仲間に裏切られ、魔法帝から最弱職の農民にジョブチェンジさせられたけど人類最高の魔力はそのままなので気楽に復讐しようと思う。

佐原さばく

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第1話 裏切りたいなら徹底的にしないと復讐しちゃうよ。

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「お前は、このパーティーにはいらない。」

   金髪の顔の整った男性が少年に向かって冷水を浴びせる。小さな頃からの親友であり、パーティーの仲間である青年の言葉に少年は思考が止められる。

「何言ってんだよ。ロキ。僕達、今から魔王を倒しに行くんだろ?」

(僕はそんなにも醜い奴なのか?どうしてそんな目で・・・)

   その青年の隣に佇んでいる少年より一回り大きな女性が大きな声で一喝する。辺りは草木も生えない大地で、その声は遠くに響く。

「お前じゃ足でまといだって言ってんだよ!」

(僕は足でまといでは無いはずだ。魔力量だって極めたし、このパーティーじゃ、貴重な遠距離攻撃ができるじゃないか。)

   整った顔が歪む。彼の目は人を見る目ではなかった。口角を下げ、手を腰に掛かった剣の上に乗せながら舌を動かす。

「もう正直に言う。俺の職業は竜騎士だ。だから、お前じゃ俺のレベルに合わないんだ。ずっとこれを言おうと思っていた。だが、今言わせてもらう。そして、マナは最低限の防御として必要だから連れて行く。」

(どうせ、何かの冗談だろ。でも、もし本当に追放されるのなら、マナと離れる事だけは嫌だな。)   
   
   彼は、気の強いマナという女性に気を惹かれていた。冒険の途中、彼女は長時間の詠唱が必要なダリを近距離にいる敵からいつも守ってくれていた。
   話が終わると大柄な女性のマナがダリの方に近ずき耳元で囁いた。

「ダリ、私の事気になっていたみたいだけど、私はあなたの事なんとも思ってなかったから。
   最初からロキの事が好きだったの。好意を見せてくるあなたが本当に鬱陶しかったわ。」

   そう言うと、マナはダリに見せつけるようにロキの腕へ自分の腕を絡め胸を当てていた。彼らはダリを嘲笑した。
   彼は、とうとうこれが事実だということに気がついた。愛する女性を奪われ、信頼する仲間に裏切られ、心に傷を負った。

(僕が、何をしたっていうんだ。
   今まで一緒に冒険してきた時も楽しかった時も苦労した勝利の時もお前達はそんな事を考えていたのか!)

   金髪の青年が大きな聖剣を片手にぶら下げ、ダリに足を進める。裏切られたショックで、その場から動く事が出来ない。ロキが大剣を振りかぶった。彼の目元には汗が付いていた。

神剣ディティソード

(ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!!)

   ダリの視界が真っ白になる。体をフワフワとした感覚が襲う。頭では考える事が出来ない。

(僕の人生もここで終わりか。お前ら、絶対に呪ってやる!そして、何があっても復讐してやる。僕は許さない!!!)

   ダリの心の中に崩れた瓦礫が残った。



   真っ白な世界が広がった。そして、ダリが目を覚ます時そこは新しい世界であった。
   ということはなく、日光の差し込んだ森で目が覚める。木の上では鳥が囀《さえず》りを上げている。

「今は朝なのか。どのくらい寝ていたんだろう。ってあれ?死んでない。体が切られていない。どうしてだ?」

   彼は体を触り確認する。あの日、ロキに斬られたはずのダリの肉体は欠損なく残っていた。しかし、ダリの防具だけは残されていなかった。

「なにか防具のおかげなのか?まぁ、一旦街に戻って確認しようか。この辺は見覚えはあるけど、どの方向に街があるんだったっけな。」

   空を飛んで街への方向を確認しようとする。しかし、詠唱が出てこない。代わりに頭痛が彼を襲った。

(あれ?いつもなら、魔法を使おうとすると、詠唱が頭の中に流れてくるんだけど、
   もしかして・・・)

「ステータスオープン」

   青白い光が彼の前に長方形となり現れる。ダリは、自分のステータスを確認してみると、驚くべき事に気がついた。

「今の僕の職業、農民じゃねぇかぁぁ!!!」


氏名:シャルル=ダリ
職業:魔法帝→農民
魔力量:999999→999999
特性:農民スキル(詠唱をする事ができない。全属性適正を持つ。)


   「てか、詠唱をする事ができない。って何だよ。魔法使えないわけ?でも、そしたら魔力量と全属性適正がおかしいか。」

(アイツら、僕を農民にして、人生送らせようとしやがったな。そのために生かしておいたんだろ。農民が僕にとって屈辱だとでも思ってんのか?)

   そんな事を考えている黒髪の少年のもとに森の奥から悲鳴が届く。奥地は草木が邪魔をして視界が届かない。
   
   その声の聞こえる所まで走っていく。すると、見えてきたのは一人の銀髪の少女が体長3メートル程のサラマンダーに襲われていた。その獣の体は大きな何枚もの鱗で覆われており、口には鋭い牙が見えている。
   その少女を前に咆哮を上げる。

「グオオオオ!!!」

   その少女は、たじろいでその場に尻もちを着いて逃げ遅れたようだ。彼女の目には涙が浮かぶ。一歩ずつ、ゆっくりとそれは少女へと近ずく。唾液が地面に垂れ、草木を溶かす。

「だ、誰か、助けて下さい!」

   サラマンダーが大きな口を開き、攻撃を加えようとした時だった。
   横から岩槍が飛んでくる。その長さ一メートル程の鋭い槍はサラマンダーの首元に突き刺さり一撃で仕留めてしまった。それは灰となり消えてしまう。

(この攻撃は、魔法?一体誰がこんな事をしてくれたんでしょうか。)

「お嬢さん?大丈夫?」

   そこに現れたのは農民の服を着た小柄な少年だった。

「はい、大丈夫です!って、顔色がとても悪いですよ。」

   彼女はダリの頬に手を当て、額を近ずける。彼はたじろいで後ろに飛んだ。

「な、何をする。触るな!」

「熱はなさそうですね。ちょっと失礼しますね。」

   彼女は再び近ずき胸で彼の頭を抱いた。彼の鼻に桃の匂いが通っていく。

回復ヒール

「大丈夫ですよ。安心してください。怖いものは有りませんよ。」

   ダリは手を振り解き立ち上がって彼女を睨みつけた。

「ふざけるな!何の真似だ!まさか、ロキの使いか!」

   彼女はキョトンと顔を傾け、銀の髪を揺らした。涼しい風がその森の中に優しく吹いていた。彼女はその風に合わせるかのようにダリに微笑みかけた。

「ロキ?誰の事ですか?今のはおばあちゃんが教えてくれた。元気の出るおまじないですよ。どうですか?」

「どうですかって、何も変わってない。ロキの手下め、何か呪いをかけたな。」

「そのような手下では有りません。あなたが辛そうだったからです。」

   ゆったりとした服装に身を包んだ彼女は更にダリの方へ近ずき再び抱きついた。

「もう大丈夫なんです。私はあなたの味方ですよ。」

   その言葉に触発され、幼い頃を思い出した。
   そこには、ダリの頭を膝の上に置き寝かせている一人の女性の姿があった。

『何があっても、私はあなたの味方だから。』

   ダリは意識を戻し、緑の視界を見渡した。さわさわと葉が揺れている。桃の匂いのする彼女は自分の膝に彼を寝かせていた。

「起きましたか?急に意識を失ったかの様に倒れるから心配しましたよ。」

「さっき、僕は君が呪いをかけたと言ったよな。」

「はい。」

「やっぱりそうじゃないか。じゃないと、こんなに涙が出るなんておかしいじゃないか。」

   彼の目には大きな水玉が浮き上がっていて、何粒かで彼女の服を濡らしていた。彼女はニッコリと微笑んで遠くを見る。

「それは、魔法じゃありません。何があったのかは知りませんが、ここにあなたに危害を加える様な人はいませんよ。」

「そうなのか、これは魔法じゃないのか。僕は優しさが欲しかったんだな。ありがとう。」

「いいえ、礼に及びませんよ。」

   彼女の手は無理矢理にしかし、優しく彼を闇の中から救い出したのだった。   彼の心の中の瓦礫にはしっかりと薪が足され、大きな炎を生み出した。

「話は変わりますけど、さっきの攻撃はどこから飛んできたか分かりますか?私、お礼が言いたいんです。」

   立ち上がったダリを上目遣いで話しかける。

「僕だよ。さっきの魔法は。」

「冗談はよしてください。あなたは、その服装、農民ではありませんか。」

   笑顔で彼女はダリの話に付き合う。ダリの服装は装飾の施されたローブから、農民の着ている服に変わっていた。

(服装も変わるのかよ。これじゃ信じられないか。)

   農民は、一般生活に必要な程度しか魔法は使えないと言われている。しかし、ダリは魔法を使って攻撃を加えた。それは、どういう事か。

「信じて貰えないか。じゃあ、これを見てて。」

   そう言うと、ダリは上空に向かって巨大な炎の玉を打ち出す。その火は、音を立てて空中で弾けて消えていった。ビュンと火の粉が辺りに散り皮膚の上で焼け消える。

「熱っ!!」

   その後、少女が口を開く。

「本当だったのですね。その服装は変装かなにかでしょうか。」

   ダリはステータスの職業を見せ、自分が農民である事を示す。すると、彼女は目を丸くし、疑問を唱える。

「では、なぜあれ程の魔法を使えるのですか。」

「それは、魔力量だよ。」

   そして、ダリは説明を続けた。
   この世界では、農民は攻撃系統の魔法を使えないとされていた。それは、詠唱が出来ないからである。しかし、間違っていた。農民は攻撃魔法に必要な魔力量を持ち合わせていないだけだった。それを逆に取ってしまえば、無詠唱でどんな属性の魔法も使えるという能力であった。
   今の魔力量の上限に達してしてしまった。ダリにとってこの職業は、天職であったのだ。

「す、凄いです!知りませんでした!それに魔力量が最高値だなんて!私の家に来て下さい。お礼をしたいので。」

(お礼を言いたいのはこっちだよ。)

   ダリは、お礼は要らないと思っていたが、情報を得るため彼女について行くことに。ザクザクと落ち葉を踏んで草木を掻き分け、後を付いて行く。

(それにしても、どうしてあのサイズのサラマンダーがこんな所に居たんだろう)

   まさか、その村でとある事件が起こるとはダリは知らなかった・・・
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