に倒れ込む。すると頭上を風がイリーナのポニーテールをかすめていった。
風が来た方を向くと、深緑色の大剣を携えた少女がいた。
青い制服に白いケープ。極端に短いスカートが揺れると黒いスパッツが見え隠れする。
短い銀髪が風に揺れ、前髪から透き通った水色の瞳がどこか冷ややかな風でイリーナたちを覗く。
「え……?」
その少女の姿にイリーナは瞳孔を開いて困惑する。
「……。ナーディア……?」
「ナーディアって……、確か妹の……?」
イリーナの頬に涙の筋が伝う。顔が明るく晴れて、一人立ち上がると、ナーディアという少女に歩み寄る。
姉と妹の間隔が狭まっていく。
カキィン!!
突如のことだったかもしれない。イリーナの目の前で鉄と鉄が叩き合う金属音が鳴る。
イリーナを阻むソードハンターの背中。それに向かい合うのは、怒りに歪んだ顔で大剣を振り下ろした少女の姿。
大剣の一振りをソードハンターの短剣が受け止めた。
イリーナは呆然としながら、ナーディアと呼ぶ少女に問いかける。
「ナーディア、よね……。何してるの……? お姉ちゃんのこと忘れちゃった……?」
少女の大剣とソードハンターの交差する双短剣が互いを押し合う。しかし、少女はワナワナと震えてイリーナを見やる。
「なんで……、アンタがここにいるのよ……」
「ナーディア……?」
「その名前で呼ぶな!!」
大剣の刀身が緑色に光ると、ソードハンターの目前に緑の魔法陣が展開され、高密度の突風をソードハンターが受け止める。しかし、後ろのイリーナ共々さらに後ろに吹き飛ばされた。
「ワタシはギネヴィア! ダート勇士学院のSクラス! 『バルムンク』の所有者! アンタの妹なんかじゃない!」
自分をギネヴィアと名乗るナーディアは、声を大にして訴える。
「な、なんで……?」
イリーナは唖然として、怒りに震えるナーディアを見る。
ソードハンターが起き上がり、ナーディアを前に得物を構えて相手を見やる。
「お前さん、姉妹喧嘩に凶器持ち込むのかぃ? とんだ『アレ』に立ち入っちまったなぁ」
飄々としたソードハンターにナーディアは向かって剣を振りかぶり、ソードハンターはバックステップで避けながら広く間合いを取る。
ナーディアはイリーナを一瞥すると、ソードハンターに向き直り、
「アンタ、剣狩りよね? うちの生徒が何人も被害にあってる。」
「『アレ』やろうかぃ? サイン」
「いちいち腹立つ……!」
ナーディアが斬りかかる。ソードハンターはいなしてかわす。そんな戦いが繰り広げられる中、迅はスキを見て脅威と離れたイリーナに駆け寄る。
「イリーナ、ケガは!?」
「え、ええ……。大丈夫……」
イリーナは立ち上がると、固まったように戦いを見守るが、
「逃げよう。ここは危ない」
「でも、ナーディアが……!」
迅が促しても目の前の戦いから目を離せないらしい。
「あの子、どうして……」
「イリーナ……」
しかし、成すすべはない。自分たちができることはただ逃げること。こちらに時々顔を向けるソードハンターも逃げるように促しているようだ。
すると、イリーナはソードハンターが背負っていた袋に駆け寄って、適当な剣を握る。
「イリーナ!? 無茶だ! 俺たちは……!」
イリーナが握ったのは並の長剣より長い柄と長い刀身の大剣。しかし、体力があるはずのイリーナでも持ち上げようにも数センチほどしか上がらない。
「アタシは、いつもこうやってきた。テニスでも喧嘩でも、同じコートに立つの。見下したりなんてしない。対等に、あの子と向き合いたい……!」
その時、剣が淡い青色の光に包まれた。
その光に遠くで戦っていたソードハンターやナーディアも気づく。
イリーナが剣を持ち上げると、あっさり立って握ることができた。異変にイリーナも戸惑う。
「え……!? さっきまで重かったのに……」
「ねーちゃんよぉ!」
遠くからソードハンターが呼びかけ、大きな跳躍でイリーナたちの側に着地した。
「その剣、ねーちゃんのこと気になるってさ」
「アタシが、霊晶剣を……?」
ソードハンターが力強く頷く。口元が緩ませながら。
「ソイツの名前、分かるよな?」
イリーナは大きな剣を掲げて目を閉じる。
「……。分かる。アスカロンのことが……!」
「ジン! 気がついた!?」
迅は意識を取り戻すとイリーナが具合を案じてくれた。迅は大丈夫、と答えて体を起こす。
辺りを見渡すと木々に囲まれた草地で、開けた場所のようだ。草の上に横たわっていたから痛むことはなかったらしい。
そこで、イリーナの他に何者かがいることに気づいて身構えた。
青い髪、青い肌、青い眼球。少なくとも人間の様相ではなかった。
「ん? あぁ、起きたんだな、あんちゃん。2度も気絶してオジサン心配だったんだぜぃ?」
「あなたがいきなり襲ってくるからでしょ!? 本当になんなの、あなた!?」
「オイラかい? あー、そうさな……」
男はうーんと唸って考え込み、
「オイラのことは『ソードハンター』とでも呼んでくんな。巷じゃ『剣狩り』なんてよばれてるがな。あ、一緒か。まぁ、言うなりゃ霊晶剣集めてるヤクザもんさ」
「アタシたちがあなたになにをしたっていうの!?」
怒って問い詰めるイリーナに、ソードハンターは呆れ混じりにため息をつく。
「まったく、ねぇちゃんよぉ……。お前さん『アレ』だなぁ……。お前さんは本当に『アレ』だなぁ。」
「一発殴っていいかしら?」
静かに怒るイリーナを他所に、腰に取り付けてあった木の筒を外して、中身をゴクゴクと飲む。筒から口を離すと、
「冗談はさておき、そこのあんちゃんが魔王の剣の親だって聞いてねぃ、風のウワサで。まぁ、『アレ』だから先制攻撃ってやつさ」
「なんですか、『アレ』って……?」
迅が聞くが、
「いや、気にすんな。大したことじゃねぇさ」
「大したことない理由で俺たち死にかけたんですか……?」
「まぁ、そんなことよりだ。『剣狩り』としちゃあ、世にも珍しい剣を拝んでみたかったわけよ」
ソードハンターは地面に下ろしていた袋から適当な剣を取り出す。
「オイラには剣の声が聞こえんのさ」
「剣の声?」
「物にも魂ってやつはあるもんでよ、『戦いたくねー』って泣いてる剣。それを救ってやるのがオイラの生業さ」
「意味わからないです……」
「そりゃ分かんねぇよなぁ。人の剣一本食っちまうやつには……」
ソードハンターは迅を睨み、迅もそれにたじろいでしまう。
「え? もしかしてまた……?」
鉄幹から聞いた。迅が所有する黒い霊晶剣は、他の霊晶剣を吸収して自分の力にできてしまうことを。もちろん今日も迅にそのような記憶はなかった。
しかし、自分が人の物を奪ったとなると、迅は申し訳なさそうに俯いて、
「すみません……」
みすぼらしい迅を見て、ソードハンターは鼻で笑う。
「律義なあんちゃんだねぃ……。こんなのが魔王の剣の主とは……。ま、オイラも奇襲はやりすぎたからおあいこで打っとくかね。そいつ、大事にしてくれよ?」
次にイリーナに目を向ける。半袖のジャケットから出ている腕を見ると、
「ねぇちゃんは剣持ってねぇみてぇだな。はぐれもんか」
「だったら何?」
ソードハンターは顎ヒゲをいじりながら、イリーナの双眸を瞳のない目で凝視する。
「いや、剣士じゃないのに逃げない目をしてるって思ってな。ねぇちゃんに惚れる剣がいないってのも不思議だねぃ……」
「アタシは、妹と元の世界に帰れれば剣なんてどうでもいい」
「はーん……、元の世界にねぇ……。どうやって帰るんだぃ?」
「!! それは……」
ソードハンターの問いかけにイリーナは口籠り、迅も顔を歪ませる。
ひかるを見つけたとして、どうやって帰ればいいのかと。迅より長くこの世界にいるオルフェさえ、その方法を見つけ出せていない。
手がかりがあるとすれば……。
「伏せな、お前さんら」
ソードハンターが立ち上がって腰の短剣を引き抜いた。
「は? 急になに……」
「!! イリーナ!」
迅に背中を押されてイリーナは草地に倒れ込む。すると頭上を風がイリーナのポニーテールをかすめていった。
風が来た方を向くと、深緑色の大剣を携えた少女がいた。
青い制服に白いケープ。極端に短いスカートが揺れると黒いスパッツが見え隠れする。
短い銀髪が風に揺れ、前髪から透き通った水色の瞳がどこか冷ややかな風でイリーナたちを覗く。
「え……?」
その少女の姿にイリーナは瞳孔を開いて困惑する。
「……。ナーディア……?」
「ナーディアって……、確か妹の……?」
イリーナの頬に涙の筋が伝う。顔が明るく晴れて、一人立ち上がると、ナーディアという少女に歩み寄る。
姉と妹の間隔が狭まっていく。
カキィン!!
突如のことだったかもしれない。イリーナの目の前で鉄と鉄が叩き合う金属音が鳴る。
イリーナを阻むソードハンターの背中。それに向かい合うのは、怒りに歪んだ顔で大剣を振り下ろした少女の姿。
大剣の一振りをソードハンターの短剣が受け止めた。
イリーナは呆然としながら、ナーディアと呼ぶ少女に問いかける。
「ナーディア、よね……。何してるの……? お姉ちゃんのこと忘れちゃった……?」
少女の大剣とソードハンターの交差する双短剣が互いを押し合う。しかし、少女はワナワナと震えてイリーナを見やる。
「なんで……、アンタがここにいるのよ……」
「ナーディア……?」
「その名前で呼ぶな!!」
大剣の刀身が緑色に光ると、ソードハンターの目前に緑の魔法陣が展開され、高密度の突風をソードハンターが受け止める。しかし、後ろのイリーナ共々さらに後ろに吹き飛ばされた。
「ワタシはギネヴィア! ダート勇士学院のSクラス! 『バルムンク』の所有者! アンタの妹なんかじゃない!」
自分をギネヴィアと名乗るナーディアは、声を大にして訴える。
「な、なんで……?」
イリーナは唖然として、怒りに震えるナーディアを見る。
ソードハンターが起き上がり、ナーディアを前に得物を構えて相手を見やる。
「お前さん、姉妹喧嘩に凶器持ち込むのかぃ? とんだ『アレ』に立ち入っちまったなぁ」
飄々としたソードハンターにナーディアは向かって剣を振りかぶり、ソードハンターはバックステップで避けながら広く間合いを取る。
ナーディアはイリーナを一瞥すると、ソードハンターに向き直り、
「アンタ、剣狩りよね? うちの生徒が何人も被害にあってる。」
「『アレ』やろうかぃ? サイン」
「いちいち腹立つ……!」
ナーディアが斬りかかる。ソードハンターはいなしてかわす。そんな戦いが繰り広げられる中、迅はスキを見て脅威と離れたイリーナに駆け寄る。
「イリーナ、ケガは!?」
「え、ええ……。大丈夫……」
イリーナは立ち上がると、固まったように戦いを見守るが、
「逃げよう。ここは危ない」
「でも、ナーディアが……!」
迅が促しても目の前の戦いから目を離せないらしい。
「あの子、どうして……」
「イリーナ……」
しかし、成すすべはない。自分たちができることはただ逃げること。こちらに時々顔を向けるソードハンターも逃げるように促しているようだ。
すると、イリーナはソードハンターが背負っていた袋に駆け寄って、適当な剣を握る。
「イリーナ!? 無茶だ! 俺たちは……!」
イリーナが握ったのは並の長剣より長い柄と長い刀身の大剣。しかし、体力があるはずのイリーナでも持ち上げようにも数センチほどしか上がらない。
「アタシは、いつもこうやってきた。テニスでも喧嘩でも、同じコートに立つの。見下したりなんてしない。対等に、あの子と向き合いたい……!」
その時、剣が淡い青色の光に包まれた。
その光に遠くで戦っていたソードハンターやナーディアも気づく。
イリーナが剣を持ち上げると、あっさり立って握ることができた。異変にイリーナも戸惑う。
「え……!? さっきまで重かったのに……」
「ねーちゃんよぉ!」
遠くからソードハンターが呼びかけ、大きな跳躍でイリーナたちの側に着地した。
「その剣、ねーちゃんのこと気になるってさ」
「アタシが、霊晶剣を……?」
ソードハンターが力強く頷く。口元が緩ませながら。
「ソイツの名前、分かるよな?」
イリーナは大きな剣を掲げて目を閉じる。
「……。分かる。アスカロンのことが……!」
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