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LV.5 テレ屋な君と君の家族 K.A
しおりを挟むどうやら俺と松本は付き合っていたらしい。
今日の松本は、いつも以上に挙動不審だった。
初めはいつも一緒にいる女が、休みだからかとも思ったが、聞けば松本も風邪を引いたとのこと。
嗚呼、だからかと思った。
移動教室とは真逆の方向に、勢い良くUターンしたと思えば、一人鼻歌混じりにスキップ。
常人では考えられない行動だ。
熱のせいで頭がやられているのかと額で計ってみたところ、熱はなさそうだ。
では松本が風邪を引いたと自覚した症状はなんだ、なぜ頭がやられているんだと思案していれば、急に茹で蛸のように顔色を変えた。
やはり熱があったのかと思えば、松本は怒り始めた。
何故だ。
家族にもやっていることだと口にすれば、私にはやらないでなどと怒鳴り出す始末。
“私だけにはやらないで”なんて“私だけにやって”と言っているようなものじゃないか。
全く難儀な性格だ。
まあ、それも口にしてしまえば、またわーわー騒ぎ出す事だろう。
その代わりに松本には何故か触りたくなる(これは本音だ)と言えば、満足したのか沈黙した。
そして体調の悪さが限界にきたのか、走って(おそらくは職員室)行ってしまった。
走れば益々具合が悪くなるだろうに。
この調子だと家までもたないだろう。
本当に手の掛かる奴だと溜め息を吐きつつ、松本の鞄と俺の鞄を取りに行くため教室に戻ることにした。
2人の鞄を持ち、松本と合流したのは良いが、昇降口まで来たところ松本が自分の鞄を剥ぎ取り走り去った。
今日の松本は走ってばかりだ。
汗をかいて熱を下げようとでも思っているのか。
それとも俺に気を使っているのか。
松本のことだからおそらく後者なのだろう。
つくづくテレ屋な奴だ。
小さくなる松本の後ろ姿を追いかけることはせず、制服のズボンのポケットに手を突っ込む。
そこから携帯を取り出すと、普段はあまり使わない俺専用の運転手兼執事の酒井に電話をかけた。
どうやら呼んでもいないのに近くに待機していたらしい。
学校に来い、そう一言呟けば5分以内に向かいにあがると答えが返ってきた。
その声は誰が聞いても歓喜に満ち溢れていて、もう少し堺を使ってやろうかとらしくないことを思ってしまう。
学校の玄関で堺を待っている間、楓にも電話をかけてみるが一向に出る気配はなく舌を打つ。
仕方なしに今度は簡素なメッセージを送りつければ、数分後、ようやくヤツから電話がきた。
「音葉ちゃんの家教えろって意味解んないんだけど!?お前今どこにいんの!?しかも今授業中だからな!抜け出すのに苦労したわ!」
「校門前。御託は良いからさっさと松本の家の住所教えろ。」
「住所!?だいたいの場所とかじゃなくて住所?知る訳ないじゃん、ストーカーじゃあるまいし。」
「ちっ。ならだいたいの場所で良いから知ってたら言え。」
「……知ってるけど教えたくない。この間、音葉ちゃんの番号とか勝手に消したこと、オレまだ怒ってるんだからね?」
「……言わないならお前が中学の時、実は影で遊びまくってて担任の教師にも手出して捨てたことバラす。」
「なにサラッとありもしない事を事実のように言うの?!でないよ!?ないからね、そんな事実!」
「……俺が黒と言えば白は黒になる。だから俺があったと言えばなかった事もあったことになるはず。」
「どこの王様発言だ!マジふざけんなよ!誰がそんな嘘信じるかっ!」
「……ふーん。そんな口利くの。なら明日、何人がそれを信じるか試してみるか?」
「分かったよ!解りました!言えば良いんだろ!?」
前に松本を家の近くまで送った事があるらしい楓は、渋々とその場所を話し始めた。
楓が手間を掛けるものだから、俺の前にはベンツと、その左後ろのドアの前に堺が数分前から立っており、楓が場所を言い終わると同時に堺の開けてくれた後ろの座席に飛び乗る。
こうしてる間にも松本の風邪が悪化して、どこかで倒れていたらどう責任をとるんだ。
もしそうなったら、明日には藤村楓という人間は日本にいないだろうが。
堺に楓から聞いた場所を告げる。
走り出した車と共に、ようやく一息つくことが出来た。
けれど胸にもやもやと残る苛立ちに。
『前、音葉ちゃんを家まで送った時は――。』
明日とりあえず楓を一発蹴ろうと思った。
楓から聞いた場所で車から降り、先に戻るよう堺に命じれば、渋々といった様だったが納得してくれた。
車が無事動き出したのを確認し、辺りを見回す。
そのまま目を閉じてみれば浮かび上がるのは、通学中の、この道を歩いている松本の姿。
「…あっち、か……?」
そして俺は脳裏の、松本の残像を追い、歩き出した。
5分くらいだろうか。
車を降りた所から足を休めることなく歩き続けていれば、一軒の、ずば抜けて大きくもなければ小さくもない、色彩豊かな花達や木が出迎える、白と黒のツートンカラーで彩られた四角い形のスタイリッシュな家が目についた。
否、正確にはその花達を手入れする人物が目についた、と言った方が正しいか。
楽しそうに花達を手入れしている女の横顔がなんと言うか、松本にそっくりなのだ。
「…………ビンゴ。」
そう呟けば、自然と口角が上がる。
――さあ、松本に会いに行こう。
そして俺はこの数時間後、松本と付き合っていたのだと気付かされるのだ。
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